コロナ禍におけるSSC(Shared Service Center)の在り方について
情報センサー2021年5月号 EY Consulting
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) 服部伸一郎
外資系のBPOベンダーやコンサルティング会社で、BPO/SSC設立やデリバリー、業務改革、要員再整理や人事制度設計など多数のプロジェクトに参画。当法人では、BPO/BPOの戦略立案、設計、立ち上げから、デリバリー以降の各種管理(契約管理、プロセス管理など)までを支援する、SRA(Sourcing Risk Advisory)サービスのリードを務める。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)パートナー。
Ⅰ はじめに
昨今のコロナ禍の影響を受けて、勤務体系や働き方にも大きな変化が生じてきました。これまでは当たり前のようにオフィスに出勤して社内、社外のコミュニケーションを対面でとってきたやり方が、リモートでの対応をせざるを得ない状況になっています。
経理業務や人事業務など、各グループ会社の間接業務を集約化してオペレーションを行うSSC(Shared Service Center)も、その在り方について変化を求められています。業務と人を集約化することで効率化を図るためのSSCがリモートでの勤務体系により、あらためてその存在やオペレーションのやり方を再考する時期が来ています。
本稿では、このような状況下でSSCが取るべき方策について考えます。
Ⅱ SSCのオペレーションの変化
コロナ禍を受けてSSCのこれまでと現在の状況について、私がお客さまとお話しする中でよく持ち上がる特徴的な違いである業務管理と紙の取り扱いについて<表1>のとおり整理します。
Ⅲ SSCの在り方について
上記Ⅱの整理から、SSCの在り方について考察します。
1. 業務管理
これまではその場にいて管理者が担当者のしぐさや表情、雰囲気などから作業の進捗(ちょく)や問題を察知し、速やかに対応を図るといったことが可能でした。しかし、リモート環境化ではそのような暗黙知による対応が不可能になっています。
管理者はできる限り担当者との口頭(場合によっては顔を見る形で)でのコミュニケーションを積極的に行い、担当者が抱えている状況を“気付く”機会を増やす必要があります。
また、作業状況や作業品質を客観的に捉えるために、これまで頭の中で管理してきた管理項目を文書化し、可能な限り定量的な指標で業務管理をする仕組みが必要となります。システムから得られる情報の他に担当者から得られる報告などもフォーマット化/項目化し、時系列で業務管理を行い、顔が見えない状況であるからこそ、時系列の管理情報から業務量増加や緊急対応など将来の事態に備えた予測対応を図る仕組みが必要になります。場合によってはこれまでの管理システムやツールを一新する必要が求められます。
2. 紙媒体の取り扱い
紙媒体については、ペーパレス推進として極力ゼロにするための試みを以前から行ってきた企業が大半だと思います。しかし、この状況下でペーパレスの必要性がさらに高まりました。
少なくともSSC内で使う書類は全てペーパレス化し、リモートでもすぐにアクセスできる環境に置く必要があります。ペーパレスのためのスキャン行為やインデックス化、ファイル管理など新たな手間が発生しますが、これを機に必要/不要な帳票を整理し、業務上必要な帳票のみを業務に利用する、といった検討が最終的に効率化につながります。また、担当者がリモートで効率的に作業を行うために、一定の投資は必要となりますが、大画面モニタやダブルディスプレイなどの導入も効果的です。
外部とのやりとりについては、相手のあることなので全てをペーパレスに切り替えることは難しいと考えます。しかし、昨今の情勢を受けて電子署名システムなどを導入する企業も増えつつあります。これらのシステムを積極的に使いながらも、例えば電子媒体で処理を進め、事後的に紙媒体で最終確認するなど、プロセス変更を行うことで繁閑対応を調整したり、一定期間は電子媒体のみでの処理を認めるといった例外措置を設けたりすることでこの事態を乗り切る方策も考えられます。
Ⅳ おわりに
業務管理、紙の取り扱いといった特徴的なSSCの在り方について整理しましたが、既存のSSCのオペレーションを変化させるのではなく、例えば、オフィス賃料負担の軽減のためにSSCのロケーションも変えてしまう、SSCスペースの大幅な縮小などといった大胆な施策を取る企業も存在します。そのためには、従業員の雇用、福利厚生、マインドセットへの考慮、コロナ禍収束以降の対応方針などにも影響を及ぼすため、慎重な検討が必要です。しかし、「働き方改革」の一環として、これまでSSCでできたこと、できていなかったことを今一度振り返る前向きな契機と捉え、このコロナの状況を乗り切っていきたいと考えます。