2021年にIPO準備会社と投資家が期待できること
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EY Q4 2020 global IPO trends report (PDF)
企業は2021年に⼤きな期待を抱いていますが、果たして新しい年は企業およびIPO準備会社が求めているような癒やしの年になるのでしょうか︖
EY Japanの視点
日本では、新型コロナウイルス感染症の早期収束が望まれる状況が依然として続いており、経済活動への影響も既に大きくなっています。一方、不況時には次の時代を担う新たな技術革新やイノベーションが生まれると言われており、実際にリーマンショック時にはUberやAirbnbといったメガベンチャーも誕生しています。
近年、スタートアップを取り巻くビジネス環境はより高度化・複雑化してきています。多様な投資家を巻き込んだ大型の資金調達、大企業とスタートアップの資本・業務提携、大企業によるスタートアップのM&Aと買収後のマネジメント、海外ユニコーンへの出資・協業など、スタートアップ経営者や大企業の担当者、投資家は、以前にも増して複雑な案件に取り組む必要に迫られています。EYでは「EY startup innovation」を立ち上げ、これらの一連のサポートを各分野の専門家がスムーズに適時連携しながらワンストップで提供することができるサービスを目指しています。
要点
- 世界中がパンデミックで打撃を受けた2020年、IPO市場は予想以上にレジリエンスが高いことを証明した。慎重ながらも楽観的な見方が示されており、この勢いが2021年になってもしばらく続くことは間違いない。
- パンデミックによりほとんどの企業が運営方法を変えているが、こうした変化の一部は長く続くと考えられる。
- 2021年は、2020年に起きた「グレートリセット」を基盤に、社会と経済を成長させる新たな方法を確立する機会となる。
何か月にもわたり不安定な状況が続きましたが、2021年初旬、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン配布が決定されたことで世界経済に希望が生まれ、企業心理は徐々に回復してきました。しかしこの楽観的な心理が続く保証はなく、新ワクチンがパンデミックをうまく抑え込むことができるかどうかにかかっています。
新型コロナウイルス感染症による経済的影響は2021年になっても続き、さまざまな制約と失業の増加で揺らぐ経済を守るには、政府による追加の⽀援・景気刺激策が必要となるでしょう。経済以外にも、気候変動や格差などの重要な課題に対処する⼤きな機会でもあります。
2020年を堅調に終えたことで、IPO市場は前年の勢いに乗ったまま2021年を迎えることができました。世界のIPO市場は、パンデミックを受けて政府がシステムに注入した豊富な流動性の恩恵を受けています。その結果、一部の主要市場ではIPO活動が過去20年間で最高水準を記録しました。IPOモデルも進化を遂げ、ビジネスの新たなやり方に対応しています。いくつか例を挙げると、バーチャルロードショー、直接上場、特別買収目的会社(SPAC)との合併などです。
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第1章
2021年:希望と可能性の年
世界経済の見通しは明るくなってきたものの、課題が待ち受けています。
昨今の低金利環境にIPO上場初日の高リターンが加わり、さらなるリターンを狙って株式市場に投資する個人投資家が増えています。2020年、多くのニューエコノミー企業とテクノロジー企業の株価は著しく上昇しました。しかし、今後のボラティリティの可能性に投資家は注意するはずです。市場不安の兆しがあれば、投資家は2020年の利益を確定しようと、直ちに株式を売却すると考えられます。そうなれば、市場の調整局面入りが近づくでしょう。
このような変化は長く続くか?
パンデミックによりほとんどの企業が運営方法を変えていますが、おそらくこうした変化の一部は長く続くでしょう。2021年も、引き続きスタッフの構成からアウトソーシングに至るまでコストを見直し、非効率な部分を減らして生き残りを維持し、資本を未来の機会への投資に向けられる状態を保つことになると考えられます。
たとえワクチンがあっても、リモートワークという広く浸透した働き方が一夜にしてなくなることはありません。オンラインショッピングや家族・友人とのビデオ通話と同様、人々は在宅勤務に慣れました。このことは、オフィススペースにかかる費用を気にする経営者にも、商業用不動産の価格回復を当てにする人たちにも課題を突き付けています。
マンハッタン中心部では現在、オフィススペースの14%が空室になっていますが、これは2008年以来、過去最高の空室率です。オフィスの和気あいあいとした雰囲気を懐かしむ声は多いものの、従業員がフルタイムでオフィス勤務に戻る可能性はますます低くなっています。ハイブリッドモデルが出現する可能性もありますが、全従業員にとって申し分のないバランスを取ることは難しいでしょう。
IPO準備会社は市場が調整局⾯に⼊る可能性に注意を払う必要があります。これは特に、2020年の市場の持ち直しで株価が⼤幅に上昇したIPO準備会社について⾔えることです。
リモートワークを可能にするテクノロジーのメリットが明らかになり、意思決定を目的とした出張を減らしてバーチャル環境でやりとりを行うことで、企業はコスト(と二酸化炭素排出量)を削減しています。IPOセクターだけを見ても、バーチャルロードショーによってより幅広い層の投資家にアクセスできるようになり、従来型のキャンペーンの実施に要する時間と資金が削減されました。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、企業が直⾯せざるを得ない最⼤の課題の1つであるものの、何が可能であるかも浮き彫りにしました。業績が好調で変化に柔軟に適応できる企業は、顧客のニーズに対応したスピードと展開力で、⾰新的かつ迅速に考える能⼒が⾃社に備わっていることを明確に⽰しています。
リーダーに何を期待すべきか?
世界中の企業が、ジョー・バイデン大統領率いる米国新政権に備えて準備を進めています。バイデン政権は、猛威を振るうパンデミック、党派の対立、外国政府や世界貿易機関などの公的機関との関係再構築といった数々の課題に直面しています。米国と中国の二大経済圏間の関係は今後、国際貿易と世界の資本市場に多大な影響を及ぼすことになるでしょう。
EUについて言えば、気候変動など主要な問題に関して米国との絆を復活させることをリーダーらが強く望んでいます。EUの1兆8,000億ユーロ(2兆2,000億米ドル)の新予算・復興基金案では、今後10年間で二酸化炭素排出量を55%削減することを目標としていました。これは、排出量を削減し、気候変動問題に取り組むという世界各国の企業の大きな意気込みを表しています。
全体的に見て2021年は、2020年に起きた「グレートリセット」を基盤に、社会と経済を成長させるための新たな方法を確立する機会となります。
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第2章
世界のIPO市場動向の主な内容
2020年第4四半期の堅調なIPO活動がレジリエンスを証明し、予想を覆しています。
結果から見える、困難な年の好調な締めくくり
- 2020年は市場がパンデミック前の水準に回復し、新たな高みに到達した。
- 2020年は対前年比でディール件数が19%、取引金額が29%増加した。
- 2020年10月は、過去20年間でディール件数が10月として最も多かった。
IPOを成功に導く可能性を最大限に高めるために企業が取るべき対策に関して、より詳細な洞察を参照するにはEYの株式公開の手引き(PDF)をダウンロードしてください。
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本記事と世界のIPO市場動向におけるデータ:2020年第4四半期レポートで公表されているデータの出典はDealogicとEYです。2020年(1月1日~12月31日)のデータは、2020年12月31日時点で完了しているIPOをベースとし、2021年1月3日の営業終了時までのものです。
- 上記のレポートやニュースリリースに記載するIPO統計の集計にあたっては事業会社のIPOのみを対象とし、IPOを「企業が新規に上場し、市場に株式を公開すること」と定義しています。
- 本レポートの対象は、取引初日(証券取引所で取引が開始された日)と取引金額(オーバーアロットメントによる売り出しを含めた調達資金)に関するデータをDealogicとEYのチームが提供しているIPOのみです。
- 取引初日に基づき、どの四半期のディールとして扱うかを決めています。そのため、延期されたIPO、あるいは公募価格がまだ決められていないIPOは除外されています。店頭(OTC)上場も対象外としています。
- 信託、ファンド、特別買収目的会社(SPAC)など、事業会社以外のIPOを除外するため、標準産業分類(SIC)の以下のコードに該当する企業は対象から外しています。
- 6091:信託・保証・管理業務を行う金融事業者
- 6371:厚生基金、年金基金、それらの事務代行会社(TPA)、その他の金融ビークルなどの資産運用会社
- 6722:オープンエンド型投資ファンド会社
- 6726:その他の金融ビークル会社
- 6732:助成金を交付する基金事業者
- 6733:信託、財産、代理店勘定を扱う資産運用会社
- 6799:特別買収目的会社(SPAC)
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- Americas(北・中・南米)
米国、カナダ、アルゼンチン、バミューダ、ブラジル、チリ、コロンビア、ジャマイカ、メキシコ、ペルー - Asia-Pacific(アジア・パシフィック)
オーストラリア、バングラデシュ、中華圏、フィジー、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィリピン、シンガポール、韓国、スリランカ、タイ、ベトナム - EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)
アルメニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、カザフスタン、ルクセンブルク、リトアニア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ロシア連邦、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国のほか、以下の中東・アフリカ諸国 - アフリカ
アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガーナ、ケニヤ、マダガスカル、マラウイ、モロッコ、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ - 中東
バーレーン、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメン
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本則市場に加え、必要に応じて新興市場のデータを使用しています。横軸の表記は証券取引所の略称です(正式名称は、以下をご参照ください)。
Asia-Pacific(アジア・パシフィック)
- ASX:オーストラリア証券取引所
- HKEx:香港証券取引所主板(メインボード)および創業板のGEM
- IDX:インドネシア証券取引所
- SET:タイ証券取引所および二部市場のMAI
- SSE:上海証券取引所および科創板のSTAR
- SZSE:深圳証券取引所および創業板のChiNext
- TSE:東京証券取引所本則市場と新興市場のマザーズおよびジャスダック
EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)
- Indian:インドの国立証券取引所および新興市場の中小企業(SME)板と、ボンベイ証券取引所および新興市場のSME板
- LSE:ロンドン証券取引所本則市場および新興市場のAIM
- NASDAQ Nordics:NASDAQ OMX Nordics本則市場および新興市場のFirst North(本拠地:コペンハーゲン、ヘルシンキ、ストックホルム、リガ)
Americas(北・中・南米)
- NASDAQ:米国のナスダック証券取引所
- NYSE:米国のニューヨーク証券取引所
- B3:サンパウロ証券取引所
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各企業の標準産業分類(SIC)コードを使用して、トムソン・ロイター社の産業分類に従ってセクターを分類しています。11のセクターがあり、その定義と具体的な産業名は以下の通りです。横軸のセクターは11です。
- 消費財:
「消費必需品」と「消費財・サービス」を合わせたセクター。具体的な対象産業:農業・畜産、飲食、家庭・個人用品、繊維・アパレル、たばこ、教育サービス、人材サービス、家具・インテリア、法務サービス、その他の消費財、プロフェッショナルサービス、旅行サービスなど - エネルギー:
具体的な対象産業:代替エネルギー源、石油・ガス、その他のエネルギー・電力、石油化学製品、パイプライン、電力、水・廃棄物管理など - 金融:
具体的な対象産業:資産運用、銀行、証券会社、信用機関、各種金融、政府系企業、保険、その他の金融など - ヘルスケア:
具体的な対象産業:バイオテクノロジー、医療機器・用品、ヘルスケア事業者・サービス(HMO)、病院、製薬企業など - 工業:
具体的な対象産業:航空宇宙・防衛、自動車・部品、建築/建設・エンジニアリング、機械、その他の工業、運輸、インフラなど - 素材:
具体的な対象産業:化学、建設資材、容器・包装、金属・鉱業、その他の素材、紙・森林製品など - メディア・エンターテインメント:
具体的な対象産業:広告・マーケティング、放送、ケーブルテレビ、カジノ・賭博、ホテル・宿泊、映画・AV、その他のメディア・エンターテインメント、出版、レクリエーション・レジャーなど - 不動産
具体的な対象産業:非住居用、その他の不動産、不動産管理・開発、住居用不動産など - 小売:
具体的な対象産業:アパレル小売、自動車小売、コンピューター・電子機器小売、ディスカウントショップ、百貨店、飲食店、住宅リフォーム、通販(オンラインとカタログ)、その他の小売など - テクノロジー:
具体的な対象産業:コンピューター・周辺機器、電子機器、インターネットソフトウエア・サービス、ITコンサルティング・サービス、その他のハイテクノロジー、半導体、ソフトウエアなど - テレコム:
具体的な対象産業:その他のテレコム、宇宙・人工衛星、電気通信設備、電気通信サービス、無線など
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サマリー
EYの最新の世界のIPO市場動向レポートの結果を見ると、IPO市場は昨年、予想以上にレジリエンスが高かったことが分かります。2020年を堅調に終えたことで、IPO市場は前年の勢いに乗ったまま2021年を迎えることができました。
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