2024年の資産運用を成功に導く10の決意とは

2024年の資産運用を成功に導く10の決意とは


資産運用会社は今年も困難な状況が見込まれる中、「自己ベスト」を目指さなければなりません。


要点

  • 年初は、経済、市場、テクノロジーの予測、そして経営者個人の決意表明が多く見られる。
  • 本記事では、資産運用会社のリーダーが2024年に実行に移すべき10の決意の中で、この2つの要素である各予測と決意表明を含めて示している。
  • 市場の不確実性が続き、収益圧力が高まる中、「体制を整える」と決意することがかつてないほど重要になっている。

通常1月は、予測や決意表明が多く見られ、今年の予測として、市場、業界、政治動向の見通しが示されます。一方、今年の決意としては、体を鍛えたり、新規プロジェクトをスタートさせたりなど、前向きな変化をもたらす個人的な目標や取り組みなどが挙げられます。

今年は新年の決意として、2024年に経営幹部が検討すべき、世界の資産運用業界の喫緊の課題を取り上げます。世界的に不確実性が高まり、ディスラプション(創造的破壊)が拡大し、マージン増大への圧力が高まることが予想される中、資産運用会社は「体制を整え」、持続可能で収益性の高い長期的成長のために、他と一線を画した戦略を策定する必要があります。

2024年以降の成功を目指す業界のリーダーが示すべき、または少なくとも検討すべき決意トップ10を紹介します。

 

10. サービスの拡大と統合に投資家を巻き込む

組織またはリーダーとして、サービス能力を拡充し、包括的な統合型サービスを開発して、クライアントの関与の拡大と共創により、このプロセスの強化を図ることを決意します。

理由:

資産運用会社の顧客は、セグメントを問わず、要件を満たし、ニーズに合ったオーダーメードの包括的なサービスを期待しています。また、市場の不確実性が高まる中、今まで以上にガイダンスと安心感を求めています。

目的:

資産運用会社は、より顧客中心主義になり、投資家の言葉に耳を傾け、より大きな権限とコントロールを与えるよう努めています。資産運用分野では、サービス能力の拡充を図り、クライアントの投資や銀行取引、ヘルスケア、家計のニーズに対応する包括的なファイナンシャル・ウェルネス・サービスの開発も進めています。クライアントの関与の拡大と共創により、投資家エンゲージメントを強化することでクライアントジャーニーの節目に資産運用会社が寄り添い、ロイヤルティと満足度を高めることができます。

方法:

  • クライアントの個性とセグメント(女性投資家など)を見直し、サービス提供のより的確なカスタマイズと拡大を図り、配偶者間と世代間の資産移転の重要性を常に念頭に置いて、クライアントの囲い込みを強化する。
  • 他の組織と提携し、今までにない、より包括的なサービス(税務、信託、不動産、ヘルスケアなど)を提供し、デジタルトランスフォーメーションを使用してバーチャル接続の向上を図る。
  • 投資家をサービスの共同開発に巻き込み、「教えてほしいから一緒にやってほしいへ」の相互作用を醸成するとともに、どの程度関与するかを投資家自身が選択できるようにする。

 

9. 投資家へのアクセスを拡大し、エンゲージメントとインクルージョン(金融包摂)を高める

組織またはリーダーとして、投資家があらゆる商品、アドバイス、教育へアクセスできるようにし、投資家エンゲージメントを高め、より多くのクライアントにより良い成果を提供することを決意します。

理由:

高齢化、都市化、移住、女性の経済力の向上、退職後における自己責任の増大などにより、投資家の構成が変化し、需要パターンが一段と複雑化しています。クライアント候補のプール拡大で、成長の可能性が大きく広がりましたが、ニーズのさらなる細分化も招いています。

目的:

資産運用会社は、クライアント候補のプールと投資家の選択肢の拡大を図ると同時に、利用可能な商品とサービスについてクライアントへの教育も進めています。例えば、過去10年間のプライベート市場での成長を生かして、オルタナティブ資産を含めた投資に誰もが平等にアクセスできるよう取り組んでいます。これにより、資産運用会社は、より強固なエンゲージメントと成果を通じて、より多くの投資家に付加価値をもたらし、新たな収益増加の源泉を得ることができます。

方法:

  • オルタナティブ資産クラスやダイレクトインデックス機能へのアクセスの提供など、これまでは富裕層に限定されていた商品を大衆富裕層や個人投資家にも提供する。
  • インターバルファンド、事業開発会社、欧州長期投資ファンド(FLTIF)、長期資産ファンド(LTAF)を主要な手段として活用する。
  • どのような合同運用商品が好まれるか、またトークン化によるデジタルラッパー(デジタルを活用した投資のための仕組み)の提供の可能性を見極める。
  • 複雑な商品に関する金融教育を強化するツールとプラットフォームを導入する。
私たちは、クライアントのアクセスが可能になり、関心が高まっているプライベートキャピタルなどの新商品の複雑さを、いかに確実に理解してもらうかに重点を置いています。

8. 規制面で連携し、イノベーションを起こす

組織またはリーダーとして、テクノロジーとイノベーションをより有効に活用し、他の市場参加者と連携して、規制への対応を強化し、効率性と質を向上させることを決意します。

理由:

資産運用会社は、さまざまな市場での規制制度の変更や、複数の国・地域に拠点を置くグローバルな投資家に直面する中で、急速に変化する数多くの規制を順守するだけでなく、クライアントに代わって、複雑な規制に対処することも期待されています。

目的:

資産運用会社は、規制に対するより一貫したアプローチの策定を進めており、テクノロジー、データ、イノベーションをより有効に活用し、柔軟性を高め、増大するコンプライアンスの負担に対処し、グローバルおよび特定地域の要請の対応に取り組んでいます。また、業界全体のソリューションの策定に向けて関係者の連携を強めています。

方法:

  • 同業他社や競合他社と連携して、お互いの強みを出し合い、共同のフレームワークを構築し、規制環境の変化に包括的に対応する能力の自信を高める。
  • 倫理的な人工知能(AI)を含めた新たなテクノロジーに対して透明性の高いアプローチをとり、デジタルラッパー、トークン化、分散型台帳技術の導入を加速し、業界として環境・社会・ガバナンス(ESG)の重要課題への対応を進める。
  • 変化する要件に逐次対応するのではなく、一貫性の向上と戦略的イノベーションを通じて規制コンプライアンスを変革する。

 

7. サステナビリティの取り組みにおいて透明性の高いリーダーシップを発揮する

組織またはリーダーとして、一貫性があり、包括的で透明性の高いサステナビリティへのアプローチを策定し、投資家との連携を図り、全社的な視点で実施することを目指します。

理由:

資産運用会社は、世界の金融フローをより持続可能な経済へと変えるため、より積極的に参加することが期待されています。特に、気候変動への関心は高まる一方でしょう。より広い意味で、資産運用会社は、事業活動と市場投資において目的志向の考え方を実践し、積極的なステークホルダーとなり、ESGのすべてのカテゴリーでリーダーシップを発揮する必要があります。

目的:

現在、運用資産(AUM)の約85%がグリーンでないため1、資産運用会社は、重点を置く気候変動対策を拡大し、より広範なグリーン経済やブルー(海洋)経済も対象に含めるほか、食料安全保障や経済的にインクルーシブな都市などのテーマに関するコミットメントも新たに示しています。「グリーンウォッシング」や政治問題化などの批判を避け、アセットオーナーとのパートナーシップを目に見える形で進展させる上で鍵を握るのは透明性です。

方法:

  • テーマ型ファンドの選択肢を増やし、ダイバーシティ、トランジション投資、生物多様性、ブルー経済などのテーマへの配分を増やす。
  • 気候変動・環境リスクを、戦略やガバナンス、業務運営のほか、投資商品と投資ポートフォリオにも組み込んで、明確な目標を設定し、サステナブルファイナンスを拡大し、段階的な実施アプローチをとる。
  • 先進国だけでなく、発展途上国・地域にも実質的な効果をもたらす方法を見いだす。ブレンデッド・ファイナンスは、公共資本や開発金融機関による資金調達を民間資本と組み合わせたもので、最初にリスクを負い、大規模な資本調達を促進することで、気候変動における資産運用会社の役割を拡大する上で極めて重要となる。
  • 投資家と規制当局に対するタイムリーで正確、かつ透明性の高い情報開示など、サステナビリティの原則に沿って会社全体を管理する。

 

6. 人材の価値を最適化する

組織またはリーダーとして、リスキリング/スキルアップの戦略的プログラムにより新規および既存の人材の価値を最大限高め、クライアントの需要、テクノロジー、商品、業界慣習の変化に備えることを決意します。

理由:

人材不足の拡大に、経費の上昇とテクノロジーを活用した新規参入者との競争が重なり、資産運用会社経営幹部のスキルアップが必要になっています。AIなどの新興分野や急成長するプライベートクレジットなどの分野のスタッフを集めることも重要ですが、会社全体の人材強化はそれ以上に重要です。

目的:

資産運用会社は、AIなど先端テクノロジー分野の専門スキルを備えた人材を採用すると同時に、スタッフやアドバイザーが新たな商品やテクノロジー、ビジネスモデルに対応し、エンドクライアントのソリューション、投資リスク、潜在的な成果の理解を深めるために、スタッフやアドバイザーの教育にも注力しています。

方法:

  • 既存の人材のリスキリングとスキルアップにより、人材戦略の焦点を、主要な役割や標準的なポジションへのアクセスや研修の充実に当てる。
  • 個人の興味と強みに合わせて人材の配置転換を行うとともに、将来のスキルニーズを把握し、AIのコパイロットや自動化など、テクノロジーをより有効に活用する取り組みを継続的に続ける。
  • センター・オブ・エクセレンス(CoE)やオフショア・デリバリー機能(単にコスト削減だけでなく、機能向上の役割も果たす)の使用を検討する。
  • 職場のテクノロジーを統合し、業務を合理化し、ワークライフバランスを向上する技術的に統合された職場環境を提供することで、スタッフをサポートする。
  • ESGポリシーに関するものを中心とした企業の文化、価値観、存在意義を積極的に発信し、共感を重視し、人を中心に据える。

 

5. AIを賢く使用する

組織またはリーダーとして、AIの使用において、透明性を維持し、効果的なガバナンス、効率性の重視、データの統一、モデル検証の強化など、的を絞って積極的に取り組みを進めることを決意します。

理由:

AIや生成AIの能力向上と普及拡大に伴い、資産運用会社は、効率化を図り、投資家の期待に応えるため、テクノロジーを理解し、受け入れることが不可欠となります。一方で、AIの軽率あるいは無責任な使用は、潜在的なリスクを高めることになるでしょう。

目的:

AIに対応した組織になるため、企業は、データ資源やテクノロジープラットフォームへの投資を加速し、人材の研修を進めています。データ、プラットフォーム、エコシステムを統合するAIの包括的なアプローチを採用することで、企業の能力の強化と効果的な活用ができるようになります。効率性、価値、結果が求められるということは、コスト最適化と的を絞った取り組みが必要だということです。また、AIの強固なガバナンスと倫理的な使用も必須となります。

方法:

  • 強固なサイバー対策を講じてデータのセキュリティとプライバシーを確保し、アウトプットを管理・検証し、AIに対して透明性の高い、倫理的なアプローチをとる。
  • AIを活用して、ミドルオフィス業務の変革、資産評価の向上、社内の次善策の枠組みの強化、コード生成、投資調査の強化、ワークフローの自動化を図る。
  • 社内スタッフの研修と増員で、AIと生成AIの導入を加速させる。
AIと生成AIは、必ずしも人々の仕事を奪うとは限りませんが、AIを拒む人の仕事を激変させることになるでしょう。

4. 社内のテクノロジーと外部のエコシステムを統合する

組織またはリーダーとして、提携先の統合テクノロジープラットフォームを使用して、パフォーマンス、拡張性、透明性、収益性を向上し、社内外のエコシステムの力を活用することを決意します。

理由:

資産運用会社は、コスト上昇やマージン縮小に加え、スピード、効率性、シームレスな体験に対する顧客の期待の急速な高まりといった圧力に直面しています。資産運用会社に必要なのは、サービスをカスタマイズし、ストレスフリーなサービスをクライアントに提供しながら、新たな収入源を生み出す能力です。

目的:

資産運用会社は、ブランド体験を統一し、クライアントニーズの変化に速やかに対応できるテクノロジープラットフォームの開発に取り組んでいます。社内では、フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスのシステムのさらなる統合と、オペレーティングモデルの標準化、エンド・ツー・エンドのワークフローの見直しを進めています。また、社外においては、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)とデータ相互利用可能性が、テクノロジーベンダーやサービスプロバイダーが提供するエコシステムの力を引き出しています。

方法:

  • 柔軟性の高いクラウドベースのモジュール式インフラストラクチャを評価し、社内外のエコシステム間の安全な通信を可能にする。
  • 全事業分野とグループ全体でデータ戦略を統合し、データ相互利用可能性を高め、APIの活用を強化する。
  • 管理情報システムを強化し、ステークホルダーへの情報開示の迅速化と向上を図る。
  • テクノロジーベンダー、サービスプロバイダー、競合他社を通じたエコシステムの連携を強化し、規模を管理する。
  • 量子コンピューティングに基づくテクノロジーを活用するための長期的な準備状況を評価する。

 

3. データを最新化する

組織またはリーダーとして、データインフラを継続的に最新化し、公開データおよび非公開データの可用性、有用性、適合性、セキュリティを最大限高めることを決意します。

理由:

資産運用会社は、幅広い社内外のデータから価値を引き出すことへの依存を強めており、そのデータソース、量、速度も増す一方です。AIの普及が進むにつれ、より多くのクライアントが大規模言語モデル(LLM)などのスマートツールの導入を資産運用会社に期待すると考えられます。

目的:

資産運用会社は、信頼できる唯一の情報源を提供する最新のデータインフラの整備に取り組んでおり、多くの企業が既存のデータ戦略とパートナーの再評価を行っています。問題点を克服し、幅広い商品とサービスをシームレスに投資家に提供する上で鍵を握るのは、公開データと非公開データを統合する包括的なデータフレームワークです。AIと生成AIのユースケースの進化に伴い、大型言語モデルへの対応と、AIを活用したその他のサービスを提供する上で、変化に適合できるデータアーキテクチャーが鍵となっています。

方法:

  • 将来のアプリケーションや新たな脅威を見据えて、データ管理戦略を企業および全事業分野で統合する。
  • 自社のデータインフラと広範なエコシステムのサイバーセキュリティを強化する。
  • バリューチェーン全体でデータをシームレスに取得し、クライアント向けの情報を、これまで以上に深く掘り下げて、投資家向けインサイトと投資家体験を向上させる。
  • DaaS(サービスとしてのデータ)に関する機会を生かして、コストの削減、イノベーションの推進、データエコシステムの構築を図る。
新たなインフラストラクチャ―が出現する中、データ戦略を常に評価し、リスクの軽減と安全な使用の維持、プライバシーの保護を徹底しています。

2. 収益性の高い成長に必要な拡張性の高いプラットフォームを構築する

組織またはリーダーとして、将来の規模拡大、変化への適応、提携に必要な拡張性の高いプラットフォームを使用し、すべてのステークホルダーに利益をもたらし、持続可能で収益性の高い成長のための戦略を策定することを決意します。

理由:

業界の収益と営業利益率は、不安定な世界情勢、競争の激化、投資商品への関心の変化、運用資産の伸びの鈍化、純流失、費用収益比率の上昇などの圧力にさらされています。

目的:

資産運用会社は、長期的価値の創造を加速させるため、持続可能な成長と収益性を確保する道を模索しており、企業はもはや買収だけで規模の拡大を図ることはできません。そのため、利益率を向上させながら、同時に売り上げ拡大も図っていますが、それには持続可能な成長のフレームワークを確立する変革が必要です。拡張性の高いインフラストラクチャは、間接費を削減し、コスト基盤の柔軟性を高め、オペレーティングモデルを最適化し、非効率性を排除することができます。

方法:

  • 他と一線を画し、的を絞った戦略を基に、長期的に持続可能な組織モデルを構築する。
  • コアコンピテンシーや必要不可欠な業務、競争上優位な分野の評価結果を踏まえ、アウトソーシング、ニアショアリング、オフショアリングに戦略的なアプローチをとる。
  • 新たな運用モデル、統合プラットフォーム、自動化、外部エコシステムを活用し、コスト削減と効率的なインフラ構築を実現する。
  • 投資利益率を追求し、変革プログラムに関する意思決定に情報を提供するための強固なガバナンス体制を確保する。
  • 企業としての組織的能力提供の統一、統合、簡素化を通じて、インオーガニック成長、チームリフト、将来のM&A計画を可能にするプラットフォームを構築する。
  • 高度なパーソナライズ化や顧客体験の向上を通じて、常に顧客のニーズに焦点を当てる。

 

1. 強力なブランド・アイデンティティを構築する

組織またはリーダーとして、選択した市場で、独自の価値提案、独自のブランド、組織としての強い目的意識で差別化を図ることを決意します。

理由:

クライアントが魅力を感じるのは、優れた財務業績を残し、自社のビジョンと価値観が一致する資産運用会社です。そのため、資産運用会社は核となる目的を明確に定め、強いブランド戦略で競争優位性を保つ必要があります。

目的:

企業は、目的志向の世界観に裏打ちされた、他と一線を画す独自の戦略的ビジョンを定めることを目指すとともに、そのビジョンを支えるべく自社のDNAが強く感じられる独自の商品やサービスを提供しています。つまり、トレンドを追いかけるのではなく、どの市場で事業を展開するのか、どの顧客セグメントと向き合うのか、どの販売チャネルに力を入れるのか、またその理由について、難しい戦略的決断を下すことがリーダーに求められているのです。

方法:

  • 長期的な動向と競争優位性について十分な評価をした上で、明確な戦略を策定する。
  • 直接的、間接的なデジタルやエコシステムなどの販売戦略やチャネルを評価する。
  • コミュニケーションチャネルを最適化し、社内外に向けて会社の価値観に合わせた発信を行い、透明性が高く、信頼のおけるブランドの構築を図る。


サマリー

新しい時代に適合することを目指す資産運用会社は、2024年の成功に向けて正しい決意を示すことで、前向きな将来を歩むことができます。


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