TradeWatch 2024年 Issue 2

TradeWatch 2024年 Issue 2 国際貿易部門のための効果的なアウトソーシング — 戦略と考察


日本企業における注意点

日本企業においては、これまで経理・税務等の分野ではアウトソースが普及してきましたが、最近では通商関税分野においてもその必要性が高まっています。

昨今の地政学的対立を契機として、特に通商関税分野では突発的な関税措置・貿易禁止措置・輸出入における制裁措置などが導入されるなど、不透明性が高まっています。

経営層においても、急激な変化にも対応できる柔軟なサプライチェーンの構築が喫緊の課題になっており、通商関税管理部門に対しても経営の関心が高まり、通商管理部門に対しては、通関プロセスの管理といった戦術的な業務から、経営層に必要な提言を行うことができる戦略的な役割が求められています。

このような中で、戦術的な業務について外部のサービス・プロバイダーに対してアウトソースすることで、自社リソースをより戦略的な業務に集中させることは重要な選択肢の一つとなります。

特に日本においては中長期的な労働人口減少のトレンドがある中で、一部では、通商関税管理を担う専門的な人材を社内で確保することも困難になっています。

また、さまざまなセクターに対して業務を提供するサービス・プロバイダーにアウトソースすることによって、自社では気付くことができないコンプライアンス上の課題・非効率な運用が明確になることもあります。

今後の通商関税管理においては、その程度の差はあれど、外部のサービス・プロバイダーを効果的に活用することが、企業の中長期的な競争優位性に直結する時代になっています。

企業は、業務を効率的かつ効果的に管理するために短期的・長期的に求められる要求事項を常に検討しています。では、複雑化する世界で貿易部門がどのように機能すべきかという問いに対して、今日では何が求められるのでしょうか?

このトレンドを知るためには、税務部門を例に取れば明らかです。長年にわたり組織にとってうまく機能していた税務運用モデルは、時間の経過とともに適合性と機敏性が低下しています。多くの税務責任者は、以前と同じ業務レベルを保証(コンプライアンス基準など)しながら、はるかに優れた効率とコスト削減を実現しなければならないという課題に直面しています。この課題に対処する解決策として、税務業務の一部または全部をアウトソーシングすることが一般的になっています。このような税務部門の変化は、貿易部門についても検討のための出発点となります。税務部門と貿易部門が辿る過程を比較すれば、次の共通点が見出されます。

  • 業務範囲の拡大とそれに伴う業務の複雑性の増大は、ビジネスの成長において不可避なものです。ほとんどの多国籍企業は、業務は世界中に分散しており、税務コンプライアンスを複数の国で確実に履行する必要性に直面しています。貿易部門の観点から見ると、税関申告は税務申告とはまったく別種類の申告業務です。
  • 近年、人件費はインフレによって一貫して上昇しています。これにより、企業は人件費が比較的低い地域にバックオフィス業務を配置することを検討しています。
  • バックオフィス部門の業務に関連する多くのプロセスとステップは、本質的に定型的である場合が多く、これらの業務によって、現在のチームの時間と能力を最大限に活用しきれているか、疑問が残ります。

国際貿易部門が直面する常に変化する内外の課題に対して、アウトソーシングは、適切に対処するための方策です。しかし、通関業者や代理店に通常委託される通関手続きを除けば、その他の貿易や通関関連の判断や業務に関するアウトソーシングはまだ比較的新しいものです。

多くの貿易部門幹部は、最初はアウトソーシングに懐疑的です。これは、多くの企業が税務部門の業務のアウトソーシングに対して初期に示した反応であり、予想外なものではありません。一般的な懸念としては、アウトソーシングがコンプライアンスを危険にさらす可能性があるということですが、これは必ずしもそうではありません。良いアウトソーシングモデルを実行する方法として大事なのは、その企業が一貫性のある標準化された業務プロセスを作成し、その上でマネージド・サービス・プロバイダーのチームに引き継ぐことです。このような業務プロセスの可視化・標準化は、結果的に自社のコンプライアンスを向上させることにも役立ちます。さらに、既存のチームメンバーが、より戦術的で戦略的な業務に集中できるというメリットもあります。これらの業務は、部門や企業組織全体に、はるかに大きく長期的な価値をもたらす傾向があります。

不可欠なアウトソーシング戦略

アウトソーシングを検討している企業は、アウトソーシングの取り組みで先行している企業から貴重な教訓を学ぶことができます。本稿では、貿易担当幹部にとって重要な検討事項について説明します。

  • アウトソーシングすべきものとすべきではないもの、集約させる業務と分散させる業務、コンプライアンスの成果とコスト削減など、それぞれの業務領域において適切なバランスを取る。
  • アウトソーシングの実施について適切な時期を検討する。
  • アウトソーシングプロバイダーに対して効果的にガバナンスを実施する。

アウトソーシングのオプション

アウトソーシングは、漠然と定義された用語であり、関税・貿易分野でのアウトソーシングにはいくつかのタイプがあります。

申告業務を通関業者にアウトソーシングすることは、通関アウトソーシングの最も一般的なタイプです。通関業者は通常、輸入者および輸出者から入手した情報に基づいて税関申告書を作成しますが、国・地域によってはそのような申告の正確性について、通関業者が輸入者および輸出者と連帯責任を負う場合があります。このようなアウトソーシングにおける一般的なガバナンスモデルは、サービス・レベル・アグリーメントで申告書の精度や所要時間などの主要業績評価指標(KPI)を設定するというものです。

また、多くの企業が社内にシェアード・サービス・センターを設立、また、これから設立を検討しているところですが、通常これらは低コストの場所に設けられます。シェアード・サービス・センターのリソースとして、関税・貿易の専門家が専任で業務に当たる場合とそうでない場合があり、通関業務と他の財務または物流業務との間でリソースが「共有」されることは珍しくありません。

コンサルタント会社などの外部のサービス・プロバイダーは、独自のマネージド・サービス・センターを設立しています。企業内のシェアード・サービス・センターと同じく、これらも一般的に低コストの場所に拠点を置いています。マネージド・サービス・センターでは、関税・貿易の専門家が専任の担当となることが多いですが、これらのリソースは同時に複数のクライアントにサービスを提供している可能性があります。

アウトソーシングの形態の選択は、業務内容、業務範囲、タイミング、ガバナンスに関して慎重に検討する必要があります。

国際貿易業務のアウトソーシングへの対応

国際貿易業務は、その目的達成に対する影響範囲に応じて「戦術的業務」と「戦略的業務」に分けることができます。

  • 戦術的業務とは、日常的なコンプライアンス業務の管理と判断があります。これらの多くは、ルーティン業務であり、内部統制の観点で確立された手順を実施するものです。
  • 一方、戦略的業務とは、組織の国際貿易部門としての目標・目的を達成するために必要な、長期計画と意思決定を指します。これらの業務は、企業の長期にわたる競争優位性、成長、コンプライアンスの達成に重点を置いています。

リスクが低いと考えられる戦術的な業務が、しばしばアウトソーシングの対象となります。このようなアウトソーシングによって、国際貿易の専門家は日々の煩雑な業務から解放され、これらの業務の包括的な統制と監視のみに注意を向ければよくなります。低リスクの貿易業務とは、確立された手続きやルールの遵守を必要としますが、複雑な意思決定やリスクの高い結果を伴わない、手順が定型的で明確に定義できる業務です。これらの業務は、コンプライアンスの維持には不可欠ですが、リスクの高い業務に必要とされる戦略的な専門知識は本質的に必要ではありません。その中でも、税関申告は、通関業者や代理人にアウトソーシングされることが最も多い業務です。

近年、国際貿易部門は、「戦略的」なコンプライアンスに焦点を当てた業務と、「戦術的」な運営上の業務とを明確に分離する方向に向かっています。部門の戦略チームは、多くの場合、運営業務のガバナンスと監督を担当し、より効果的な分業を推進します。このような業務の分離によって、貿易部門における役割と責任が明確となり、企業はアウトソーシングを適切なものとして実行することが容易になりました。

最も一般的にアウトソーシングされる貿易業務には、次のものがあります。

  • 輸出入通関手続
  • 関税分類(輸入および輸出)
  • 原産地判定
  • 証明書の申請を含む自由貿易協定(FTA)の適用認定業務
  • 税関調査(事前および事後)
  • 取引制限対象者のスクリーニング(当初の確認作業をアウトソーシングした後、段階的な承認と最終判断は社内で行う)
  • 貿易データの分析

これらの業務は一般的にアウトソーシングされていますが、必ずしもすべての企業にとって正しい選択であるとは限りません。アウトソーシングした業務の適切な監督を確実に行うためには、貿易部門が明確に定義されたポリシーと手続きを準備してガバナンスを整備することが不可欠です。国際貿易部門が企業内でどの程度統合されているかも、アウトソーシングの成功に大きく影響します。

上記の業務は、多くの場合、税務、調達、物流、エンジニアリング、ITなど、さまざまな社内部門からのデータや情報へのアクセスに依存しています。したがって、アウトソーシングを成功させるためには、国際貿易部門がすでにこれらの情報を十分に取得できることが重要です。

さらに、テクノロジーはアウトソーシングにおいて極めて重要な役割を果たします。アウトソーシングパートナーの中には、独自のITソリューションを使用するものもあれば、クライアント企業が提供するITツールを使用するものもあります。後者の場合、通常、その企業のITツールを使用することで、他の内部システムやツールとのより適切な統合が可能になり、企業にとって価値あるリアルタイムの情報を得ることができるためです。強力なITツールは、アウトソーシングする業務の監視強化およびリスクの管理や制限を可能にし、アウトソーシングを実施する判断の重要な要素になります。

アウトソーシングの戦略的タイミング

特定の国際貿易業務をアウトソーシングするかどうか、またいつアウトソーシングするかを検討する際には、そのアプローチに大きな影響を与える可能性のあるいくつかの要因が関係してきます。主な要因の1つは、社内のコストと人員削減の取り組みとの整合性です。企業が業務の合理化と経費削減を目指す中でも、国際貿易部門での業務は中断することなく続けなければなりません。アウトソーシングは、作業の品質を損なうことなく効率を維持する費用対効果の高いソリューションと言えます。

もう1つの要因は、スタッフの離職に関連しています。チームメンバーの交代は、国際貿易部門内で一貫性と専門知識を維持するための重要な課題です。経験豊富な個人が退職すると、容易には代替できない貴重な知識とスキルが失われてしまいますが、アウトソーシングによって業務に特化した専門家の提供を受けることで、このギャップを埋め、課題を解決することができます。これにより、重要な貿易業務を中断することなく継続し、新入社員の採用とトレーニングに伴うプレッシャーを取り除くことができます。同様に、アウトソーシングは、専門知識のギャップを埋めるためのソリューションとなり得ます。例えば、化学工学、電気工学、機械工学のバックグラウンドを有する経験豊富な人材と連携することで、社内で発見・開発することが難しい可能性のある深い技術的知識を得ることができます。

チームの仕事量の急増もアウトソーシングが必要となる要因となります。合併や買収、新たな市場の拡大、または新しい取引先の開拓によって企業の業務量が一時的に増大することがしばしばあり、既存のチームだけでは対応しきれなくなる場合があります。アウトソーシングは、この増大する需要に対応するためのオプションであり、企業は人員を増やすことなく効率的に業務拡大を乗り切ることができます。このアプローチは、一時的な業務量の急増に対応し、将来のビジネス変動に適応できる、柔軟なソリューションでもあります。

監査は、実施主体が内部・外部であれ、多くの場合で改善や追加統制が必要な領域を浮き彫りにするために重要な活動です。監査の後、企業は監査結果に対して効果的かつ効率的に改善する方法を決定しなければなりません。監査業務のアウトソーシングは戦略的な対応でもあり、特に外部の専門家にアウトソースすることによって、コンプライアンスギャップや業務上の非効率性が特定されることがあります。さらに、監査結果を受けた改善においても専門のサービス・プロバイダーを関与させることで、社内リソースの業務中断を最小限に抑えながら、専門的な知見に基づくベストプラクティスと是正措置を迅速に実行できます。

アウトソーシングは、国際貿易部門の最適化を目指す企業にとって戦略的な方策です。最近では、戦術的な業務は国際貿易部門にとって周縁的なコンピテンシーと見なされるようになってきています。これらの業務を外部のプロバイダーに委任することによって、企業は定型的なプロセスを効率的かつ正確に処理するプロバイダーの専門知識を活用することができます。これにより、社内リソースの負担軽減だけでなく、複雑な貿易規制への対応やサプライチェーン戦略の最適化など、熟練した人材を深い知識と重要な分析を必要とする、より戦略的で価値の高い業務に集中させるように、再配置することができます。

ガバナンスとリスク管理

企業は、社内のシェアード・サービス・センターや外部チームをトレーニングし、包括的な作業指示書と標準的な運用手順に基づいて業務を引き継いだ後も、ビジネスプロセスをアウトソーシングしたプロバイダーが行うすべての業務に対して、ガバナンス上の責任を負います。したがって、アウトソースを実施する際には次のことが推奨されます。

  • 税関申告業務がアウトソーシングされる場合(これは、内部のシェアード・サービス・センターまたは外部パートナーのいずれにも委託できます):全件またはリスクに応じたサンプルについて取引の事後モニタリングを実施する。
  • 輸出入申告に関する取引データを取得して、関税分類、輸出管理コード、特恵および非特恵原産地証明、関税の支払実績・統計値などのコンプライアンス関連情報を監視する。
  • 取引データを収集し、その情報を統合データベースとして利用できるようにして、コンプライアンス指標とKPIを作成し、潜在的なコンプライアンスリスクと関税節減の機会を分析する。

以下の表は、KPIや内部シェアード・サービス・センター、または外部パートナーへの定期チェックの実施方法例を示しています。

カテゴリー

機能詳細

関税分類

品質管理または内部監査 
グローバルで適用するHSコードと一致しない場合のレポート

 
月毎の最高関税支払額上位20のHSコードのレポート

 
特定された変更のコンプライアンス要件関税・VATの還付・追加納付期間内の、誤って分類された物品の輸入に関する財務上の影響に関するレポート

特恵原産地

品質管理または内部監査FTA締約国からの輸入品に関する特恵適用コード(PAC)の確認

統計

運用に関するKPI分類の完了した数量に関するレポート

 
通関業者および国ごとの税関申告に関するレポート

 
財務に関するKPI直接の輸入における件数・通関金額・納税額、または関税プログラムの適用状況(通関手続コード(CPC)4 *)

 
特恵制度による節税額(一般特恵制度およびその他のFTA)

 
該当する場合、関税評価プランニング(購入手数料の控除など)による節税額

 
関税制度、FTA PAC 200または関税の一時停止PAC 300により回避された関税

関税評価

品質管理または内部監査月毎の最高関税評価額上位20の細分番号に関するレポート

 
差異がxx%(定義が必要)より大きい場合、特定の細分番号の1個あたりの平均関税評価額を前月と比較したランダムチェック

まとめ

内外の圧力によって、企業は国際貿易における業務と組織のあり方を詳細に検討するようになりました。対内的には、企業は、コスト削減と収益増加など、より良い財務結果を求めている場合もあれば、不利な監査結果を受けてコンプライアンスの向上を求めている場合もあります。対外的には、現在の経済情勢において、企業は効率化やテクノロジーの活用など、少ないコストでより多くの成果を上げることが求められています。同様に、政府が国家の課題解決を支援するために貿易政策を利用し続けている状況では、企業は機敏に業務を遂行する必要があります。このような状況では、アウトソーシングがより有利とされる傾向にあります。

「戦術的業務」と「戦略的業務」の範囲の違いを理解し、戦術的業務をアウトソーシングする場合、意図した結果を達成するために効果的なガバナンスが不可欠であることを理解することが重要です。当然のことながら、コンプライアンス部門に追加のリスクをもたらすような方策は推奨されるものではありません。したがって、コスト削減や効率化は、それに伴うリスクも踏まえて比較検討する必要があります。戦略的な貿易業務は一般的に自社内で行われますが、だからといってアウトソーシングが戦略的な決定ではないとは言えません。それどころか、直接費(人件費など)で資金を節約することは、戦略的なビジネス上の判断です。貿易担当責任者は、一般的に経営幹部レベルで行われるこれらの議論について、その可能性を検討するべきです。効果的にアウトソーシングできる業務の詳細な計画を立てるとともに、貿易担当責任者が、個人と部門のKPIをアウトソーシングと協調していくことが重要な点です。このように企業文化に積極的に注意を払うことで、現場からの否定的な反応や雇用不安に対する懸念を減らすことができます。

アウトソーシングの決定においては、財務面での影響と企業文化を考慮することに加えて、IT部門も同様に重要な利害関係者となります。あらゆる業務のアウトソーシングには、ITのロードマップと戦略が必要です。これは、非常に多くの企業がエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムを更新(SAPからS4/HANAなど)している現在では、特に重要です。

国際貿易部門におけるアウトソーシングは、業界、地域、企業構造など、企業ごとに異なりますが、共通するテーマとして、グローバル企業の大多数が、何を、いつ、どこでアウトソーシングするかを分析しているということです。常に混迷の中にあるグローバル経済において、アウトソーシングは、ますます不足するリソースと、その一方で高まる業務需要に対応するため、企業が必要とする柔軟性を提供します。