メタバースの発展のために通信事業者にできる7つのこと

メタバースの発展のために通信事業者にできる7つのこと


企業にとってメタバースは、イマーシブなバーチャル世界の中で新たな道を開拓して成長できるまたとない機会です。


要点

  • メタバース内に広がるありとあらゆる機会を最大限に活かすには、従来の枠を超え、新たな可能性やサービスに向けた展開が必要である。
  • メタバースには2つの重要な側面がある。ひとつは通信事業者が参加するエコシステムという側面と、通信事業者自身が実現するエコシステムという側面である。

メタバースは今までになかった形で私たちの生活に影響を及ぼし、行動変化をもたらす可能性があります。一世代も経たないうちに、バーティカル市場は完全に変化してしまうかもしれません。社会の機能の仕方が変わり、企業運営も根本から変わってしまうかもしれません。やがて、メタバースがもたらす行動変化を活用した技術や発明が登場することになるでしょう。

メタバースへの参加によって通信事業者は大きな恩恵を得ることになります。バーチャル環境を通してカスタマーエクスペリエンスを向上でき、各種周辺サービスによる投資の収益化や業務効率の向上も図れます。

しかし通信事業者ならではの恩恵は、メタバースのバリューチェーンの中で確固たる地位を確立できる、またとない機会がもたらされるという点です。テクノロジーの巨大企業やオンラインゲーム開発企業と肩を並べながら、5Gやエッジクラウド、アナリティクス、人工知能(AI)などの新しい技術を活用し、接続業者という役割に甘んじることなく、メタバースの共同クリエーターになる道を切り開いていくことができるのです。実際に、世界各地の通信事業者がこうした可能性に気づき始めています。

ただし、成功するためには、メタバースのエコシステム内に自らの存在意義を見つけて、単なる参加者ではなく共同クリエーターとしてのポジションを確立するチャンスをものにしなければなりません。

ここからは、メタバースの中心を目指す旅を勢いづけるために通信事業者にできる7つのことを見ていきます。

メタバースが通信事業者にもたらす機会(図)

1. ヒューマンインターフェースのハードウェア開発を推進

人は拡張現実(AR)/仮想現実(VR)ヘッドセットやゲーミングコンソール、スマートフォンなどのデバイスでメタバースを使うようになります。こうしたデバイスがバーチャル世界への入口になるのです。

VRは新しい技術ではありませんが、スマートフォンに比べ消費者への浸透率は低いのが現状です。これを普及させるには、持ち運びやすさや解像度、反応のよさや視界などの面で、現在のVR技術を向上させる必要があります。

こうしたデバイスにとって、メタバースは間違いなく促進剤となります。事業者はこの機を逃さず、デバイスベンダーと連携し、VR デバイスと接続サービスを抱き合わせて消費者に提供するなど、その普及を推進していくことが可能です。その一方で、エンドツーエンド(E2E)の「デバイスのライフサイクル管理」アプローチを採用してデバイスの価値を引き出す必要があるでしょう。

また、デバイスのイノベーションへの投資に加え、セキュリタイゼーションやリコマース、保険など、収益力を高める鍵となる手段の実行に投資するという手もあります。

 

2. 接続プロバイダーのリーダーに

メタバースの発展とバーチャル世界の拡大は、コネクティビティ(接続性)に直接関係しています。

5Gサービスは、マルチギガビット毎秒(マルチGbps)のピークデータ速度の向上や超低遅延、高い信頼性、均一なサービスを提供するとされています。5Gネットワークが商用展開されるにつれ、消費者・企業ともにメタバースに参入しやすくなるでしょう。

2030年に向けて、通信業界は6Gサービスに向けたワイヤレス技術の世代交代を再び迎えると予想されます。6Gではデータ転送速度が向上し、遅延が減ることで、メタバースがさらに勢いづきます。

また、高周波数帯域の高速通信を実現する光ファイバー接続によってメタバース開発が活発化するでしょう。今後、Wi-Fiの最新世代であるWi-Fi 6によりワイヤレストラフィックが軽減すれば、ネットワーク容量や効率に関する問題への対処も進みます。

 

3. エッジコンピューティングサービス提供者としての立場を確立

メタバースには膨大な処理能力やリアルタイムレンダリング、AI計算能力が必要となります。基本的な処理能力は、今より数百倍高いものが求められます。

処理能力の要件が高くなることから、メタバースにとって不可欠になるもうひとつの構成要素がエッジコンピューティングです。数百万の人々がリアルタイムで継続的にバーチャル体験をする未来においては、クラウドでは必要な全てのリソースを集約して保存することはできません。

遅延の要件もあるため、データは分散させて消費場所に近いところで利用できるようにする必要があります。このことは、エッジコンピューティングサービスの提供や、より効率的なデータ転送の実現、ネットワーク境界のセキュリティ強化、ネットワーク輻輳の軽減、さらにはその過程での収入源の多様化を図る上で、事業者にとって非常に有利に働きます。成功するためには、エッジクラウド戦略と旧来のクラウド戦略とを整合させ、専門のクラウドプロバイダーと適切なパートナーシップを構築することが必要です。


4. 高度な分析とAI能力を強化して収益拡大

メタバースでは大量のデータを収集します。このデータをどのように収集・保存し、どう再活用するかが重要になります。


これまで通話明細記録(CDR)から知見を得る必要があったということは、通信事業者は他の産業に比べ、長年ビッグデータの知見にアクセスする機会が多かったことを意味します。


メタバースでは、データを再活用して意思決定を改善し、新たな需要シナリオを作り出すことに関して、通信事業者には有利な点が数多くあります。


メタバース内の通信事業者の手元には豊富な商品・顧客・資産データがあり、しかも過去に培った小売・流通能力からも顧客や運用に関する幅広い知見を得られるでしょう。


それゆえ、適切な分析とAI能力の育成に特に力を入れ、ポテンシャルの高い収益化方法を明確化して、収益拡大を図っていくべきです。


5. サイバーセキュリティ、プライバシー、信用をメタバースサービスの中心に

メタバースに参入すると、膨大な量の重要データを扱うようになります。企業と通信事業者は新しい形で協力し合うことになるため、プライバシーとセキュリティには重点的に取り組まなければなりません。

今日、消費者や企業の間では、デジタルフットプリント(利用の痕跡)や個人情報のインテグリティ(完全性)に対する懸念が高まっています。興味深いのは、こうした懸念への対応に関しては、事業者には他にない強みがあります。他のタイプのTMTプロバイダーと比べて、通信事業者はデータの管理人として消 者に信頼される傾向にあるのです。

バーチャル世界が高度化するにつれ、ID認証やその管理の重要性がさらに高まります。通信事業者はこれまでに培った顧客との関係性を活かし、メタバースの実現に合わせてID管理のエキスパートとしての地位を確立していくべきです。


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    6. メタバースのプラットフォームを開発

    多くの企業が独自のメタバースプラットフォームを立ち上げていますが、その成功は、どれだけ多くの加入者を獲得できるかにかかっています。鍵となるのは、テーマ性のある面白い体験やイベントを創造できるかであり、ユーザーが日常的にそこで多くの時間を過ごせるようにしたり、カスタマイズされたサービスを企業や消費者に提供したりできるようにすることです。

     

    メタバースのプラットフォームは、最初は実世界をベースにした大小のバーチャル世界を少しずつつなげながら開発されることになります。しかし中長期的には、数年間の開発を経て、いずれは超バーチャル世界が形成されるでしょう。

     

    こうした段階的な進化をうまく利用するには、登場する各種メタバースプラットフォームへの投資に備えねばなりません。それによって、長期的な機会を形成する需要のシナリオや技術的能力への理解が深まります。




    7. エコシステムの重要なまとめ役になる

    メタバース対応戦略をさらに精緻化するにあたり、事業者は、成長の扉を開く新たな提携フレームワークを作る必要があります。

     

    そのためには、メタバースの多様な参加者との密接な関係構築が不可欠です。デバイスメーカーや技術プラットフォームのプロバイダーとの関係は、VRやARによってもたらされる長期的機会を目指すものにしなければなりません。

     

    同時に、新たなコラボレーションの機会を見つけることで、バーティカル市場の顧客との関係も強化できます。政策担当者との協議も、メタバースエコシステムのまとめ役としての地位を確立する上で有効でしょう。


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      経験を活かし、未来を展望する

      通信事業者はメタバースという挑戦にまったく不慣れというわけではありません。エコシステムの中では、テクノロジーのビッグプレーヤーと並んで、最初に模索し始めたプレーヤーです。


      一部の先進市場では、複数の通信事業者がすでに、いくつかのテクノロジー(特に5G)を組み合わせたメタバースベースのプラットフォームの模索に着手し、実現を目指しています。


      しかし、こうした模索は技術的な概念実証だけに留まらず、ビジネスモデルをはじめ、技術スタックや資産ベースの再検討なども含め、組織のあらゆる側面を考慮に入れた上で進めていかねばなりません。通信事業者はこういった鍵となる変化を多角的に模索して発展させ、メタバースがもたらす機会を的確に捉え、最大限に活かすべきだと私たちは考えます。

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      メタバースは、人と企業とが交流・取引をしたり、楽しんだりするための新たなフロンティアを創造します。このフロンティアでは、現実世界の制約が薄れ、効率や生産性を新たなレベルに引き上げることが可能です。過去の大転換のときそうだったように、これに参加しない者は取り残されてしまうリスクを負います。


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        メタバースプロジェクト

        EYは、福岡・鳥飼八幡宮と共に歴史や伝統と向き合い、デザイン思考を取り入れメタバース神社を企画・設計。誰もが集い思い思いに過ごせる、未来へとつながる神社を構築しました。



        サマリー

        メタバースへの道を進む中でありとあらゆる機会の扉を開くには、従来の通信サービスプロバイダー(CSP)事業を土台に、新たな可能性やサービスに向けて発展していかねばなりません。メタバースの中で存在感を維持し期待に応えていくためには、価値をどう創造し獲得するのか、その方法を変える必要もあります。


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