EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 メキシコシティ駐在員 公認会計士 小河原 達矢
2004年12月に当法人に入社。主に旅客運送業、製造業等の監査業務、日系企業の海外子会社への内部統制報告制度(J-SOX)導入支援、企業結合会計基準の実務書の執筆などに携わる。2015年7月〜2018年6月の間、EYメキシコ レオン事務所へ駐在員として赴任。日本帰任後はグローバル日系企業のIFRS導入支援業務に従事した後、2021年8月より再びメキシコシティに赴任し、会計や税務に係るサービスにより日系企業の支援を行っている。
EY新日本有限責任監査法人 ケレタロ駐在員 公認会計士 小田 真一
他のBig4ファームでの監査経験を経て、2020年1月にEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社に入社し、企業買収に関するコンサルティング業務に携わる。その後、2022年1月に当法人に入社。主に製薬会社及び自動車部品メーカー等の監査業務に従事した後、2024年7月よりケレタロに赴任。会計や税務に係るサービスにより日系企業の支援を行っている。
要点
近年、欧州を皮切りに、世界的にサステナビリティ情報開示の制度化が進められています。メキシコにおいても、財務報告及びサステナビリティ報告基準の設定主体であるConsejo Mexicano de Normas de Información Financiera y de Sostenibilidad(以下、CINIF)によって、2024年5月にサステナビリティ開示基準(Normas de Información de Sostenibilidad、以下、NIS)が公表されました。本稿では、当該基準の概要や現地における保証の考え方及び日系企業に求められる今後の対応について解説します。
メキシコにおいては、2012年12月期より上場企業に対してIFRSの適用が義務付けられています。そのため、上場企業に対しては、サステナビリティ情報の開示について、IFRS S1号/S2号が、2025年1月1日以降開始する会計年度から適用されます。
一方で、メキシコに進出している日系企業の子会社は、メキシコでは非上場であり、メキシコにおける財務報告基準であるNormas de Información Financiera(以下、NIF)の適用が求められています。2024年5月にCINIFにより公表されたNISは、NIFに基づいて財務諸表を発行する全ての企業に対して、2025年1月1日以降開始する会計年度から適用されます。
CINIFは現在、サステナビリティ開示基準の概念フレームワークを定めたNIS A-1及び開示すべきサステナビリティの基本指標について定めたNIS B-1を公表しています。今後、サステナビリティ情報の開示に係る特定のテーマに関する詳細な基準が、順次公表される予定です。
NIS A-1は、NISを適用する際に基礎となる基本概念を定めています。具体的には、開示するサステナビリティ情報が具備すべき質的特性やサステナビリティ情報と財務情報との相互関連性等について定められています。また、サステナビリティ情報の記載場所についても当該基準で定められており、サステナビリティ情報は財務諸表の注記として開示されるべきであるとされています。なお、IFRS S1号/S2号及び2025年3月までに最終化が予定されている日本版S1基準/S2基準(公開草案)※ においては、サステナビリティ情報の記載場所は財務諸表の注記に限定されておらず、これはメキシコ特有の取扱いとなります。
※ サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第 1 号「一般開示基準(案)」及びサステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第 2 号「気候関連開示基準(案)」
NIS B-1は、全ての企業が最低限開示すべき具体的なサステナビリティ関連指標を定めています。30の特定の指標が定められており、指標は環境分野、社会分野及びコーポレートガバナンス分野と多岐にわたります(<図1>参照)。また、重要性の概念は定められていないため、企業は重要性にかかわらずこれらの指標全ての開示が求められることとなります。一方で、IFRS S1号/S2号及び日本版S1基準/S2基準(公開草案)においては、企業の見通しに影響を与えることが合理的に見込まれる全てのサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する重要性がある情報を開示することを企業に要求していますので、NISにおけるアプローチとは異なっています。
Ⅲ 1.で述べた通り、NIS A-1において、サステナビリティ情報は財務諸表の注記に含まれることが規定されています。これに対して、メキシコにおける会計士協会であるInstituto Mexicano de Contadores Públicos(以下、IMCP)は、2024年11月に声明を発表し、サステナビリティ情報に対する保証の考え方を示しました。当該声明の中でIMCPは、サステナビリティ情報は財務諸表の注記に含まれるとしても、ISA720で規定される「その他の情報」に該当し、監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかを検討する必要があるものの、財務諸表監査における保証の対象とはならないと結論付けています。また、同声明において、企業が開示するサステナビリティ情報について、監査人から限定的または合理的なレベルの保証を任意で受けることができる旨が示されました。
現時点では、サステナビリティ情報に対する保証については任意であり、現地法定監査における保証の対象とはなりません。そのため、企業が開示するサステナビリティ情報が現地法定監査の監査意見に直接影響を及ぼすことはありません。一方で、現地法定監査において、「その他の情報」として、監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があれば、指摘を受ける可能性はあります。また、現時点で開示義務違反に対する具体的なペナルティは定められていないものの、今後、何らかのペナルティが規定される可能性も考えられます。そのため、日系企業においては、保証の対象か否かにかかわらず、各指標を一定程度、正確かつ網羅的に測定し、開示するための仕組みの構築が求められます。加えて、社会分野やコーポレートガバナンス分野において開示すべきポリシーの整備が不十分な企業においては、当該ポリシーの策定・見直しが求められます。
また、前述の通り、IFRS S1号/S2号及び日本版S1基準/S2基準(公開草案)とは異なり、NISにおいては重要性の判断は行わず、NIS B-1で定められた30指標の開示が全ての企業に対して求められます。そのため、IFRS及び日本基準の要求事項に対応できる仕組みが構築できている場合でも、NISの要求事項の全てに対応できていない可能性がある点に留意が必要です。
メキシコにおけるサステナビリティ開示基準の概要や現地における保証の考え方及び日系企業に求められる今後の対応について解説しました。日系企業のメキシコ子会社においては、2025年1月1日以降開始する会計年度からNISが適用され、財務諸表の注記の中でサステナビリティ情報を開示することが求められます。各企業のご担当者においては、タイトなスケジュールの中で当該基準の適用への対応が求められるかと思いますので、本稿の情報がその一助になれば幸いです。なお、対応を進める中で、何かお手伝いできることがあれば、EYのプロフェッショナルにご相談ください。
近年における世界的なサステナビリティ情報開示の制度化の流れの中で、メキシコにおいても2024年5月にサステナビリティ開示基準であるNISが公表されています。本稿では、当該基準の概要や現地における保証の考え方及び日系企業に求められる今後の対応について解説します。
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