Insurance 5.0のシナリオと保険業界の潮流 ~保険業界におけるデジタルトランスフォーメーションの最前線~

Insurance 5.0のシナリオと保険業界の潮流 ~保険業界におけるデジタルトランスフォーメーションの最前線~


Insurance 5.0とは、2022年から起こっている新たなFinTech、InsurTechの波と、今後予想されるOpen Insuranceによる保険会社のデータのオープン化の影響を受け、日本の保険業界の5年先、10年先の環境変化を予測し、EY Japanが独自に立てた仮説です。


要点

  • 少子高齢化やコロナ体験により顧客の価値観が変化する中、従来のロールモデルをベースとした保険商品やサービスだけでは、多様化する価値観の変化に対応しきれない時代を迎えつつある
  • 英国で起きたOpen Bankingによる銀行に顧客データのオープン化と同様に、保険業界でもOpen Insuranceによるデータの開示が進む可能性がある
  • デジタルテクノロジーの進化に伴い、保険業界以外の企業やブランドとの連携した組込型が促進される
  • 上記を実現するために、エコシステムの形成とデジタルプラットフォームを介したエコシステムとの連携の重要性が飛躍的に高まる

商品は「プロダクトアウト」から「顧客の価値にあったパーソナライズされた商品」へと変わり、保険会社のデータが顧客の同意に基づき開示され、販売が既存のチャネルから保険業界以外の企業やブランド、スーパーアプリに組み込まれるように変わりゆく中、来たるInsurance 5.0に向けて保険業界が取り組むべき課題について議論します。

2023年9月に開催された『超DXサミット2023』内でEY Japanが開いたワークショップ「インシュアランス5.0のシナリオと保険業界の潮流」において、保険業界のDX最前線に立つリーダーを招き、各社のビジネスモデルを紹介するとともに、EY Japanで金融サービス・コンサルティング統括リーダー 兼 保険コンサルティングセクターリーダーを務める青木計憲が保険業界の近未来図について説明しました。

Insurance5.0のシナリオ

保険業界を取り巻くメガトレンドは、まず少子高齢化です。そしてコロナ禍を経験してクライアントの価値観が変わり、企業の社会貢献度に注目が集まるようになりました。それとともに、“身体”、“経済”双方の面で健康で生きるためにウェルビーイングに対するニーズも高まっています。クライアントは保険商品単品ではなく、資産運用の金融商品などを組み合わせた“経済の健康”に対する包括的なアドバイスを求めています。そうした新しい商品・サービスを実現させる人工知能(AI)やオープンAPIなどのテクノロジーも飛躍的に進化し、多様化が進むクライアントのニーズに対応できる仕組みができつつあります。それらのシステムを活用して企業をつなぐスタートアップも続々出現しています。

規制面においても、保険会社が保有するクライアントの医療データを、クライアントの承認のもとに開示するOpen Insuranceが欧州で議論されています。日本の場合、マイナポータルにより個人の健康・医療データなどが同意のもとで提供できるようになれば、保険業界以外でも顧客データへアクセスできるようになり、情報の非対称性の解消へとつながっていきます。

EYは、最近の保険業界をオープンイノベーションの時代として Insurance 4.0と定義しています。ただし4.0で起きたイノベーションは、保険業界の中にとどまっており、ビジネスモデルの変革には至っていません。
一方、保険業界の外で変革が起きようとする新たなトレンドに鑑みると、 Insurance 5.0が始まっていると見ていいでしょう。

その転換速度の速さを裏付ける一例が、組込型保険の市場規模割合の増加です。2020年はわずか2%でしたが、2030年には25%を超えると予測されています。

Insurance5.0の一つの鍵は、Open Bankingを前例とするOpen Insuranceです。規制が伴うものですが、それを待ってから動き出すのでは遅いと言わざるを得ません。何より新たな規制が始まれば、統計学による一般的な人物モデルで料率を決めていた時代から、一人一人のデータからニーズを特定し、商品・サービスが提供できる時代になります。また、情報の非対称性が解消され、異業種が有利になる可能性もあります。

Insurance 5.0はあくまで仮説ですが、Insurance 5.0の扉が開け始めれば、これまで経験を有していない企業が競合になることは確実です。組むべき異業種の選択など、新しいビジネスモデルの構築に向けて手を打っていく必要があります。

Insurance5.0における「生命保険」の潮流

生命保険が今最も問われているのは、顧客データに基づき、新たなサービスや商品、顧客提供価値をどう創るかです。働き方の多様化、さらには長寿命化で定年後の人生も長くなりました。そうした新しい人生モデルに合わせた商品を自社だけでカバーしきれない状況に生命保険業界はさらされています。一度購入したら20年間忘れられる商品を販売するのではなく、人生100年時代で変化した顧客のニーズを満たす、パーソナライズされた顧客体験を提供することが肝要となります。

現に欧米では、多様化した人生モデルに対して保険を活用したウェルビーイングサービスを提供する、保険以外のサービスと組み合わせて従業員のウェルネスをトータルでサポートするなど、イノベーションが起きています。

ここで、株式会社JMDCにおいてインシュアランス本部執行役員を務められる久野芳之氏に、自社の取り組みである「保険業界における健康・医療データの活用とサービスの進化」についてお話していただきます。

Insurance 5.0のシナリオと保険業界の潮流 ~保険業界におけるデジタルトランスフォーメーションの最前線~

「日本の保険業界の課題は、マイナポータルによって個人の健康、医療、ライフログが随時連携する形になりつつある中、それに合わせた最適な保障を整えることです。われわれは独自に、企業や健康保険組合から預かったレセプト、調剤情報、健康診断のIDを伝えてログインすれば、すぐに健保が持っている個人情報にアクセスできる状況を実現させました。
こうしたプラットフォームに個人のデータが蓄積されることで解像度が上がり、情報の非対象性の形が変化していくでしょう。また、データ増に伴ってサポートできるタイミングも増えていきます。必要なのは、さまざまなプラットフォーマーとデータをつなげていくこと。つなげたデータの価値をしっかり個人に返していくこと。その中で保険は、重要なツール、モジュールになります。

肝要なのは、それぞれの生活と健康に寄り添う姿勢と、誰がどんな顔でクライアントに接するかです。毎年の健診結果や処方の傾向からサポートする中で、ライフイベントを検知した時に最適な保障を提案するなど、利用者に不安を与えないUXを創っていきたいと考えています」

Insurance5.0における「損害保険」の潮流

損害保険のトレンドは、カスタマージャーニーの変化に対応した利便性の追求と見ています。ポイントになるのは組込型です。

ある自動車会社は、東南アジアで配車サービス・スーパーアプリを運営する事業会社へ組込型保険の提供を始めました。その実装過程で想像できるのは、スーパーアプリへの組込等に時間がかかる保険会社は選ばれなくなるということです。それ故保険会社も外部サービスとAPIで連携できるプラットフォームへと変革しないと、競争に乗り遅れます。

組込型損害保険のビジネスモデルは複数想定されますが、日本の中心になるのはB2BとAPIが連携する形です。保険会社が従来業務の商品開発から支払業務提供までを行い、チャネルインターフェイスでAPI接続機能を有するB2Bイネーブラーと連携し、非金融のチャネル企業にアプローチしています。そのチャネル企業をつなぐB2Bイネーブラーがたくさん出てきており、EYもその役割を担っています。

それ以外では、商品開発やアンダーライティングだけを保険会社が行い、その先はB2B2Cプラットフォームに託すとか、新興電気自動車メーカーが取った自社プラットフォームで完結させるモデルもあります。

危惧すべき要素は、モデルによっては保険会社のロールシフトが発生し、保険会社の立場が希薄になることです。そうした事態を防ぐには、自社プラットフォームの構築も視野に入れるべきと考えます。

青木 計憲 EY Japan 金融サービス・コンサルティングリーダー/保険コンサルティングセクターリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

では、保険と事業開発を掛け合わせる現場にはどんな課題があるのか。異業種と保険会社との事業開発に携わる株式会社Agent Tech Consultingの代表取締役社長である中島力弥氏に伺います。

 

「新規事業の経験がなく、事業会社やプラットフォーマーとのコラボにいまだ解を持たない保険会社。自社サービスプロダクトに一定数のユーザーを確保し、付加価値として金融や保険を取り扱いたいと考えているスタートアップやプラットフォーマー。その両者の橋渡しを行っているのがわれわれです。

 

プラットフォーマー側のカスタマージャーニーに多くの保険を組み込むのが大事という話がありますが、それは半分正しく、もう半分はまだ仮説ではないかと、思わせる実例があります。

 

B2B向けプロダクトを持つプラットフォーマーと大手損害保険会社がオンラインで完結する事業者向け保険のPoCに取り組んだとき、保険加入のページでユーザーは二の足を踏みました。わずか3クリックで入れる秀逸なコンセプトに基づきプラットフォームを構築しましたが、利用者は加入画面の直前で止まってしまったのです。加入する最後の局面で誰かに『これでいいんだ』と背中を押してもらいたいというユーザー心理がその裏にあったのです。

 

大事なことにこの経験から気づかされました。これまで保険会社が対面でやってきた最後の一押しをデジタルでどう代替するか。その模索の末にデジタルマーケティングの勝ち筋を見つけ出そうとしているのが現状です」

Insurance5.0におけるプラットフォームの在り方

保険会社がさまざまな会社と連携する場合や、保険会社が既存のプラットフォームに自社以外のサービスを組み合わせる場合においても、デジタルプラットフォームが不可欠です。そのプラットフォームで新しいデータを活用し、従来のチャネル以外でクライアントに接している企業やブランド、あるいはスーパーアプリを経由してサービスを提供していくのが、今後のビジネスモデルの核になると見ています。

最後に、保険やウェルビーイングのトータルプラットフォームを手掛けている株式会社アドバンテッジリスクマネジメントの執行役員である坂本要氏に、プラットフォームの在り方についてお考えを聞きます。

「アドバンテッジリスクマネジメントは、働けなくなった従業員への所得補償制度『GLTD』を扱う日本初の代理店として1995年に創業しました。

その後、従業員のメンタルサポートで評価をいただきながら、疾患予防強化にも応える仕組みとして、2002年に大手保険会社との共同事業でEAPサービスを始めました。このタイミングで総合的な健康支援にかじを切り、現在はウェルビーイングをキーワードに活力ある個人と組織をサポートしていくサービスを提供しています。

保険代理店としてスタートしたわれわれは今後何をしていくのか。一つの視点が、届けやすい保険のパッケージ作りです。その取り組みとして、顧客の労務管理と保険の仕組みを一体化させたプラットフォームを開発しました。具体的には、保険の購買スタイルが変化している職域に向けて、複数社の保険をウェブ上で一度に手続きできる、あるようでなかった仕組みです」

やはり保険業界の1番のポイントは、情報の非対称性の上で顧客のデータをデジタルで取らずともビジネスができた時代から、データにしっかり落とし込むか、または他社と組まないと顧客のニーズに対応しきれない時代になることです。既に明確なファクトとして出てきています。

今回登壇していただいた企業の皆さまとEYの取り組みは、これまでは保険会社の周辺にあるイメージでした。しかし今後は、それがメインのひとつになっていくでしょう。

EYには金融業界向けにアセットで提供しているオープンAPIのデジタルプラットフォームであるEY Nexusがあり、どう活用していくかも含め、Insurance 5.0の動きにいかにうまく向き合っていくかという観点から、日本の保険業界がグローバルのトップに勝てるよう引き続き支援してまいります。



EY Nexus:金融サービスのためのデジタルプラットフォーム

EY Nexusは、大手金融サービス企業に向けたクラウド対応のアクセラレーション・プラットフォームです。迅速かつ大規模に、デジタルファーストのサービス提供を実現します。

データを理解するアナリスト


サマリー

保険業界においても、Insurance 5.0の扉が開けば、急激な変化と多様化を繰り返すクライアントのニーズに対応しきれなくなります。これからは外部のプラットフォーマーやスタートアップとの連携はもちろん、EY Nexusなどのデジタルプラットフォームを活用していくなど、かつてない視野でビジネスモデルの変革に取り組む思考が求められます。


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