インターネット関連ビジネスにおけるビジネスリスクと会計実務

情報センサー2024年5月 業種別シリーズ

インターネット関連ビジネスにおけるビジネスリスクと会計実務


インターネット関連ビジネスにおいて想定されるビジネスリスクと、そこから波及する会計上の論点を解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 第2事業部

公認会計士 竹下 大介
公認会計士 根本 克明
公認会計士 遊佐 詩織

第2事業部テクノロジーセクターに所属し、主にインターネット関連ビジネスを行う上場企業の会計監査やIPO監査に従事している。その傍らで、会計監査で得た業界に関する知見を生かして法人内外に向けたナレッジの発信を行うセクター活動にも参加している。


要点

  • インターネット関連ビジネスにはさまざまな商流が存在し、商流によってビジネスリスク及び会計論点も多岐にわたる。
  • ソフトウェアの資産計上可否、収益認識における本人代理人の検討等は当業種の典型論点となる。
  • ビジネスの経済的実態を的確に捉えて会計基準等に当てはめて会計処理等を検討することが重要である。


Ⅰ はじめに

インターネットは、1995年頃に一般家庭への普及が進んだと言われています。1999年にADSLサービスが提供開始され、2000年には郵政省(現 総務省)によるルール整備を経て、わが国のインターネットは、高速・定額料金・常時接続というブロードバンドサービスとして広く普及しています。

2005年前後にはブログやSNSといったコミュニケーションサービスが次々と登場し、2000年代後半には動画共有サービスも登場しました。2010年には、国内で初めてモバイル端末からのインターネット利用者数がPCからの接続者数を超えました

このような環境の中、現在に至るまで、国内外ではインターネットを利用した新しいビジネスが次々と生み出されています。本稿では、インターネットを利用したビジネスに特有のビジネスリスクや、それに起因した会計上の論点を説明します。

なお、本稿では、インターネットを利用して行うビジネスを、「インターネット関連ビジネス」と総称します。また、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることを、あらかじめ申し添えます。

※ 出所:総務省、「情報通信白書 令和元年版」<www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/r01.html(2024年4月18日アクセス)>

 

Ⅱ インターネット関連ビジネスとは

一口にインターネット関連ビジネスと言っても、そのサービスの内容やビジネスモデルはさまざまです。まずは、インターネット関連ビジネスにはどのようなものが含まれるか、その商流の一例を見ていきます。


1. SaaS (Software as a Service)

自社開発のソフトウェア・アプリケーションを顧客に利用してもらうことで利用料を得ます。近年ではインターネットを通じたクラウド型のサービス提供が行われることも増えています。また、サブスクリプション型の課金形態も多く見られます。

SaaS

SaaS (Software as a Service)

出典:開示済の有価証券報告書からEY作成


2. プラットフォーム運営ビジネス

販売者と購入者の間に入って取引の仲介を行うことがメインの役割です。販売者と購入者からのプラットフォーム利用料が主な収入源ですが、どちらから受け取るかはビジネスによって異なります。

プラットフォーム運営

プラットフォーム運営

出典:開示済の有価証券報告書からEY作成


3. オンラインゲーム配信

自社又は外注先が開発したゲームをインターネットを通じて配信します。ユーザーがゲーム内で購入するアイテムの代金が主な収入源です。また、外部コンテンツを使用する場合には、版権所有者への許諾料の支払いが生じます。

オンラインゲーム

オンラインゲーム

出典:開示済の有価証券報告書からEY作成

インターネット関連ビジネスには上記以外でも、比較/検索サイトの運営、デジタルコンテンツの配信、e-コマース、決済代行等、さまざまなサービスや商流が含まれます。

 

Ⅲ インターネット関連ビジネスを取り巻くビジネスリスクと会計上の論点


1. IT環境に関するリスクとソフトウェア資産

(1) IT環境に関するビジネスリスク

インターネット関連ビジネスを営む企業はビジネス自体のシステム依存度が高く、サービス提供のためのシステム(クラウド環境のアプリケーションウェブサイト、スマホアプリ等)を自社開発している場合があります。またオペレーションの大半が自社システム上で完結する場合も多いため、システム処理の正確性も重要な課題です。加えて技術革新が早いため、新しいビジネスが出現しやすく、他社との競争が激しいという特徴があります。したがって自社システムを利用してユーザーにサービスを提供する企業においては、企業を取り巻くIT環境に留意する必要があります。

例えばSaaSでは、ユーザーに提供するサービスに関連するシステムを自社開発している場合が多く、サービス提供当初には予想し得なかったバグがリリース後に確認されること等により自社システムの信頼性が損なわれるリスクがあります。その場合、ユーザーに提供するサービスの機能改善・向上のため継続的かつ多額な開発投資を要することから、収益性が悪化するリスクがあります。

(2) ソフトウェアの資産計上可否

自社サービス提供のためのソフトウェアを自社で開発している場合、開発コストの資産性が論点となります。ソフトウェアは無形の資産であり、有形固定資産とは異なり経済価値を客観的に把握することが困難な場合があります。そのため、ソフトウェアの資産計上の要件となる将来の収益獲得又は費用削減の確実性について、より慎重に判断する必要があります。

資産計上の可否を判断する際に考慮すべきポイントは次のとおりです。

  • 将来の収益獲得及び費用削減の確実性を確認するため、開発予定のソフトウェアが、会社の意図する目的達成のために必要な仕様や機能を十分に備えているものかどうかを検討する
  • ソフトウェアの利用に係る便益について、プロジェクト計画書等、社内承認を経た定量的・具体的な客観的資料に基づき検討する
  • 会計上と税務上では、収益獲得の確実性が不明なものについての資産計上の要件が異なるため、税金費用計算の際にはその違いについて留意が必要である
  • 適切な原価集計のため、開発対象となるソフトウェアにひもづく費用集計に関する内部統制が構築されていることが必要である


2. ビジネスモデルに起因するリスクと売上高の表示

(1) 特有のビジネスモデルに起因して生じるビジネスリスク

インターネット業界ではECサイトや旅行予約サイト、フリマサイト等のようにユーザーの仲介役となるプラットフォームを運営するといった特徴的なビジネスモデルが見られます。当該ビジネスモデルはネットワーク効果が働き、プラットフォームを利用する少数の会社が大きな便益を得やすいという特徴があります。

このようなビジネスモデルを採用する企業では利用規約で対応しきれないシステムトラブル等が発生した場合に自社プラットフォームの信用力・イメージが悪化するリスクがあります。加えてプラットフォーム自体のマーケティングがうまくいかず広告効率が悪化した結果として自社の収益性が低下するリスクもあります。

(2) 収益認識会計基準における本人と代理人の区分

プラットフォームビジネスや決済代行ビジネス等は、業種の特性上取引の仲介役になることが多く、収益認識に関する会計基準における、本人代理人の区分の論点が生じやすくなっています。本人と代理人の区分に基づき、売上を総額計上とするか純額計上とするかの判断をすることとなるため慎重に検討する必要があります。

考慮すべきポイントは次のとおりです。

  • 利用規約等の法形式も踏まえて、取引の実態を詳細に把握し、履行義務を適切に識別する
  • 支配の定義に基づいて検討を行い、収益認識に関する会計基準の適用指針第47項の指標を考慮し、財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかの判定を行う
  • 判定の際に、信用リスクは支配しているかどうかを判定するうえで有用な指標とならない可能性があるため、本人に該当する指標には含まれていないことに留意が必要である(収益認識に関する会計基準の適用指針第136項)


3. 知的財産・情報セキュリティに関するリスクと偶発債務

(1) 知的財産の管理及び情報セキュリティに関するビジネスリスク

インターネット関連ビジネスでは自社で開発したシステム・コンテンツを用いてサービス提供を行う場合があり、開発過程で生じた知的財産の管理や、同業他社が有する知的財産の侵害に留意する必要があります。

例えばオンラインゲームを配信する企業では、自社で開発したコンテンツが第三者の知的財産を侵害することによる潜在的な訴訟リスクがあります。またインターネット関連の技術に関しては特許権の範囲が不明確になりやすく、特許紛争が発生することにより不測の損害を被るリスクがあります。

さらに自社で開発したコンテンツの提供にあたって大量の顧客情報をインターネット上で取り扱うため、顧客情報管理等のIT統制が不十分である場合には、サービスの提供に際して入手した顧客情報が漏えいする可能性があるため、情報セキュリティの面でもリスクがあります。

(2) 偶発債務に関する引当金計上又は開示

特許権侵害等について訴訟を提起された場合、その対応が比較的長期にわたり、対応費用も膨大となる場合があります。また、情報セキュリティに関して、不正アクセス等により利用者の個人情報等が外部に流出した場合には損害賠償請求の訴訟が提起されるリスクがあります。また、海外展開している場合は、各国の規制によっては制裁金が科される場合もあります。いずれの場合においても、偶発債務や引当金の計上要否や評価について留意する必要があります。

考慮すべきポイントは次のとおりです。

  • 相手先との交渉状況や訴訟状況、損失負担や賠償負担の可能性を把握し、金額が合理的に見積可能かどうかの検討が必要となる
  • 引当金の計上の要否や、開示上、偶発債務の注記が必要となるかどうか、についても留意する必要がある
  • 訴訟が進展し期末日後に解決した場合等、後発事象に該当する事象の有無を把握し、重要な後発事象に該当するかどうか留意する

 

Ⅳ おわりに

インターネット関連ビジネスは、これまでになかった革新的な技術やアイデアによってさまざまな商流が生まれやすいビジネスです。また、売上の対象が目に見えるものではないというケースも多く、会計処理の方法やタイミング、また表示方法に特有の難しさがあります。そのため、ビジネスの経済的実態を的確に捉えて関連する会計基準等に当てはめ、その実態を適切に反映する会計処理を検討する必要があります。さらにその検討の過程と結論を確実に記録しておくことが重要です。


サマリー 

インターネット関連ビジネスにはさまざまな商流が含まれ、また次々と新たな商流が生まれます。それらの商流ごとにビジネスリスクはさまざまであり、そこから派生する会計上の論点もビジネスごとに多岐にわたります。そのため、ビジネスの経済的実態を的確に捉えて、会計基準に当てはめて会計処理等を慎重に検討することが重要です。


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