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リストリクテッド・ストック、パフォーマンス・シェア等、株式報酬の会計処理

2022年11月30日 PDF
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情報センサー2022年12月号 Topics

EY 新日本有限責任監査法人 第4事業部 公認会計士 鈴木 真策

主に製薬業、医療機器製造業、石油・ガス開発業等の監査業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる?収益認識の実務-影響と対応-』『こんなときどうする? 引当金の会計実務(第2版)』『会社法決算書の読み方・作り方 計算書類の分析と記載例(第16版)』(以上、中央経済社)等がある他、雑誌への寄稿、法人ウェブサイトの執筆も多く行っている。

Ⅰ はじめに

本稿では、近年導入企業も増えてきている株式報酬の会計処理について解説します。

なお、文中意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 株式報酬に係る会計基準等の開発状況

役員等に対するインセンティブ報酬については、実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(以下、実務対応報告第41号)が公表されています。しかし、株式報酬には依然として、会計基準等において会計処理の定めがない取引もあり、株式報酬取引全般を定めた会計基準の開発が提案されています。

1. 改正会社法に基づく株式の無償交付と会計基準の問題点

従前の会社法においては、無償で株式を発行することや労務出資が認められていなかったため、役員等に報酬として株式自体を直接交付することはできませんでした。こうした中、2016年に経済産業省から「『攻めの経営』を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-※1(以下、手引き)が公表され、当時の会社法の枠組みの中でいわゆるリストリクテッド・ストックやパフォーマンス・シェアを導入するための方法として、会社が役員等に金銭報酬債権を付与し、役員等は当該報酬債権の現物出資を行って、株式を交付する現物出資方式による株式の交付を行う方法が整理され、実務で広く行われていました。このように、実務で広がりを見せた株式報酬ですが、この現物出資方式のスキームにおける会計処理が会計基準等で明らかにされていなかった一方で、手引きでは事前交付型リストリクテッド・ストックの会計処理が示されていたことから、実務上も手引きに従った会計処理が行われてきました。

その後、日本公認会計士協会によって、インセンティブ報酬の会計処理に関して考えが取りまとめられ、業務の参考に資するものとして19年5月に会計制度委員会研究報告第15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(以下、研究報告)が公表され、実務においても参考にされてきました。

また、19年12月の会社法改正では取締役等の報酬等として株式の無償交付を可能とする改正が行われ、当該無償交付された株式報酬に関する会計処理を定めたものとして、21年1月に実務対応報告第41号が公表されました。しかし、実務対応報告第41号は、取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引が対象とされており、現物出資方式で株式を交付するスキームには適用されません。会社法の改正後においても、引き続き現物出資方式による株式の交付は多くの会社が行っていることが、適時開示により確認でき※2、現状においても会計基準に定めのない会計処理が多く行われている状況が続いています。

2. 実務対応報告第41号の留意点

このような経緯を経て公表された実務対応報告第41号ですが、次の点には留意が必要です。

  • 会社法第202条の2に基づき、金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の無償発行等をする場合に実務対応報告第41号が適用され、現物出資方式による株式報酬には適用されません。なお、現物出資方式による株式報酬に対して、会社法第202条の2による株式を無償交付する取引と実質的に同様の経済的実体を有するものとして、実態判断で実務対応報告第41号を適用、又は準用することもできません。
  • 無償発行が認められるのは、上場会社の取締役等に対する報酬等として株式の発行等を行う場合に限られるため、いわゆる執行役員や従業員に対する報酬等として無償発行をすることは、引き続き認められません。したがって、執行役員や従業員に対する株式報酬は実務対応報告第41号の適用対象外となります。

3. 現在のインセンティブ報酬に関する会計基準の開発状況

前述のとおり、現物出資方式による取引については、会計処理に関する定めはないため、さまざまな実務が行われているものと考えられます。こうした状況から、財務会計基準機構(FASF)の基準諮問会議(現在の企業会計基準諮問会議)において、株式報酬の会計処理と開示の取扱いの整備について提案があり、次の論点について検討を進めることとされています。したがって、今後の動向には留意が必要です。

① いわゆる現物出資構成による取引に関する会計基準の開発
② 現金決済型の株式報酬取引に関する会計基準の開発
③ インセンティブ報酬に関する包括的な会計基準の開発

Ⅲ 現物出資方式による事前交付型リストリクテッド・ストックの会計上の留意点

手引き及び研究報告では、株式の交付後は、役員等に対する報酬債権相当額のうち、当該役員等が提供する役務として当期に発生したと認められる額を、対象勤務期間(譲渡制限期間)を基礎とする方法等の合理的な方法により算定し、費用計上(前払費用等の取り崩し)を行うとされていますが、①当該費用計上の期間②無償取得時の会計処理③税効果会計等の論点があります(<図1>参照)。

図1 事前交付型リストリクテッド・ストックに関する主な論点

1. 事前交付型リストリクテッド・ストックと事後交付型リストリクテッド・ストック

譲渡制限付株式報酬は役員等に勤務条件の成就により譲渡制限が解除される譲渡制限付株式を付与し、条件が達成できなかった場合には付与した譲渡制限付株式を会社が無償で取得する株式報酬制度です。譲渡制限の解除条件を付けることにより、優秀な人材のリテンション効果(会社に引き留める効果)を持たせるとともに、中長期の株価向上に対するインセンティブを付与することができる報酬制度と位置付けられます。このうち、一定期間の譲渡制限が付された現物株式を事前に役員等に交付するものを「事前交付型リストリクテッド・ストック」(いわゆるリストリクテッド・ストック)といい、勤務条件を満たした役員等に現物株式を事後的に交付(一定期間の譲渡制限を付けることも可)するものを「事後交付型リストリクテッド・ストック」(いわゆるリストリクテッド・ストック・ユニット)といいます。

本稿では、多くの会社が導入している「事前交付型リストリクテッド・ストック」を前提に解説します。

2. 費用処理を行う期間

譲渡制限付株式は、役員等に将来の役務提供に対する対価として金銭報酬債権を付与し、当該債権を現物出資させることにより株式を交付していることから、付与した金銭報酬債権に対応する役務が提供される期間で費用処理することが基本的な考え方であり、役務の提供が期待される期間で前払報酬を費用処理するものと考えられます。譲渡制限期間中の役務提供の対価として金銭報酬債権を付与したのであれば、譲渡制限期間で期間配分することが考えられます。

他方、譲渡制限期間は役員等の退任時としているものの、任期満了までの期間の役務提供の対価として金銭報酬債権を付与しているのであれば、役員等の任期の期間で費用配分するものと考えられます(<図2>参照)。

図2 (例)役員等の任期が譲渡制限期間より短いケース

3. 無償取得時の会計処理

付与した報酬債権相当額のうち譲渡制限解除の条件未達により会社が役員等から株式を無償取得することとなった部分(役員等から役務提供を受けられなかった部分)については、付与した将来の金銭報酬債権に見合う役務提供がなされないことから、前払費用等として計上する根拠がなくなるため、前払費用等を雑損失等の科目で損失処理することになります。当該損失は株式対価で前払した報酬に見合う役務が提供されないことによる収益獲得に貢献しない損失と考えた場合、営業外費用に表示することが考えられます。

表

なお、手引きには記載されていませんが、株式の無償取得は、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第14項により自己株式の数のみの増加とするため、会計処理は不要となります。また、無償取得が行われたとしてもすでに行われている金銭報酬債権の現物出資が無効になるわけではないため、現物出資時における資本金等の計上や自己株式の処分の会計処理が取り消されることはありません。

4. 税務上の取扱いと税効果会計

(1) 現物出資された金銭報酬債権の損金算入

一定期間の譲渡制限が付された株式報酬であるリストリクテッド・ストックが「特定譲渡制限付株式」と「事前確定届出給与」の要件を満たすことで、被付与者において給与等課税事由が生じた日(譲渡制限解除日)に役務提供の対価に係る費用を損金算入することとされています(法人税法54条第1項)。

(2) 税効果会計

特定譲渡制限付株式等による給与が税務上の損金算入要件を満たす事前確定届出給与に該当する場合は、役務提供に係る費用額は、譲渡制限解除日の属する事業年度の損金となります。特定譲渡制限付株式の交付が法人税法34条第2項に定める過大役員報酬に該当しない限り、株式交付後、譲渡制限解除日の前日までの前払費用等の費用処理額に相当する将来減算一時差異が生じることになり、当該将来減算一時差異に対して回収可能性を検討の上、繰延税金資産を計上すると考えられます。なお、譲渡制限解除日が損金算入日となり、将来減算一時差異が解消されることとなります。

一方で、発行法人が特定譲渡制限株式に係る譲渡制限を解除せず、無償取得した場合には、役員等において給与等課税事由が生じないことから、無償取得された特定譲渡制限付株式に係る費用の額について、損金の額に算入できず(法人税法54条第2項)、無償取得することが見込まれた時点において対応する繰延税金資産は回収不能なものとして取り崩すものと考えられます。

Ⅳ 現物出資方式によるパフォーマンス・シェアの会計上の留意点

研究報告では、役員等からの役務提供に応じて、業績等連動期間にわたり株式報酬費用等及び対応する負債を計上する処理が示されていますが、①当該株式報酬費用等の測定額②業績条件の達成可能性の見積り③税効果会計等が論点になります(<図3>参照)。

図3 パフォーマンス・シェアに関する主な論点

1. パフォーマンス・シェアの概要

パフォーマンス・シェアとは中長期の業績目標の達成度合いに応じて、一定の時期に株式を交付するものです。パフォーマンス・シェアは中長期の業績目標の達成度合いに応じて、中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式が交付されるため、業績指標達成に対するインセンティブをより高めることができます。他方、株価向上に向けたインセンティブは有するものの、実際に株式を保有するまでは株主としての権利を有しないことから株主目線での経営を促す効果は弱いものと考えられます。しかし、業績目標達成期間前に議決権や配当が役員等に確定的に帰属することを避ける観点では有効なスキームであると考えられます。

なお、パフォーマンス・シェアには、事前交付型リストリクテッド・ストックに業績条件を付した「初年度発行-業績連動譲渡制限解除型」(いわゆるパフォーマンス・シェア)と、初年度に役員等に対して業績等に連動する金銭債権等を付与することを決定し、その後、一定の業績等連動期間後に実際に付与された金銭債権等を現物出資財産として払い込み、株式を発行する「業績連動発行型(事後交付型)」(いわゆるパフォーマンス・シェア・ユニット)の2つの類型があります。

本稿では、多くの会社が導入している「業績連動発行型(事後交付型)」を前提に解説します。

2. パフォーマンス・シェアの会計処理

パフォーマンス・シェアの会計処理は、会計基準及び手引きにおいて明確にはされていません。一般的に、パフォーマンス・シェアは業績等連動期間満了時における交付株式数の算定式を定め、あらかじめ定められた業績等連動期間満了時の業績の達成度合いに応じた交付株式数の算定式に基づき、交付株式数を決定します。その後算出した株式数を基礎とした金銭報酬債権を株主総会で決議した報酬債権の上限額の範囲内で付与し、当該金銭報酬債権の現物出資を受けて株式を交付することとなります。

当該金銭報酬債権は、業績等連動期間の役務に対応して事後的に付与されるものでありますが、業績等連動期間においては役員等から役務提供を受けているため、役務提供の対価を費用計上する必要があります。したがって、業績等連動期間にわたり株式報酬費用を計上することになります。

(1) 業績連動期間中の各期末日

表

(2) 業績条件の達成による金銭報酬債権の付与及び当該金銭報酬債権の現物出資時

表

(3) 業績条件が未達成となり金銭報酬債権が付与されないことが確定した時点

表

3. 報酬費用の測定額

ここで業績等連動期間にわたって計上される株式報酬費用をどのように測定するかが論点となります。

この点、役務提供の対価として付与される金銭報酬債権の金額は将来の株価に基づき決定されます。最終的に付与される金銭報酬債権の金額は、「業績等連動期間の末日等の株価×株数(業績条件により変動)」という算式で決定され株価変動のリスクを導入企業が負っていると考えられることから、費用計上額も毎期末の時価(株価)により測定し直していくことになると考えられます。

具体的には、年度末をまたいで業績等連動期間が設定されている場合、期末の費用計上累計額は「期末の株価×期末時点の業績条件の達成可能性を考慮した株数(詳細後記)×(経過月数÷業績等連動期間)」という算式で算定され、翌期以降は前期末時点での費用計上累計額と「期末の株価×期末時点の業績条件の達成可能性を考慮した株数×(経過月数÷業績等連動期間)」との差額が費用計上される金額になります。

4. 業績条件達成可能性をどのように見積るか

中長期の業績目標の達成度合いに応じて、中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式を交付するパフォーマンス・シェアでは、通常対象期間が複数の会計期間をまたぎ、また対象期間終了時の業績に応じた報酬債務が発生するため、業績等連動期間中において、費用計上額をどのように見積るかが重要です。

この点、期末日をまたぐ一定期間の成果に基づいて支給額が確定される給与については、対象期間中の売上累計額のように成果が累積的に測定され、当期末までの職務執行の成果が対象期間満了時の成果の一部を構成する場合には、期末日までの実績を踏まえた成果の達成可能性を合理的に見積った上で、支給対象期間に対応して当期の負担に属する金額を引当金として計上することになるものと考えられます(日本公認会計士協会 会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料」【ケース1】参照)。したがって、将来の中長期の業績に連動させる業績連動給与とする設計とした場合における各期末においては、業績等連動期間中の経過実績と中長期の会社の経営計画等から業績の達成度合いを予測する等、最善の見積りを実施し費用計上を行うことが必要になります。これは四半期においても同様です。

5. 税務上の取扱いと税効果会計

(1) 税効果会計の対象となるパフォーマンス・シェア

平成29年度税制改正により、業績連動給与(改正前の利益連動給与)について、単年度だけでなく将来の中長期の業績に連動させることが可能となり、用いることができる指標についても利益の状況を示す指標に加え、株価を基礎とする指標や売上高を基礎とした指標も対象となりました。さらに交付される給与についても金銭だけでなく、株式、新株予約権が加えられています。

この改正により、パフォーマンス・シェアについても業績連動給与の要件を満たす場合には導入企業において損金に算入することが可能となりました。

したがって、17年4月1日以後にその支給又は交付に係る決議を行ったパフォーマンス・シェアが業績連動給与の要件を満たす場合には税効果会計の対象となります。

(2) 税効果会計

パフォーマンス・シェアの業績条件として、×1期から×3期まで営業利益3年間の累計額の達成率に応じた株式を交付する内容としたものとします。×1期と×2期については、各期末において入手可能な情報に基づいて業績条件の達成率を見積り、株式報酬費用を負債(引当金)を相手勘定として計上します。当該パフォーマンス・シェアが業績連動給与の要件を満たすものであるとした場合、税務上は、報酬債務が確定する×3期に全額損金算入されるため、×1期および×2期に費用計上した額に相当する将来減算一時差異が生じることになり、当該将来減算一時差異に対して回収可能性を検討の上、繰延税金資産を計上します。その後、指標が確定した×3期において、導入企業において費用計上した株式報酬費用が損金算入され、当該一時差異が解消されることとなるため、当該解消時点において、対応する繰延税金資産を取り崩すこととなります(<図4>参照)。

図4 パフォーマンス・シェアに係る税効果

(注) この記事は「週刊 経営財務」(税務研究会)9月19日号に掲載された「経理実務最前線! Q&A 監査の現場から」を一部編集し、掲載しております。

※1 現在は改定されて、21年6月時点版が最新版。

※2 例えば、改正会社法施行後、21年9月15日までの適時開示情報からは、会社法第202条の2に基づく取締役等への無償交付方式を採用した会社は約13社程度であるのに対し、現物出資方式を採用している旨の記載は800社超で見られる(第44回基準諮問会議 資料(1)-2 別紙1)。

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