EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 第2事業部
公認会計士 竹下 大介
公認会計士 根本 克明
公認会計士 遊佐 詩織
第2事業部テクノロジーセクターに所属し、主にインターネット関連ビジネスを行う上場企業の会計監査やIPO監査に従事している。その傍らで、会計監査で得た業界に関する知見を生かして法人内外に向けたナレッジの発信を行うセクター活動にも参加している。
要点
インターネットは、1995年頃に一般家庭への普及が進んだと言われています。1999年にADSLサービスが提供開始され、2000年には郵政省(現 総務省)によるルール整備を経て、わが国のインターネットは、高速・定額料金・常時接続というブロードバンドサービスとして広く普及しています。
2005年前後にはブログやSNSといったコミュニケーションサービスが次々と登場し、2000年代後半には動画共有サービスも登場しました。2010年には、国内で初めてモバイル端末からのインターネット利用者数がPCからの接続者数を超えました※。
このような環境の中、現在に至るまで、国内外ではインターネットを利用した新しいビジネスが次々と生み出されています。本稿では、インターネットを利用したビジネスに特有のビジネスリスクや、それに起因した会計上の論点を説明します。
なお、本稿では、インターネットを利用して行うビジネスを、「インターネット関連ビジネス」と総称します。また、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることを、あらかじめ申し添えます。
※ 出所:総務省、「情報通信白書 令和元年版」<www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/r01.html(2024年4月18日アクセス)>
一口にインターネット関連ビジネスと言っても、そのサービスの内容やビジネスモデルはさまざまです。まずは、インターネット関連ビジネスにはどのようなものが含まれるか、その商流の一例を見ていきます。
自社開発のソフトウェア・アプリケーションを顧客に利用してもらうことで利用料を得ます。近年ではインターネットを通じたクラウド型のサービス提供が行われることも増えています。また、サブスクリプション型の課金形態も多く見られます。
出典:開示済の有価証券報告書からEY作成
販売者と購入者の間に入って取引の仲介を行うことがメインの役割です。販売者と購入者からのプラットフォーム利用料が主な収入源ですが、どちらから受け取るかはビジネスによって異なります。
出典:開示済の有価証券報告書からEY作成
自社又は外注先が開発したゲームをインターネットを通じて配信します。ユーザーがゲーム内で購入するアイテムの代金が主な収入源です。また、外部コンテンツを使用する場合には、版権所有者への許諾料の支払いが生じます。
出典:開示済の有価証券報告書からEY作成
インターネット関連ビジネスには上記以外でも、比較/検索サイトの運営、デジタルコンテンツの配信、e-コマース、決済代行等、さまざまなサービスや商流が含まれます。
インターネット関連ビジネスを営む企業はビジネス自体のシステム依存度が高く、サービス提供のためのシステム(クラウド環境のアプリケーションウェブサイト、スマホアプリ等)を自社開発している場合があります。またオペレーションの大半が自社システム上で完結する場合も多いため、システム処理の正確性も重要な課題です。加えて技術革新が早いため、新しいビジネスが出現しやすく、他社との競争が激しいという特徴があります。したがって自社システムを利用してユーザーにサービスを提供する企業においては、企業を取り巻くIT環境に留意する必要があります。
例えばSaaSでは、ユーザーに提供するサービスに関連するシステムを自社開発している場合が多く、サービス提供当初には予想し得なかったバグがリリース後に確認されること等により自社システムの信頼性が損なわれるリスクがあります。その場合、ユーザーに提供するサービスの機能改善・向上のため継続的かつ多額な開発投資を要することから、収益性が悪化するリスクがあります。
自社サービス提供のためのソフトウェアを自社で開発している場合、開発コストの資産性が論点となります。ソフトウェアは無形の資産であり、有形固定資産とは異なり経済価値を客観的に把握することが困難な場合があります。そのため、ソフトウェアの資産計上の要件となる将来の収益獲得又は費用削減の確実性について、より慎重に判断する必要があります。
資産計上の可否を判断する際に考慮すべきポイントは次のとおりです。
インターネット業界ではECサイトや旅行予約サイト、フリマサイト等のようにユーザーの仲介役となるプラットフォームを運営するといった特徴的なビジネスモデルが見られます。当該ビジネスモデルはネットワーク効果が働き、プラットフォームを利用する少数の会社が大きな便益を得やすいという特徴があります。
このようなビジネスモデルを採用する企業では利用規約で対応しきれないシステムトラブル等が発生した場合に自社プラットフォームの信用力・イメージが悪化するリスクがあります。加えてプラットフォーム自体のマーケティングがうまくいかず広告効率が悪化した結果として自社の収益性が低下するリスクもあります。
プラットフォームビジネスや決済代行ビジネス等は、業種の特性上取引の仲介役になることが多く、収益認識に関する会計基準における、本人代理人の区分の論点が生じやすくなっています。本人と代理人の区分に基づき、売上を総額計上とするか純額計上とするかの判断をすることとなるため慎重に検討する必要があります。
考慮すべきポイントは次のとおりです。
インターネット関連ビジネスでは自社で開発したシステム・コンテンツを用いてサービス提供を行う場合があり、開発過程で生じた知的財産の管理や、同業他社が有する知的財産の侵害に留意する必要があります。
例えばオンラインゲームを配信する企業では、自社で開発したコンテンツが第三者の知的財産を侵害することによる潜在的な訴訟リスクがあります。またインターネット関連の技術に関しては特許権の範囲が不明確になりやすく、特許紛争が発生することにより不測の損害を被るリスクがあります。
さらに自社で開発したコンテンツの提供にあたって大量の顧客情報をインターネット上で取り扱うため、顧客情報管理等のIT統制が不十分である場合には、サービスの提供に際して入手した顧客情報が漏えいする可能性があるため、情報セキュリティの面でもリスクがあります。
特許権侵害等について訴訟を提起された場合、その対応が比較的長期にわたり、対応費用も膨大となる場合があります。また、情報セキュリティに関して、不正アクセス等により利用者の個人情報等が外部に流出した場合には損害賠償請求の訴訟が提起されるリスクがあります。また、海外展開している場合は、各国の規制によっては制裁金が科される場合もあります。いずれの場合においても、偶発債務や引当金の計上要否や評価について留意する必要があります。
考慮すべきポイントは次のとおりです。
インターネット関連ビジネスは、これまでになかった革新的な技術やアイデアによってさまざまな商流が生まれやすいビジネスです。また、売上の対象が目に見えるものではないというケースも多く、会計処理の方法やタイミング、また表示方法に特有の難しさがあります。そのため、ビジネスの経済的実態を的確に捉えて関連する会計基準等に当てはめ、その実態を適切に反映する会計処理を検討する必要があります。さらにその検討の過程と結論を確実に記録しておくことが重要です。
インターネット関連ビジネスにはさまざまな商流が含まれ、また次々と新たな商流が生まれます。それらの商流ごとにビジネスリスクはさまざまであり、そこから派生する会計上の論点もビジネスごとに多岐にわたります。そのため、ビジネスの経済的実態を的確に捉えて、会計基準に当てはめて会計処理等を慎重に検討することが重要です。
「企業会計ナビ 業種別会計 メディア・エンターテインメント 映画ビジネス 第3回:映画ビジネスの会計上の論点」について解説しています。
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