商品は「プロダクトアウト」から「顧客の価値にあったパーソナライズされた商品」へと変わり、保険会社のデータが顧客の同意に基づき開示され、販売が既存のチャネルから保険業界以外の企業やブランド、スーパーアプリに組み込まれるように変わりゆく中、来たるInsurance 5.0に向けて保険業界が取り組むべき課題について議論します。
2023年9月に開催された『超DXサミット2023』内でEY Japanが開いたワークショップ「インシュアランス5.0のシナリオと保険業界の潮流」において、保険業界のDX最前線に立つリーダーを招き、各社のビジネスモデルを紹介するとともに、EY Japanで金融サービス・コンサルティング統括リーダー 兼 保険コンサルティングセクターリーダーを務める青木計憲が保険業界の近未来図について説明しました。
Insurance5.0のシナリオ
保険業界を取り巻くメガトレンドは、まず少子高齢化です。そしてコロナ禍を経験してクライアントの価値観が変わり、企業の社会貢献度に注目が集まるようになりました。それとともに、“身体”、“経済”双方の面で健康で生きるためにウェルビーイングに対するニーズも高まっています。クライアントは保険商品単品ではなく、資産運用の金融商品などを組み合わせた“経済の健康”に対する包括的なアドバイスを求めています。そうした新しい商品・サービスを実現させる人工知能(AI)やオープンAPIなどのテクノロジーも飛躍的に進化し、多様化が進むクライアントのニーズに対応できる仕組みができつつあります。それらのシステムを活用して企業をつなぐスタートアップも続々出現しています。
規制面においても、保険会社が保有するクライアントの医療データを、クライアントの承認のもとに開示するOpen Insuranceが欧州で議論されています。日本の場合、マイナポータルにより個人の健康・医療データなどが同意のもとで提供できるようになれば、保険業界以外でも顧客データへアクセスできるようになり、情報の非対称性の解消へとつながっていきます。
EYは、最近の保険業界をオープンイノベーションの時代として Insurance 4.0と定義しています。ただし4.0で起きたイノベーションは、保険業界の中にとどまっており、ビジネスモデルの変革には至っていません。
一方、保険業界の外で変革が起きようとする新たなトレンドに鑑みると、 Insurance 5.0が始まっていると見ていいでしょう。
その転換速度の速さを裏付ける一例が、組込型保険の市場規模割合の増加です。2020年はわずか2%でしたが、2030年には25%を超えると予測されています。
Insurance5.0の一つの鍵は、Open Bankingを前例とするOpen Insuranceです。規制が伴うものですが、それを待ってから動き出すのでは遅いと言わざるを得ません。何より新たな規制が始まれば、統計学による一般的な人物モデルで料率を決めていた時代から、一人一人のデータからニーズを特定し、商品・サービスが提供できる時代になります。また、情報の非対称性が解消され、異業種が有利になる可能性もあります。
Insurance 5.0はあくまで仮説ですが、Insurance 5.0の扉が開け始めれば、これまで経験を有していない企業が競合になることは確実です。組むべき異業種の選択など、新しいビジネスモデルの構築に向けて手を打っていく必要があります。
Insurance5.0における「生命保険」の潮流
生命保険が今最も問われているのは、顧客データに基づき、新たなサービスや商品、顧客提供価値をどう創るかです。働き方の多様化、さらには長寿命化で定年後の人生も長くなりました。そうした新しい人生モデルに合わせた商品を自社だけでカバーしきれない状況に生命保険業界はさらされています。一度購入したら20年間忘れられる商品を販売するのではなく、人生100年時代で変化した顧客のニーズを満たす、パーソナライズされた顧客体験を提供することが肝要となります。
現に欧米では、多様化した人生モデルに対して保険を活用したウェルビーイングサービスを提供する、保険以外のサービスと組み合わせて従業員のウェルネスをトータルでサポートするなど、イノベーションが起きています。
ここで、株式会社JMDCにおいてインシュアランス本部執行役員を務められる久野芳之氏に、自社の取り組みである「保険業界における健康・医療データの活用とサービスの進化」についてお話していただきます。