NFTへの対応において間接税に関わる担当役員が検討すべき4つの事項

NFTへの対応において間接税に関わる担当役員が検討すべき4つの事項


企業は自らのブランドの成長に向けて非代替性トークン(NFT)の活用を始めています。NFTには売上税や付加価値税(VAT)が課される可能性があります。どのように適用されるかを理解することは、間接税プロフェッショナルの責務です。


3つの質問

  • 間接税上の取り扱いでは、NFTの収益はどのように分類されるのか?
  • NFTが販売された際にどこで間接税が課される可能性があるか?
  • NFTに課される間接税の徴収と納付の責任を負うのは誰か?


EY Japanの視点

デジタル技術の活用によってビジネス環境が急速な進化を遂げる一方で、各国・地域の税法は必ずしも同じように変化しているわけではなく、企業はその取り扱いに悩まされる場面が多くあります。⾮代替性トークン(NFT)を活用したビジネスもその1つで、革新的な収益源として期待されますが、税法の規定が明確でないことにより申告納付漏れのリスクにさらされる可能性がある点に留意が必要です。特に取引1件ごとに課税が生じ、また高税率である間接税(VAT、消費税など)は、取り扱いを誤ると高額なペナルティが生じるリスクもあり、ビジネスモデル設計時より税務の観点からの十分な検討を行うことが望まれます。


EY Japanの窓口

岡田 力
EY税理士法人 インダイレクトタックス部 パートナー

大規模にブランドを展開する多国籍企業は、NFTの活用において、ますます革新的な方法を取り入れるようになっています。その目的は、商品ラインの拡張、新しい販売チャネルと収益モデルの立ち上げ、ブランドの構築と展開、そして新鮮でエキサイティングな方法でターゲット市場に関与し市場の拡大を図ることです。しかし、こうした取り組みは、間接税に関して新たな影響を及ぼす可能性があります。これは、納税者と政府が対処に取り組み始めたばかりの新しい問題です。ここ約1年の間に、次のような出来事がありました。

  • スターバックスは、従来のリワードプログラムの拡張版として、Web3テクノロジーを活用した「Starbucks Odyssey」を発表しました。このプログラムでは、世界中の顧客がデジタル資産を獲得・購入し、それを没入型体験または商品との引き換えに利用できるようになります。
  • メタは自らが運営する既存および新たなプラットフォームにNFTとWeb3のテクノロジーを統合する計画を発表しました。まずは、InstagramにNFTの作成・販売機能を追加する計画です。
  • ナイキは、デジタルファッションの制作・販売、およびコレクティブルを扱う新進企業「RTFKT Studios」の買収と「.Swoosh」プラットフォームの立ち上げを通じて、魅力的な収益源を新たに構築しています。

NFTは急速に成長し進化するeコマースの分野ですが、米国の州を含め、ほとんどの国・地域の中央政府および地方自治体は、NFTにおける間接税(VAT、物品サービス税および米国の売上税)の取り扱いに関して、税法または公式ガイダンスをいまだに更新していません。つまり、企業は当分の間、事業を運営する各国・地域で、多くは時代遅れとなっている税法の規定に従って一般的な税規則を解釈すること、そして自社のNFT販売およびWeb3のマーケットプレイスで発生するNFT販売にその解釈を適用することを余儀なくされるのです。

これにより、かなりのレベルのリスクと不確実性が生じます。NFTの活用を増やしているブランドの間接税プロフェッショナルは、コンプライアンスのより適切な管理に向けて、特に4つの分野について検討する必要があります。

 

1. NFT収益の分類:何が販売されているか?

まず、間接税チームはNFTの販売による収益の種類または適切な分類を検討する必要があります。これには一般的に、NFTを基礎とする資産またはサービスを調べ、それに応じて収益を分類することが必要です。

1つのNFTにさまざまな収益がひも付けられていることもあります。例えば、サービス収益、知的財産のライセンス供与による収益、デジタル商品や実物の商品の販売による収益などです。それぞれの国・地域によって、間接税と直接税の結果が変わってくるため、収益の種類を適切に分類することは非常に重要です。

NFTの販売による収益の分類は必ずしも簡単ではない点に留意が必要です。例えば、複数の種類の資産や、無形資産に関わる権利の所有権の交換が、1つのNFTにひも付けられているといったケースが考えられます。さらに、こうした資産や権利がサービスの提供を付与している可能性もあります。

従って、税務プロフェッショナルには、1つのNFTによって生み出される収益を構成要素に分解し、NFTに何がひも付けられているかを理解することが求められます。さらには、1つ1つの構成要素に価値を割り当てることが求められる可能性もあります。

EY Americas Indirect Tax Web3 LeaderであるMike O'Brienは、次のように述べています。「例えば、あるブランドが最初にNFTデジタルアートやデジタルシューズを販売するとしましょう。これらは知的財産またはデジタル商品に分類されます。しかし、NFTを基礎とする資産が時間の経過とともに変化する可能性や、NFTに新たな資産が追加されたりする可能性があるのです」。例えば、今日販売されたNFTに、限定イベントへの招待が後から盛り込まれる可能性があります。また、デジタルシューズを保有する権利が、実物のシューズの所有権もしくは所有権を受け取る権利に転換され、その後、NFTの所有者に実物が届けられる可能性もあります。O'Brienによると、このような場合、NFT販売において当初の税務上の取り扱いが異なり、NFTの内容の変化に伴い税務上の取り扱いも変化する可能性があります。

実物の商品(シューズ、収集品、⾃動⾞など)を得る権利を付与するためにNFTが使われる場合には、関税評価など輸入におけるVATや関税の⽀払義務や影響が⽣じる可能性もあります。

 

2. 収益源の開⽰︓課税権を有するのは、どの国・地域か?

NFT取引に関与する当事者に関する個人特定情報または「顧客確認」(KYC)情報を収集することは、特に厄介な問題となる可能性があります。NFTの課題に取り組む間接税のプロフェッショナルにとって、これが第2の検討事項です。取引参加者が取引に際して匿名の暗号ウォレットを使っている場合、氏名、郵送先・請求先住所などのKYC情報が含まれないため、買い手または売り手の地理的位置などの情報を突き止めることはほぼ不可能です。しかし、明確な位置情報がなければ、複数の国・地域が管轄権の行使を試みる、あるいは当該経済活動に係る直接税または間接税を徴収する権利を主張するなどの、非常に現実的な危険があります。

「NFT取引は基本的にはeコマースです。しかし、私たちが慣れ親しんでいる従来のオンラインショッピングとは異なり、請求先住所の記録やクレジットカードの詳細の共有を求められることはめったにありません。代わりに、事実上匿名の暗号ウォレットを入力するだけで事足りてしまいます」とO’Brienは説明します。「本質的に、メタバースとWeb3に国境は存在しません。課題は、消費者から関連情報を収集し、課税対象の収益源を適正な国・地域に適切に開示できるようにすることです」

今後、世界各国・地域の税務当局は、直接税・間接税両方に関する決定の合理化に向けて、NTF取引に関与する企業に対して必要なKYC情報の収集と報告を求める姿勢を一段と強める可能性が高いと考えられます。

 

3. 課税対象の問題:NFT販売の収益は課税対象なのか?

第3の検討事項は、特定の国・地域においてNFTに関する活動が課税対象かどうかを判断することです。

これは、取引に関与する当事者の所在地や、当該NFTを基礎とする資産またはサービスを当該の国・地域がどのように扱うかに応じて、個々のケースに応じて検討する必要があります。

例えば、売上税やVATを課す国・地域では、実物の商品の売上に対して間接税が課されます。しかし、サービス、デジタル商品、および(または)デジタルサービスの提供から生み出される収益に、すべての国・地域が課税するわけではありません。

NFTを基礎とするデジタル資産、サービス、無形資産などが課税対象かどうかの判断は、各国・地域によって法的な定義付けが異なるため、一段と困難になる可能性があります。

例えば、ソフトウエアまたはデジタルサービスに関して、すべての国・地域の税務当局が採用する普遍的な定義はありません。この問題は特に、税務プロフェッショナルが、NFTの販売による適切な税務上の影響を判断する際、より問題を複雑化させる可能性があります。

大半の場合、企業が分析することになるのは限られた数のNFTの販売による税務上の影響ではありません。企業は多数の異なる特徴を持つ何倍もの製品を取り扱うことになり、複雑さと微妙な差異を持つ商品を⼤規模に展開する必要性および、⼤きな収益が生じることが想定されます。

Ernst & Young GmbH WirtschaftsprüfungsgesellschaftのTax ManagerでWeb3領域を担当するFlorian Zawodskyは、次のように述べています。「この複雑な状況を乗り切るために、税務プロフェッショナルは同じ種類のNFTをグループ化し、NFTにひも付けられている関連収益の種類、そしてどの税区分に分類されるかを、完全に理解する必要があります」

間接税を専門とする大学教授であり、Ernst & Young Belastingadviseurs LLPでAssociate Partnerを務めるJeroen Bijlもこの意見に同意し、これは労働集約的なプロセスになる可能性が高いと付け加えています。「残念ながら、現時点で、このプロセスを把握し高速化するために利用可能な『フルスタック』テクノロジーソリューションは存在しないので、時間をかけてかなり細かい手作業を進めることになる可能性があります」

 

4. マーケットプレイスファシリテーター:税金の徴収・納付義務を負うのは誰か?

間接税のプロフェッショナルが検討すべき事項として最後に挙げるのは、納税額の徴収と納付の責任を負うのは誰かという問題です。一般的に、商品またはサービスの消費者には間接税(消費税など)が課されるものの、実際に税額を決定し、徴収し、政府に納付するのは売り手です。とはいえ、マーケットプレイスが取引に関与している場合には、税額の決定、徴収および納付の義務は、売り手から「マーケットプレイスファシリテーター」に移ることが多いと言えます。

一般的に、マーケットプレイスファシリテーター規則では、プラットフォームを使う第三者である出品者に代わって、オンラインマーケットプレイスが間接税を徴収し納付するよう求められています。この規則の目的は、出品者が当該国・地域で課税対象となるプレゼンスを有しているかどうかにかかわらず、当該マーケットプレイスを通じて行われたすべての課税対象となる購入活動に課される税金の徴収と納付の確保と円滑化を支援することです。

マーケットプレイスファシリテーター規則の適用については各国・地域の税務当局によって違いがありますが、売上税を課す米国のすべての州およびVATを課す国・地域のほとんどでは、実際にマーケットプレイスファシリテーター規則が整備されています。

こうしたマーケットプレイスファシリテーター規則は、NFTエコシステムの構造や実際の状況に応じて、米国およびその他の国・地域においてNFTが売買されているマーケットプレイスにも適用される可能性があります。

従来のeコマースマーケットプレイスとは異なり、NFTは匿名の暗号ウォレットを使うマーケットプレイスで取引されることが多いことから、KYC情報の入手は簡単ではありません。

ただし、参加者の匿名性が高いという事実だけで、マーケットプレイスファシリテーター規則を無効とすることはできません。さらに、マーケットプレイスでのNFT取引にはさまざまな種類の通貨(各国・地域固有の法定通貨および複数種類の暗号通貨の両方など)が使われる可能性があります。しかし現在、間接税の納付と報告は現地の国・地域の法定通貨で行う必要があることから、マーケットプレイスにとっては検討が難しいスポット換算の問題が生じる可能性があります。

マーケットプレイスにおける間接税の徴収と納付は、特に困難な問題となる可能性がありますが、マーケットプレイスファシリテーター規則と、規則に関連して変化する税負担の在り方は、企業がNFTマーケットプレイスのエコシステムを立ち上げる際に検討すべき課題です。

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    サマリー

    NFTの商品とエコシステムの大部分は、企業で戦略、商品、テクノロジー、マーケティングを担うチームによって設計、開発されています。税務プロフェッショナルやステークホルダーが適切な税務上の検討事項のプロセス(必要不可欠な情報、収益の分類、収益源など)に関与していない場合が多いことから、こうした検討事項が十分に理解されず、税務リスクが高くなる可能性があります。企業は、NFTの商品およびエコシステムのプロセスの中に税務・法務・財務の機能を設計当初から組み込む必要があります。こうすることで、税務を戦略的な手段として活用できます。逆に、プロジェクトの開始が近づいてからようやく検討を始めるという後手の対応では、致命的な欠陥となるでしょう。


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