2022年10月31日
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

日本企業における外国人材の受け入れに関する課題 前編

執筆者
EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

藤井 恵

EY Japan ピープル・アドバイザリー・サービス/グローバルモビリティリーダー EY税理士法人 パートナー

兵庫県出身。趣味は映画鑑賞、旅行。

2022年10月31日
関連トピック 税務 人材・組織

日本企業の海外人材受け入れの課題は「海外からの人材受け入れに慣れていない」「専門家等外部リソースの活用に慣れていない」「統一的なモビリティポリシーが存在しない・または機能していない」が挙げられます。また、同じ海外赴任者でも、日本から海外赴任する場合とは異なる留意点が多いので注意が必要となります。

本稿の執筆者

EY税理士法人 People Advisory Service 税理士・行政書士 藤井 恵

15年にわたり、日本から海外または海外から日本への赴任者・出張者の税務、給与、福利厚生、リスク管理、グローバルモビリティに関する総合的なコンサルティングサービスを企業に提供。主な著書(共著)に『海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A』(清文社)『すっきりわかる!海外赴任者・出張者・外国人労働者雇用(税務と社会保険・在留資格・異文化マネジメント)』(税務研究会)などがある。EY税理士法人 パートナー。

要点
  • 日本企業は海外からの人材受け入れにまだ慣れていない。
  • 海外への人材送り出しとは異なる留意点がある。

Ⅰ はじめに

最近、「海外子会社から有能な人材を受け入れるがどうしたらよいか」「すでに外国人材を受け入れているが、正しい処理ができているか不安である」といったご相談が増えています。そこで本稿では2回に分けて、日本企業における海外子会社等からの人材受け入れに際して留意すべき点を説明します。

Ⅱ グローバル展開する外資系企業と比較した日本企業における受け入れ態勢の違い

1. 海外からの人材受け入れに慣れていない

グローバル展開している外資系企業の場合、海外からの赴任者の受け入れから帰任までの手続きに慣れています。そのため、手続きに関するマニュアルはもちろん、担当者自身も経験豊富であることが多いのでスムーズです。

一方、日本企業の場合、海外から日本への赴任者の受け入れは、まだまだ非常に少ない状況です。そのため、赴任者が発生する都度、「このやり方で問題ないのか」「手続きに漏れがないか、税務面、社会保険面、法律面など、本当に正しい手続きが行えているのか」と不安を抱えているケースも見られます。

2. 税務等についても自前で対応するなど外部リソースの活用に慣れていない

外資系企業の場合、本社主導で世界中に拠点のあるグローバル展開をしている単一の会計事務所と契約しているケースが多くみられます。この方式だと担当者の手を煩わせることが少なく、会計事務所に全面的に任せることが可能です。

一方、日本企業の場合、各拠点任せになっているケースがまだ多いようです。この状況だと会計事務所間の情報連携ができないため、本社人事担当者の手間になります。

3. 統一的な異動ポリシー(Global Mobility Policy)が存在しない、存在しても機能していない

外資系企業の場合、世界共通の海外赴任時の異動ポリシーが存在し、それに基づいた運用がされています。

日本企業では、出向先である日本側に受け入れ経験が少ないだけでなく、出向元である海外現地法人にとっても社員を赴任させた経験がほとんどないことが多いようです。

そのため、出向元においても海外赴任に関する異動ポリシーは存在しません。または本社主導で異動ポリシーを作成してはいるものの、実務運用に耐えられる内容になっていないケースもしばしばみられます。

<外資系企業と比べた日本企業の受け入れ体制の違い>

① 海外からの人材受け入れ手続き

  • 外資系企業:海外からの赴任者の受け入れから帰任までの手続きに慣れている
  • 日本企業:経験が少なく全体的に不慣れ、手続きが正しいか自信がない

② 税務等の赴任元との統一感ある対応

  • 外資系企業:本社が世界中に拠点のある会計事務所とグローバル契約
  • 日本企業:それぞれの拠点任せ、連携が必要な場合は本社が介入する必要がある

③ 有効に機能している統一的な異動ポリシーの存在

  • 外資系企業:世界共通の海外赴任時の異動ポリシーが存在
  • 日本企業:都度条件を決めているに等しく、処遇が赴任元により統一性がない

Ⅲ 日本企業における外国からの赴任者と、日本から海外への赴任者の違い

1. 日本本社の意向で日本に赴任させているケースも多く、条件交渉が必要

海外から日本に赴任させる場合、赴任元の意向よりも、「これからはグローバル化の時代なので、海外の有能な人材に日本で勤務をしてもらうことで、育成につなげたい」「日本人が海外に赴任するより、現地法人社員を日本にて教育した方がトータルコストが少なくて済む」というように、出向先である日本本社の意向で、日本に赴任させる場合も多いようです。そのため、赴任候補者からの条件交渉に応じる必要が出てくることがあります。中には「親も連れていきたい」など、通常では日本での滞在資格が得られない人の帯同や、詳細な一時帰国の条件など、難しい条件を提示されることもあります。

2. 日本から海外に赴任するよりも、赴任元での税務の取り扱いが複雑なケースがある

日本から海外への赴任の場合、1年以上の予定で日本を出国する場合は、その時点から非居住者です。非居住者も国内源泉所得は課税されますが、日本の所得税における国内源泉所得の定義は「日本国内での勤務の対価」であるため、日本での勤務を行わない限りは、役員報酬等一部を除いては日本から支払われる報酬等が日本で課税されることはありません。

一方で、日本に赴任している間は赴任元国での「非居住者」であっても、その国の国内源泉所得の定義の仕方が日本と異なっていることがあります。働いている場所にかかわらず、赴任元国から払っている以上はその国の「国内源泉所得」扱いとなり、その国でも課税される場合があるなどさまざまです。海外から日本への赴任者の取扱いは、日本から海外へ赴任させる場合の逆とは限らず、赴任元国ごとに確認が必要です。

3. トラブルが発生すると、訴訟などに発展するリスクがある

日本から海外に赴任させる場合、本社や受け入れ元の現地法人と赴任者との間で、トラブルが生じることはほとんどありません。いずれは帰任し勤務を続けることを前提としているため、よほどのことがない限りは赴任者側も我慢するケースが多くなっています。

一方、海外から日本に赴任させる場合、前述の1.および2.からも分かる通り、理解不足、説明不足などからトラブルが生じやすくなっています。

<日本本社から海外への赴任者と海外から日本への赴任者についての対応の違い>

① 赴任に関する条件交渉

  • 日本から赴任させる場合:基本的に会社の定めた処遇に従い赴任
  • 海外から日本に赴任してもらう場合:本人意向について最大限に配慮が必要

② 赴任元における税務の取扱い

  • 日本から赴任させる場合:海外赴任中、日本で所得税が発生することは限定的
  • 海外から日本に赴任してもらう場合:赴任元国でも課税が継続する可能性

③ トラブルが発生時のリスク

  • 日本から赴任させる場合:本社や赴任先、赴任者との間でトラブルはほとんどない
  • 海外から日本に赴任させる場合:説明不足、理解不足によりトラブルになることも

Ⅳ おわりに

次号では後編として「海外からの人材受け入れ時に知っておきたいこと」「具体的な留意点」について紹介します。

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サマリー

日本企業の海外人材受け入れの課題は「海外からの人材受け入れに慣れていない」「専門家等外部リソースの活用に慣れていない」「統一的なモビリティポリシーが存在しない・または機能していない」が挙げられます。また、同じ海外赴任者でも、日本から海外赴任する場合とは異なる留意点が多いので注意が必要となります。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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