中国会社法改正が日系企業に与える影響

情報センサー2024年7月 JBS

中国会社法改正が日系企業に与える影響


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2024年7月1日より中国の会社法が改正となります。改正の主な概要と日系企業への影響を解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 第3事業部 公認会計士 高谷 恭平

2013年2月に当法人に入社。入社後は、日本国内の製造業、卸売業、小売業といった上場会社等の監査業務やIPO準備会社の上場支援業務に従事。22年7月よりEY上海事務所に赴任し、華中地区の日系企業に対する監査、税務、コンサルティングサービスの提供を支援。



要点

  • 中国において、会社法が改正され、2024年7月1日より施行された。
  • 機関設計、董事等の責任、資本制度等多くの項目が改正された。
  • 特に、従業員が300名以上の企業について従業員代表董事制度が新設され、日系企業にも影響がある。


Ⅰ はじめに

中国においては1993年に会社法が制定されてから、過去5回にわたり一部改正がなされてきましたが、2023年12月29日に6回目の改正がなされ、24年7月1日より施行されることとなりました(以下、新会社法)。今回の改正では多くの項目が改正され、日系企業に対しても影響を与えることが想定されます。多くの日系企業が採用している有限責任公司について、中国における主な会社法改正の概要と想定される日系企業への影響について解説します。

なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。


Ⅱ 中国会社法改正の概要

1. 会社の機関設計

日本における株式会社の機関設計は、株主総会、取締役会及び監査役会ですが、中国における有限責任公司の機関設計は株主会、董事会及び監事会となります。それぞれの役割は<表1>のとおりです。

表1 日本及び中国における機関設計とその役割

役割日本中国
最高の意思決定機関株主総会株主会
業務の執行及び意思決定取締役会董事会
業務執行の監督監査役会又は監査役監事会又は監事
(日本及び中国の会社法より筆者が作成)

日本では取締役会の中に監査等委員会を設置することが可能です。中国においても今回の新会社法では、会社の定款の規定に従い董事により構成される監査委員会を董事会内に置き、監査委員会に監事会の職権を行使させることにより、監事会又は監事を設置不要とすることができるようになりました(新会社法第69条)。また、規模が比較的小さく、又は、株主の人数が比較的少ない会社については、監事会を設置せず1名の監事を置くことができ、さらに、株主が全員一致で同意した場合、監事1名を置かないことも可能となりました(新会社法第83条)。つまり、<表1>の他、<表2>の機関設計が認められることになります。なお、新会社法上、「規模が比較的小さく、又は、株主の人数が比較的少ない会社」については、明文化された規定はありません。

表2 中国の新会社法により新たに認められる機関設計とその役割

役割監査委員会を設置する場合
(新会社法第69条)
監事を設置しない場合
(新会社法第83条)
最高の意思決定機関株主会株主会
業務の執行及び意思決定董事会
(監査委員会を含む)
董事会


業務執行の監督


-
(日本及び中国の会社法より筆者が作成)

2. 董事等の責任強化

今回の改正前の会社法においても忠実義務及び勤勉義務は規定されていたものの、新会社法では、董事、監事、高級管理職は会社に対して忠実義務及び勤勉義務を負い、その内容として、忠実義務は「自己の利益と会社の利益との衝突を回避するための措置を講じなければならず、職権を利用して不当な利益を得てはならない」、勤勉義務は「職務執行の際には会社の利益を最大にするために管理者が通常必要とする合理的な注意を払わなければならない」、と具体的に規定されました(新会社法第180条)。さらに、新会社法では、定款に規定された出資期限通りに全額納付していない場合催促を行う必要があること(新会社法第51条)、董事や高級管理職の職務執行により第三者に損害を与えた場合で事や高級管理職に故意又は重大な過失がある場合は董事や高級管理職も賠償責任を負う必要があること(新会社法第191条)、利益分配について株主会の決議から6カ月以内に行う必要があること(新会社法第212条)、等も規定されていることから、董事等の責任は強化されていると考えられます。

※ 高級管理職:総経理、副総経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書、その他定款で定めた者
 

3. 従業員代表董事制度

新会社法では、従業員の利益の保護や民主的な会社の経営という観点から、監事会を設置し、かつ、会社の従業員代表を有する場合を除き、従業員数が300名以上の会社は、董事会の構成員の中に従業員の代表を含めなければならなくなりました。また、従業員の代表は従業員大会等で民主的に選出されることになります(新会社法第68条)。そのため、従業員が300名以上と比較的規模の大きい会社は、董事会もしくは監事会の中に従業員代表を含める必要があり、代表を選出するプロセスの構築も必要と考えられます。


4. 欠損填補(てんぽ)及び減資

今回の改正前の会社法では、資本準備金を欠損填補に使用することはできませんでしたが、新会社法では、欠損填補のために余剰金を使用する場合、会社はまず任意積立金と法定積立金を使用し、それでも損失填補ができない場合、資本準備金を使用が可能になりました(新会社法第214条)。また、資本準備金を使用してもなお欠損がある場合、登録資本金を減少して欠損を補填(ほてん)できるとされています(新会社法第225条第1項)。

登録資本金を減少させる場合、原則として株主の出資比率に応じて出資額を減少させる必要があり、株主会が登録資本金を減少させる決議を行った日から10日以内に債権者に通知し、かつ、30日以内に新聞又は国家企業信用情報公示システム上で公告を行わなければなりません(新会社法第224条)。ただし、第225条第1項の規定により登録資本金を減少させる場合、通常の減資とは異なり、株主会が登録資本金の決議を行った日から30日以内に新聞又は国家企業信用情報公示システム上で公告をすれば良いことになります(新会社法第225条第2項)。


5. 持分譲渡

今回の改正前の会社法では、第三者へ持分を譲渡する場合、他の株主の同意を得る必要がありましたが、新会社法では、譲渡する持分の数量、対価、支払方式、期限等を書面により通知すれば良いこととなりました。なお、他の株主は同等の条件において優先買取権を有し、書面通知を受領した日から30日以内に回答しない場合、優先買取権は放棄されたものと見なされます(新会社法第84条)。


Ⅲ 想定される日系企業への影響と考察

前述のとおり、今回の会社法の改正では、機関設計、董事等の責任、資本関連や持分譲渡の制度等、多くの改正がなされており、日系企業にも影響があると考えられます。

特に、従業員代表董事制度は、董事の中に従業員代表を含めることで、会社の機密情報の従業員への漏えいリスクの可能性もあり、このようなリスクにどのように対処するのか、従業員代表董事として適任の人材をどのように民主的なプロセスにより選出するのか、従業員代表董事の報酬制度はどうするのか等、検討するポイントが多くあります。董事会での機密情報の漏えいリスクの解決策としては、監事会を設置し、その中に従業員代表を含めるということも考えられます。董事会と形式的に分かれることで一定の効果は見込まれると考えられるためです。また、従業員である日本人駐在員を従業員の代表として選出するということも考えられますが、その選出プロセスもポイントになってきます。

その他にも、監査委員会の設置が可能となったことや小規模の企業については監事を置かないことも可能となったこと等、以前よりも柔軟な機関設計が可能となっており、ガバナンス体制やコストの観点からどのような会社の体制が理想的か検討することが望ましいと考えられます。


Ⅳ おわりに

日系企業にとっては、中国子会社におけるガバナンスやコンプライアンス遵守は注目度の高い分野となっており、今回の会社法の改正をきっかけとして、会社制度やガバナンス体制の検討を行うことが望ましいと考えられます。また、従業員代表董事制度等、日本にはあまりなじみのない制度も新設されましたので、今後各社がどのように対応していくのか注視していくことがが必要と考えられます。


サマリー 

今回の会社法の改正によって、多くの項目が改正され、日系企業も対応しなければなりません。対応方法は各社の現状を考慮する必要があり、改正された項目と現状の状況の分析を行った上で、どのように対応するかを検討する必要があります。


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