【前編】東京ゲームショウ TGSフォーラムレポート:ゲーム業界におけるライブサービスへの転換点とCVC投資戦略

【前編】東京ゲームショウ TGSフォーラムレポート:ゲーム業界におけるライブサービスへの転換点とCVC投資戦略


【2024年9⽉26⽇開催】東京ゲームショウ2024 TGSフォーラム「ゲーム開発の未来-Future of game creation-/エンタメ業界のCVC投資戦略」のレポート前編。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社のテクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクターチームが、モデレーターならびにスピーカーとして登壇しました。


要点

  • ゲーム業界では、従来の売り切り型のゲームからライブサービス型のゲームへの転換が進んでいる。
  • ライブサービスゲームでは、長期的な運営と継続的な開発に対応できる柔軟で変化に強い開発体制、綿密な予算管理が成功に不可欠である。
  • ライブサービスゲームではコミュニティ運営が重要だが、日本市場では、コミュニティ運営の専門知識を持つ人材確保が課題となっている。
  • 長期的なゲーム運営のために、データやテクノロジーを活用し、運営効率化やエンジニアリングの再現性を高めることが必要。

Section 1

ゲーム開発のライブサービスモデル転換が直面する課題と展望

従来のパッケージ販売型のゲームから、販売後も継続的にアップデートを行うオンラインのライブサービスゲームへ。ゲーム業界の変遷を見続けてきた株式会社アニプレックス フォワードワークスルーム 代表および株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント シニアアドバイザー 橋本 真司氏が、本セミナーの基調講演で、この時代の波に対する対応策を語りました。

橋本氏は、多くのゲーム開発企業が直面している課題として、オンラインのライブサービスゲームへの転換の難しさを指摘しました。従来の「売って終わり」の売り切り型のゲームにおける成功ノウハウが通用しにくい現状に対し、新たな運用手法が求められていると述べます。

売り切り型のゲームとライブサービスゲームの大きな違いとして、開発・運営の取り組み期間があります。ライブサービスゲームは初期の開発コストだけでなく、運営やアップデートにかかる人件費やサーバー費用などの継続的なコストへの投資が不可欠です。

「パッケージで販売するゲームは、発売日を迎えたら売上に落とすことができます。しかしライブサービスゲームはリリースがスタート地点です。リリース後も、毎月、毎週と全世界のユーザーにサービスを提供し続けなくてはなりません。初期投資の回収は、本当に長い旅になるでしょう」(橋本氏)

各企業がライブサービスゲームへの転換に苦戦する一方で、橋本氏は「日本のゲーム業界には明るい未来がある」と強調しました。国際市場での日本のコンテンツが高い人気を獲得している点を好機であると捉え、既存のIP(知的財産)の活用や新規IPの育成といったIP戦略が重要であると説明します。

「小さく生んだコンテンツの原石を大きく成長させていくアプローチが有効です。自社のクリエイターに投資し、コツコツと世界観を広げていく。社内でコミュニケーションを大切にしながら、最終的に自社でコントロールできるIPを育てていくのが一つの理想的な方向性ではないでしょうか」(橋本氏)

最後に橋本氏は、日本のコンテンツに集まる世界的な期待を踏まえつつ、ゲーム業界が変化し適応していくことの重要性を語りました。長期的ビジネスであるライブサービスゲームを成功させるためには、長期的な視点での予算管理とコンテンツの育成を継続的に並行しなければなりません。

「ライブサービスゲームの運営は長期戦です。初期投資を短期間で回収できることはほぼできず、さらに継続的にコストが発生し続けます。また、遊び続けてくれているユーザーがいる限り、赤字が膨らむからといってすぐにサービスを終了することはできません。従来よりもさらに緻密な予算管理が求められるのです。

一方で、日本のエンタメコンテンツが世界的に期待されていることを鑑みると、ライブサービスゲームには大きな成功のチャンスが眠っていると考えられるでしょう。大きな舞台での発展を目指し、時代の変化に適合しながら世界へ打って出てほしいと思います」(橋本氏)

Section 2

ライブサービスゲームの成功に向けた開発・運営体制の進化とデータ活用の重要性

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクターのシニアコンサルタント 笹山 隼大が、国内外500以上のゲームスタジオを対象にした調査結果をもとに、売り切り型のゲームからライブサービスゲームへの移行を目指す業界が直面する課題とその課題策について語りました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 TMTセクター シニアコンサルタント 笹⼭ 隼⼤

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
TMTセクター シニアコンサルタント
笹⼭ 隼⼤

売り切り型のゲームからライブサービスゲームへのシフトが顕著に見られるゲーム業界において、各企業は何を考え、どのような動きを見せているのでしょうか。

国内外500を超えるゲームスタジオを対象に行われたRendered VC & Griffin Gaming Partnersの調査によると、95%のゲームスタジオがライブサービスゲームの制作や移行を予定している一方、多くのスタジオは開発体制に大きな課題を抱えていると笹山は指摘します。特に、一般的な開発チームとトップティア企業の開発チームを比較すると、生産性に関するKPIに大きな差が見られ、サービスの継続性や収益性に大きな影響を与えています。

さらに、ライブサービスゲームの不十分な運営体制がもたらす不具合やサービス停止は、一定のプレイヤーの離脱を招く要因となっています。調査結果では、不具合によるユーザーの離脱率が3~4%に達したスタジオは半数を占め、さらには10%以上の離脱を招いたスタジオも多く見られました。

「従来のパッケージ売り切り型のモデルであれば、不具合がビジネスに及ぼす影響は限定的でした。しかし、ライブサービスゲームにおいては毎日のように問題が発生します。その結果、これまでは大きく捉えられなかった問題が重大な問題に発展しやすくなっています」(笹山)

ゲームスタジオが抱える開発・運営体制の課題に対する解決策として、笹山は次の2つの方針を提示しました。

1.開発アーキテクチャの見直し

ライブサービスゲームでは継続的な開発が発生するため、ビルドタイムが長く変更に適応しにくいシステムではなく、より柔軟で変化に強いシステムであることが求められています。そのため、アップデートされ続ける外部ツールの活用が不可欠であると笹山は強調します。

「SaaSのような常にアップデートされる外部ツールによる標準化が、人材採用や育成といった観点からも無視できなくなっています。ライブサービスゲームを運営するスタジオでは、独自のカスタムツールを維持管理していくコスト、リソースを削減し、効率的な開発体制を構築する動きが加速していくでしょう」(笹山)

2.データの活用

ライブサービスゲームでは、リリース後に膨大なゲームデータとユーザーデータが生成されますが、そのデータを効果的に活用できているスタジオは限られています。むしろ、いまだにデータを用いて意思決定するカルチャー自体が根付いていないスタジオも多いと笹山は指摘します。

「当初からデータ分析を行う前提で進められた開発と、もとよりデータの取得を考慮していない開発では、結果に大きな差が生まれます。データドリブンの考え方、カルチャーを組織全体に浸透させることがライブサービスゲームの成功を左右することになるでしょう。データ活用の巧拙がライブサービスゲームへの移行における課題となっているのです」(笹山)

Section 3

ライブサービスゲームへの参入成功を導く3つの鍵とは

従来の売り切り型ゲームとは異なる運営姿勢が求められるライブサービスゲーム。参入を成功させるには何が必要なのでしょうか。ゲームスタジオが注目すべき3つのテーマについて議論を行いました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナーの今市 拓郎は、「組織・人材の変化」「ユーザー接点・コミュニティ運営の変化」「テクノロジーの活用方法の変化」の3つのテーマを提示し、成功への道筋を探りました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 TMTセクター パートナー 今市 拓郎

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
TMTセクター パートナー
今市 拓郎

1. 組織・人材の変化

ライブサービスゲームの開発・運営の体制は、売り切り型のゲームとは大きく異なることから、従来とは異なる専門性を持った人材の需要が伸びています。特にデータ分析、運営、コミュニティ管理、技術運用、セキュリティの5部門について、登壇者である株式会社アニプレックス フォワードワークスルーム 代表および株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント シニアアドバイザー 橋本 真司氏は「必需品である」と述べ、さらには人材の活用にともない企業の形も変えていく必要性を指摘しました。

「売り切り型ゲームであればこれらの部門は不要ですが、ライブサービスゲームとして世界を目指すなら絶対に必要です。このような専門スキルを持つ人材は世界的にもニーズが高いので、雇用するにもアウトソーシングするにも高いコストが発生します。どのようなサービスを運営するのかしっかり議論をして、プロジェクト規模に応じたコストに合わせ、時にはサービスのスケールダウンを検討する必要も出てくるでしょう」(橋本氏)

ライブサービスゲームを始めるということは、24時間365日のサービス運営を意味します。従来型のゲームを開発していたスタジオでは考えてもみなかったような社員の勤務体制や就業規則を整備する必要があります。

「競争の激しい人材市場で優秀な人材を採用・維持するため、組織の体制も従来のゲーム開発から変革する必要があります」(橋本氏)

開発・運営の現場の視点から、技術運用やセキュリティへの対応も大きな課題の一つに挙げられました。常にオンラインの状態で運用するライブサービスゲームにおいて、セキュリティへの対応は死活問題といえます。短期的であれば少数の開発スタッフによる集中的なリソース投下で対応できますが、長期的な運営にはチーム化が必要不可欠です。

「テックオペレーションにおける人材の確保が、ライブサービスゲームの成功を左右する重要なファクターです。内製化だけでなく外注の活用も選択肢に入るでしょう。十分なコストを確保するためにも、開発サイトと経営サイドとの密な対話が必要です」(今市)

2. ユーザー接点・コミュニティ運営の強化

ライブサービスゲームの成功を左右する要因の一つが、ユーザーとの長期的な関係構築です。ユーザーとの接点を持ち、持続的なコミュニティ運営を行うことが、サービスの成長に直結します。しかし、日本市場では、サービス提供側との双方向のコミュニケーションを実現する「コミュニティマネージャー」という職種がまだ十分に確立しておらず、コミュニティ運営に精通した人材の確保が難しい状況にあります。

そこで注目されるのが、テクノロジーを活用してコミュニティの参加者へのフォローをカバーする方法です。近年、SNSなどの情報媒体が普及し、ユーザーが個人で情報を発信する機会が増えています。この流れを受けて、今市は運営者がソーシャルメディアを自動巡回する仕組みを導入することで、アップデートに対するフィードバックやユーザーの感情分析を効率的に行えると提案しました。

「コミュニティをリアルタイムでモニタリングする運営方法も登場しています。少ない人材を活用する中央管理的な体制も含め、運営方法は多様化しながら進化を続けています」(今市)

さらに、ライブサービスゲームをグローバルに展開する際に、各国に支店を構えるのは固定費の面でも現実的ではありません。橋本氏は、「言語に長けた人材を採用し、日本でコミュニティを一元管理する体制が、現代の合理的なアプローチだと考えます」と述べました。

3. テクノロジーの効果的な活用

ライブサービスゲームの運営では、テクノロジーの活用が運営効率の向上とユーザー体験の向上に不可欠です。特に、不具合の発生やサービス停止をきっかけとしたユーザー離脱を防ぐためには迅速な対応が求められます。

テクノロジーの活用における重要なファクターとして示された以下6つの要素が、運営の省力化、開発時間の短縮、エンジニアリングの再現性を実現し、長期的なゲーム運営の安定を可能にします。

  • モジュール化・カプセル化
  • テスト自動化
  • 堅牢なインフラストラクチャー
  • 外部ツールの採用
  • 標準化
  • エンジニアリング教育

今市は、この6要素を「属人化の解消の手段」として総括し、人材の流動をきっかけとしたサービスの遅延や停止を防ぐ体制構築の重要性を主張しました。また、橋本氏もテクノロジーの活用に触れ、経営層における権限の委譲の重要性に言及しています。

「社長が『ライブサービスゲームはよくわからないけど、全部自分で決める』などと言い出すと、優秀な人材はどんどん離脱してしまいます。課題は、少ない人材をいかに活用するか。どの程度まで権限を与え、どの程度の給与を支払うか、正しく査定できるように開発統括の役員を別に立てるといった対応が必要になりそうです。

最終的には、いかに良好なチームワークを形成し、チームを盛り上げながらIPを育てるか。チームとしてトップを含めたメンバー全員で同じ方向を向いて働ける体制を作っていただきたいと思います」(橋本氏)

最後に、今市はライブサービスゲーム成功の鍵を「経営マネジメントと技術による対話」と総括しました。

「本フォーラムを通じて、経営マネジメント層と技術担当による密な対話が重要なファクターになると感じました。初期のゲーム設計の段階から、予算や人材確保、技術戦略に至るまで、どのような初動で設計されるのかによって、先々の方向が大きく変わります」(今市)


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サマリー 

東京ゲームショウ2024におけるTGSフォーラム「ゲーム開発の未来-Future of game creation-/エンタメ業界のCVC投資戦略」のレポート記事【前編】です。

ゲーム業界の未来を左右するライブサービス化の課題とは?継続的な運営体制の進化とデータ活用の重要性を解説します。

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