EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
通常1月は、予測や決意表明が多く見られ、今年の予測として、市場、業界、政治動向の見通しが示されます。一方、今年の決意としては、体を鍛えたり、新規プロジェクトをスタートさせたりなど、前向きな変化をもたらす個人的な目標や取り組みなどが挙げられます。
今年は新年の決意として、2024年に経営幹部が検討すべき、世界の資産運用業界の喫緊の課題を取り上げます。世界的に不確実性が高まり、ディスラプション(創造的破壊)が拡大し、マージン増大への圧力が高まることが予想される中、資産運用会社は「体制を整え」、持続可能で収益性の高い長期的成長のために、他と一線を画した戦略を策定する必要があります。
2024年以降の成功を目指す業界のリーダーが示すべき、または少なくとも検討すべき決意トップ10を紹介します。
組織またはリーダーとして、サービス能力を拡充し、包括的な統合型サービスを開発して、クライアントの関与の拡大と共創により、このプロセスの強化を図ることを決意します。
資産運用会社の顧客は、セグメントを問わず、要件を満たし、ニーズに合ったオーダーメードの包括的なサービスを期待しています。また、市場の不確実性が高まる中、今まで以上にガイダンスと安心感を求めています。
資産運用会社は、より顧客中心主義になり、投資家の言葉に耳を傾け、より大きな権限とコントロールを与えるよう努めています。資産運用分野では、サービス能力の拡充を図り、クライアントの投資や銀行取引、ヘルスケア、家計のニーズに対応する包括的なファイナンシャル・ウェルネス・サービスの開発も進めています。クライアントの関与の拡大と共創により、投資家エンゲージメントを強化することでクライアントジャーニーの節目に資産運用会社が寄り添い、ロイヤルティと満足度を高めることができます。
組織またはリーダーとして、投資家があらゆる商品、アドバイス、教育へアクセスできるようにし、投資家エンゲージメントを高め、より多くのクライアントにより良い成果を提供することを決意します。
高齢化、都市化、移住、女性の経済力の向上、退職後における自己責任の増大などにより、投資家の構成が変化し、需要パターンが一段と複雑化しています。クライアント候補のプール拡大で、成長の可能性が大きく広がりましたが、ニーズのさらなる細分化も招いています。
資産運用会社は、クライアント候補のプールと投資家の選択肢の拡大を図ると同時に、利用可能な商品とサービスについてクライアントへの教育も進めています。例えば、過去10年間のプライベート市場での成長を生かして、オルタナティブ資産を含めた投資に誰もが平等にアクセスできるよう取り組んでいます。これにより、資産運用会社は、より強固なエンゲージメントと成果を通じて、より多くの投資家に付加価値をもたらし、新たな収益増加の源泉を得ることができます。
私たちは、クライアントのアクセスが可能になり、関心が高まっているプライベートキャピタルなどの新商品の複雑さを、いかに確実に理解してもらうかに重点を置いています。
組織またはリーダーとして、テクノロジーとイノベーションをより有効に活用し、他の市場参加者と連携して、規制への対応を強化し、効率性と質を向上させることを決意します。
資産運用会社は、さまざまな市場での規制制度の変更や、複数の国・地域に拠点を置くグローバルな投資家に直面する中で、急速に変化する数多くの規制を順守するだけでなく、クライアントに代わって、複雑な規制に対処することも期待されています。
資産運用会社は、規制に対するより一貫したアプローチの策定を進めており、テクノロジー、データ、イノベーションをより有効に活用し、柔軟性を高め、増大するコンプライアンスの負担に対処し、グローバルおよび特定地域の要請の対応に取り組んでいます。また、業界全体のソリューションの策定に向けて関係者の連携を強めています。
組織またはリーダーとして、一貫性があり、包括的で透明性の高いサステナビリティへのアプローチを策定し、投資家との連携を図り、全社的な視点で実施することを目指します。
資産運用会社は、世界の金融フローをより持続可能な経済へと変えるため、より積極的に参加することが期待されています。特に、気候変動への関心は高まる一方でしょう。より広い意味で、資産運用会社は、事業活動と市場投資において目的志向の考え方を実践し、積極的なステークホルダーとなり、ESGのすべてのカテゴリーでリーダーシップを発揮する必要があります。
現在、運用資産(AUM)の約85%がグリーンでないため1、資産運用会社は、重点を置く気候変動対策を拡大し、より広範なグリーン経済やブルー(海洋)経済も対象に含めるほか、食料安全保障や経済的にインクルーシブな都市などのテーマに関するコミットメントも新たに示しています。「グリーンウォッシング」や政治問題化などの批判を避け、アセットオーナーとのパートナーシップを目に見える形で進展させる上で鍵を握るのは透明性です。
組織またはリーダーとして、リスキリング/スキルアップの戦略的プログラムにより新規および既存の人材の価値を最大限高め、クライアントの需要、テクノロジー、商品、業界慣習の変化に備えることを決意します。
人材不足の拡大に、経費の上昇とテクノロジーを活用した新規参入者との競争が重なり、資産運用会社経営幹部のスキルアップが必要になっています。AIなどの新興分野や急成長するプライベートクレジットなどの分野のスタッフを集めることも重要ですが、会社全体の人材強化はそれ以上に重要です。
資産運用会社は、AIなど先端テクノロジー分野の専門スキルを備えた人材を採用すると同時に、スタッフやアドバイザーが新たな商品やテクノロジー、ビジネスモデルに対応し、エンドクライアントのソリューション、投資リスク、潜在的な成果の理解を深めるために、スタッフやアドバイザーの教育にも注力しています。
組織またはリーダーとして、AIの使用において、透明性を維持し、効果的なガバナンス、効率性の重視、データの統一、モデル検証の強化など、的を絞って積極的に取り組みを進めることを決意します。
AIや生成AIの能力向上と普及拡大に伴い、資産運用会社は、効率化を図り、投資家の期待に応えるため、テクノロジーを理解し、受け入れることが不可欠となります。一方で、AIの軽率あるいは無責任な使用は、潜在的なリスクを高めることになるでしょう。
AIに対応した組織になるため、企業は、データ資源やテクノロジープラットフォームへの投資を加速し、人材の研修を進めています。データ、プラットフォーム、エコシステムを統合するAIの包括的なアプローチを採用することで、企業の能力の強化と効果的な活用ができるようになります。効率性、価値、結果が求められるということは、コスト最適化と的を絞った取り組みが必要だということです。また、AIの強固なガバナンスと倫理的な使用も必須となります。
AIと生成AIは、必ずしも人々の仕事を奪うとは限りませんが、AIを拒む人の仕事を激変させることになるでしょう。
組織またはリーダーとして、提携先の統合テクノロジープラットフォームを使用して、パフォーマンス、拡張性、透明性、収益性を向上し、社内外のエコシステムの力を活用することを決意します。
資産運用会社は、コスト上昇やマージン縮小に加え、スピード、効率性、シームレスな体験に対する顧客の期待の急速な高まりといった圧力に直面しています。資産運用会社に必要なのは、サービスをカスタマイズし、ストレスフリーなサービスをクライアントに提供しながら、新たな収入源を生み出す能力です。
資産運用会社は、ブランド体験を統一し、クライアントニーズの変化に速やかに対応できるテクノロジープラットフォームの開発に取り組んでいます。社内では、フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスのシステムのさらなる統合と、オペレーティングモデルの標準化、エンド・ツー・エンドのワークフローの見直しを進めています。また、社外においては、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)とデータ相互利用可能性が、テクノロジーベンダーやサービスプロバイダーが提供するエコシステムの力を引き出しています。
組織またはリーダーとして、データインフラを継続的に最新化し、公開データおよび非公開データの可用性、有用性、適合性、セキュリティを最大限高めることを決意します。
資産運用会社は、幅広い社内外のデータから価値を引き出すことへの依存を強めており、そのデータソース、量、速度も増す一方です。AIの普及が進むにつれ、より多くのクライアントが大規模言語モデル(LLM)などのスマートツールの導入を資産運用会社に期待すると考えられます。
資産運用会社は、信頼できる唯一の情報源を提供する最新のデータインフラの整備に取り組んでおり、多くの企業が既存のデータ戦略とパートナーの再評価を行っています。問題点を克服し、幅広い商品とサービスをシームレスに投資家に提供する上で鍵を握るのは、公開データと非公開データを統合する包括的なデータフレームワークです。AIと生成AIのユースケースの進化に伴い、大型言語モデルへの対応と、AIを活用したその他のサービスを提供する上で、変化に適合できるデータアーキテクチャーが鍵となっています。
新たなインフラストラクチャ―が出現する中、データ戦略を常に評価し、リスクの軽減と安全な使用の維持、プライバシーの保護を徹底しています。
組織またはリーダーとして、将来の規模拡大、変化への適応、提携に必要な拡張性の高いプラットフォームを使用し、すべてのステークホルダーに利益をもたらし、持続可能で収益性の高い成長のための戦略を策定することを決意します。
業界の収益と営業利益率は、不安定な世界情勢、競争の激化、投資商品への関心の変化、運用資産の伸びの鈍化、純流失、費用収益比率の上昇などの圧力にさらされています。
資産運用会社は、長期的価値の創造を加速させるため、持続可能な成長と収益性を確保する道を模索しており、企業はもはや買収だけで規模の拡大を図ることはできません。そのため、利益率を向上させながら、同時に売り上げ拡大も図っていますが、それには持続可能な成長のフレームワークを確立する変革が必要です。拡張性の高いインフラストラクチャは、間接費を削減し、コスト基盤の柔軟性を高め、オペレーティングモデルを最適化し、非効率性を排除することができます。
組織またはリーダーとして、選択した市場で、独自の価値提案、独自のブランド、組織としての強い目的意識で差別化を図ることを決意します。
クライアントが魅力を感じるのは、優れた財務業績を残し、自社のビジョンと価値観が一致する資産運用会社です。そのため、資産運用会社は核となる目的を明確に定め、強いブランド戦略で競争優位性を保つ必要があります。
企業は、目的志向の世界観に裏打ちされた、他と一線を画す独自の戦略的ビジョンを定めることを目指すとともに、そのビジョンを支えるべく自社のDNAが強く感じられる独自の商品やサービスを提供しています。つまり、トレンドを追いかけるのではなく、どの市場で事業を展開するのか、どの顧客セグメントと向き合うのか、どの販売チャネルに力を入れるのか、またその理由について、難しい戦略的決断を下すことがリーダーに求められているのです。
新しい時代に適合することを目指す資産運用会社は、2024年の成功に向けて正しい決意を示すことで、前向きな将来を歩むことができます。