EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー事業部 TCF Lead Advisory 小室 英雄
TMT業界、金融業界、不動産業界を中心にプレM&AフェーズからM&Aの実行、海外PMIハンズオン支援までLifecycle支援に強みを有する。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)パートナー
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー事業部 TCF Lead Advisory 七澤 奈緒子
プレM&Aフェーズからの戦略立案からオンディールにかかる企業・市場調査、事業計画策定支援を中心に携わる。リサーチ業務に長く従事しており、事業成長性評価、事業計画策定、企業価値評価、市場分析を踏まえた多数の業界・企業レポートを執筆する。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) シニアマネージャー。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー事業部 TCF Lead Advisory 加納 星太
データセンター業界のマーケットリサーチ等、同業界に関連する業務に複数従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) スタッフ。
要点
近年、生成AI等のAI関連サービスへのニーズ拡大に伴い、GPU サーバー※1及びGPUサーバーの設置に適した環境を提供するデータセンター(以下、GPU DC)の需要が拡大しています。
本稿の目的は主にデータセンター(以下、DC)関連のビジネスに携わる方々に対し、次の情報を提示することで、需要が拡大するGPU DC関連ビジネスへの進出の際に留意する必要のある点を示すことになります。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
※1 Graphics Processing Unit(GPU)を搭載したサーバーを指す。
改めてDCとは、「インターネット用のサーバーやデータ通信、固定・携帯・IP電話などの装置を設置・運用することに特化した建物の総称」※2を指します。
一般的なDCに設置されているサーバーは、主にCPUサーバー※3です。しかし、近年は多くの企業が生成AI開発投資を進める中、生成AI学習を支える高性能なGPUを備えた多数のサーバーと、それらを収める大規模なGPU DCが不可欠となっており、今後GPU DCの需要は、契約電力量ベースで2023年の7,900kW(見込値)から2028年の184,800kW(予測値)へと、CAGR(年平均成長率) 87.9%のペースでの急拡大が見込まれています(<図1>参照)。
※2 出典:日本データセンター協会「データセンターとは」、www.jdcc.or.jp/activity/datacenter/(2024年8月28日アクセス)
※3 本稿ではIAサーバーのことを指す。IAサーバーはCentral Processing Unit(CPU)として米インテル社のx86系プロセッサまたは他社の互換製品を採用したサーバーを指す。
需要の急拡大が見込まれるGPU DCは、GPUサーバーとCPUサーバーが異なる特徴を有していることに起因し、従来のCPUサーバーを主に設置していたDC(以下、CPU DC)とは求められる要件が異なっています。以降Ⅲ章、Ⅳ章で、各サーバーの特徴の違いと、各DCに求められる要件の違いを整理していきます。
GPUサーバーとCPUサーバーの特徴の違いを、「ユーザー」、「用途」、「電力消費」の3つの観点で整理すると<表1>のようになります。
電力消費量の違いは、両サーバーの演算処理数の違いに起因しています。
GPUサーバーに搭載しているGPUは、多数のコアを有することで、並列演算処理を得意としています。近年では大量の演算処理を行うAI関連用途でGPUが必要とされるケースが多くなっています。
演算処理数が増加すると、①演算処理自体が消費する電力、②演算処理によって発生する熱を冷却するための消費電力※4の両方が大きくなるために、大量の電力が必要になります。
※4 GPUサーバー、CPUサーバー共に、演算処理に伴う発熱が高くなりすぎるとサーバーが正常に機能しなくなるため、サーバーを冷却する必要がある。
Ⅲで述べた各サーバーの特徴の違いを踏まえ、GPU DCとCPU DCそれぞれに求められる要件の違いを、「確保する必要のある電力容量」、「冷却方式」、「ネットワークの低レイテンシー※5確保の重要性」、「電力・通信関連機器の冗長性確保の重要性」の4つの観点で整理すると<表2>のようになります。
※5 ネットワークの低レイテンシーとは、ネットワーク通信における遅延が少ない状態を指す。
液体冷却方式は、実証研究等は進んでいるものの、本格的な普及には一定の時間を要すると考えられます。
低レイテンシーの確保にはさまざまな要素が絡みます。特にインターネットトラフィックの相互接続ポイントであるIx※6拠点との物理的な距離は重要な要素となります。主要なIx拠点は、関東圏では東京の大手町、関西圏では大阪の堂島に位置しており、国内の多くのDCが東京、大阪を中心に立地している一因となっています。
双方向のデータ処理頻度が低いAI向け GPU DCであれば、Ix拠点が少ない東京、大阪以外のエリアでも問題無いとされる可能性があり、東京、大阪以外の立地ならではのメリット(相対的な土地代の低さ、補助金等)を享受できる可能性が考えられます。
※6 インターネットエクスチェンジの略。
ここまで述べてきた内容のポイントをまとめると次の通りとなります。
GPU DCとCPU DCでは求められる要件が異なります。この違いを理解することで、GPU DC関連ビジネスにおける、ビジネスチャンスをつかむ可能性を高められると考えています。本稿が皆さまのGPU DCに対する理解を深める一助になれれば幸いです。
主にデータセンター(以下、DC)関連のビジネスに携わる方々に対し、①GPUサーバー/CPUサーバーが有す主な特徴の違い、➁各サーバーを設置するDCに求められる要件の違いという、大きく2つの情報を提示することで、需要が拡大するGPUサーバー向けDC関連ビジネスへの進出の際に留意する必要のある点を示します。
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