誕生日の食事を囲むためダイニングルームに集まった多世代家族の写真

18兆米ドルに上る資産運用という課題にうまく対応するには~参考となる海外富裕層ビジネス例


資産運用会社は、これまでの方針を転換して、遺産相続においてうまくかじをとらなければなりません。


要点

  • 「大いなる遺産」の大きなうねりが頂点に達しつつあり、今年は2兆~3兆米ドルが相続人の手に渡ることが予測される。
  • 女性相続人や次世代の相続人のニーズを満たすことができない資産運用会社は、資産が大幅に流出する恐れがある。
  • 一貫性のあるカスタムメイドの戦略と、相手に寄り添った商品やサービスが、被相続人と相続人の信頼を得て成功し続ける上での鍵となる。

2024年は、裕福な被相続人から譲り渡される資産が2兆~3兆米ドルに上ると推定され、数百億ドル、場合によっては数千億ドルもの資産が相続人の手に渡る国・地域も少なくないとみられます。2023年は、相続で億万長者になった人の数が、起業で億万長者になった人の数を上回りました1

ベビーブーム世代の資産の相続は、史上最大の資産の移転であるだけでなく、女性相続人と次世代の相続人に、人生観が変わるほどの影響を及ぼすことになると考えられます。2030年までに裕福な被相続人から相続人の手に渡る遺産は実に18兆米ドルに達する見通しです。これは中国の年間GDPにほぼ相当します2

過去に例を見ない規模の資産が移動する今、資産運用会社にとってこの課題を乗り越えることが極めて重要です。最近のあるレポートから、超富裕層の42%が包括的な相続計画を立てていないことが分かりました3。一方、その遺産問題で被相続人にしっかりと寄り添うこと、あるいは相続人とって価値ある存在になることができなければ、資産流出のリスクが急激に高まりかねません。資産運用会社は相続人のことを知らないケースが多く、また、次世代の相続人は被相続人より資産運用会社を乗り換える可能性がはるかに高くなります4

2024 EY Global Wealth Management Industry Reportをダウンロードする(英語版のみ)

資産運用会社が自問すべき問いは、以下の5つです。

 

  • ニーズをきちんと把握できない可能性のある女性相続人らをサポートできるか。
  • 若い世代の相続人の差し迫ったニーズや選好、価値観を把握しているか。
  • フロントオフィスは、この複雑でデリケートなトピックにうまく対応できるか。
  • 群を抜いた存在となり、他と一線を画した価値提案をする事業者と認識されるにはどうすればいいのか。
  • 資産を維持すると同時に、競合他社からの資産流入を獲得する戦略が自社にはあるか。

 

自らの答えに確信が持てない資産運用会社は、被相続人と相続人のニーズを中心に据え、遺産に焦点を当てた魅力的な価値提案の構築に向け、今すぐ行動を起こさなければなりません。とはいえ、当社の経験から言うと、このような変革に着手することができるのか、自社の能力に自信の持てない事業者が多いようです。

 

このギャップを埋めるには、相続の課題に焦点を絞った、カスタムメイドの戦略とオペレーティングモデルが必要です。こうした体系的なアプローチでは、資産の世代間移転への対処に有効であることが実証されている対応策を利用します。このアプローチの最も顕著な特徴は、以下のように4つに大別できます。

 

 

1. 相続に関する対応方針を変える

相続についての会話は、クライアントに、不安ではなく心の平和をもたらすものでなければなりません。相続に関わる方針の変更は不可欠であり、またどの事業者も実現できるはずです。

 

資産運用会社は、話し合いの内容を、否定的な意味合いを持つ場合もある「相続」から、家族を守ることや家族の遺産(レガシー)、家庭の理念へと変える必要があります。健康問題が生じた場合に資産を保全し、家族を守ることについての会話は有益な第一歩となり、移転計画や相続アドバイスに関わる、その後の話し合いにつながるかもしれません。

 

被相続人が理想とする資産のあり方を明確に把握することが、そのクライアントとの会話の中心に常に家族を据え、被相続人の個人的、職業的、場合によっては慈善活動関連の遺産(レガシー)を守ることに明確に重点を置く一助になると考えられます。

 

 

2. 女性相続人と若い世代の相続人を理解する

被相続人と相続人のニーズや価値観、選好の違いを把握することが不可欠です。若い世代のデジタル機能への関心をよりどころにするなど、単純すぎる前提は通用しません。

 

クライアントは千差万別です。しかし、裕福な被相続人の多くに共通する特徴があります。その大半は70歳以上の男性で、好況の恩恵を何十年にもわたり受けており、資産運用会社と長く付き合ってきた人たちです。これとは対照的に、相続人のニーズと価値観、そして銀行などとの関係は、はるかに多様であり、また未開拓の領域です。

 

第一相続人は女性であることが多く、それまで資産運用に触れることがあまりなかった人が少なくありません。これは、男性の第一相続人に比べ、これまでそのニーズと選好に十分な対応がなされてこなかったクライアントセグメントだからです。若い世代もまた、概して、高齢の被相続人とは目指す目標が大きく異なります。その要因は、裕福な家族の国際化や伝統的な家族構成の崩れ、金融リテラシーの低下、投資に対する考え方の多様化などです5

 

 

3. 現場に権限を与える

リレーションシップマネージャー(営業を主体とする運用担当者)が、先を見越したクライアントエンゲージメントに必要なスキルとリソースを備え、かつ、こうしたクライアントエンゲージメントに意欲的に取り組むよう促すことを最優先課題とすべきです。それに特化した研修と、人工知能を活用したアドバイザーのコパイロットが、自信の醸成とエンゲージメントの拡大に役立ちます。リレーションシップマネージャーは今後、ファミリーガバナンスや相続税、生命保険、信託法、慈善活動などの分野の専門家にアクセスする必要も出てくるでしょう。

 

資産運用会社は、早い段階で相続人とも向き合うべきです。先を見越したクライアントとの関係強化で、クライアントエンゲージメントとクライアント教育の下地を作ることができます。加えて、サステナビリティやデジタル資産、オルタナティブ投資、投資一任勘定などの領域の需要が今後高まることを予期しておくべきです。

 

もう⼀つの重要なステップは、相続後の財産の価値を高めることを⽬的とした戦術的施策に基づくポートフォリオの策定です。戦術的施策として考えられるのは、⽬標に基づいた家族の資産の配分、多世代にわたるクライアントの確保、第⼀世代と第⼆世代のコミュニティの管理と教育、リレーションシップマネージャー用のマニュアルの策定などです。


4. 慎重かつ忍耐強く実行する

被相続⼈の相続計画づくりの開始から、その相続が完了するまでに数年、場合によっては数⼗年かかるかもしれません。信頼を構築し、クライアントに⻑期的な価値をもたらすには、徐々に、かつ気⻑にクライアントエンゲージメントを⾼めていくことが不可⽋です。

資産運用会社は、説得⼒のある「what-if(仮説)」シナリオについて話し合い、委任状やリビングウィル(⽣前発⾏遺⾔書)などを紹介して、「スモールスタート」を切るといいでしょう。信頼が⾼まるにつれ、話し合いの内容は、最終意思や相続計画など、より複雑でデリケートなトピックへと⾃然に移⾏していくはずです。

リレーションシップマネージャーはその後、不動産やプライベートカンパニー(⾮上場企業)のような資産の流動性解除や、傘下の財団のような慈善活動の⼿段の模索など専⾨的な施策を利⽤できます。ファミリーガバナンスに関する社内の専⾨知識は、全員の声に⽿を傾け、合意を形成し、教育やスチュワードシップ活動上のニーズを把握し、⼈⽣の伴侶や若い世代が関与する多段階の相続に備える⼀助となります。

これまでの経験から、資産の世代間移転に向けたオーダーメードのビジネスモデルやオペレーティングモデルの開発が、被相続⼈の存命中に資産を獲得するとともに、史上最⼤規模の資産の世代間移転の多くを受け取ることが予想される⼥性相続⼈と次世代の相続⼈を中⼼としたクライアントを今後増やす基盤を構築する、資産運用会社の能⼒を⼤きく左右する可能性があることが分かっています。

このアプローチは、EY Global Center for Wealth Managementがまとめた、20の主要なコンセプトの1つです。このコンセプトはいずれも、これから2030年までの資産運用で優れた業績を収める上で戦略的に重要です。この主要な全コンセプトと、そのコンセプトにより資産運用会社が対処できる基本的な課題について詳しくは、2024 EY Global Wealth Management Industry Report(PDF、英語版のみ)をご覧ください。



サマリー

資産運用で優れた業績を収める上で鍵となるのは、資産の世代間移転を成功に導く戦略です。実績のある⼿法を活⽤した体系的なアプローチをとることで、被相続⼈と相続⼈、双⽅のニーズを満たし、貴重な新規クライアントとの関係を構築しながら、資産の流出を防ぐことができます。


レポートをダウンロードする

2024 EY Global Wealth Management Industry Report

関連記事

2024年の資産運用を成功に導く10の決意とは

資産運用会社は今年も困難な状況が見込まれる中、「自己ベスト」を目指さなければなりません。

    この記事について

    執筆者