EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人 税理士・公認会計士 矢嶋 学
法人向けコンプライアンス業務の他、組織再編及び事業承継コンサルティング、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務に従事。EY税理士法人内の研究開発税制チームリーダーを担当する。従前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。
要点
令和4年3月期の法人税申告においては、令和3年度の税制改正を中心に確認することになりますが、今回は令和4年度の税制改正で遡及(そきゅう)適用を予定している項目もあり、例年に比べて注意が必要といえます。
本稿では、令和4年3月期決算法人を前提として、法人税と消費税に関する主要な留意事項を解説します。
令和3年4月1日以後開始事業年度に係る法人税申告から試験研究費の税額控除について、(1)一般型(旧総額型)のインセンティブ強化(控除率の見直し、控除上限の引上げ)、(2)試験研究費の意義の見直し、(3)オープンイノベーション型の運用改善が行われています。
研究開発のさらなる増加インセンティブが効くように、控除率を見直すとともに控除率の下限が2%に引き下げられています。また、基準年度と比べ、売上が2%以上減少し、かつ、試験研究費を増加させた場合には控除上限が5%上乗せされます(<図1>参照)。
クラウド環境で提供するソフトウェアなどの自社利用ソフトウェアの取得価額を構成する試験研究に要した費用が対象に追加されるとともに、業務改善に資する研究であっても、その技術に係る研究が自然科学に関するものであるときは税額控除の対象となることが明らかにされました。なお、リバースエンジニアリングにかかる費用は試験研究に該当しないことが明確化されています。
共同研究の相手方の「確認」が税理士等の第三者による「監査」と一部重複している点の運用改善として、共同研究の相手方は「監査」で作成された報告書を基に「確認」する手続きがガイドラインで明確化されます。また、大企業と大学等との共同研究・委託研究については契約時の総見込額が50万円超のものに限定されました。
大企業向けの賃上げ及び投資の促進に係る税制の要件が見直され、新規雇用者の給与等の支給額及び教育訓練費の増加に着目した税制へ変更となりました。
新規雇用者に対する給与を前年度より2%以上増加させた企業に対して、新規雇用者給与等支給額の15%を税額控除できる制度になっています。なお、雇用者給与等支給額の増加額が上限となっているため、新規雇用者のみならず全体の給与も増加する必要があります。
内国法人が外国子会社から受ける配当に係る外国源泉税の取扱いについて、次のとおり見直しが行われています。
① 外国子会社(持株割合25%以上かつ6月以上保有)から受ける配当に係る外国源泉税の損金算入について、外国子会社合算税制等との二重課税調整の対象とされる配当の額に対応する部分に限定する(改正前:全額損金算入)。
② 上記1以外の外国子会社から受ける配当に係る外国源泉税の外国税額控除について、外国子会社合算税制等との二重課税調整の対象外とされる配当の額に対応する部分につき外国税額控除の適用対象となる(改正前:全額不適用)。
産業競争力強化法の認定を受けた事業適応者が、それぞれの事業適応計画を実施するために投資をしたときは、デジタルトランスフォーメーション投資促進税制(DX投資促進税制)、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(CN投資促進税制)、繰越欠損金の控除上限の特例の適用を受けることができます。なお、大企業がDX投資促進税制とCN投資促進税制の税額控除を適用する際には、特定税額控除制度の不適用措置に該当していないか確認が必要です。
令和3年4月1日以後開始する連結会計事業年度及び事業年度の期首から収益認識に関する会計基準が適用されています。早期適用も可能であり、また会計監査の対象とならない中小企業では引き続き企業会計原則に則った会計処理も可能であるため、必ずしも全ての法人が対象ではありませんが、令和4年3月期の期首から収益認識に関する会計基準を適用開始し、収益認識の時期や金額を変更した法人においては、法人税への影響を確認する必要があります。特に、会計基準の変更に伴う影響額を期首の利益剰余金で調整している場合には、課税所得が正しく計算されているか確認する必要があります。
次の項目については、令和4年度の税制改正で手当てされ、遡及適用が予定されているため、令和4年3月期決算の申告においても考慮する必要があります。
利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当(混合配当)の取扱いについて、最高裁判所令和3年3月11日判決を踏まえて、次の見直しが行われます。
① 資本の払戻しにおける払戻等対応資本金額等は、減少した資本剰余金の額を上限とする。
② 種類株式を発行する法人が資本の払戻しを行った場合におけるみなし配当の額の計算における払戻等対応資本金額等は、その資本の払戻しに係る各種類資本金額を基礎として計算することとする。
令和2年度税制改正により導入された子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避の防止措置(子会社株式簿価減額特例)について、配当を行う事業年度に稼得した利益を原資とした期中配当を行った場合に適用される可能性がありました。この点について令和4年度の税制改正で見直しが行われる予定です。また、適用除外基準を満たす子会社を経由した配当等を用いた本制度の回避を防止するための措置(適用回避防止規定)についても見直しが行われます。これらの改正は令和2年4月1日以後に開始する事業年度において受ける対象配当等の額について適用されます。
課税売上割合に準ずる割合は、その承認を受けた日の属する課税期間から用いることができることとされていますが、例えば、課税期間の末日に間際に土地を売却したため課税売上割合に準ずる割合の承認申請書の提出をする場合など、承認が間に合わないケースがありました。そこで、課税売上割合に準ずる割合を用いようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日の翌日以後1月を経過する日までに税務署長の承認を受けた場合には、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から課税売上割合に準ずる割合を用いることができることになりました。当該改正は令和3年4月1日以後に終了する課税期間から適用することとされています。
令和4年3月期の法人税申告においては、令和3年度の税制改正を中心に確認することになりますが、今回は令和4年度の税制改正で遡及適用を予定している項目もあり、例年に比べて注意が必要です。本稿では、令和4年3月期決算法人を前提として、法人税と消費税に関する主要な留意事項を解説します。
日本国内外の企業・個人に対して、税務アドバイザリーおよび税務コンプライアンスにおいて、EYの豊富な実績とテクノロジーを最大限に活用し、クライアントの期待に応えるサービス提供を心掛けています。