EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
銀行に足を運ぶ機会が減っています。個人差はあるものの、キャッシュレス化が進みATMでさえも数カ月に一度行くかどうかという方も多いのではないでしょうか。もちろん時に現金は必要となりますし、口座開設や住所変更、そして住宅ローンなどの申し込みも、ないわけではありません。ただ、銀行に行くとなった時には、なんとなく面倒くさい心持ちがします。店舗でもATMでも、“待たされる”イメージがあるからです。
このような状況下、銀行ではモバイルバンキングなどのデジタルチャネルを積極的に提供して利便性を高めるとともに、顧客が銀行に来店する頻度を低減し、効率化による店舗の縮小も図っています。一方で、銀行としては、より顧客との接点を持ち、顧客の生活に関わるお金の相談をしてもらいたいと考えています。しかし、顧客は銀行に気軽にお金の相談に行く意識はなく、銀行の提供するアプリでそのようなことができるかさえ、気付いてない状況にあるのではないでしょうか。
銀行は、顧客の利便性向上や銀行業務の効率化のみならず、顧客との接点を持ち、それを強固にするために、モバイルバンキングやインターネットバンキング、資金運用のアプリなどを強化しています。さまざまなアプリやWebサイトの提供と、もちろんUX(ユーザビリティ)の向上にも注力しています。
しかし先述のように、顧客の日常生活において銀行との接点が減少し、提供するアプリやUXの有用性にも気付いていないとすれば、銀行は新たな収益源を生むことに苦慮していると言えるかもしれません。
よって、銀行は自行で提供する店舗などの物理的なチャネルとデジタルチャネル、両方の品質向上のみならず、他業種パートナーとの協業によって、能動的に顧客の生活に接点を持ち、アプローチしようとしています。その一例が、最近よく言われる「組み込み型金融」(エンベデッド・ファイナンス)であり、また、それを実現するBanking as a Service(BaaS)や出資、ジョイントベンチャーなどの取り組みです。「能動的」という点がポイントであり、銀行は受動的ではなく、能動的にならなければならない状況にあるのです。
今まで金融は、顧客の生活の中で必要とされ、チャネルが店舗しかなかった時代においては受動的に待っていても、ある程度のブランド力やプロモーションで顧客が足を運んでくれていました。しかしながら、伝統的な銀行以外に、他業種から金融に参入してきた銀行やネット専業銀行など、銀行業務以外の強みを生かしたビジネスモデルの登場や、UXのみならず手数料や金利に利点のある金融サービスの提供など、状況が大きく変わってきています。それにより、伝統的な銀行は、より能動的に顧客にリーチする必要性が高くなりました。また他業種からの参入銀行やネット専業銀行も、さらに顧客との接点を強化することは引き続き命題となっています。
このような状況の中で、銀行のチャネルだけでなくグループ全体やパートナーを含めた接点を拡大する動きが顕著です。接点を強化する目的は、顧客に対して商品を知ってもらったり、申し込んでもらう機会を増強することだけでなく、そのチャネルからできるだけ多くのデータを取得することです。これには、顧客を知り、より良いサービスをより最適なタイミングや趣向に合ったチャネルから提供することで、顧客にとっても受益のある顧客志向のビジネスを推進したいという狙いがあります。
一方、このようなビジネス形態については、いまだ大きな改善の余地があると言えます。なぜなら、チャネルを強化し多くの情報を得られたとしても、次段階の顧客に対するサービス提供において多くの接点やデータを生かし切れている銀行が少ないからです。多くの銀行では、デジタルマーケティング、オムニチャネルやOMO戦略に必ずしも効果が出ていません。
その1つの理由に、拡大したチャネルの中で、サービスをオファリングする前から成約に進むまでの、詳細なプロセスの連続性や一貫性の欠如が挙げられます。この連続性や一貫性の欠如をどう解決するか、もう一段踏み込んだ詳細の検討と対策が必要だと言えるでしょう。
オムニチャネルと言われて久しく、またOMOも重要なコンセプトです。店舗などの物理チャネル、デジタルチャネルの双方で顧客の接点を行動ログとして一元化することで、顧客の銀行との体験の分断を防ぎ顧客対応力を上げる。このような取り組みは、過去数年、各行とも行っていることから、その対応は一定のレベルに達していることは言うまでもありません。顧客情報を一元化することで、顧客が店舗に訪れても、コールセンターに電話しても、顧客の情報や状況を把握してセールスやオペレーターが適切に応対できているところは多いのではないでしょうか。
一方、デジタルチャネルを活用したオファリングはどうでしょうか。従来の対人のセールスモデルに対してデジタルは有効になっているかどうか、正直これは懐疑的な状況であることが多いと考えています。確かに、各行は顧客情報を一元化し、それをもって、デジタルマーケティングやマーケティングオートメーションなど、何らかの施策を既に実行しているように思われます。しかしその施策は、メールやデジタルチャネル上での商品のリコメンド、SNSでのターゲットプロモーションにとどまっていて、十分な成果が挙げられていないのではないでしょうか。
ある調査において、80%の顧客が商品やサービスと同様に銀行の提供する“体験”が重要と答えていますが、実際は8%の顧客しか期待通りの体験を銀行から得られていると感じていません1。前述の通り、デジタルチャネルが銀行のものとパートナーのものなど多種多様となってきている今、あちこちでポップアップするCookieの承諾や個人情報提供の同意を含め、いまだ情報は「取られている」感があっても、それを生かされているという実感は薄いのではないでしょうか。つまりここにも課題があると言えます。この状況を打破するためには、顧客の行動ログのみならず、同意書やCookieも一元管理する必要があり、さらには、顧客が次に進むためのトリガーを見つけた上で顧客への応対が必要になります。
1つの解決策は、クロスチャネルで顧客のデータを一元化することはもちろん、同意の取得のような基本的な接点においても、その前や後に顧客がしたいことを想定し、また銀行としては、顧客が最適なオファリングを受けられるためのきっかけを見つけることで、顧客に快適に次に進んでもらうこと――つまり、顧客の行動のトリガーをつかむことです。
このように一貫性を確保するためには物理チャネル・デジタルチャネルにかかわらず、まずもって顧客情報を一元化することが重要であり、昨今、顧客中心志向の流れをくんで、新たなCRMを構築しそれを実現している銀行はあると認識しています。
この状況にもう一段階、顧客行動の詳細に踏み込み、顧客が快適に感じつつ銀行がオファリングを行えるソリューションがあります。EY NexusがもたらすCX & Personalization機能が、それです。
EY Nexusには2つの概念があります。1つ目は、エンド・ツー・エンドの物理チャネル・デジタルチャネル横断で、分断された顧客体験と、銀行からのオファリングをつなぎ合わせる“接着剤”としての役割を果たすことです。
もう1つは、銀行はこの先もこのようなデジタルを含めた対策を強化し、柔軟に変化に対応する必要があることから、これに対し最適なモジュールをアップデートまたは追加することにより、顧客にとっての適応ハードルを下げることです。
接着剤の領域で、まず重要なのは徹底的な顧客視点です。顧客視点で、銀行の取引に至る前段のさまざまな行動と金融取引に進む兆候、兆候から成約、この過程における追加のオファリング、アフターフォローなどの顧客行動パターンデータを活用して、徹底的に分析します。
その中で、発生する「イベント」に沿って、次の最適な「手段」をデータに基づいて、顧客に示していきます。当然、個々の顧客で行動や趣向は異なるため、実際の対人セールス同様に多段階にトライ・アンド・エラーをしながら、顧客との関係構築とオファリングを実行します。
このイベントと、その中でも次に進むトリガーとなるイベント、そして次の最適な手としてのアクションをデータでコントロールする、これがEY Nexusの真髄です。
このようなプロセスの中で、当然銀行は既に手を打っているところもありますが、もし、十分にイベントとトリガー、そしてアクションをエンド・ツー・エンドで実行できるような対策がクロスチャネル、クロスプロダクトで実現していないのであれば、EY Nexusが有効なソリューションになるかもしれません。
このような顧客分析と顧客行動に沿ったさまざまな取り組みは、常にアップデートされなければなりません。
さらに、技術は常に進化し、チャネルにおいて重要なポジションを担うパートナーにおいても、チャネルのみならずベースになる技術、ビジネスモデルも進化します。このような進化に常に対応していくことも、今後の銀行にとっては命題になります。
EY Nexusは、常に業界の技術やFintech企業などとのアライアンスにより、構成モジュールのアップデートと追加を行い、顧客のビジネスモデルのアップデートを柔軟かつ迅速に行うフレームワークを持っています。
下図は、EY Nexus CX & Personalizationのデザイン画面の1つです。一見、デジタルマーケティングのデシジョンツリーや、業務プロセス管理(BPM)のプロセス図のように感じる方もいるかもしれません。しかし、EY Nexusのアプローチは、デジタルマーケティングやBPMでハンドリングするアクションも含めて、全てのアクションをプラットフォームに関係なく連携(オーケストレート)することです。
下図の中にあるカラフルなオブジェクトは、1つ1つがモジュールとなっており、デジタルマーケティングやBPMのアクションを呼び出すものもあれば、EY Nexusの持つ別モジュールを使うものもあります。このようにして、チャネル上で顧客の行動、すなわちイベントをトリガーにして、既存の仕組みも横断的にコントロールする役割を担う新たなプラットフォームがEY Nexusです。
これによって、従来の施策では総合的にカバーできなかった顧客ジャーニー全体をカバーし、分断することのない顧客体験と快適なオファリングの実現をサポートします。
1 EY, Technology Transformation in Banking
Gladly, Customer Service Expectations Report, 2019, gladly.com/wp-content/uploads/2022/02/2019-Customer-Expectations-Report.pdf(2023年7月12日アクセス)
【共同執筆者】
西田 良映
(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 金融サービス 銀行・証券セクター ディレクター)
銀行・証券セクター、デジタルトランスフォーメーション(DX)において、戦略から実行までエンド・ツー・エンドのアドバイザリー業務に従事する。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
EY Nexusが銀行のCXとPersonalization実現に向け、いかに銀行サービスの活用を促すか(後編)
オーストラリアの四大銀行といわれるある銀行は、EY Nexusの「接着剤」と「時代に沿った最適化」という2つの概念に共感し、住宅ローンを中心としたリテールバンキングビジネスに活用しています。
金融機関におけるデジタルプラットフォームの未来予想図 ~デジタルシフトの変革をサポートするEY Nexus~
金融機関が迫られているビジネス変革の一環として、デジタルプラットフォームの導入が求められています。時代に合わせたオペレーションモデル、それを支えるアーキテクチャの進化を可能にするEYのデジタルプラットフォーム「EY Nexus」がどのような役割を果たすのか探ってみました。
顧客接点を強化するためにパートナーを含めたチャネルの強化を行っている銀行にとって、快適にチャネルを使ったり、オファリングすることが難しくなっています。
全てのチャネル上のイベントと、顧客が次の行動に移るためのトリガーを捉え、最適なアクションの提供を支援するプラットフォームがEY Nexusです。