1. 地方公共団体における地球温暖化対策の現状
温対法では、都道府県および市町村は、その区域の自然的社会的条件に応じて、温室効果ガスの排出の抑制などを目指して総合的かつ計画的な施策(地方公共団体実行計画)を策定し、および実施するように努めるものとするとされています(第21条関連)。また、改正温対法では、「地域の環境の保全のための取組」および 「地域の経済及び社会の持続的発展に資する取組」を併せて行うものとして「地域脱炭素化促進事業」が新たに定義され、地方公共団体実行計画において促進事業の対象となる区域(促進区域)などの事項を定めるよう努めることとされました。
こうした制度改正も踏まえつつ、昨今、脱炭素社会に向けて、2050年二酸化炭素実質排出量ゼロに取り組むことを表明した都道府県および市町村が増えつつあります。2021年末時点で、40都道府県、306市、14特別区、130町、24村1 が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」(いわゆる、ゼロカーボンシティ)を表明しています。
地方公共団体に対しては、これまで以上に地球温暖化対策における地域の中心的役割が求められており、多くの地域において着実に動きが広がっています。
2. 上下水道での温暖化、気候変動の影響
温暖化対策は、⻑期的には上下⽔道事業の経営安定化、ひいては将来にわたり低廉なサービスを維持し続けることにつながっていくことを私たちは認識しなければいけません。近年の気候変動によって⽔源⽔質の悪化や洪⽔・内⽔氾濫などが発⽣しており、上下⽔道事業においても対策が必要となっています。例えば、琵琶湖の⽔質悪化に伴う臭気対策として多量の活性炭が使⽤されるようになり、⽔道事業では薬品費や⽔源監視費⽤など安定な⽔供給を維持するためのコストが増加しています。また、琵琶湖では2021年末にかけて例を見ない水位低下で渇水の可能性も危惧されました。
東京都の水道局環境5か年計画2020-2024(2020年3月)2 では、気候変動による水道事業への影響として、自然災害(豪雨災害、土砂災害など)対策としてのバックアップ機能の強化や施設の浸水防止、渇水対策として新たな水源の確保や貯水池の保全などを掲げています。
また、台⾵や頻発するゲリラ豪⾬などにみられるように、降⾬量の集中化や激甚化により、下⽔道の処理限界を超えることによる浸⽔被害や汚水が処理されずに川や海に流出するといった環境負荷の発⽣なども増加しています。
このように上下水道も、気候変動、地球温暖化の影響を大きく受けており、リスクの増加や対策コストの増加を余儀なくされています。
3. 上下水道などにとっての新たな温暖化対策の可能性
これまで温暖化対策は、省エネルギー設備や再⽣可能エネルギーの導⼊など、追加的なコストがかかるものであるというのが共通の認識でした。⼀般的に、上下⽔道施設は、巨⼤なポンプなどで⼤きな電⼒を要し、また、負荷率が⾼い(昼夜の電⼒使⽤量が安定して⼤きい)という特徴があります。そのため、電⼒販売者側から見ると「優良顧客」であり、電⼒単価が安価な設定となっていることが⼀般的です。そのため単純な再⽣可能エネルギーの導⼊は、上下⽔道事業側から⾒ると「コスト上昇」に陥りやすいという傾向があります。
一方で、上下水道事業者にとってコスト上昇となりにくい形で温暖化対策に貢献できる新たな制度も整いつつあります。ここでは2つの施策について取り上げます。
1つ⽬は、PPA(Power Purchase Agreement︓電⼒販売契約)という仕組みです。これまでも、上下⽔道施設の屋根や空きスペースに太陽光発電設備を設置する事例は多くありました。特に固定価格買取制度(FIT)導⼊後は、⾃家消費だけでなく、FITによる売電も多く⾏われるようになっています。
PPAは、発電事業者と需要家が相対で直接契約できる仕組みとして2021年頃から⺠間企業の間で活⽤が活発化しています。発電事業者にとっては、FIT終了後にも⻑期間固定価格で売電が可能となり、また需要家にとっては初期投資せずに再⽣可能エネルギーの活⽤が可能であることから、Win-Winの関係の構築が可能なことが背景にあります。また、PPAの利点は、遠隔地(オフサイト)であっても発電事業者と需要家が契約を締結できることが挙げられます。このため、必ずしも需要地点の敷地内に⼗分なスペースがなくても、オフサイトPPAの形で再⽣可能エネルギーの調達が可能となっています。
最近では、この動きが⺠間企業の間だけでなく、⾏政でも始まっています。2020年12月に、横浜市が複数の小中学校への再⽣可能エネルギー(太陽光発電)導入の実施事業者を募集したところ、⺠間企業からの提案によって、余剰電⼒を太陽光発電設備の設置箇所である小中学校以外の市の公共施設へ自己託送するオフサイトPPAを導⼊することを決定しています。発電設備は⺠間企業の資⾦によって整備され、横浜市との間では電⼒需給契約を締結するというスキームであるため、横浜市にとっては初期投資がなく従来のように電⼒を外部から調達する⽅法と変化はありません。また、前橋市では、市の清掃工場で発電した余剰電力を、上下水道施設を含む市有施設に送電するPPAの実証事業を行うことを発表しています。