EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
現在、保険会社の財務チームの業務の多くは社内向けであり、業績の報告や統制に重点を置いています。ここには、予測的な洞察を⽣み出し、(経営企画部門等の)戦略的ビジネスアドバイザーの役割を果たすためのケイパビリティを⾼める⼤きなチャンスがあります。昨今、保険業界を取り巻く環境がダイナミックに変化していることを踏まえ、一部のリーダーたちは、前向きかつ外向きの視点に立った財務改革プログラムに着手しています。そのリーダーたちの⽬標は、統制と業績の報告の効率化を図ることだけではなく、財務管理全体を強化してビジネスの成果を向上させることです。
このビジョンを実現するためには、経営幹部は、会社全体の財務管理体制を強化するために、財務管理部門が提供するサービスを再定義しなければなりません。実務的には以下のような対応が挙げられます。
EYのFuture of Finance Reimaginedシリーズの最新レポート(PDF、英語版のみ)では、財務部門を進化させる機会を探るとともに、財務部⾨が提供するサービスの最適化を図るにはどうすればよいかについて考察します。
将来的に、財務部門のサービス提供モデルは、強⼒な財務管理による企業の保護や企業リソースの最適化から、ビジネス的価値と顧客価値の創造や戦略的トランスフォーメーションの主導まで、CFOとその組織が果たすさまざまな役割にバランスよく対応したものになるでしょう。
⾃社の取り組みを⾒直すにあたり、保険会社はいくつかの課題に直⾯しています。新たなケイパビリティ(実⾏可能で付加価値の⾼い知⾒を迅速かつ⼤規模に提供する能⼒など)を高めるためには、財務チームが担う⽇常業務の内容の明確化や財務部⾨の組織構造の調整、キャパシティの⼤幅な拡張が必要です。これは、必要な投資(例えば、⼈材やテクノロジーへの投資)への予算の配分にも、新たな優先課題に注⼒する時間の確保にも当てはまります。
財務チームが担うあらゆる業務や活動について、リーダーは以下を問いかける必要があります。
ここに挙げたシンプルな問いにすべて答えることで、品質と費⽤効率性を両⽴させる上で必要なものが浮かび上がってきます。ほとんどの保険会社は、将来的に、社内のセンター・オブ・エクセレンス(CoE)、オフショア拠点、アウトソーシングサービス、マネージド・サービスを独⾃に組み合わせた、異なる中核的業務に重点を置いた財務部門のサービス提供モデルを設計することになるでしょう。誰が何を担当するのか、なぜそうするのかは、保険会社によって異なるものになるでしょう。
すべてにおいて最高水準を目指したいと思うのは当然ですが、時間、コスト、リソース面の制約があるためそれは不可能です。財務部⾨の真の価値を引き出すには、業務分野ごとに異なる⽅法で⾼度な効率性と実効性を実現する必要があります。そこで重要となるのは、どの業務で卓越性を追求し、どの業務を外部に委託するかを⾒極めることです。例えば、すべてのサービスに共通する業務(保険数理モデルの構築、データソーシング、定型的な計算や記録など)は、⼀般的にアウトソーシングの有⼒な候補です。外部の企業に委託することで、コスト効率よく品質の⾼い成果をあげることができます。
⼀⽅、価値の創造と戦略的トランスフォーメーションに重点が置かれる場合は、アウトソーシングせずに自社内で最上級のパフォーマンスの発揮を追求することが有益です。こうした重点業務における成功が、競合他社との差別化につながる可能性があります。
また、事業が行われる場所の近くに置くことが最適なサービスもあれば、集中化できる、そしておそらくは集中化すべきサービスもあります。最も複雑なサービスは、CoEを通して提供することが最適かもしれません。CoEは通常、専⾨的なスキル、技術的な専⾨知識、標準化の経済性を活⽤して、特定のプロセスや機能を最適化します。⼀部の保険会社はCoEを利⽤して(データサイエンスなどの)新しいスキルのコミュニティを構築しています。また、専門的な会計、保険負債の計算、複雑な資産評価、税務などの特定分野のリソースをCoEとして確保している保険会社もあります。
シェアードサービスとオフショアのケイパビリティの拡⼤や変更も一般的な方策の一つです。先進的な保険会社は、もはやコスト削減のためだけに第三者に業務を活用しているわけではありません。今ではマネージド・サービスのビジネスケースには、業界固有の知⾒、深い専⾨知識や先進テクノロジーへのアクセスも含まれるようになりました。これは、基本的な業務以外にも当てはまります。税務、法定報告、保険数理業務のアウトソーシングは、多くの保険会社にとって魅⼒的な選択肢となっています。プロセス全体に加え、将来予測業務や計画⽴案業務までアウトソーシングされているのです。
今後は、最⾼レベルの実績をあげる財務グループの間ではアウトソーシングが⼀般的になると予想されますが、必ずしもすべてのサービスプロバイダーに、例えばエンド・ツー・エンドで部⾨横断的なプロセスの設計などに必要な業界固有の専⾨知識があるとはかぎりません。一方、業界有数のプロバイダーは、特定分野(保険数理、リスクなど)の専門知識も備え、その業界独自の税務上の問題に関する理解も深めていくはずです。最も強固かつ⽣産的なアウトソーシング関係を構築した保険会社は、委託先のプロバイダーを⾃社の業務の延長線上に位置づけ、リスクを共有し、お互いのインセンティブを一致させ、⾼度なコラボレーションを図るようになるでしょう。
財務チームが重点をシフトさせるにつれ、人材の争奪戦が激化する中にあっても組織全体のスキルセットと知識基盤を進化させることが財務部門のリーダーに求められるようになるでしょう。多くの保険会社は、人材の採用とつなぎ止めに取り組むだけでなく、必要なケイパビリティを確保するために既存の従業員の再教育と新たなスキル習得にも努めています。
将来、財務チームでは、テクノロジスト、データサイエンティスト、ビジネスアナリストが会計と保険数理の中核的なスキルを補完する役⽬を果たすことになるでしょう。今後、財務チームは多様な⼈材同⼠のコラボレーションを促す必要もあるでしょう。適切な人材に加え、考え方の多様性とインクルーシブな職場環境もまた、ビジネス上の優位性を高める一助となり得ます。
多くの保険会社は、アクチュアリーの知見を十分に活用しているかどうかを⾃問する必要があります。アクチュアリーは通常、豊富なビジネス知識と優れた解析能⼒を備えています。アクチュアリーの専⾨知識と専⾨技術を活⽤することで、財務部門が顧客と会社のビジネスのために情報(インテリジェンス)を⽣み出し、最終的には価値を創造する能⼒を⾼めることができるはずです。
組織全体で、また第三者のサービスプロバイダーとの間で情報をシームレスに共有しやすくなるよう、将来のサービス提供モデルはテクノロジーとデータに裏打ちされものでなければなりません。ユーザーの信頼を⾼めるためには、オリジナルのデータ・ソースからレポートに⾄るまで、データ品質もモデルに組み込むことが不可⽋です。
継続的改善に関わる⽬標の達成を⽀えるため、分析、さまざまな切り口でのレポーティング、データの可視化といった機能をより多くのユーザーが利⽤できるツールを導⼊する保険会社もあります。こうしたツールの活⽤できる適切なスキルセットを備えることで、チームはより迅速にビジネスニーズに対応できるようになるはずです。
サービス提供モデルの変革には、プロセスの調整も必要となるでしょう。財務部門が新たな業務を導入する場合には特にそうです。新たなプロセスの導⼊に伴い、統制の枠組みも進化させる必要があります。具体的には、統制の簡素化と⾃動化を進めるとともに、予測的かつ予防的なものになるようデザインされる必要があります。それが、キャパシティを拡大し、新たなサービスに注力する後押しになるはずです。
本記事の作成にあたっては、EY UK CFO Consulting Senior ManagerであるNick Smithが協力をしてくれました。この場を借りて、感謝の意を表します。
財務部門のサービス提供モデルを変⾰することで、CFOとその組織は、会社により多くの価値をもたらすことができます。具体的には、財務チームが何をどのように⾏うかを変えることで、保険会社は戦略的かつ安全に、また十分かつ適切な情報に基づいて市場機会を⽣かせるようになり、⼤きな変化の時代にある中でより効果的に競争⼒を⾼めることができます。
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