物流業界のこれから起こるトレンドに対応し、強靱(きょうじん)な物流ネットワークを実現する鍵は? 個別最適から全体最適へ、あらゆる垣根を越えた取り組みが不可欠に

物流業界のこれから起こるトレンドに対応し、強靱(きょうじん)な物流ネットワークを実現する鍵は? 個別最適から全体最適へ、あらゆる垣根を越えた取り組みが不可欠に


「EYが実現する社会課題解決型の物流への取り組みについて」(2023年5月24日開催)


要点

  • 環境規制やテクノロジーの進展といったグローバルメガトレンドを受け、物流業界では6つのトレンドが起こっている。
  • 物流CROSSINGを推進している山善にとって、統合物流管理システムやデータを生かしたシミュレーションといったツールが大きな役割を果たしている。
  • 物流は個々の線ではなく、ネットワークという面として、また社会の公器として捉えた上で、課題解決に取り組まなければならない。

働き方改革関連法の施行によってドライバーの時間外労働時間に上限が設けられることにより、物流を担う企業はもちろん、荷主企業にもさまざまなインパクトが生じる「2024年問題」への対応が迫られています。しかも物流量が増加の一途をたどる中、いかに強靱かつダイナミックな物流ネットワークを構築するかが問われています。

こうした問題意識を背景にEY ストラテジー・アンド・コンサルティング(以下、EYSC)が開催したセミナーでは、どのような視座に立って課題を捉え、物流の最適化を図り、サステナブルな物流網を構築していくかのヒントが紹介されました。またデータ分析・シミュレーションを活用しながら「物流CROSSING」を推進している株式会社山善からゲストスピーカーを招き、どのように試行錯誤を進めていったかが披露されました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ アソシエートパートナー 田岡 佑一郎

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
サプライチェーン&オペレーションズ アソシエートパートナー
田岡 佑一郎


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物流業界にこれから起こるトレンドを踏まえ、あらゆる垣根を越えた最適化が不可欠に

環境規制の強化や労働力不足、テクノロジーの進展といったグローバルメガトレンドを背景に、物流業界では6つのトレンドが起こっています。企業はこのトレンドに対応すべく積極的な投資を行うとともに、垣根を越えた最適化・シェアリングを推進していかなければなりません。

冒頭の講演では、EYSCでサプライチェーン&オペレーションズ アソシエートパートナーを務める田岡佑一郎が、物流業界の変化について俯瞰(ふかん)しました。

物流業界の動向を語る上で無視できないのが、地球温暖化を見据えた環境規制や新興国市場の成長、労働力不足、そしてテクノロジーの進展といったグローバルメガトレンドです。それを踏まえると物流業界では大きく6つのトレンドが起こると田岡は語りました。

具体的には、ものの動きや状態を可視化する「Connected」、物流作業の自動化・高度化を進める「Autonomous」、限られたアセットを有効活用していくための「Sharing」、サステナビリティの観点からも求められる「Electric/Environment」(環境負荷軽減)、サプライチェーンや物流ネットワークの「Optimization」(最適化)、そして既存の物流業界におけるプレーヤー以外のさまざまな事業者による「New Players」(新規参入)です。

1つ目のConnectedというトレンドを支えるのが、ブロックチェーンやWeb APIといったテクノロジーの進展です。こうした技術により「これまで分断されてきたサプライチェーン上のものの動きや状態の情報が蓄積しやすくなってきました」(田岡)。さらに今後は、こうしたさまざまなデータをつなげ、新たに付加価値を生んでいく時代に突入しつつあると言います。

現に北米では、ある大手スーパーマーケットチェーンがブロックチェーン技術を活用し、約70社に上る運送会社との契約情報はもちろん、出荷・納品に関する情報を1つのプラットフォームに蓄積し、配送計画の最適化などに活用していく取り組みを開始しています。

2つ目の物流作業の高度化・自動化ですが、実は以前から、物流センターの中での自動走行といった形で部分的に進展していました。ただ最近は、自動走行機能とピッキングシステムを兼ね備えるといった具合に異なる複数の機能を1つのロボットに搭載し、さらには人間の作業も組み合わせながら統合的なオペレーションを設計する方向にあります。

3つ目のSharingの背景として、日本では特に経済のシュリンクを前提に、「限られた物量を限られたアセットで効率良く物流オペレーションを回していかなければならない点が、この先10年の課題になってくると捉えています」と田岡は指摘しました。すでに、食品業界におけるF-LINE、あるいは医薬品業界における日本通運の取り組みのように、個社ではなく業界全体で物流プラットフォームを作る動きが始まっています。この波はさらに飲料やアパレル、鉄鋼、化学、建設といった幅広い業界に及んでいくでしょう。

Sharingを支える仕組みとして、機能単位のプラットフォーム化が進み、それを提供する「デジタルフォワーダー」と呼ばれる新たなプレーヤーも登場しています。また、各社が個別に構築してきた物流プラットフォームを集約する上で、1つの基盤上に個々の要件をアドオンしていけるマイクロサービスのようなテクノロジーも重要な役割を果たすとしました。

4つ目のサステナビリティについては、すでにさまざまなところで語られてきましたが、物流領域で特に焦点となっているのはCO2排出量の削減や可視化です。ただ、その位置付けには少し変化が見られるといいます。

「以前は企業イメージを高めるため、開示やPRの目的で取り組むケースが多かったと理解しています。これからは環境をきっかけにして売り上げにつなげたり、付加価値を向上させたりといった、環境と経済性の両立が今後の方向性だと考えています」(田岡)。同時に、個社での対応にとどまらず、荷主企業のサプライチェーン全体でのCO2を可視化し、排出を減らす取り組みが求められる時代になるとしました。

5つ目は、物流ネットワークのさらなる複雑化です。これまでのサプライチェーンネットワークの変遷を振り返ると、1対1の移動から始まり、今では、生産地から集荷して物流センターに集め、幹線輸送で消費地に近いところまで輸送し、再びラストワンマイルで配送する「ハブ&スポーク型」が主流となっています。しかし、物流業界の2024年問題が迫り、また1つ目のトレンドでもある、テクノロジーを生かしてモノの状態を把握できるようになってくると、さまざまな中継地点を経由しながら配送する「リレー&ネットワーク型」へと変化していくと考えられます。

最後の新規事業参入は、すでに体感している方も多いでしょう。現に、モビリティメーカーやロボットメーカー、あるいは総合商社など、異業種のさまざまなプレーヤーが物流業界に参入し始めています。それも、これまでのインフラやオペレーションを単に踏襲するのではなく、データを活用し、物流業界の状況を把握しながら参入していることがポイントです。

田岡はこうした6つのトレンドを紹介した上で、これから物流業界を担う物流企業や荷主企業は、こうした6つのポイントに対し積極的な投資を行うべきだと提言しました。また、限られたアセットを有効に活用するためにも、あらゆる垣根を越えた最適化・シェアリングを推進していく必要があります。そして、さまざまな制約条件が絡み合い、複雑化する課題に対応できる物流ネットワークの最適化に今こそ取り組まなければならないと呼びかけました。

株式会社山善 物流企画部 部長 秋山 知彦 氏

株式会社山善 物流企画部 部長
秋山 知彦 氏


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生産財と消費財、2つの異なる事業にまたがる物流CROSSINGに取り組む山善

生産財と消費財というまったく異なる2つの領域で事業を展開している山善では、中期経営計画を踏まえた「物流グランドデザイン」の実現に向け、シミュレーションなども生かしながら事業部間の物流CROSSINGに取り組んでいます。

田岡が呼びかけたアクションのうち、物流ネットワーク最適化に取り組んでいる企業の1つが株式会社山善です。同社で社会課題解決型の物流の実現に取り組んでいる営業本部 物流企画部長の秋山知彦氏が「山善が目指す物流CROSSINGとは」と題して講演を行いました。

「人づくりの経営」を掲げ、創業者の波瀾万丈の人生がテレビドラマのモデルにもなっている山善ですが、どんな起業家かを一言で言い表すのは難しいかもしれません。日本のもの作りを支える町工場・工場向けの工作機械やドリル、産業機器、機械工具といった「生産財」と、家電量販店やECサイトでも購入できる家庭機器、さらにキッチン、バス、トイレといった住宅設備機器などの「消費財」、両方を取り扱う専門商社だからです。

このダブルウイング経営は、経営のリスク分散という面では大きな強みとなり、5,200億円を超える売り上げを支えています。しかし、物流の最適化に関してはチャレンジとなりました。生産財と消費財では、まったく質・量の異なる物流網が求められたからです。

山善は現在、顧客密着戦略、トランスフォーム戦略、デジタル融合戦略、人材マネジメント戦略の4つを柱とする中期経営計画「CROSSING YAMAZEN 2024」を掲げて成長を目指しています。さらに「世界のものづくりと豊かなくらしをリードする」という2030年ビジョンを立て、新たな価値作りに取り組んでいます。

このうち、トランスフォーム戦略において重要な役割を果たすのが物流体制です。「今後の大きな成長を支えるために必要不可欠なものであり、物流体制の強化が必要と認識しています」と秋山氏は述べました。

こうした意識の下、国内の主要12カ所の物流拠点において順次統合物流管理システムを導入し、共通の倉庫管理システムを稼働させながら物流の効率化と最適化を図っています。また、2023年1月には東日本エリアにおける最重要拠点「ロジス新東京」の本格稼働を開始し、同年5月には「新ロジス大阪」を新設する方針を発表。2025年1月からの本格稼働を目指しています。

こうした歩みを見ると非常に先進的な取り組みに思えますが、秋山氏は、「むしろ山善は物流後進企業だと考えています」と述べ、これまでの歩みについて説明しました。

山善の物流に関する取り組みが転換点を迎えたのは、商品管理部から独立する形で、消費財の流通を担うヤマゼンロジスティクス株式会社が設立された1993年にさかのぼります。その後、ロジス中部に始まり、順次ロジス関東、ロジス関西といった拠点の稼働を開始し、外部委託を進めていったそうです。その後、生産財についても物流の外部委託が始まり、多くの倉庫が別々の会社に委託されていく状態が続いていました。

「業務の効率化と物流波動への人的対応がスムーズにいくといったメリットがありましたが、半面、物流システムがバラバラとなり、事業部間、倉庫間で一貫性を欠く結果になりました。また、会社の中に物流のノウハウがたまらない結果にもつながりました」(秋山氏)

こうした状況を踏まえ、また、1つ前の中期経営計画「CROSSING YAMAZEN 2021」で打ち出した連結売上高6,000億円という目標を達成するには「物流体制の再構築」が必要だと捉えました。そして経営企画本部内に「物流部」を発足させ、「物流グランドデザイン」を立案。統合物流管理システムの構築、最適な拠点配置の設計、輸配送ネットワークの設計、自動化・省人化の推進などに取り組んでいきました。なお、現在実行中のCROSSING YAMAZEN 2024では、環境問題や2024年問題、自然災害の増加といった外的要因についても掘り下げ、取り組み始めています。

この物流グランドデザインで掲げた物流拠点の再構築に当たって論点となったのは、「倉庫を集約するのか、分散するのか、それとも現状維持か」という問題でした。

前述の通りダブルウイング経営を進める山善の場合、生産財ではオーダーに合わせて当日納品に対応するため、15分間隔でまとめ配送を行う一方、システムキッチンやシステムバスといった大型納品が多い住建ではツーマン配送が必要です。かたや家庭機器では全国各地への大量の宅配対応が必要になる、といった具合に、各事業部の商材、商売特性に合わせた配送や作業フローが構築されており、基幹システムもそれに合わせた仕組みとなっていました。さらに、前述のさまざまな外的要因に対応するため、最適な物流拠点の配置をどうすべきか検討し、「住建の配送拠点を他事業部にクロッシングする」という選択肢を取ることに決定しました。

山善の住建事業部は全国に約90カ所近くの物流拠点(デポ)を展開しています。このリソースを家庭機器や生産財の配送拠点としても相互利用することで、まとめ配送を行ってCO2排出量を削減し、運賃の削減にもつなげられるといった効果が期待できたのです。

ただ、事業部横断で入荷・出荷対応を行うには、統合物流システムという「道具」が不可欠となります。こうした判断から統合物流システムを開発し、まさに今、全国各地の倉庫に順次導入を進めている段階です。

配送拠点のクロッシングを実行するに当たり、山善では、システム統合によって機能別の物流体制がどのように実現できるか、仮説を立てて検討を試みました。ですが、その仮説が正しいかどうかを検証するには、取引データやさまざまな要因を分析し、整理する必要があります。

そこで頼ったのがEYストラテジー・アンド・コンサルティングでした。「事業部単位で最適なネットワークを実現しつつ、相乗り可能な範囲でクロッシングさせる」「各事業部のネットワークのいいところ取りをして山善全体での最適化を目指す」という2つの基本方針に沿って、シミュレーターを用い、さまざまな条件をインプットして最適な拠点配置はどうあるべきかの分析を依頼しました。

分析に当たっては、事業部間でデータの精度が異なる点や、特に家庭機器事業部についてはあまりにデータ量が膨大であるといった苦労もあったそうです。しかし丁寧に分析を進めた結果「生産財では、現有ロジスのほか全国6カ所にデポを設置し、住建や家庭機器でも相乗りする」といった最適なシミュレーション結果を得ることができました。

次のチャレンジとして、2030年ビジョンに基づいて物流ネットワークのモデリングを行い、CO2の排出量をどれだけ削減できるかも試算しました。長距離輸送の是正などにより、計画に沿って売り上げが大きく増えたとしても、CO2排出量は現在と同等程度に抑えられるとの試算結果が得られています。

山善は今後も「物流戦略2030年ビジョン」に沿って、事業部間のクロッシングに始まり、ヤマゼンロジスティクスのプロフィット化、さらに特定業界向け共同輸配送のスキーム確立などに取り組んでいく計画です。「今は社内での事業部間クロッシングですが、取引先とのクロッシング、最終的には社会とのクロッシングを実現することで、『ともに、未来を切拓く』というわれわれのパーパスを実現できるのではないかと考えています」(秋山氏)

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー 平井 健志

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
サプライチェーン&オペレーションズ パートナー
平井 健志


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Section 3

個社個別の取り組みから脱却し、社会全体の課題と捉えての取り組みを

これまで日本企業は、コスト削減や着荷タイミングといった個別の物流課題に、個社で取り組む傾向にありました。しかし今、物流は社会の公器であるという視点に基づき、全体をひとつのネットワークとして捉ええ、俯瞰的に取り組む必要があります。

続けて、EYSCの平井健志が「各種制約ならびに変数を加味した物流ネットワークシミュレーションについて」と題し、この先、物流課題の解決に向けてどのような取り組みが求められるかをあらためて解説しました。

 

最初の講演でも指摘された通り、地球温暖化対策・脱炭素といった地球環境変化に伴う課題と、少子高齢化に伴う労働力不足や地政学リスクの高まりといった社会を取り巻く課題の双方を背景に、物流の現場では2024年問題と労働力不足、カーボンニュートラルやBCP(事業継続計画)対応といった課題が顕在化しつつあります。

 

従来、「物流改革」というと運賃や倉庫費用、拠点配置の最適化といった事柄が焦点となりがちでした。しかし2020年代以降はこうした新たな課題への対応が求められていくと平井は述べました。

 

しかも一連の課題は、物流領域だけの問題にはとどまりません。「例えば2024年問題が顕在化し、輸送能力不足が広がっていくと、ものが届かなくなったり、ものが返ってこなくなったりして、その結果企業の売り上げが上がらず、利益も出なくなります。企業活動自体も顧客満足度も低下するといった形で、大きな影響を及ぼすと考えられます」(平井)

 

振り返ってみると、日本企業が物流課題に取り組む際には、「いつ、ものを届けるか」「どう在庫を最適化し、需要と供給のバランスを取っていくか」といった課題に、荷主や物流企業がそれぞれ個別に取り組んできました。しかし、今直面している新しい課題に取り組むには、「物流は社会の公器であるという考え方に基づき、すべてを面で捉えるような動きが必要です」と平井は述べ、物流課題を社会全体の課題として捉えての取り組みが求められると指摘しました。

 

そしてその延長で、調達、生産、供給といったプロセスがリニアに、直線形につながっていった「サプライチェーン」から、さまざまなステークホルダーが双方の状況を理解し、俯瞰した形で今何をすべきかを考える「サプライネットワーク」として、面で捉えた上での全体の最適化を進めていくべきだとしました。

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ シニアマネージャー 瀧口 雅彦

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
サプライチェーン&オペレーションズ シニアマネージャー
瀧口 雅彦

最後に、山善の物流最適化プロジェクトにも携わったEYSCの瀧口雅彦が、ロジスティクスネットワーク全体をどう捉え、どのように分析を行っているかを説明しました。

 

EYSCでは物流ネットワークの分析を4つの段階に分けて整理しています。1.0は「トンキロ」をはじめとするコスト面だけを捉え、各担当者の能力の範囲で特定の領域だけを、表計算ソフトで分析するというものです。これが2.0では、単独領域から複数のネットワークにスコープを広げ、またコスト以外の指標も含め、最適化分析を行えるソルバーなどのツールを用いて分析を加える形となります。「これによって、自分が手元で持っているデータだけで見える範囲で分析していたものが、自分が見えていなかったところも見えるようになります」(瀧口)

 

そして3.0では、エンドツーエンドのサプライチェーン全体の流れをスコープに入れます。しかも利益やサービスといった物流部門以外の評価指標も加え、専用ツールを用いて分析を行います。最後の4.0では、平井が指摘した「面」、つまりサプライチェーンネットワーク全体を考慮し、自分たちに見えていないところもデザインしていくという段階です。ここではまた評価指標として、リスクやサステナビリティといった要素を加味し、AI(人工知能)やML(機械学習)といった技術を組み合わせての分析・可視化を行っていきます。

 

では、こうした分析はどのようなステップで行うのでしょう。EYSCは具体的には5つのアクションを定義しており、中でも重要なのが最初の「現状ネットワークのモデリング」だといいます。「ここをきちんと再現できないとその先のステップには進めません」(瀧口)。そのモデルに基づいて、最も効率良く最適化した場合の結果をまず算出した上で、シミュレーションシナリオの作成、シナリオ実行、結果評価といったプロセスを踏んでいきます。山善のプロジェクトもこの流れに沿って進められました。

 

瀧口は重ねて、現状のモデル化の重要性を指摘しました。「現状のサプライチェーンをきちんとシミュレーター上で再現するのは非常に難しい話です。きちんとデータをそろえ、もしそろわないデータがあった場合にどう再現するかといった部分について、現場の皆さんやユーザーといった関係者ときちんと同意を取ることが重要になります」(瀧口)。このモデルを形作ることで、コストやリードタイム、配送時間、あるいはGHG(温室効果ガス)排出量といった要素がどう変化していくかをシミュレートし、指標が見えるようになるとしました。

 

そして最後に、「EYSC、物流をネットワークとして捉えるとともに、公器として考えています。公器として考えることで、個社では対応できない課題に関しても、われわれのネットワークを活用して支援できると考えています」と述べました。

 

セミナーの最後には質疑応答の時間も設けられました。「シェアリングを検討するに当たって、どう他社や業界を巻き込んでいけばいいのか」という問いに対し、田岡は、物流のどこを外部とシェアリングし、どこは個社で対応するのかを整理した上で、「同じ課題感、もしくは同じビジョンを持つパートナーを探すところが大事になります」とアドバイスしました。そして、そうは言ってもなかなか難しいパートナー探しの部分を、EYSCではさまざまな業界とのリレーションを生かして支援できると述べました。

 

また、山善の取り組みにおいても苦労のあった「シナリオの作成」「データの準備」をどう進めるべきかという問いに対し、瀧口は、いろいろな部署、いろいろな数値があることを前提に、「横串で見た時、みんなにとって納得のいく数字にできるか、どう読み替えるかについて合意を取っていくことが非常に重要です」と改めて述べました。

 

秋山氏もこれを受け、まったく異なる商品と顧客を抱える各事業部の間で、データをいかに読み替え、1つの数字に落としていくかが重要とコメントしました。さらにポイントとして、「現場の生の声を聞いた上でデザインしていくこと、そして『会社全体で1つにまとめ、取り組もう』という指針を示す経営層の理解、フォローが非常に大事になってきます」と、トップの姿勢の重要性を強調しました。


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    サマリー

    物流の現場は、2024年問題をはじめ、環境問題への対応やネットワークの複雑化といったさまざまな課題に直面しています。これまでは個社・部署ごとの個別の取り組みで解決を図るケースが大半でした。しかし今、物流は「社会の公器」であるという認識に基づき、テクノロジーやデータを活用しながら全体最適を図るべき時に来ているのです。


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