EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 北出 旭彦
当法人入社後、大阪事務所にて主として海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、テクニカルコンサルテーション、執筆活動などに従事している。当法人 シニアマネージャー。
要点
2021年12月に経済協力開発機構(OECD)がBEPS2.0プロジェクトの第2の柱であるグローバル税源浸食防止ルール(以下、第2の柱モデルルール※)を公表しました。第2の柱モデルルールは135以上の法域によって合意され、各法域において第2の柱モデルルールの導入が進められています。
日本においても、令和5年度税制改正において、第2の柱モデルルールのうち所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが23年3月28日に成立した改正法人税法において定められ、24年4月1日以後開始する事業年度から適用することとされました。
一方で、国際会計基準審議会(以下、IASB)は、第2の柱モデルルールをIAS第12号「法人所得税」においてどのように適用するかについて、現時点において明確ではないことから、23年1月に公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」を公表しました。その後、利害関係者からのコメントを踏まえて再審議を行い、一部の要求事項に変更を加えた上で、23年5月に当該税制に伴い発生する繰延税金資産及び繰延税金負債を認識及び開示しないとする「一時的な例外規定」を導入した「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正)」(以下、本修正)が公表され即時に適用されています。公開草案の詳細な内容及び本修正でも導入された一時的な例外規定については、情報センサー2023年4月号 「国際課税ルール BEPS2.0 第二の柱導入に伴うIASBプロジェクト」において解説していますので、併せてご確認ください。
本修正では、一時的な例外規定に加えて、追加の開示要求事項が規定されており、個々の企業の状況に応じた開示が必要となります。本稿では、具体的な開示例を用いながら、開示要求事項について解説します(対象:3月決算会社)。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。
※ 第2の柱モデルルールの詳細については、「Applying IFRS:国際的な税制改革ー第2の柱の開示2023年11月」をご参照ください。
第2の柱の法人所得税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債に関する認識及び開示に対してIAS第12号を適用しないとする例外規定を適用した旨の開示が必要となります(IAS第12号第88A項)。
一時的な例外規定が適用されることで、連結損益計算書の法人所得税費用には反映されていないエクスポージャーが生じる可能性があります。一方で、財務諸表利用者はそのようなエクスポージャーを理解することが困難となります。そのため、本修正では、財務諸表利用者が当該法制から生じる第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを理解するのに役立つ既知の又は合理的に見積可能な情報を開示することとされました(IAS第12号第88C項)。エクスポージャーに関する情報としては定性的情報及び定量的情報を開示することとされており、これは一定のレンジの形で提供することも可能となります。また、これらの情報が既知ではない又は合理的に見積可能ではない場合には、その旨を開示するとともに、エクスポージャーの評価の進捗に関する情報を開示することとされました(IAS第12号第88D項)。
開示例1では、第2の柱の法制の適用範囲内にあり、評価を実施した結果、エクスポージャーは存在するものの、重要性がないとの結論に至った状況について説明しています。
開示例2では、第2の柱の法人所得税に対する重要性がある潜在的なエクスポージャーを有している状況を説明しています。この開示例では、IAS第12号第88D項の設例で例示されている、企業がどのような影響を受けるのか、エクスポージャーの対象となる法域に関する定性的情報を提供しています。また、利益のうち、第2の柱の法人所得税が課せられる可能性のある割合及びIAS第12号に従って当該利益に適用される平均実際負担税率を示す定量的情報を提供しています。
本修正では、これらの開示を作成するに当たり、考え得る将来の取引及び将来の事象に関する情報(フォワードルッキング情報)を開示することまでは求めないこととされています。したがって、将来の利益の予想や将来の期間に採用されるであろう緩和措置の反映、将来の税制改正の考慮などは求められず、あくまで報告期間末時点の企業の状況における情報に基づいて開示を作成することとなります。
前述の通り、令和5年度税制改正で導入された所得合算ルールは24年4月1日以後開始する事業年度から適用されることとなるため、25年3月期から実際に当期税金費用が生じる可能性があります。本修正では、第2の柱の法人所得税の相対的な水準を財務諸表利用者が理解するのに資する情報を提供するため、第2の柱の法人所得税に関する当期税金費用(収益)を区分して開示することとされています(IAS第12号第88B項)。
開示例3では、第2の柱の法人所得税に関する当期税金費用の金額を、当該費用が関係する法域についての情報と合わせて財務諸表利用者に提供しています。
第2の柱モデルルールは複雑であり、企業における影響を評価することは容易ではありません。財務諸表利用者にとっても同様であり、各企業がどのような影響を受ける可能性があり、将来どの程度の法人所得税費用の追加負担が生じるかを評価することは困難です。そのため、財務諸表利用者が適切な判断が可能となるよう、十分な開示が行われることが期待されます。
なお、本稿は当法人発行の「Applying IFRS:国際的な税制改革ー第2の柱の開示2023年11月」から関連する解説を要約して記載していますので、さらなる詳細については当冊子本文をご参照ください。
令和5年度税制改正において導入されたBEPS2.0プロジェクトの第2の柱モデルルールに関して、修正IAS第12号の適用に伴う新たな開示要求事項について具体的な開示例を用いながら解説します。
Applying IFRS:国際的な税制改革ー第2の柱の開示2023年11月
本冊子は2023年5月23日にIASBより公表された「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール―IAS第12号の修正」に関して、本修正で導入された強制的な一時的例外措置を解説するとともに、新たな開示要求事項を開示例と併せて解説しています。
国際課税ルール BEPS2.0 第二の柱導入に伴うIASBプロジェクト
IFRS実務講座:情報センサー2023年4月号より:2021年12月に、経済協力開発機構(OECD)がBEPS2.0プロジェクトの第2の柱モデルルールを公表しました。IASBは、当該ルールをIAS第12号「法人所得税」の適用方法について明確ではないことから、一時的な例外規定を設ける改訂を織り込んだ公開草案を公表しました。
IFRS Developments:IAS第12号の修正:国際的な税制改革 第2の柱モデルルール
IFRS Developments第218号 2023年5月:2023年5月23日、IASB「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール-IAS第12号の修正」を公表しました。本修正には、繰延税金の会計処理に対して強制的に適用される一時的な例外措置、および、第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを理解するための新たな開示要求を導入することが織り込まれています。
IFRS Developments:IAS第12号の修正前における第2の柱の法人所得税の会計処理
IFRS Developments第214号 2023年4月:2023年4月11日、IASBは公開会議を開催し、公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルールIAS第12号の修正案」に対して受領したフィードバックについて議論し、一時的な例外措置及び一定の追加的な開示要求を導入することでIAS第12号の修正の最終化を決定しました。
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