気候関連の取り組み、連携、対策をどのように推し進めているか

気候関連の取り組み、連携、対策をどのように推し進めているか


EY Global TCFDレポートでは、気候変動に伴うEYのリスクと機会、戦略への影響、CO2削減目標に向けた進捗状況を明らかにしています。


要点

  • 今回のTCFD評価に当たり、EYのチームは実質的かつ定量的なシナリオモデリングと、世界各地のEYのビジネスリーダーからの綿密な意見の聴取を行った。
  • このプロセスにより、私たちはTCFDのテーマに深く向き合うことができ、EYでの気候変動対策の進展について誇りに思える部分と、より迅速に対応を進めるために注力すべき部分を浮き彫りにすることができる。
  • EYのクライアントや世界各地の同業者の方々、EYのメンバー、私たちが参加する地域社会が一丸となって連携し、気候変動対策を前進させることがEYの重要な機会の1つである。

EY Globalが発行した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に関するレポートでは、Value Realized 2022でご紹介した視点を一段と深い次元へと掘り下げています。このValue Realizedとは、世界で最も信頼される、特別なプロフェッショナルサービスを提供するファームとして、EYがEYのメンバー、クライアント、社会といった多くのステークホルダーに及ぼす影響や、NextWave戦略と長期的価値創造目標に向けた進捗状況をまとめたアニュアルレポートです。

今回のレポートで焦点を当てているのは、EYのメンバーと事業に対する気候変動リスク、EYのクライアントの脱炭素化を支援する機会、また、2025年にネットゼロを実現するというCO2削減目標の達成に向けてどのように取り組みを進めているかという点です。本稿ではTCFDが提言する気候変動関連情報の4つの開示テーマであるガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標をEYの視点からご紹介します。

EY Global TCFDレポート(PDF、英語版のみ)をダウンロードする

 

TCFDとは

金融安定理事会(FSB)は2015年、「金融市場参加者が自らの気候変動リスクを理解する一助となる情報開示」の枠組みに関する提言の策定を目的に民間主導のTCFDを設置しました。TCFDでは2017年、気候変動リスクが投資チェーン全体の財務面に及ぼす影響に関して開示される情報ギャップへの対処を目的とした提言を公表しており、それを受けて世界各国の企業はこの提言への対応を進めています。

EY2は金融市場の透明化でTCFDの提言が果たす役割の重要性を認識し、この提言が発表された年に賛同を表明しました。EYからはOceania Chief Sustainability OfficerであるMat NelsonがこのTCFDタスクフォースのメンバーを務めています。

TCFD提言は組織運営の中核的要素である以下の4つのテーマを中心に組み立てられています。

  • ガバナンス
  • 戦略
  • リスク管理
  • 指標と目標

TCFDガイドラインでは気候変動シナリオ分析を行い、物理的リスク、移行リスク、機会という3つのカテゴリーの気候関連情報を調べ、開示することを奨励しています。

気候関連のリスクと機会のTCFDのタクソノミー3

TCFDの気候タクソノミーを表した図

EYによるTCFD評価:主な調査結果の要約

TCFDレポートのために調査と分析を準備する作業は自社を内省するきっかけとなります。気候ガバナンスの現状を把握し、気候変動戦略とリスクについて考え、排出量削減目標の進捗状況を把握することで、胸を張って誇れる自社の実績が浮かび上がると同時に、対策をより迅速に進めるためにはどこに重点を置くべきかが明らかになるためです。

本セクションでは、EYによるTCFD評価での主な調査結果を以下のようにまとめています。


「EYのクライアントや同業者の方々、EYのメンバー、また、私たちが参加する地域社会が連携して、気候変動対策の促進役を担うことが、EYのパーパス(存在意義)と戦略の実現を促進する最大の機会の1つとなることは言うまでもありません」

Carmine di Sibio, EY Global Chairman and CEO

Carmine di Sibioの写真

EYの現状

TCFD評価では、重視する必要のある以下の気候関連のリスクと機会を洗い出し、これを複数の対象期間について低炭素経済(LCE)と現状維持(BAU)という2つのシナリオを用いてモデル化しました。

財務上受ける可能性のある影響の範囲と、さまざまな社会経済的要因が将来のリスクと機会にどのような影響を及ぼすかを把握するために、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では第6次評価報告書(AR6)の共通社会経済経路(SSP)を公表しています。これに沿った以下のシナリオはリスクと機会に影響を及ぼすものと見られます。

  • LCE:低排出量シナリオ(SSP1-RCP2.6)- 2100年までの地球の気温上昇を2°C未満に抑制できると予測
  • BAU:高排出量シナリオ(SSP5-RCP8.5)- 2100年までの地球の気温上昇が4~5°Cに達すると予測

レピュテーションリスク

気候変動対策を推進するリーダーとしてのEYのレピュテーション(評価)は主な市場での差別化要因であり、また収益成長に影響を与える主な要因です。LCEシナリオであれBAUシナリオであれ、EYが気候関連のレピュテーションを市場トップクラスに維持できるか否かによって収益が大幅に増減する可能性が生じるだけでなく、人材の定着によって非常に有利な立場に立つ可能性もあれば、反対に非常に不利な立場に立つ可能性もあります。

サステナビリティ関連サービスの機会

社会が気候変動への適応と気候変動リスクの軽減を進める中、EYのサステナビリティ関連サービスの需要は、BAUシナリオとLCEシナリオの両方で、急速に拡大すると予想されます。

排出量への対応

EYのチームは数多くの大手企業をはじめ、あらゆるセクターや国・地域のクライアントにサービスを提供しています。そのため、クライアントの気候変動リスクは私たち自身のものでもあります。加重平均炭素強度(WACI)、およびEYの売り上げ全体に占める比率を計算した結果に基づき、こうした気候変動リスクは6つの主要なセクターに集中していることが分かりました。

市場需要リスク

複数のセクターにおいて、EYのクライアントは大きな移行リスクに直面しているため、EYの幅広いサービスに対して彼らが求める需要に多大な影響を及ぼしかねません。これは、分野横断的なリスクをもたらします。CO2を大量に排出するセクターのクライアントが脱炭素化を速やかに進め、世論の変化に対応することができなければ、EYはレピュテーションリスクに直面する恐れがあります。一方、CO2を大量に排出する企業と現在取引関係にあれば、それはそのクライアントやセクターの変革を手助けし、加速させる大きな機会となる可能性があります。

急性・慢性の物理的リスク

世界をリードする大手プロフェッショナルサービスファームの1つとして、ほぼすべての国に拠点を置くEYの物理的な気候変動リスクは、気候変動がもたらすと予想される影響の世界分布をおおむね反映しています。


「気候変動リスクの軽減と、TCFDで定められた目標の達成を真に前進させるためには連携が不可欠です。その連携が従業員レベル、地域社会レベル、国内レベル、あるいは国際レベルのいずれであるかに関係なく、対策の加速化を後押しする責任と、この後押しに必要なインサイトの両方が、EYにはあります」

Steve Varley, EY Global Vice Chair – Sustainability

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どのような成果を上げているか

EYのCO2削減目標達成に向けた、7つのアクションの推進

EYはCO2削減目標達成に向け、7つの主要項目における測定可能なアクションを推し進めています。この削減目標で重点を置いているのは、出張に伴うCO2排出量から電力の調達、カーボン・オフセットとCO2除去、そしてサプライヤーへの要請にまで及び、EYの活動の中でも特に重要な要素です。2021年度に世界全体でカーボンネガティブを実現するという大きなマイルストーンを達成し、現在は7項目すべてにおける目標の達成に必要な投資を行っています。

人材育成とスキルアップを図る

EYとクライアントの両方におけるリスクと機会を把握し、それに対応する上で必要な知識とスキルをEYのメンバーに身につけてもらう取り組みを進めているところです。この取り組みでは、正式なサステナビリティMBA(経営学修士)プログラムの提供、クライメートポジティブな企業づくりを目指す起業家のサポートへの参加、EYメンバー主導のEY内部サステナビリティネットワークづくりの促進など、さまざまな戦略を活用しています。
 

気候変動リスクの評価体制を強化する

EYのサブサービスラインである気候変動・サステナビリティ・サービス(Climate Change and Sustainability)と、同じくEYの計量経済・統計(Quantitative Economics and Statistics)グループは、TCFDレポート作成の基盤となる強固なモデル化手法を共同で開発しました。市場をリードするこの分析方法で得た物理的・財務的な気候変動リスクに関する新しい貴重なインサイトをステークホルダーと共有するとともに、EYの戦略に生かしています。これはまた、レポートを将来作成するに当たって必要となる、より包括的かつより鋭い分析の土台ともなります。
 

セクター変革の促進役を担う

EYのチームはサービスラインを横断して、各セクターのクライアントがCO2削減目標の達成と自社の変革を図り、低炭素社会で成長を遂げられるようサポートしています。また、幅広いアライアンスパートナーのエコシステムと連携し、クライアントの戦略の見直し、ネットゼロへの移行の加速化、より効果的なガバナンスと業務運営の実現、ステークホルダーの信頼構築を支援しています。
 

サステナビリティの実践を成長戦略に位置付ける

EYでは、BAUシナリオ・LCEシナリオの双方で今後予想されるサステナビリティ関連サービスの機会の追求に必要な人材とケイパビリティに投資をしています。具体的には、スキルアップや増員や新たなケイパビリティの構築と獲得に加え、クライアントへ優れたサステナビリティ関連サービス提供する際に協力を仰げるビジネスパートナーの確保、幅広いエコシステムの構築、などへの投資が含まれます。

どこに焦点を当てるべきか

ガバナンス

EYでは現在、気候変動目標の達成状況と報酬を連動させていません。CO2削減目標と、その達成に向けた7項目のアクションプランに関わる指標の進捗状況と、特にグローバルエグゼクティブの報酬を直接連動させることで、グローバルおよび各地域の気候変動対策に対する説明責任を強化させることができると考えられます。

戦略

気候変動目標はEYの企業戦略全体の中核を成しており、気候変動目標の進捗状況を常にチェックしていますが、全ての部門にわたる戦略プロセスにサステナビリティ指標をばらつきなく組み込む必要があるのも事実です。今後、総合的なサステナビリティ指標のモニタリングを強化することで、より戦略的な意思決定が可能になるものと考えられます。市場の移行リスクやレピュテーションリスクがある一方、サステナビリティ関連サービスが成長する可能性を秘めていることから、気候変動とサステナビリティに関する専門知識を持つ人材の確保に不可欠な採用活動を引き続き優先させる必要があることは明らかです。

リスク

今回の分析結果から、EYの世界各地のメンバー、拠点の業務、そして市場が幅広い潜在的リスクにさらされていることが顕著となり、頻度と深刻度が増している気候変動関連の自然災害に備えるため、引き続き組織全体で、また地域別で、ツールやチェックリスト、訓練シナリオを開発・整備する必要があることが浮き彫りになりました。そのため、今後もより幅広い全社的リスク管理(ERM)プロセスの一部として、ESGと気候変動関連リスクの重要リスク指標(KRI)を策定する取り組みを続ける必要があるでしょう。


「EYは現在、重要性が極めて高いさまざまな組織と業界の知識をサステナビリティに関わるスキルに変換することを目的としたスキルアップに取り組んでいます。“EY Masters in Sustainability”は、現在の役割と経験を続けながら学ぶことができる初のプログラムであり、また素晴らしいリソースです」

Amy Brachio, EY Global Deputy Vice Chair – Sustainability

Amy Brachioの写真

今後に向けた展望

今回のTCFD評価の作業を終え、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標という4つの柱と深く向き合い、2025年までにネットゼロを実現するというCO2削減目標の達成に向けて取り組む決意を新たにしました。

今回のTCFDレポートでご紹介した見解や分析結果の取りまとめには、EYの全てのサービスライン、拠点を置く地域および主要部門を代表するリーダーとプロフェッショナル50名以上が関与しています。この評価の参考とするために聞き取り調査、ワークショップ、定量分析を行ったことで、気候変動をめぐる既存の組織内の関係を深めるとともに、有益な関係を新たに構築することができました。そのため、組織のアジリティと有効性が高まり、今後1年間にわたり気候変動目標達成に向け取り組みをうまく進めることができると期待しています。

また、今回の評価でご紹介した基盤となるリスク分析方法とシナリオモデル化手法の強化にも期待を寄せています。これは、深く掘り下げたTCFDレポートの作成にも、また、当社が生物多様性をますます重視する中で自然関連財務情報開示タスクフォースの評価を取りまとめる下準備にも役立つはずです。




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    サマリー

    2022 EY TCFDレポートでは、2025年のネットゼロ実現というEYのCO2削減目標に向けた進捗状況、グローバル戦略に気候変動への配慮を組み込む対応、EYとクライアントの気候変動リスクと機会に合わせてEYメンバーのスキルアップを図る取り組みをご紹介しています。また、対策をより迅速に進めるにはどこに重点を置く必要があるかを明らかにし、今後1年間に講じるべき対策の枠組みも示しています。TCFD評価の作業を終え、EYのグローバルな規模と関係を生かして、気候変動対策を前進させる取り組みに一層力を入れるようになりました。


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