EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2023年11月21日(火)、大和証券株式会社との共催により「EYベンチャーカンファレンス スタートアップ・IPO最前線 2023~最新IPOマーケット動向と直近IPO企業の舞台裏~」を開催いたしました。
2021年秋以降の厳しいIPOマーケットとその後の大きな環境変化に直面する中、当カンファレンスでは、最新のスタートアップ・IPO動向に焦点を当て、直近IPO企業のCFO及び証券市場やVC業界の第一線でご活躍の専門家を招き、IPOマーケット、ビジネス構築、VC資金調達、上場審査、オファリング、IPO後の状況などについて、トークセッション形式等で深掘りしました。
なお、会場参加・オンライン参加、合わせて400名強のお申込者数があり、関心の高さが伺えました。
EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長 齊藤直人の開催あいさつの後、最初のセッションでは「IPOマーケットの最新動向と今後の見通し」を、続くトークセッションでは、「ビジネス構築、VC資金調達」及び「上場審査、オファリング、IPO後」という2つのテーマを、それぞれ取り上げました。いずれのセッションでも、スタートアップを取り巻く重要な新潮流や普遍的なテーマについて、最前線の立場にいるからこそ分かる現場のリアルを交えてお伝えいたしました。
登壇者:
大和証券株式会社 常務取締役 企業公開担当 丹羽 功氏
大和証券株式会社のIPO部門の統括責任者として数多くのIPO案件を手掛けられている丹羽氏にご登壇いただき、発行体サイド/投資家サイド双方の立場にいるからこそ見える景色をお話いただきました。
まず、グローバルな視点から、日本株を取り巻く環境の好転と投資家の行動変容が相まって日本への投資需要の高まりは確かであること(図1)、また、米国金利の利上げ打ち止め観測のもと、投資家が注目するキーファクターは株主還元や企業業績に回帰していること(図2)を解説いただきました。
(図1 出所:大和証券「IPOマーケットの最新動向と今後の見通し」P8)
(図2 出所:大和証券「IPOマーケットの最新動向と今後の見通し」P7)
一方で投資家の選別色も強まっており、IPOに対する機関投資家のコメント(図3)として、現在のマクロ環境を打破するような企業を求めていることをご紹介いただきました。
(図3 出所:大和証券「IPOマーケットの最新動向と今後の見通し」P10)
次に、セカンドオファリングやユニコーン化の観点では上場時の時価総額の目安は200億円以上であるのに対し(図4)、大宗が上場時時価総額100億円以下である点は引き続き日本市場の課題であるが、官民一体となったスタートアップエコシステムが整ってきており、IPO市場の規制緩和の動き(図5)の他、デットを含めた資金調達や大企業傘下での事業拡大など、企業価値向上の手段は多様化していると解説されました。最後に、この様な状況を踏まえて、今こそ本業に集中し、継続的な企業価値向上の過程でベストなタイミングでの上場を目指してほしいとのメッセージをいただきました。
(図4 出所:大和証券「IPOマーケットの最新動向と今後の見通し」P17)
(図5 出所:大和証券「IPOマーケットの最新動向と今後の見通し」P21)
登壇者:
株式会社ispace 取締役CFO 野﨑 順平氏
株式会社クラダシ 取締役執行役員CFO 髙杉 慧氏
WiL パートナー 大西 健史氏
ファシリテーター:
EY新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー 髙橋 朗
まず、WiL/大西氏からVCの視点から見たスタートアップの資金調達環境について、昨年と比べて2023年9月末時点までのファンド組成金額は減少傾向にあるもののドライパウダーは潤沢に存在する状況等を解説いただきました。
続いて、宇宙及びフードロスという未知の領域を開拓し国内初のIPO企業となった2社(ispace社、クラダシ社)にビジネス構築の勘所を伺いました。ispace/野﨑氏からディープテック領域におけるPL作りの重要性や前例がない会計処理に関して監査法人と協議したエピソード、クラダシ/髙杉氏からBtoCビジネスにおける広告宣伝への全社的取組みや効率的にブランディングする工夫などをお話いただきました。ビジネスを成長させる上では、紆余曲折がありながらも創業時からの軸はぶらさずに粘り強く取り組む重要性は共通するものでした。
次に、資金調達について、ステージ別の投資金額トレンドや投資テーマのトレンドをWiL/大西氏に解説いただきました。
ディープテックとして、デットファイナンスも含めて多額の資金調達を実現したispace/野﨑氏からは、ビジネスモデルと合理性、市場の理解を得るために時間をかけて説明を尽くし泥臭く動き回ったとお話いただきました。クラダシ/髙杉氏からは、レイターになって初めて資金調達した点について、事業連携の面やIPO後を見据えて客観的な評価を確認する狙いがあったとお話いただきました。
登壇者:
株式会社ispace 取締役CFO 野﨑 順平氏
株式会社クラダシ 取締役執行役員CFO 髙杉 慧氏
大和証券株式会社 公開引受第三部長 松下 健哉氏
ファシリテーター:
EY新日本有限責任監査法人 パートナー 大角 博章
まず、大和証券/松下氏から上場審査の動向として、内部管理体制のアウトソーシングや、赤字上場などの論点について解説いただきました。
続いて、EY/大角からリース取引やストック・オプションなど会計・監査上の最新トピックスを紹介させていただきました(図6、7)。
(図6 出所:EY新日本有限責任監査法人「会計・監査上の最新トピックス」)
(図7 出所:EY新日本有限責任監査法人「会計・監査上の最新トピックス」)
トークセッションでは、共に管理人材の一人目として入社したispace/野﨑氏とクラダシ/髙杉氏にIPO準備からオファリングにおける現場のリアルをお話いただきました。共通していたのは、信用できる経理人材を採用して体制作りを進めた点や事業計画の蓋然性に関する説明を尽くした点、オファリングにおいてはインフォメーションミーティングなど投資家との事前のコミュニケーションを数多く行った点です。また、IPO後の変化として、適時開示に加えてSNSを活用した細かな情報発信など投資家との対話をより意識していることや、社内の情報共有とインサイダー情報管理に注意しているとのお話を伺いました。大和証券/松下氏からは、投資家はコミュニケーションした内容は全て覚えていることに留意しつつ、説明を尽くすことや社長のプレゼン力の重要性についてコメントをいただきました。
プログラムの取りまとめとして、最後にEY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター 副センター長 善方正義から閉会のあいさつをさせていただいた後、登壇者と参加者の名刺交換会が催され、関係者のネットワークが図られました。
社会課題解決の原動力となり得るスタートアップに対する注目は増しています。日本のIPOマーケットは昨年厳しい市況を経験し、大きな環境変化に直面しました。今年は昨年を上回るペースでIPO件数が伸び、調達金額も堅調に推移していますが、グローバルの状況を踏まえれば今後も激しい変化はあるものと想定しておくべきではないでしょうか。一方、現政権の後押しもあって、スタートアップエコシステムの構築は徐々にだが、確実に進捗しています。楽観も悲観もせず、最新の動向を理解し、直近のIPO事例から学び、変化へ対応できる様に準備しておくことが大切ではないかと考え、当カンファレンスを企画させていただきました。開催に多大なご尽力をいただいた大和証券株式会社の皆さま、またご多忙のところ、貴重なお話をいただいたご登壇者の皆さまに心から御礼申し上げます。
当法人では、今後もスタートアップエコシステムの発展やIPO市場の活性化に向けて、スタートアップの皆さまにお役に立つスタートアップ・IPO関連のセミナー開催やIPO支援・IPO監査におきましてもさらに体制を強化し積極的に取り組んでまいります。今後も皆さまのご参加を心からお待ちしております。
【共同執筆者】
塚本 健瑠
EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター
※所属・役職は記事公開当時のものです。
最新のスタートアップ・IPO動向に焦点を当て、直近IPO企業2社(ispace社、クラダシ社)のCFO及び証券市場やVC業界の第一線でご活躍の専門家を招き、IPOマーケット、ビジネス構築、VC資金調達、上場審査、オファリング、IPO後の状況などについて、トークセッション形式等で深掘りしました。