EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
金融機関、事業会社などは自社の資産が、気候変動への負荷が大きいという理由だけで座礁資産化しないよう対応が必要です。EYはサステナブルファイナンスの対応とESGの支援をしています。
要点
2018年1⽉、欧州委員会が「EUの持続可能な成⻑へのファイナンスに係るアクションプラン2018」を採択したことから、⾦融市場においては下記3点への急速な変化が⾒られます。
そのような中、2021年3⽉10⽇に、EUにおいてサステナブルファイナンス開⽰規則(SFDR)が適⽤されました。当規則はEUの⾦融セクターを対象に、投資プロセスにおいてサステナビリティに関する開⽰の透明性向上を促すために設けられたEUのルールであり、全てのEU⾦融市場参加者、および⾦融アドバイザーが規制対象になります。欧州の投資家に⾦融商品を販売している場合は、欧州以外の外国の⾦融機関であっても欧州の⾦融市場でアクティブと⾒なされ、規制対象になります。このSFDR導⼊は、ESG投資が拡⼤する⼀⽅で問題になっているグリーンウォッシング(環境配慮をしているように⾒せかけている⾦融商品)を⼀掃することが⽬的の1つです。
SFDRにおいては、表1の通り、会社レベル、および金融商品レベルの2段階の開示が求められています。会社レベルにおいては、サステナビリティ・リスク統合の方針、サステナビリティに有害な影響を与える事象(PAI)、報酬方針について、金融機関のウェブサイトで開示することが求められています。EU以外の金融機関は、一般的には会社レベルの開示は免除される傾向にありますが、オルタナティブ投資ファンド運用会社(AIFM)などの登録を行っている場合、日本の金融機関であっても会社レベルの開示が必要となるのは留意すべき点です。
一方で、金融商品レベルにおいては、各金融商品をESG投資の度合いに応じて分類し、開示することが求められています。ESGを組み入れている金融商品については、2パターンに大別でき、第8条に該当する金融商品は「環境性・社会性を促進する」、第9条に該当する金融商品は「サステナブル投資が目的」という違いがあります。第8条または第9条に該当する金融商品については、追加の情報としてウェブサイト、契約前開示および定期報告への開示が求められています。
第8条に分類される⾦融商品は「ライトグリーン」とされ、ネガティブスクリーニング、ポジティブスクリーニング、ESGインテグレーション、テーマ型投資など、幅広いESGを組み⼊れた⾦融商品が該当します。⼀⽅で、第9条に分類される⾦融商品は「ダークグリーン」とされ、インパクト投資などのサステナブル投資が⽬的である⾦融商品が該当します。⾦融商品の第8条、第9条の分類は、規制当局などによる承認は不要であり、⾃社で判断することになります。第8条と第9条の分類に関する細かい要件が定められていないことから、特定の要件を満たせば機械的に第8条または第9条に分類できるものではありません。そのため、⾦融機関においては、開⽰後の⾵評リスクを回避すべく、保守的に⾦融商品の分類を⾏っている傾向があります。
表1:SFDRの概要について
現段階では、SFDRに関する細則(RTS)の適⽤に遅延が発⽣しており、RTSは2023年1⽉1⽇から適⽤になる⾒通しです。RTSに不確実性がある中、各⾦融機関は2021年3⽉10⽇からSFDRに適⽤することが義務付けられており、試⾏錯誤で取り組んでいる状況です。
表2の通り、今後のSFDRの対応は2023年1⽉1⽇からRTSの適⽤、2022年12⽉30⽇には契約前開⽰における商品レベルのPAIの開⽰が適⽤される見込みです。RTSに沿った開⽰の最初の期限は2023年6⽉末であり、⾦融機関のサステナブルファイナンスの開⽰の透明性の段階的な向上が義務付けられています。
2024年6⽉30⽇までには、温室効果ガス排出量のスコープ3の開⽰も求められています。スコープ3とは、スコープ1(事業者⾃らによる温室効果ガスの直接排出〈燃料の燃焼、⼯業プロセス〉)およびスコープ2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使⽤に伴う間接排出)以外の間接排出量(事業者の活動に関連する他社の排出)であり、企業活動の上流(購⼊に関する排出)および下流(販売に関する排出)の排出量を意味します(※)。スコープ3は、従来は規則が標準化されていなかったことからデータが整備されておらず、時系列分析や企業間の横⽐較ができない問題がありましたが、少しずつ標準化の⽅向性が⾒えてきていると考えられます。
上記のことから⾦融機関においては、サステナブルファイナンス開⽰のハードルが段階的に引き上げられていくことを⾒据えた対応が必要になると考えられます。
表2:SFDR対応のための時間軸
当開⽰規則はEUから始まりましたが、グリーンウォッシュングの問題は各国の規制当局などにおいても懸念されていることから、今後はグローバルな動きとして波及していくことが想定されます。
(※)出所:環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf(2021年10月14日アクセス)
【共同執筆者】
廣島 梨香
EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)
マネージャー
運⽤機関のSFDR対応業務を⽀援するほか、⾮財務情報開⽰制度の海外動向などの調査をサポートしている。その他、投資プロセスにおけるESGインテグレーション⽀援などサステナブルファイナンス関連の⽀援業務に従事している。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
EUにおいてサステナブルファイナンス開⽰規則(SFDR)が適⽤されました。欧州の投資家に⾦融商品を販売している場合は、EU以外の⾦融機関もSFDRの規制対象になります。SFDRの⽬的の1つが、ESG投資が拡⼤する中で増加しつつあるグリーンウォッシングの⼀掃であることに留意して、開⽰の対応を⾏う必要があると考えられます。