EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 税理士 加藤城啓
EY税理士法人に2008年入社。主に金融機関(銀行、証券、保険、投資顧問など)を対象とした税務コンサルティング業務及び税務コンプライアンス業務を担当。DX投資促進税制の適用を支援する専門チームに属している。
要点
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、わが国経済が戦後最大の落ち込みを記録するなど危機に直面している中で、成長戦略としてのデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の実現に果敢にチャレンジする事業者を支援するため、令和3年度改正でDX投資促進税制(以下、DX税制)が創設されました。
最大限の効果を得るためには、事前に事業適応計画の認定を受けるなど適時な対応が求められます。
DX税制は、産業競争力強化法に基づく情報技術事業適応に関する計画(事業適応計画)に従って行う一定の投資に対して、税額控除等を認める制度です(<表1>参照)。詳細は経済産業省の「事業適応計画全体概要資料」※1を参照ください。DX税制の適用にあたっては、事前の①事業所管省庁等による事業適応計画の認定及び課税の特例の基準への適合確認並びに②独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によるDX認定の取得、及び③税務申告書に事業適応計画の認定申請書等の写しの添付が必要です。
DX税制の適用は1事業者につき1回までです。なお、連結納税制度を採用している企業グループは当該グループで1回までとなりますが、連名で共同申請をすることでグループに属する複数の事業者がDX税制の適用を受けることが可能です。
なお、事業適応計画は将来の投資とその効果に対して認定を受けるものです。実績が異なったとしても、過去に遡(さかのぼ)ってその認定が取り消されたり税制適用の否認がなされることはありませんが、計画の実施状況や成果目標の達成/未達は定期報告するとともに、内容が公表されます。
経済産業省のウェブサイトにおいて公表されたQ&A※2のうち特に重要と思われる項目は次の通りです。
計画の認定(計画開始)を予定している時点から、約2カ月前に事業所管省庁への事前相談が必要です。本申請後は認定又は却下の結果を待つのみとなるため、事前相談の手続においてすべての要件の適合性を確認しておくことが重要です。
事業適応計画に記載する取組みに関する具体的な投資に係る組織的な意思決定がDX税制の成立が明らかになる日(21年3月31日)より前になされている場合は対象外になります。
認定された計画に記載のない設備を追加取得する場合、原則、本税制の適用を受けることはできませんが、認定事業適応計画の変更の認定を受けることで、追加記載された設備について本税制の適用を受けることが可能となります。
バックオフィス関連単独の投資計画では事業適応計画の認定を受けることが困難ですが、他の前向きな取組みとの関係性・必要性を説明することでDX税制の対象に含めることが可能となります。
特別償却の対象からは所有権移転外リース取引及びオペレーティングリース取引が除外され、税額控除の対象からはオペレーティングリース取引が除外されています。
グループ企業内で、対象設備を取得する法人(ITシステムを一元的に所有・管理する親会社等)とDXの実現に向けた取組みを実施する法人が異なる場合においては、取組みを実施する法人が生産性向上又は新需要の開拓及び前向きな取組みの要件を満たす(両法人とも財務の健全性、DX認定などのその他の要件を満たす)計画を共同申請し認定を受けることで、対象設備を取得する法人がDX税制の適用を受けることが可能となります。この場合において、投資下限は税制対象投資額の合計値を用いて計算できる(取組みを実施する法人においては対象設備を取得する法人の設備投資額を参照できる)こととされています。
計画認定の1要件であるDX認定を取得するためには、IPAが申請を受理してから通常60日(休日等を除く)程度を要します。DX認定には、DX戦略の策定やDX推進の体制整備、DX推進状況の公表等が必要となるため、これからDX認定を取得する事業者は、計画開始時期を見据えて早急に対応することが必要です。
事業適応計画は将来投資に関する見積書等に基づき策定することとなりますが、全社レベルの変革を図るものであること、適合性の確認で求められるKPIは企業単位及び取組み単位のいずれも必要とされることから、DX推進部門、IT関連部門、財務部門等の組織横断的な連携が必須となります。また、計画数値作成や定期報告に向けた投資効果の測定方法の確立も必要になるなど、事業適応計画の策定には多く工数を要することが予想されます。
DX税制は特別税額控除の適用制限対象です。設備投資事業年度における給与支給額や国内設備投資などの事前確認、税務プランニングの検討が重要になります。
以上のように、DX税制の適用に際しては、実施の計画開始までに対応すべきタスクが多く存在します。申請から計画認定までに一定の期間を要することを考慮すると、実務担当者が短期間で各種対応に追われることは想像に難くありません。投資額に対する税メリットの享受漏れがないよう、また、他の特別措置も踏まえた多面的な税務検討を実施できるように専門家を積極的に起用することも有用といえます※3。
※1 www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/zentaishiryo.pdf
※2 www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/dxqa.pdf
※3 EYは、税制適用支援、実施状況の当局への報告支援など、お客さまのご要望に応じたサービスを提供しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制等支援サービス
令和3年度税制改正でDX投資促進税制が創設されました。本稿では、税制の概要及び適用に際しての留意点、課題を説明するとともに、適用を受けようとする者の適時な対応の重要性について解説します。
日本国内外の企業・個人に対して、税務アドバイザリーおよび税務コンプライアンスにおいて、EYの豊富な実績とテクノロジーを最大限に活用し、クライアントの期待に応えるサービス提供を心掛けています。