EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 ドイツ デュッセルドルフ駐在員 公認会計士 野中 榮助
2015年に入社後、財務会計アドバイザーとしてIFRSコンバージョン業務を中心に新基準移行支援業務、財務デューデリジェンス業務等に従事。21年よりEYデュッセルドルフ事務所に現地日系企業担当として駐在。会計や税務のみならず、M&AサポートやCSRDアドバイザリー業務など、幅広いサービスで現地の日系企業の事業展開を支援している。
要点
企業サステナビリティ報告に関する指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下CSRD)に基づき、CSRD対象企業(上場・非上場問わず、全ての大規模会社)※1は段階的にサステナビリティ報告及び第三者保証に対応することが義務化されています。現行の非財務報告指令(Non Financial Reporting Directive、以下NFRD)の対象企業は24年度を適用初年度として開示を要請され、それ以外の多くの日系企業EU域内子会社のような非上場大規模会社は25年度(12月決算企業であれば25年12月期、3月決算企業であれば26年3月期)を適用初年度として開示が義務付けられています。
CSRD対象企業となった日系企業EU域内子会社においても欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standard、以下ESRS)の12の基準(ESRS1~2、ESRS E1~5、ESRS S1~4、ESRS G1)に準拠した報告を行う必要がありますが、適用初年度(または適用から3年間)については各基準において移行規定の適用が可能であり、開示要求事項は企業の特性に応じて段階的に適用されます。
※1 次の3つの基準のうち2つを満たす会社:
EUグリーンディールに対応するため、欧州委員会は23年7月にCSRDに基づくサステナビリティ報告基準としてESRSを採択しています。CSRDはE環境、S社会、Gガバナンスに係るパフォーマンスを透明性をもって開示することを求める一方、ESRSは持続可能性開示のための比較可能な一貫した同等の枠組みを確立し、ステークホルダーに意思決定に資する情報を提供します。
ESRSで要求される開示項目について、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は次のような企業の特性に応じた段階的導入(<図1>参照)が認められているためCSRD対象企業は自社がどの企業特性に該当し、どのようなスケジュールで開示対応を行っていくのかを勘案して対応する必要があります。
*1 NFRD=NFRD適用企業(EU域内大規模上場企業、銀行、保険会社で従業員数500名超の企業)
*2 Non-NFRD=NFRD非適用企業で全ての大規模企業(多くの日系企業のEU域内子会社のような非上場の大規模企業)
*3 Listed SME=EU域内上場中小企業
European Sustainability Reporting Standards, European Commission, 2023(2024年4月26日アクセス)を基にEYにて作成
CSRDと同時に適用されるEUタクソノミーの概要について解説します。
ESRSに準拠したサステナビリティ情報開示には、EUタクソノミーに基づいてグリーンと認められた経済活動の情報が含まれます。パリ協定、EUグリーンディールに対応し50年までにカーボンニュートラルを達成するためには多額のグリーン投資が必要とされており、その達成のためには公的機関、金融機関だけでなく、民間企業も関与していく必要があります。EUタクソノミーに準拠した持続可能な経済活動とは、6つの環境目標(1.気候変動の緩和、2.気候変動への適応、3.水資源等の使用と保全、4.循環型経済への移行、5.環境汚染、公害の防止及び抑制、6. 生物多様性と生態系の保護及び回復)のうち1つ以上は実質的な貢献がなされ、3つのレベルテスト要件(1.他の環境目標を著しく阻害しないこと、2.OECDガイドライン等に掲げられるS社会、Gガバナンスのミニマムセーフガードに従っていること、3.実質的な貢献を満たす技術スクリー二ング基準に準拠していること)を全て満たした場合に該当します(<図2>参照)。CSRD対象企業は前述EUタクソノミーに整合する売上高、資本的支出、事業運営費の割合を開示することが要求されます。「グリーン」な経済活動を分類するEUタクソノミー規則により、持続可能性に係る開示情報の透明性が高まり、投資家は投資先企業の定量的な情報を比較しやすくなり、企業は環境対応への取り組み次第では資金調達コストの増加につながる懸念があります。
EUタクソノミー規則を基にEYにて作成
"Sustainable finance package", European Commission, finance.ec.europa.eu/publications/sustainable-finance-package_en#taxonomy(2024年4月26日アクセス)
"EUR-Lex - 32020R0852 - EN", EUR-Lex, eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32020R0852(2024年4月26日アクセス)
25年度(12月決算企業であれば25年12月期、3月決算企業であれば26年3月期)から多くの日系企業のEU域内子会社においてCSRDに基づくサステナビリティ報告義務が生じ、28年度(12月決算企業であれば28年12月期、3月決算企業であれば29年3月期)からは非EU企業グループである本社※2においてもCSRDに基づくサステナビリティ報告が義務化される見込みとなっています。第三者保証まで踏まえたCSRD対応をグローバルでどのように対応すべきかといった課題はサステナビリティ戦略だけではなく、データ収集プロセスや設定した重要成績評価指標(KPI)を達成していくための仕組みづくりをどのように整備するかといった内部統制上の課題にもつながります。また、CSRD対象企業の開示コンプライアンスとしての課題だけではなく、CSRD対象企業である顧客からサプライチェーンを通じたデータ収集を要求されることや取引上の要求事項としてもサステナビリティ報告が求められる可能性も懸念され、CSRD対象企業ではない企業にとってもビジネス上の課題が生じる可能性がある点に留意が必要です。本稿が日系企業のビジネスの成功の一助となれば幸いです。
※2 EU域内の純売上高が1億5000万ユーロ以上あり、EU域内にCSRD対象となる大規模な子会社または支店を持つ場合、非EU企業グループとしてサステナビリティ報告義務が生じる。
CSRD対象企業は欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standard)に準拠することとなり、適用初年度における経過措置(段階的導入)及び同時に開示が義務化されるEUタクソノミーに準拠した持続可能な経済活動について解説しました。
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