国際的な税制改革-第2の柱の開示

情報センサー2024年4月 IFRS実務講座

国際的な税制改革-第2の柱の開示


令和5年度税制改正において導入されたBEPS2.0プロジェクトの第2の柱モデルルールに関して、修正IAS第12号の適用に伴う新たな開示要求事項について具体的な開示例を用いながら解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 北出 旭彦

当法人入社後、大阪事務所にて主として海運業、小売業、製造業などの会計監査および内部統制監査に携わる。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、テクニカルコンサルテーション、執筆活動などに従事している。当法人 シニアマネージャー。



要点

  • BEPS2.0プロジェクトの第2の柱モデルルールの導入に伴い、IAS第12号が修正された。
  • 修正IAS第12号では新たな開示要求事項が定められた。
  • 具体的な開示例を用いながら、新たな開示要求事項について解説。


Ⅰ はじめに

2021年12月に経済協力開発機構(OECD)がBEPS2.0プロジェクトの第2の柱であるグローバル税源浸食防止ルール(以下、第2の柱モデルルール)を公表しました。第2の柱モデルルールは135以上の法域によって合意され、各法域において第2の柱モデルルールの導入が進められています。

日本においても、令和5年度税制改正において、第2の柱モデルルールのうち所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが23年3月28日に成立した改正法人税法において定められ、24年4月1日以後開始する事業年度から適用することとされました。

一方で、国際会計基準審議会(以下、IASB)は、第2の柱モデルルールをIAS第12号「法人所得税」においてどのように適用するかについて、現時点において明確ではないことから、23年1月に公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」を公表しました。その後、利害関係者からのコメントを踏まえて再審議を行い、一部の要求事項に変更を加えた上で、23年5月に当該税制に伴い発生する繰延税金資産及び繰延税金負債を認識及び開示しないとする「一時的な例外規定」を導入した「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正)」(以下、本修正)が公表され即時に適用されています。公開草案の詳細な内容及び本修正でも導入された一時的な例外規定については、情報センサー2023年4月号 「国際課税ルール BEPS2.0 第二の柱導入に伴うIASBプロジェクト」において解説していますので、併せてご確認ください。

本修正では、一時的な例外規定に加えて、追加の開示要求事項が規定されており、個々の企業の状況に応じた開示が必要となります。本稿では、具体的な開示例を用いながら、開示要求事項について解説します(対象:3月決算会社)。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。

※ 第2の柱モデルルールの詳細については、「Applying IFRS:国際的な税制改革ー第2の柱の開示2023年11月」をご参照ください。


Ⅱ 新たな開示要求事項と開示例

(1) 一時的な例外規定を適用している旨の開示

第2の柱の法人所得税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債に関する認識及び開示に対してIAS第12号を適用しないとする例外規定を適用した旨の開示が必要となります(IAS第12号第88A項)。


(2) 24年3月期の開示―制定された法制が発効する前の期間における開示

一時的な例外規定が適用されることで、連結損益計算書の法人所得税費用には反映されていないエクスポージャーが生じる可能性があります。一方で、財務諸表利用者はそのようなエクスポージャーを理解することが困難となります。そのため、本修正では、財務諸表利用者が当該法制から生じる第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを理解するのに役立つ既知の又は合理的に見積可能な情報を開示することとされました(IAS第12号第88C項)。エクスポージャーに関する情報としては定性的情報及び定量的情報を開示することとされており、これは一定のレンジの形で提供することも可能となります。また、これらの情報が既知ではない又は合理的に見積可能ではない場合には、その旨を開示するとともに、エクスポージャーの評価の進捗に関する情報を開示することとされました(IAS第12号第88D項)。

開示例1では、第2の柱の法制の適用範囲内にあり、評価を実施した結果、エクスポージャーは存在するものの、重要性がないとの結論に至った状況について説明しています。

  • 第2の柱の法制が、当グループが営業活動を行っている一定の法域では制定、又は実質的に制定されている。本法制は、2024年4月1日以降に開始する当グループの会計年度に適用される。当グループは制定された又は実質的に制定されている法律の範囲内にあり、第2の柱の法人所得税に対する潜在的なエクスポージャーの評価を実施した。

    第2の柱の法人所得税に対する潜在的なエクスポージャーの評価は、当グループの構成企業の直近の税務申告、国別報告書及び財務諸表に基づいている。当該評価では、当グループが営業活動を行っている法域のほとんどで第2の柱の実効税率は15%を上回っている。移行期セーフ・ハーバー救済措置が適用されない法域は限られた数しかなく、第2の柱の実効税率も15%に近似している。当グループは、それらの法域に関し、第2の柱の法人所得税に対する重要性があるエクスポージャーを想定していない。

開示例2では、第2の柱の法人所得税に対する重要性がある潜在的なエクスポージャーを有している状況を説明しています。この開示例では、IAS第12号第88D項の設例で例示されている、企業がどのような影響を受けるのか、エクスポージャーの対象となる法域に関する定性的情報を提供しています。また、利益のうち、第2の柱の法人所得税が課せられる可能性のある割合及びIAS第12号に従って当該利益に適用される平均実際負担税率を示す定量的情報を提供しています。

  • 第2の柱の法制が、当グループが営業活動を行っている一定の法域では制定、又は実質的に制定されている。本法律は、2024年4月1日以降に開始する当グループの会計年度に適用される。当グループは制定された又は実質的に制定されている法律の範囲内にあり、2025年3月31日に終了する年度の第2の柱の法人所得税に対する潜在的なエクスポージャーの評価を実施した。

    第2の柱の法人所得税に対する潜在的なエクスポージャーの評価は、当グループの構成企業について入手可能な直近の税務申告、国別報告書及び財務諸表に基づいている。当該評価を基に、当グループは、X国及びY国で稼得された利益に関し、第2の柱の法人所得税に対する潜在的なエクスポージャーを識別している。潜在的なエクスポージャーは、第2の柱の実効税率が15%未満の法域の構成企業(主に営業活動を行っている子会社)からのものである。これらの法域の第2の柱の実効税率は、子会社企業が受けるタックス・ホリデー(一時免税)及びR&Dの税額控除を考慮した一定の調整によって低くなっている。

    当グループの2024年3月31日に終了する年度の継続事業からの税前利益のうち、第2の柱の法人所得税の対象になる割合は約Z%である。IFRSにおいてはこれらの利益に適用される平均実際負担税率はR%になる(X国とY国に適用されるのはそれぞれX%とY%である)。さらに、2025年3月期の税前利益に占める割合及び実際負担税率は、収益、コスト及び外国為替レートなどの要因に左右される。

本修正では、これらの開示を作成するに当たり、考え得る将来の取引及び将来の事象に関する情報(フォワードルッキング情報)を開示することまでは求めないこととされています。したがって、将来の利益の予想や将来の期間に採用されるであろう緩和措置の反映、将来の税制改正の考慮などは求められず、あくまで報告期間末時点の企業の状況における情報に基づいて開示を作成することとなります。


(3) 25年3月期以降の開示―当期税金費用の開示

前述の通り、令和5年度税制改正で導入された所得合算ルールは24年4月1日以後開始する事業年度から適用されることとなるため、25年3月期から実際に当期税金費用が生じる可能性があります。本修正では、第2の柱の法人所得税の相対的な水準を財務諸表利用者が理解するのに資する情報を提供するため、第2の柱の法人所得税に関する当期税金費用(収益)を区分して開示することとされています(IAS第12号第88B項)。

開示例3では、第2の柱の法人所得税に関する当期税金費用の金額を、当該費用が関係する法域についての情報と合わせて財務諸表利用者に提供しています。

  • 当連結会計年度の連結損益計算書に認識された法人所得税費用には、第2の柱の法人所得税に関する税金費用489百万円(前連結会計年度:該当なし)が含まれている。当期税金費用の当該構成要素は、主にX国とY国で稼得された利益に係るものである。


Ⅲ おわりに

第2の柱モデルルールは複雑であり、企業における影響を評価することは容易ではありません。財務諸表利用者にとっても同様であり、各企業がどのような影響を受ける可能性があり、将来どの程度の法人所得税費用の追加負担が生じるかを評価することは困難です。そのため、財務諸表利用者が適切な判断が可能となるよう、十分な開示が行われることが期待されます。

なお、本稿は当法人発行の「Applying IFRS:国際的な税制改革ー第2の柱の開示2023年11月」から関連する解説を要約して記載していますので、さらなる詳細については当冊子本文をご参照ください。


サマリー

令和5年度税制改正において導入されたBEPS2.0プロジェクトの第2の柱モデルルールに関して、修正IAS第12号の適用に伴う新たな開示要求事項について具体的な開示例を用いながら解説します。


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本冊子は2023年5月23日にIASBより公表された「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール―IAS第12号の修正」に関して、本修正で導入された強制的な一時的例外措置を解説するとともに、新たな開示要求事項を開示例と併せて解説しています。


国際課税ルール BEPS2.0 第二の柱導入に伴うIASBプロジェクト

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IFRS Developments:IAS第12号の修正:国際的な税制改革 第2の柱モデルルール

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IFRS Developments:IAS第12号の修正前における第2の柱の法人所得税の会計処理

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