改正DX投資促進税制に対応し、税メリットを最大化するには ~改正のポイントとDX投資の傾向~

改正DX投資促進税制に対応し、税メリットを最大化するには ~改正のポイントとDX投資の傾向~


令和5年度税制改正によりDX投資促進税制が改正・延長されました。

本稿では、適用要件の変更内容を中心とした税制の概要と、これまでの事業適応計画認定案件からわかる、減税対象のDX投資の傾向について解説します。


要点

  • 改正DX投資促進税制は、適用要件が一部変更の上で、2025年3月31日までに事業供用開始予定の設備投資を対象にしている。
  • 主要な要件変更として、売上上昇、海外市場の獲得、またデジタル人材の育成・確保を踏まえたDX認定の取得が挙げられる。
  • 旧制度で減税対象となった、データ収集・連携の取り組み、AIを用いた商品・製品提案の高度化や需要予測、オンラインチャネル強化に資するDX投資などは、引き続き新制度でも対象となる可能性がある。

Ⅰ はじめに

政府は、産業競争力強化法に基づく情報技術事業適応計画認定を適用要件の一つとするDX投資促進税制を令和3年度税制改正により創設しました。今般、令和5年度税制改正によりDX投資促進税制が改正・延長され、2023年4月から制度適用の前提となる情報事業適応計画の申請受付が開始されています。

改正DX投資促進税制は、企業の企業価値向上を後押しする観点で、DX投資に基づく売上高の上昇・海外市場獲得を志向した制度へと見直されています。そのため、企業戦略の見直しを契機にグループ全体のDXに取り組んでいる企業などは、税メリットの最大化に向け、自社のDX投資が税制適用対象となるか検討する意義があるでしょう。

Ⅱ 改正DX投資促進税制の概要

以下、報技術事業適応計画の認定要件及び認定後手続きに関する主要な変更内容を解説します。

まず、計画上の売上高要件として、当該事業適応計画の新商品・新サービスに係る一事業年度の売上高の額が、比較対象期間(おおよそコロナ前5事業年度)における全事業の売上高の額(連結会社の場合は連結会社全体の売上高の額)の平均値の10%以上であることが求められます。計算上、この売上高要件の分子には当該事業適応計画認定を受けた事業者のみの値を用い、分母には連結会社全体の値を用いる必要がある点に留意が必要です。

図1 売上高要件のイメージ

図1 売上高要件

次に、計画上の海外売上高要件として、当該事業適応計画の新商品・新サービスに係る一事業年度の海外売上高比率が、基準値(比較対象期間における全事業の売上高の額〈連結会社の場合は連結会社全体の売上高の額〉のうち、海外売上高の額の占める割合の平均値)であるX%と50%との平均値((X+50%)/ 2 )以上であることが求められます。

図2 海外売上高要件のイメージ

図2 海外売上高要件

また、デジタルガバナンスコードが改訂され、デジタル技術活用戦略において「人材の育成・確保」に関する事項の表示が追加されています。これに伴い、改正DX投資促進税制を活用するに当たっても、DX認定の基準が変更された2022年12月1日以降に、DX認定の取得・更新を行っていることが必要となりました。

なお、事業適応計画の実施期間は従来最長5年間でしたが、今次の改正により最長10年間となった他、計画認定後の対応として、事業適応期間中に目標を達成した場合は翌年度以降の報告は不要となっています。

表1 改正DX投資促進税制の内容

表1 改正DX投資促進税制の内容

Ⅲ 減税対象となるDX投資の傾向

経済産業省HPには産業競争力強化法に基づく事業適応計画認定案件が公表されており、旧DX投資促進税制に関する全43社(2021年8月~23年3月)の詳細計画が確認できます。

図3 情報技術事業適応計画の対象となったDX投資

図3 情報技術事業適応計画の対象となったDX投資

傾向として、多くの企業がサービス・商品の提案活動や需要予測を目的とした投資、またデータ収集、グループ・社内でのデータ連携を実現するための投資に関して、情報事業適応計画認定を受けています。前者はAIの予測分析といった最新技術に取り組み売上や生産性向上に取り組んでいる事例、後者は、そもそもグループ・社内でのシステム管理がサイロ化されデータが連携されていない状況を解決し、将来の高度なデータ活用に向けた基盤整備を実現するための比較的規模の大きな投資でしょう。

また、販路開拓を意図した顧客向けアプリケーションの開発、オンラインチャネル強化のためのシステム投資が多く認定されていた点も特徴的です。改正DX投資促進税制は売上上昇・海外市場の獲得を要件としていますが、同様に減税対象となり得る投資領域と考えられます。

改正DX投資促進税制を前提とした事業適応計画の認定に向けても、こうした売上上昇に寄与するDX投資を中心に、適用要件を満たすか否か優先順位を付けた検討が重要と考えられます。

Ⅳ 申請に当たっての留意事項

2023年3月31日までの旧DX投資促進税制を活用した事業者は、改正DX投資促進税制を活用することはできないとともに、旧DX投資促進税制で認定を受けた事業適応計画についても、税制適用の期間は延長されません(2023年3月31日までに設備取得等をすることが必要)。

これらについては特に留意しながら、対応を進めていただくことが重要となります。なお、事前相談から認定等を受けるまでに2~3カ月程度の時間を要しますので、その点もご留意ください。



【執筆者】

EY税理士法人
パートナー 矢嶋 学
シニアマネージャー 甲斐荘 芳生

※所属・役職は記事公開当時のものです。




サマリー

政府はDX投資支援のため、DX投資促進税制を改正しました。企業は事前申請し認定を受けることで税制優遇措置を受けられます。要件には売上高や海外売上高などがあり、これまで多くの企業が需要予測等に資するDX投資を行ってきた点が特徴です。申請には数カ月を要するため、手続きに当たっては注意が必要です。


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