将来のために保険会社が財務部門を見直すべき理由とは

将来のために保険会社が財務部門を見直すべき理由とは


変化の大きい市場で成功するには財務部門の変革が不可欠です。


要点

  • 財務部門が生まれ変わり、会社のビジネス全体を積極的にリードし、価値を創造する役割を担う絶好のタイミングが訪れている。
  • テクノロジーとデータにおける進歩により、財務部門が担うことのできる業務の範囲が変わってきた。包括的なデータが集まるようになり、会社全体の業績を結びつけて考えやすくなっている。
  • 単に自動化による業務の効率化だけでなく、財務部門が提供するサービスと、いかに会社のビジネスに付加価値をもたらすかの見直しも目指す必要がある。


EY Japanの視点

日本の保険業界においても、IFRSや経済価値ソルベンシー(ESR)の議論の進展を受けて、経済価値に基づく業績管理指標(KPI)を含む多面的なKPIの経営への活用が一層重要になってくると考えられます。財務部門は当該指標を事後的に集計・報告するだけでなく、データに基づく先を見越した戦略的な助言を経営企画部門などに提供できる態勢を整備し、企業の成長に資する役割がより一層求められるでしょう。


EY Japanの窓口

山野 浩
EY Asia-Pacific 金融サービス アシュアランスリーダー EY Japan 保険アシュアランスリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

顧客の期待の変化、絶え間ないテクノロジーの進歩、活用できるデータの急増により、保険会社が業績を向上させ、成長を遂げるまたとないチャンスが生まれています。それに伴い、財務部門を含めた主要部門の変革を果たすことができるかもしれません。財務会計の新たな基本的枠組みの導入により、業界の業績の測定方法が変わるでしょう。これもまた、大きな変化を促す要素となるはずです。

このような状況から、保険会社がより幅広い財務部門の見直し、再定義、そして変革を行うには、今が絶好のタイミングだと私たちは考えています。その際には、財務の目的と財務がオペレーティングモデルに対して提供するサービスやビジネスとの一体化から、必要となるツールと人材に至るまで、あらゆることを俎上に載せなければなりません。より幅広く、より大胆な視点で変革をとらえることが財務リーダーには求められます。目指すべきゴールは、会社への助言と価値の創造において、より積極的かつ戦略的な役割を担うことです。

EYの最新のレポートFinance in insurance reimagined: the why, what and how of transformation(PDF)では、私たちが調査した課題や事例の中で詳しく考察しています。

財務についてより大きくかつ広い視点から考えるということは、すなわち、財務計算、財務計画、財務管理に携わる複数のチームや部門を一元化するということです。従来の財務担当部署の枠を超えて、保険数理チーム、投資運用チームのほか、特定のリスク管理チームが連携して、正確な情報と明確な知見を提供する必要があります。これらのグループすべてがシームレスに連携し、同じタイムリーなデータセットにアクセスし、ビジネスにより多くの付加価値をもたらすという財務部門の未来像をEYでは描いています。税務チームとトレジャリーチームも、幅広い財務エコシステムとこれまで以上につながりを深める必要があります。

 

変化を促す主な要因

今回のレポートでは、変化を促す主な要因として、以下の5つを挙げています。
  1. ビジネスニーズの変化:顧客の期待、競争環境、規制要件、保険引受、テクノロジー、データが変化した結果、保険会社は新たなデジタルプラットフォーム、プロセスの自動化、顧客サービス能力の向上に多大な投資をするようになりました。しかし、財務部門の重要な役割である意思決定の支援、知見の導出、資本計画、企業を守る能力が追いついてこなければ、初期投資で生まれるはずの価値の半分は絵に描いた餅のままです。企業が業務を進化させる中、幅広い財務担当組織も投資の評価方法、リソースの配分方法、リターンの測定方法、業績の報告方法を進化させる必要があります。

  2. テクノロジーの転換点:テクノロジーは、財務管理、保険数理管理、リスク管理が担うことのできる業務の範囲を変えました。これまでは「ちょっと無理」だと思われていたことも射程圏内に入ってきています。具体的には、保険数理モデルの再構築とそのプラットフォームの刷新、主要なERPと企業業績管理(EPM)ソリューションのクラウドへの移行、DaaS(サービスとしてのデータ)ソリューションの導入などです。それにより、大規模化、能力の拡充、迅速化、業務コストの削減が実現します。また処理が円滑になり、整合性のとれたデータに容易にアクセスできるようになり(リスク管理や保険数理管理を担当する組織との一元化では不可欠)、シナリオをモデル化する能力と知見を導き出す能力が向上するなど、さまざまなチャンスが生まれます。

  3. 規制要件の強化と長期的価値への移行:大きな影響を及ぼしているのが、IFRS第17号(保険契約)、IFRS第9号(金融商品)、米国会計基準における長期保険契約に関する会計処理の限定的な改善(LDTI)などの新たな会計基準です。データの利用可能性と透明性に関する規制要件が、ESG(環境・社会・ガバナンス)関連を中心に強化されています。新たな指標の導入により、生命保険会社、損害保険会社ともに、利益の測定と決算の報告の仕方が根本的に変わるはずです。場合によっては、これらの新たな数値を経営幹部(と金融市場)が理解し、解釈する手助けを財務リーダーが行う必要も出てくるでしょう。保険会計は以前から複雑でしたが、新たな規制により、少なくとも短期的に、より一層複雑だと感じられるようになるはずです。

  4. 人材争奪戦の激化:クラウドの諸機能、人工知能、機械学習、ハイパースケール・コンピューティングが会計、税務、保険数理のプロセスを激変させる中、今後はより多くの情報に基づいた意思決定とリスクインテリジェンスの強化によって差別化を行い、競争優位性を獲得することになるでしょう。財務部門は、分析能力に優れ、テクノロジーに詳しい人材を増やす必要があります。つまり、数少ない優秀な人材を獲得し、定着させる能力を高めなければならないということです。次世代の人材は、先進テクノロジーに触れる機会や給料以上の価値のあるキャリアなど、自分にとって有意義な職場エクスペリエンスも求めています。

  5. 大きな潜在的メリット:財務部門を見直す理由の中で、最後の、そしておそらく最も魅力的な理由は、それによって企業にもたらされる可能性のあるメリットです。最初に動いた企業や早期見直しを達成した企業は短期的価値を実現できるだけでなく、持続可能な競争優位性を長期にわたって維持できるでしょう。迅速かつ大胆に行動し、財務部門、保険数理部門、リスク管理部門、税務部門のデジタル化、一元化、変革を行う保険会社は、業務の効率化、戦略重視型への移行といった価値を得ることができ、それがビジネスに付加価値をもたらすはずです。

 

財務の未来に向けた主な戦略

変化を促す上記の5つの要因に加えて、今回のレポートでは、未来の財務部門を構築する4つの主な戦略にもスポットを当てています。

1. ビジョンを定め、財務部門が提供するサービスを明確化し、ビジネスと一体化する

優れた財務部門は、ビジョンを明確に定め、そのビジョンを指針として、プロセス設計やサービスポートフォリオから、テクノロジーの選定、組織モデルまで、あらゆる業務を行っています。このようなビジョンを策定するには、場合によっては難しいかもしれない、以下のような問いを投げかけることが必要です。

  • 私たちは実際にどのような価値をもたらしているのか?
  • 真のコアケイパビリティとは?
  • 他部門や外部の方がサービスをより効果的に提供できるのではないか?

財務部門のミッションと目的を定めるには、正しい答えを見つけることが不可欠です。また、財務部門の担当ではない業務を明確化することも重要になります。

2. 価値創造の基盤となるデータ管理を強化する

未来の財務部門の構築では、データ管理能力の強化が最も重要な投資先であることはほぼ間違いありません。その背景には、レガシーシステムに保存された莫大な量のデータの管理に多くの企業が苦労していることがあります。このようなデータは激増し続けており、この問題は深刻化する一方でしょう。


財務担当組織は、業績について深い知見を得るための入り口として機能することができ、またそうである必要があります。これは、単に現在の業績についてより明確な知見を得て、過去の成果を効率的に報告すればよいということではありません。データ管理に精通し、より的確な意思決定に必要なフォワードルッキングな視点を提供できるようになることが財務部門には求められます。

3. イネ―ブリング技術とクラウドを活用して、イノベーションを起こし、自動化を進め、業務を最適化する

変革に成功した財務チームはビジネスプロセスの全過程を自動化し、優れたサービスの提供体制を整えています。効率性と有効性を高めるには、プロセスの全過程で処理を円滑化することが不可欠です。実際、プロセスの自動化を進めることで、取引処理とデータ操作から解放され、より戦略的で、分析能力を要し、付加価値を生む業務に注力できるようになります。強力なテクノロジー戦略には、以下のようなメリットがあります。

  • アプリケーションの拡張性が高く、企業全体で幅広く導入できる
  • アプリケーションランドスケープ全体の統合を簡単に実現できる
  • 柔軟性が高く、コンピューティング能力・容量にオンデマンドでアクセスできる
  • ITの総所有コストを削減できる
     

4. ふさわしい人材とチームを登用し、適切な方法で取り組めるようにする

保険会社がサービスやデータ、テクノロジーの戦略を実行するにあたっては、それに適した人材、企業文化、組織設計が必要です。また、財務部門がテクノロジーを活用し、真のデータドリブン型組織になる中で、イノベーションを起こし、パフォーマンスを高水準に保つことも求められるようになります。財務部門はビジネスとの連携を強めるだけでなく、幅広い財務部門内のグループ間の連携も強化しなければなりません。

 

変革設計の原則

このような規模での変革を推し進めるには、革新的な思考と、段階的に変えていくアプローチを組み合わせる必要があります。特に重点を置くべきなのは、企業文化の変革、能力増強、新たなソーシング戦略とベンダー管理戦略の策定です。

失敗に終わった変革計画には共通の落とし穴があります。この落とし穴にはまらないように、財務リーダーは、大胆かつ独創的な発想と確かな戦術で徐々に成果を上げていくことで、勢いをつけなければなりません。長期的な視点を持つことが、実行可能な計画の策定に役立つはずです。それにより、最も喫緊の「今解決すべき」問題に対処し、継続的なイノベーションの必要性を見落とすことなく、変革に必要な能力を構築できます。

ビジョンと目的を運用化し、そして何より変革の成果を長期間にわたり維持し続けるには、企業文化を変える必要があります。目指すところを明確にし、それを成し遂げるための計画を策定し、必要なリソースを注ぎ込まなければ、多大な努力や能力が要求される困難な目標は達成できません。チームの士気が高まれば高まるほど、変革計画の有効性が高まるため、コミュニケーションは重要です。

今後は、データの統合、先進テクノロジー、力を備えたチームだけでなく、主要なベンダーやパートナーと互恵的な関係を構築する能力も優秀な財務部門の条件になるでしょう。リーダーは、パートナーに求めるさまざまな特性や、最も適した関係の構築の仕方を考え抜いて決めなければなりません。専門技術の互換性や企業文化の相性も重要な判断材料です。

 

未来への道

このような財務グループは、組織的能力を拡充し、プロセスを合理化して連携させ、テクノロジーとデータを強化することで、会社が戦略的かつ安全に、情報に基づいて市場機会を生かす手助けをしています。財務グループの存在によって会社の競争力は高まり、純利益の向上に向けたより有意義な貢献につながるでしょう。

すべての業績データが集まる場として、財務部門は業績を正確に測定し、会社のいたるところでのビジネスチャンスを見極め、今後の予測をモデル化する独自の役割を担っています。このような視点を持っているからこそ、不確実性が高まり、急速に進化が進む時代にあっても、戦略的アドバイザリーサービスを提供し、イノベーションと成長を促進する手助けができるのです。

過度に野心的な変革計画のリスクを業界のプロフェッショナルはよく知っています。しかし、将来の上昇傾向が非常に説得力があるものであることから、財務リーダーは、無理のない範囲で価値を創造していこうとするのであれば、遅かれ早かれ行動を起こすはずだと私たちは見ています。

本記事の作成にあたり、EY Global Insurance Finance Transformation LeaderであるSteve Cappsにご協力をいただきました。ここに同氏に対して感謝の意を表します。


レポートの全文は、「Finance in insurance reimagined: the why, what and how of transformation(PDF)」をご覧ください。

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サマリー

社会的要因、マクロ経済的要因、市場要因、規制的要因が保険会社の経営と競争のあり方を変えつつあります。変革を成功に導くことができるのは、業界を取り巻く環境が今以上に変化しても、会社が進化を遂げ、勝ち抜くことに貢献できるだけの力を備えた財務部門のシニアリーダーです。先を見越して戦略的な助言をする、会社のアドバイザー役を果たし、成長とイノベーションの促進に役立つサービスを提供することを目指す必要があります。


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