令和6年3月期法人税申告の留意事項

情報センサー2024年3月 Tax update

令和6年3月期法人税申告の留意事項


令和6年3月期決算法人が法人税申告を行う際の留意点を紹介します。税制改正によって取扱いが変更になった研究開発税制、オープンイノベーション促進税制をはじめとする5項目に焦点を当てて、その内容の解説を行います。


本稿の執筆者

EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 税理士 公認会計士 矢嶋 学

法人向けコンプライアンス業務の他、組織再編および事業承継コンサルティング、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務に従事。EY税理士法人内の研究開発税制チームリーダー。従前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。



要点

  • 令和6年3月期の法人税申告においては、税制改正によって昨年度と異なる事項の有無を確認することが重要である。
  • 研究開発税制、オープンイノベーション促進税制等の減税措置の改正に加えて、買換えの圧縮記帳、スピンオフ税制についても見直されている。
  • 消費税インボイス制度の導入に伴う経理処理と法人税申告にも要注意である。


Ⅰ はじめに

令和6年3月期の法人税申告においては、税制改正によって昨年度と異なる事項の有無を確認することが重要です。変更点の大半は令和5年度税制改正によるものとなりますが、令和4年度以前に改正された事項のうち、当期から適用開始されるものがないか確認することも必要です。

本稿では、令和6年3月期の決算法人を前提として、主要な5項目に焦点を当てて解説します。なお、実際の申告においては、本稿で取り上げる項目以外の改正事項もご確認ください。

 

Ⅱ 改正事項

1. 研究開発税制の見直し

民間企業の研究開発投資の増大並びに質の向上を促すべく、研究開発税制について次の見直しが行われています。

(1) 一般試験研究費の額に係る税額控除制度(一般型)

一般試験研究費の額に係る税額控除制度について、①控除率及び②控除上限の見直しが行われました(<図1>参照)。

① 控除率

一般試験研究費の税額控除額を算出するための控除率は、当期の試験研究費の額と比較試験研究費の額(当期の事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の試験研究費の額の合計額をその各事業年度の数で除して計算した金額)とを比較して増減試験研究費割合(増減率)を求めた上で、その増減率に対応する形で算定されます。この控除率を算出する計算式の見直しが行われ、試験研究費が増加した法人は控除率がより高く、減少した法人は従前よりも低く算出される結果となりました。また、控除率の下限が2%から1%に引き下げられています。

② 控除上限

試験研究費の税額控除には控除上限があります。税制改正前は当期の法人税額(調整前法人税額)の25%でしたが、税制改正により増減試験研究費割合(増減率)に応じた額となりました。増減率が4%を超えると徐々に控除上限が高くなり、最大30%まで増加します。一方、増減率がマイナス4%よりも低いときは控除上限も低下し、最低20%となります。また、増減率がマイナス4%からプラス4%の間にあるときは改正前と同様に25%です。

図1 控除率と控除上限の改正

図1 控除率と控除上限の改正

(2) 特別試験研究費(オープンイノベーション型)

一般試験研究費と同様に、さらなるイノベーション促進に向けて特別試験研究制度も見直しが行われています。

① 高度研究人材(博士号取得者等)の活用

質の高い研究開発を促進するため、オープンイノベーション型の類型の1つとして「博士号取得者」及び「外部研究者」(高度研究人材)を雇用した場合に係る一定の人件費が追加されました。試験研究を行う者の人件費に対する高度研究人材の人件費(工業化研究を除く)の占める割合が対前年度比で3%以上増加する場合は、高度研究人材の人件費の20%を税額控除の対象とすることができます。なお、研究内容が社内外に広く公募されたもの等であることや一定の書類の確定申告書への添付及び保存要件もあるため、適用の際は詳細をご確認ください。

② 研究開発型スタートアップ企業の定義見直し

国内の企業とスタートアップとのオープンイノベーションを加速させるため、共同研究等の対象となる研究開発型スタートアップの定義が見直されました。設立15年未満で売上高研究開発費割合10%以上等、一定の要件を満たすことを経済産業省に申請して証明を受けた企業が対象となります。

(3) サービス開発の改正

データを活用して新たな役務を開発するための一定の費用(サービス開発に係る試験研究費)の定義について改正が行われています。改正前は、データ収集について、サービスの開発を目的としたビッグデータの収集であることが要件とされていましたが、改正後はこれに加えて、企業が既に保有しているビッグデータを活用することも認められています。

(4) 組織再編があった場合の調整計算

会社分割等があった場合の比較試験研究費の額及び平均売上金額の調整計算の特例について改正があり、特例を受けるための認定申請及び届出の手続が廃止されました。特例を受けるためには、確定申告書に必要事項を記載した書類を添付する方式に変更されています。今後はこの特例を受ける事業年度単位で当該書類を添付することになります。


2. オープンイノベーション促進税制の見直し

スタートアップ企業とのオープンイノベーションを促進するために、スタートアップ企業に対する出資金額の25%相当額を所得控除する制度(オープンイノベーション促進税制)について、従前の「新規取得型」に加えて、発行済株式の取得を通じた投資である「M&A型」が一定の要件の下で認められました(<図2>参照)。

(1) 対象となるスタートアップの株式

本特例の対象となるスタートアップ企業とは、設立10年未満(要件を満たす場合設立15年未満)で、未上場又は未登録の株式会社(金融商品取引所に上場されている株式又は店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式の発行者である会社以外の会社)のうち一定の要件を満たす企業をいいます。なお、対象となる株式の取得価額は1件当たり5億円以上である必要があります。

(2) 所得控除額

当該スタートアップ企業の発行済株式について議決権の過半数を取得し、かつ、当該株式について経済産業大臣の証明を受けた場合には、1件当たり50億円(取得価額換算で200億円)を上限として所得金額から控除することができます。また複数の株式取得がある場合、事業年度当たりの所得控除は125億円(取得価額換算で500億円)が上限となります。

(3) 特別勘定への経理要件

所得控除を受けるためには、対象となるスタートアップ株式の25%以下の金額を特別勘定の金額として経理する必要があります。経理方法は損金経理に限るものではなく、利益剰余金の処分により目的積立金を積み立てる方法も認められます。

(4) スタートアップ企業の成長要件

出資先のスタートアップ企業は株式を取得された時点から5年以内に成長要件を満たす必要があります。成長要件には①売上高成長、②成長投資、③研究開発特化の3類型があり、スタートアップ企業の成長段階に応じていずれかを適用することとなります。

当該5年以内に成長要件を達成し、経済産業大臣から証明を受けたときは、5年経過時点で株式取得年度に所得金額から控除した金額を益金に算入する必要はありません。ただし、5年経過後に対象取得株式を譲渡する、又は、議決権の過半数を有しないこととなった等の各種取り崩し要件に該当した場合や任意に特別勘定を取り崩した場合には、要件に応じた取り崩し金額又はその取り崩した金額を益金算入する必要があります。

(5) 新規取得型の要件見直し

従来の「新規取得型」について、その所得控除の上限額が、1件当たり12.5億円(取得価額換算で50億円)に改正されました。また複数の株式取得がある場合、所得控除の上限はM&A型と合わせて事業年度当たり125億円(取得価額換算で500億円)となります。

図2 オープンイノベーション促進税制の改正

図2 オープンイノベーション促進税制の改正

3. 特定資産の買換えに係る圧縮記帳の改正

特定資産の買換えに係る圧縮記帳について、既成市街地等の内から外への買換えが対象から除かれました。また、国内にある土地等、建物等又は構築物(いずれも所有期間が10年を超えるものに限ります)から国内にある土地等、建物等又は構築物への買換えについて、圧縮割合が次のとおり見直されました。

(1) 東京都の特別区の区域から地域再生法の集中地域以外の地域への本店等の移転を伴う買換えの圧縮割合を80%から90%に引き上げ

(2) 地域再生法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店等の移転を伴う買換えの圧縮割合を70%から60%に引き下げ

また、令和6年4月1日に特定資産の買換えに係る圧縮記帳の適用を受ける資産の譲渡をし、同日以後に買換資産の取得をする場合には、譲渡資産の譲渡日又は買換資産の取得日のいずれか早い日の属する四半期の末日の翌日から2カ月以内に本特例の適用を受ける旨の届出をする制度が導入されています。令和6年3月期は実施前ですが、四半期の単位の届出期限となっていて、最短で令和6年8月末日に期限が到来するため付言しておきます。


4. スピンオフ税制の見直し

現物分配により完全子法人の株式を移転する株式分配のうち、その現物分配の直後にその法人が有する完全子法人の株式の数が発行済株式の総数の20%未満となること等、一定の要件を満たすものは適格株式分配に該当することとされています。なお、本特例を受けるためには、令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けている必要があります。


5. 消費税法の改正に伴う経理処理

令和5年12月27日にインボイス制度の導入に伴う法人税関係の通達<「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」等の一部改正について(法令解釈通達)>と<消費税経理通達関係Q&A>が国税庁から公表されました。特に、当該Q&Aにおいては、税抜経理方式を適用する法人が、令和5年10月1日以後の経過措置期間中に免税事業者から課税仕入れを行った場合の処理について設例を用いた解説がなされています。

例えば、インボイス導入後に免税事業者から国内にある建物を取得した場合は、インボイス導入前の仮払消費税等の額の80%相当額を仮払消費税等の額とし、その残額を資産の取得価額に含めることになりますが、このような区分をせず、支払対価の全額を資産の取得価額として法人税の所得計算を行うことが認められる事例等の掲載があります。

そのため、自社の経理処理に応じた別表調整の要否を確認する必要があります。

 

Ⅲ おわりに

適正な税額計算のためには税制改正による変更点に止まらず、会社のビジネス上の変化への対応や社内の税額計算プロセスの最適化等にも注意を払う必要があります。ここで取り上げている事項はあくまでも一例となりますので、実際の申告に際しては本稿以外の内容もご確認ください。



サマリー

令和6年3月期の法人税申告においては、昨年度から変更になった事項への対応として税制改正の内容を確認することがポイントになるため、本稿では主要な改正項目を解説します。また、これに加えて、会社のビジネス上の変化への対応や社内の税額計算プロセスの最適化等にも注意を払う必要があります。


関連コンテンツのご紹介

税務サービス

日本国内外の企業・個人に対して、税務アドバイザリーおよび税務コンプライアンスにおいて、EYの豊富な実績とテクノロジーを最大限に活用し、クライアントの期待に応えるサービス提供を心掛けています。


情報センサー

EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。

EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、非財務情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ 

EY Japan Assurance Hub

この記事について

執筆者