EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
従来、M&A案件の目的や目指すシナジーに関する調査は、一件一件をマニュアル調査する方法が一般的であり、その結果が網羅的である調査は数が少ないと言えます。そのため、M&A案件の増加する現代においてその動きの全貌をつかむことは困難となっています。EYでは、各企業の公開情報や、新聞記事、各種商用データベースの情報を基に、ターゲットの企業のM&A案件情報を自動で収集し、類型化・分析を行う手法を開発し、マニュアル調査では扱いきれない膨大な情報を用いた調査を実施しました。
図表1:データ作成・分析方法の比較
各社プレスリリースよりシナジー掲載情報を対象にテキストマイニングにより取集。各キーワードを軸に機械学習により分類を実施。
図表2:シナジー類型化概要
図表3:本分析対象件数
※対象件数は1社で複数案件を有することがあり、本論で「案件」「件数」と呼称する場合は、同一企業がカウントされている可能性がある。
分析結果から見るに、一例では、「環境」関連の買収(ESG投資やSDGsへの取り組みを意識した買収)の件数が増加。
その他、販売機能の拡充や拡大を狙い「R&D」や「販売機能の拡充」のテーマ件数が増加する結果となった。
図表4:2020年対象件数
図表5:2021年対象件数
図表6:対象企業業種別、構成比
図表7:対象企業規模別、構成比
事業の拡張においては、既存事業の強化、周辺領域への派生、新規事業への進出といくつかのフェーズが存在するが、今回規模別に分析を行った結果、規模が一定以上の企業は、新規事業への拡張に対し一定の投資を行っていることが推察される。
規模が小さい企業に関しては、既存事業の強化を優先しており、「販売希望の獲得」や「サービスの拡張」の数値が大きくなっている。
EYでは、自社事業の審査、金融業からの審査などにおいても、市場データを基にした調査が、業界や対象事業の規模から既存事業がどの拡張フェーズにいるのか、投資優先度として確からしいのか、などを判断する軸になると考えている。
サプライチェーンにおける下流の拡張である「販売機能の拡張」シナジー獲得を目的としている案件は、売上高100,000(JPYmm/百万円)以下の企業による案件が57%を占める。積極的な販売機能の拡張により、売上高の伸長を目指しているものと推察される。同様に、同規模の企業群による案件は、「DX」シナジーを目的とした買収も数が多く、35%を占める。単なる売上高の拡張のみを目指すのではなく、市場変革や一定のITによる効率化を意識して買収を手掛けていると考えられる。
売上高が100,000(百万円)以上の企業群が「購買機能の拡張」「サービス機能の拡張」「バリューチェーンの拡張」といったサプライチェーンにおける上流の機能拡張を目的とした買収を多く手掛けていることが分かった。買収の結果、コスト効率化に伴う価格競争力の強化、既存事業の周辺領域の拡張による競争力の強化などを目指しているものと推察される。
その他、比較的売上高規模の大きい企業群では、「新規事業の拡張」および「環境」シナジーを目的とした買収が多く手掛けられていることは特徴的である。
図表8:
EYでは、本レポートの調査において、各M&Aにおけるシナジーテーマを収集・分析することで、企業の戦略策定時におけるベンチマークの設定を個社単位から業界単位、市場単位へと切り替え、今迄と異なる視点を得ることができるのではないかと考えている。
地政学的な懸念やパンデミックなど昨今の企業を取り巻く環境は日々変化していますが、企業のCEOが引き続きM&Aを成長に向けた重要ドライバーの一つであると考えていることに変わりはありません。EYは独自の手法で、オープン情報からデータ収集・分析を試み、シナジー効果の類型化およびその動向についてのレポートを作成しました。