世界で導入が進む電子インボイスにとってViDAが持つ意味とは

世界で導入が進む電子インボイスにとってViDAが持つ意味とは


欧州委員会が最近公開したデジタル時代のVAT(ViDA)に対する提案は、グローバル企業とその税務部門に大変革をもたらすものです。


3つの質問

  • EUの企業およびEU域内で商取引をする企業は、ViDAがもたらす根本的な変化への準備ができているのか。
  • 電子インボイスの要であるデータ品質。高いデータ品質を保証する関連データ取得プロセスを、企業はどのように構築できるのか。
  • ViDAは社内的にどのような機会やメリットをもたらすのか。また税務部門はそれらをどう活用できるのか。


EY Japanの視点

日系企業にとってViDAへの対応は、次の3つの観点からハードルが高いと考えられる。

1つ目は、日本親会社にとってご当地の付加価値税は、そのご当地の子会社に任せるという風潮がある。欧州子会社にとってVATのデジタル対応は、グループ全社としての(税務ポリシーを持った)税務対応という考えであるところ、親会社と子会社との間に温度差が生じてしまう。

2つ目は、日系企業では税務部門がシステム導入等のプロジェクトに関与できていない(声もかけられない)状況となっている。急に税務部門がViDA対応を求められてもノウハウが無いため、税務部門だけにその対応を求めるのは非常に酷である。

3つ目は、各部門とのプロジェクト連携である。ViDA対応は社内連携が前提となっているため、大企業ほど対応に苦労することが考えられる。

パッチワークな税務対応ではViDA対応による本当の恩恵を望めないことから、外部アドバイザーを交えた全社一丸の対応が必要と考えられる。


EY Japanの窓口
岡田 力
EY税理士法人 インダイレクトタックス部 パートナー
古市 泰之
EY税理士法人 インダイレクトタックス シニアマネージャー

2022年12月8日、欧州委員会(EC)はデジタル時代のVAT(VAT in the Digital Age、以下「ViDA」)に対する提案を公開しました。この提案には、主にデジタル化によってVAT(付加価値税)制度を近代化して不正行為を防止する措置が含まれています。また、プラットフォーム経済の成長によって生じているVATの問題への対処も目的としています。

ViDAによるVAT関連の一連の包括的措置は、930億ユーロにもなるEUのVATギャップの削減を目指すとともに、企業のためにVAT制度の一層の効率化を図るものであり、電子インボイスとデジタル報告、EU域内での取引における単一のVAT登録の導入、プラットフォーム経済、という3本の柱を軸とします。特に鍵となる提案の1つに、EU域内で国境を超えて事業展開する企業を対象とした、電子インボイスに基づくリアルタイムのデジタル報告への移行があります。

ViDAは「欧州全体にとって、まぎれもなくゲームチェンジャー」であると、フランスのErnst & Young Société d'AvocatsのInternational Tax PartnerであるGwenaëlle Bernierは言います。

ViDAは、組織内の根本的な変化を促すものです。税務部門が重要な役割を果たすことになるのはもちろんですが、部門の枠を超えた影響も大きく、またそれによって生まれる機会も相当大きなものです。ViDAは大きな可能性を秘めた強力なテコであり、税務部門がこれをプロセスやデータ、品質の問題の改善に活用しない手はありません。「電子インボイスのメリットの1つは、影響が企業全体に及ぶことです。税務主導でもIT主導でもありません。財務、オペレーション、調達、IT、そして税務にも関わってくるものです。電子インボイスは税務プロセスである前に、ビジネスプロセスなため、企業の大部分が影響を受けるのです」と、EY Global Tax SaaS Go-to-Market LeaderのPierre Armanは説明します。

こうしたデジタルインボイスへの移行は、イタリアとフランスによって数年前から進められてきており、いずれ全てのEU加盟国で標準になると見られています。つまり、EUで事業展開する企業は全て、デジタルインボイスへの移行を迫られることを意味します。

電子インボイス制度とリアルタイムのVATデータが税務当局にもたらすメリットは明白です。VATギャップの解消、意図せぬエラーの防止、リスク管理機能の強化、不正スキームの早期検出に役立ちます。ほぼリアルタイムのやり取りができるということは、経済動向や予測を、今までよりも迅速かつ詳細に分析できるようになる可能性も秘めています。企業は高い導入費用を負担することになりますが、時間の経過とともに、電子インボイスは企業の支出を削減し、税務関連プロセスのデジタル化の普及を一層進めるとみられます。


ViDAによって全世界的な組織の変革がどう促されるか

データの管理と使用に関して、多くの企業では、税務とそれ以外の業務とをうまく融合させる取り組みが必要ですが、ViDAと電子インボイスが求める要件は、そうした取り組みを活性化させるものとなるでしょう。
 

大規模な組織では、ViDAや普及の広がる電子インボイスをただのソリューションとしてではなく、一歩引いた視点で戦略を検討する機会として捉えています。テクノロジーというのは、それが単一プロバイダーであろうが複数の地域プラットフォームであろうが、そうした戦略の構成要素の1つです。何かの変更があるたびにベンダー選定コストがかかり、個々のソリューションの迅速な導入には時間も労力もかかるため、企業には戦略が欠かせません。


EUの企業およびEU域内で商取引をする全ての企業が、ViDAがもたらす根本的な変化を十分に認識し、その準備をしているわけではありません。「関心と危機感があるのは確かです」とArmanは言います。「多くのクライアントが最初の小さな一歩を踏み出しています。例えば、来年はフランスに対応してみて、その経験をたたき台にして、欧州やアジア太平洋、中東などの地域を問わず、他の国々で生かそうと考えているようです。その際に非常に重要になるのは、テクノロジーやプロセス、人材をどう使うかの選択です」


ViDAに取り組むには社内の連携が不可欠で、税務部門は初期段階から重要な役割を果たす必要があります。各部門の責任(どの部門が責任を持ち、どこに説明責任があり、どこに相談し報告するのか)を明確に定めたマトリクスと、その土台となるガバナンスモデルを確立しなければなりません。抜けや見落としが一切ないようにすることが重要です。「電子インボイスに関しては、税務の範ちゅうではないことも多いのですが、その議論には税務部門も参加していかなければなりません。そうしないと、導入にあたって問題が生じます」と、EY Global Indirect Tax Deputy LeaderのMaria Hevia Alvarezは言います。


税務のリーダーは、「ViDAの中でビジネスに影響を与える重要な要件はどれなのか」と問うてみる必要があります。税務部門は、少なくともこうした議論を促し、第一声を上げるようにしなければなりません。なぜなら、その国の拠点全体にわたって、こうした新しい、しかも変化していく要件を社内に周知する責任は、最終的には税務部門にあるからです。

電子インボイスに関しては税務の範ちゅうではないことも多いのですが、その議論には、税務部門も参加していかなければなりません。

データの品質が極めて重要

「企業は必要以上の支出をしているかもしれません。プロセスやデータに目を向けるチャンスです。もっと大きな戦略に時間を使うべきです。たとえその戦略が、今後2〜3年だけのためであったとしてもです」と、Ernst & Young LLPのUK&I Indirect Tax PartnerのBen Woodfieldは説きます。

データの品質は、電子インボイスにおいて最も重要な要素です。企業は、高いデータ品質を保証する関連データ取得プロセスと管理手段を構築する必要があります。データは電子インボイス提出ソリューション用のシステムだけでなく、従来のVAT還付申請プロセスをはじめとする下流の提出システムなど、後続の間接税の各種プロセスでも使われることになります。Woodfieldいわく「データの品質は、企業がつまずいてしまう部分です。データは、テクノロジーソリューションの選定と同じくらい重要です」。

加えて企業は、VATに関する自社ERPシステムの現在の機能と能力についても把握しておくことも必要です。将来的に、データの品質レベルを確保するため、機能を増強する必要が出てくるかもしれません。

 

ViDAが生み出すグローバルな機会

コンプライアンスや書面作成以外にも、税務部門と企業には明らかなチャンスの到来です。「どんな変化に対しても言えることですが、選択肢の1つは短期的な措置を施すことです。たいていの場合その措置は2~3年後に破棄せねばならなくなり、同じことを繰り返すことになります。もう1つの選択肢はこう提案することです。『せっかくの機会なので、今やっていることを強化してはどうでしょうか。今から構築しようとしている体制を、将来も通用する体制にするのです。そうすれば、間接税のデジタル化で今後問題が生じたとき、今やっていることを生かせるのではないでしょうか』」と、Armanは言います。

ViDAでは、税務・財務部門は詳細なトランザクションデータにリアルタイムでアクセスできます。これを利用して重要業績評価指標(KPI)作成やデータ分析を行い、ビジネスに生かせます。例えば、どのクライアントが期限内に支払っているか、最も売れている製品デザインはどのタイプかなどを判断するのに役立ちます。繰り返しますが、データの品質は極めて重要です。企業がデータを外部に、特に税務当局に送信する場合、品質の高いデータが求められるからです。これまで、財務部門の多くは集計データを使用してきました。

どんな変化に対しても言えることですが、選択肢の1つは短期的な措置を施すことです。たいていの場合その措置は2~3年後に破棄せねばならなくなり、同じことを繰り返すことになります。

キャッシュ管理の面でのメリットもあります。キャッシュがいつ、どこから支払われるのかを素早く判断できるため、その数値に基づいて事業展開を計画できます。つまるところ、ViDAがもたらす最大の機会は、真のデジタル化です。

「事業や商取引の面では大きなチャレンジです。かなりの投資が必要になってきます。しかし、視点を変えて潜在的なプラス面を考えると、税務チームが長年直面してきたプロセスやデータ、品質の問題の改善につながる、唯一最大の機会だと思います」。こう語るのは、Ernst & Young LLPのUK&I Indirect Tax PartnerのLiam Larkeです。「組織内での間接税報告の管理方法を一から見直す機会です」

企業は、特定のテクノロジーへの投資を対象としたビジネスケースのバックボーンとして、あるいは上流の財務プロセスやレガシーERPの問題を改善するといったことのために、ViDAを活用すべきです。各種プロセスやデータ、テクノロジーがどのように関わり合っているかを考慮しながら、包括的アプローチで取り組みます。

税務リーダーにとってViDAは、組織の重い腰を上げさせ、組織には抜本的な変化が必要なこと、プロセスの各段階に税務要件を盛り込む必要があることを自覚させる好機です。「ERPのアップグレードや導入など、現在多くのクライアントが取り組んでいる他の財務変革イニシアチブとうまく連携できれば、税務報告の面では、今後10~20年間の備えは十分と言えるでしょう」とLarkeは付け加えます。

組織内での間接税報告の管理方法を一から見直す機会です。

電子インボイスに関する規制の導入状況は、その成熟度も複雑度も国によって大きく異なります。よって、グローバルな電子インボイスプラットフォームを1つ整備し、大規模に管理することが一層重要になっています。「間接税はデータドリブンであるため、テクノロジーなしで業務をすることは不可能です」とArmanは言い添えます。

一方、企業にはテクノロジーソリューション以外にも準備できることがたくさんあります。戦略策定においては、データの品質と組織内の各種プロセスを検討することが、最終的にはコンプライアンスにつながります。


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    サマリー

    欧州委員会のViDAに関する提案は、組織とその間接税部門に根本的な変化を促すでしょう。企業は計画を立てる必要があります。旗振り役は税務部門です。本記事では、ViDAよる潜在的な影響、世界で進む電子インボイス化の動き、進化する税務機能、そしてViDAがもたらす課題と機会について分析しています。


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