EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
エンタメ業界への投資が活発化する中、⽣成AIやノーコード技術がゲーム業界を変⾰。技術⾰新と成⻑のチャンスが広がっています。
要点
Section 4
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
TMTセクター マネージャー
四元 美緑
四元は、世界のエンタメ業界全般におけるベンチャーの資金調達額の動向について説明しました。2021年のパンデミック後、各国の低金利政策の影響で一時的に投資額が急増しましたが、その後は落ち着きを見せ、以前の水準に戻ったと述べました。ゲーム業界も基本的には他産業と同じ傾向だが、米国Konvoy Venturesの最新記事より、直近のベンチャー投資額は拡大傾向にあると紹介しました。
各国比較時の特徴として、米国が投資額・ファンド組成数共に圧倒的な数を示していることに加え、2020年以降における中国ファンドの組成数が急激に伸びていることが挙げられます。同時期には各国が中国マーケットから撤退する動きを見せていたものの、政府のイノベーション創出施策により、内需の拡大と国際競争力が強化されたことが影響していると分析しました。
一方で、日本はVC投資額、投資件数、ファンド組成数のいずれにおいても依然として低い水準にとどまっています。
「日本のスタートアップの資金調達は、多くの課題を抱えています。海外のVCやグローバルなネットワークを持つ国内グローバル企業とのコネクションが、今後ますます重要になるでしょう」(四元)
では、ゲーム業界単体では、ベンチャー投資の観点からどのように評価されているのでしょうか。四元は「結論から言えば、ゲーム業界は引き続き魅力的な投資先と見られている」と述べ、その理由として以下の4点を挙げました。
その具体例として紹介したのが、今年、中国からリリースされたAAA タイトル「⿊神話︓悟空」。このタイトルは開発費が推定7,000〜7,500万米ドル(約110億円)とされる中、リリース後2週間で約8億⽶ドル(約1,000億円)を、VG Insightsの9⽉末時点の情報によると約9 億7500万⽶ドルの売り上げを記録しています。これは、魅⼒的な投資先として評価された好例であり、ゲーム業界のポテンシャルの⾼さを裏付けるものです。
また、近年、ゲーム業界ではコンテンツに対する投資のみならず、テクノロジーへの投資の重要性が高まっています。特に生成AIの進化により、ノーコードでカジュアルなゲームを開発できるスタートアップが登場し、ゲーム業界全体に大きな変革の可能性が広がっています。四元は「このような新技術の台頭は、ゲーム業界における大きなゲームチェンジの可能性を秘めている」と指摘しました。
「ゲーム事業を営む企業は、AIの登場により戦略の見直しが求められると思います。ゲーム性で戦うのか、IP価値で戦うのか、何を創造することにこだわるのか。
テクノロジーへの投資を含め、ゲーム業界は投資家の目には非常に魅力的な市場に映っていることは間違いありません。これからのゲーム業界は、テクノロジーと創造性が交差する場所として、より注目されていくでしょう」(四元)
Section 5
エンタメ業界向けのVCで、着実に成功を収めているソニーベンチャーズ代表取締役社長の波多野氏とインベストメントダイレクターの松島氏が登壇し、同社の投資案件の見分け方などについて解説いただきました。「ソニーベンチャーズは日本以外で米国、欧州、イスラエル、ケニア、インドで活動し、直近では外部投資家を集めるなどした約5億米ドル(650億円)のファンドを使って、エンタメ業界に投資をしている」(波多野氏)。
ソニーの資本を中核に置きながらも、それに依存しないファンドを作っている理由は、投資の方針や継続性などの独立性を維持しやすくしているからだと波多野氏は説明しました。約3万社をスクリーニング(調査)して、投資数は約180社。IPO等を経て、アクティブなベンチャーは150社に及びます。「われわれは、普通のポートフォリオ分析をして、資金の配分を適切に行っている。そして投資したベンチャーの4割以上は、ソニー本体とのコラボレーションを実現させている」と波多野氏は話しました。
投資すべきベンチャー企業の見分け方について、松島氏は「キャピタルリターンがあることは必須で、その上で、業界の課題を解決できているか、技術的など何かしら優位性があるか、などのポイントを整理して投資先を決めている」と話しました。ゲーム業界向けのソリューション企業へ投資している例として、anzu社(イスラエル)は、ゲーム内のオブジェクトに広告を設置しインプレッションも計測するソリューションを持っています。また、既に上場しているmonoAI technology社(日本)にも投資しており、同社はメタバース事業を展開する企業でノード当たりの同時接続数に対して技術的な優位性を持つと言います。
ゲーム業界向け技術を持つベンチャー以外で、コンテンツ企業についても投資をしています。「コンテンツの場合、必ず儲かることはあり得ない。だからデモ版などで評価することはとても重要」と松島氏は話しました。デモ版を触ることができれば、ゲームデザインの考え方やこれまでの経験についても聞ける上、そこから推し量れることも増えます。また、ソニーのエンタメ系関連会社(ゲーム、映画、音楽など)にも広くフィードバックを聞いています。そうして投資を獲得したスタジオの一つに、米GENPOP INTERACTIVE社があります。「CEOやプロデューサーがしっかりとしたゲームのグランドデザイン(企画、デモ、メディアミックスやインフルエンサー活用など)を作り、そのプランに沿って開発を実行していた点を評価した」と松島氏は語りました。ソニーベンチャーズでは、今後はゲーム以外のジャンルを含めたエンタメ業界への投資を加速していく方針です。
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