以下、4つの各要素について、本基準の要求事項を詳述します。
1. ガバナンス (Governance)
一般目的財務報告の利用者が、企業がサステナビリティ関連のリスクと機会をモニタリングおよび管理するために用いるガバナンスのプロセス、統制および手続に関して理解できるよう、具体的には、以下に関する各種情報を開示することが求められます。[S1.26, 27]
(a) サステナビリティ関連のリスクと機会に対する監督に責任を持つガバナンス組織(ガバナンスに責任を持つ取締役会などのボード、委員会または同等の機関を含む)または個人
(b) それらのプロセスにおける経営者の役割
2. 戦略 (Strategy)
一般目的財務報告の利用者が、サステナビリティ関連のリスクと機会を管理するための企業の戦略を理解できるようにするために、以下の事項を開示しなければなりません。[S1.28]
(a) 企業の見通しに影響を及ぼすと合理的に予想し得るサステナビリティ関連のリスクと機会
企業の見通しに影響を及ぼすと合理的に予想し得るサステナビリティ関連のリスクと機会を記述し、サステナビリティ関連のリスクと機会の効果が発生することが合理的に予想し得る時間軸(短期、中期、長期)を特定し、どのように「短期」、「中期」および「長期」を定義づけたかを説明し、どのようにそれらの定義が、戦略の意思決定のために企業に用いられている計画の時間軸に結びついているかの説明が求められています。[S1.30]
(b) それらのサステナビリティ関連のリスクと機会が、企業のビジネスモデル※5とバリューチェーンに及ぼす現在および予想される影響
サステナビリティ関連のリスクと機会が自社のビジネスモデルとバリューチェーンに及ぼす現在の影響と予想される今後の影響を理解するための情報として、リスクと機会がビジネスモデルとバリューチェーンに及ぼす影響、およびリスクと機会がどこに集中しているか(例えば、地理上の地域、施設、資産の種類)について開示しなければなりません。[S1.32]
(c) サステナビリティ関連のリスクと機会が、企業の戦略と意思決定に及ぼす影響
戦略や意思決定において企業が、サステナビリティ関連のリスクと機会にどのように対処してきたか、そしてしようとしているか、の開示が求められます。また、定量的・定性的情報を含む、過去に開示された計画の進捗状況、およびサステナビリティ関連のリスクと機会の間のトレードオフ(例えば、新規事業のための立地に関する意思決定を行う際、当該事業が環境に与える影響と、地域社会において創出する雇用機会との間のトレードオフ)をどのように考慮したかについて開示しなければなりません。[S1.33]
(d) サステナビリティ関連のリスクと機会が、現在と将来に及ぼす財務的影響
以下の開示が本基準では求められています。[S1.34]
(i) 現在の財務的影響
サステナビリティ関連のリスクと機会が報告期間の財政状態、財務業績およびキャッシュ・フローに与えている影響
(ii) 将来に及ぼす財務的影響
短期、中期および長期にわたってサステナビリティ関連のリスクと機会が企業の財政状態、財務業績およびキャッシュ・フローに与える予想される影響(サステナビリティ関連のリスクと機会が企業の財務計画にどのように組み込まれているかを含む)
(e) サステナビリティ関連のリスクに対する企業の戦略とビジネスモデルのレジリエンス
企業は、一般目的財務報告の利用者が、企業のサステナビリティ関連のリスクから生じる不確実性に適応する能力を理解できるような情報として、どのように評価が実行されてきたのか、および、時間軸の情報を含む、サステナビリティ関連のリスクに係る戦略やビジネスモデルのレジリエンスの評価に関する定性的情報を開示しなければなりません。また、該当する場合には、定量的情報の開示が求められ、定量的な情報を提供する場合、企業は単一の金額または金額の範囲を開示することができます。[S1.41]
3. リスク管理 (Risk management)
一般目的財務報告の利用者が、以下を達成できるよう、リスク管理に関する開示が必要とされています。[S1.43]
(a) 企業がリスク管理の目的でサステナビリティ関連のリスクを識別、評価、優先順位付け、モニタリングするために使用しているプロセスと、それらのプロセスが企業の総合的なリスク管理プロセスにどの程度組み込まれているか、またどのように組み込まれているかを理解する
(b) 全体的なリスクプロファイルおよびリスク管理プロセスを評価する
具体的に以下の開示が本基準では求められています。[S1.44]
(a) サステナビリティ関連のリスクを識別、評価、優先順位付け、モニタリングするために用いているプロセスと関連する方針。以下の情報が含まれます。
(i) 使用するインプットパラメータ(例えば、データソース、対象となる事業の範囲)、仮定に使用された詳細な情報
(ii) 企業がサステナビリティ関連のリスクの識別を伝達するために、シナリオ分析を用いたのか、およびどのように用いたのか
(iii) これらのリスクの性質、発生可能性および影響の程度をどのように評価しているのか(例えば、評価に使用した定性的要素、定量的な閾値、その他の規準)
(iv) 他の種類のリスクとの比較の中でサステナビリティ関連リスクを優先順位付けする方法
(v) 企業がどのようにサステナビリティ関連のリスクをモニタリングしているか
(vi) 過年度と比較して使用するプロセスを変更したか、およびどのように変更したか
(b) サステナビリティ関連の機会を識別、評価、優先順位付け、モニタリングするために企業が使用するプロセス
(c) サステナビリティ関連のリスクと機会を識別、評価、優先順位付け、モニタリングするプロセスが企業の全体的なリスク管理プロセスに統合および伝達されている程度、ならびにどのように統合および伝達されているか。
4. 指標と目標 (Metrics and targets)
企業がサステナビリティ関連のリスクと機会を測定するための指標や目標を開示することで、一般目的財務報告の利用者は、企業が設定した、または法規制によって達成することが義務付けられている目標に対する進捗を含む、企業のサステナビリティ関連のリスクと機会に関連するパフォーマンスを理解することができます。[S1.45]
具体的には、将来の見通しに影響を与えると合理的に予想し得る個別のサステナビリティ関連のリスクと機会ごとに、以下の開示が求められています。[S1.46]
(a) 適用されるIFRSサステナビリティ開示基準で要求される指標
(b) 企業が以下を測定し、モニタリングするために使用している指標
- 企業のサステナビリティ関連のリスクと機会
- それらのリスクと機会に関連するパフォーマンス(企業が設定した、または法規制によって達成することが義務付けられている目標に対する進捗を含む)
開示される指標には、特定のビジネスモデルや活動、ある産業への参画を特徴づけるその他一般的特徴に関連する指標が含まれていなければならないとされています。[S1.48]
企業戦略の最終目標の達成に向けた進捗状況を評価するために設定された目標や、法規制によって達成することが義務付けられている目標に関する情報も開示しなければなりません。具体的には以下の開示が求められています。[S1.51]
(a) 目標を設定し、目標の達成に向けた進捗状況を評価するために使用した指標
(b) 企業が設定または達成が求められる特定の定性的または定量的な目標
(c) 目標が適用される期間
(d) 進捗状況を測定するための基準となる期間
(e) マイルストーンや中間目標
(f) 各目標に対するパフォーマンスと、企業のパフォーマンスにおけるトレンドと変化の分析
(g) 目標の変更および当該変更に関する説明
指標(目標を設定し、目標の達成に向けた進捗状況を評価するために使用したものも含む)の定義と計算は、時間と共に首尾一貫していなければなりませんが、指標を再定義または置き換える場合は、所定の開示が必要となります(詳細は、VI. 3.比較情報の章を参照)。[S1.52]