熊井 確かにデジタル化にはデータが欠かせません。しかし、日本国内ではデータバンクのような機能がいまだに整備されていませんね。
坂下 境田さんのお話にあったように、データが必要なのは感染症だけではありません。難病もそうです。しかし、その対応については患者が少ない分、製薬会社も新薬開発には消極的です。もしデータを集めることができれば、難病に対しても、新しい治療法や薬が生まれるかもしれない。データの集積はそれほど重要なのです。
ただ、東京都でも2025年から人口減が予想され、2035年には日本で700万人の認知症患者が生まれ、認知症患者同士の介護が始まるとも言われています。そうした状況に対し、行政が市民をしっかり守っていくためには、個人をきちんと把握してサポートしていく必要が生じてきます。つまり、個人をしっかり把握する仕組みの中に、データバンクがなければならないのです。そのためにも、デジタル化によって、個人をしっかり把握して、行政サービスを提供する体制を構築していくことが今欠かせないと考えています。
熊井 ただ、実際にはマイナンバーカードのように個人情報がハードルとなり、なかなか普及が進まない事例もあります。政策として何が足りないのでしょうか。
林 マイナンバーカードについては国民が本当に使い勝手がいいと感じる前に、政府が税金や資産などさまざまな個人情報を把握することを主目的としているのではないか。そうした疑心暗鬼が先になってしまったことが今の状況を生んだように見えます。
また、それ以前にも、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)で情報が漏えいた事案や、自治体のシステムが統一されていないため、使い勝手が悪いといったネガティブなイメージもありました。そうした問題に政府が真摯に対応していないように国民の側からは見えたのかもしれません。
大事なことは、カードをつくれば、ポイントをあげますというよりも、住民サービスをどのように改善していけば便利になるのか。そうした視点をもっと打ち出していれば、状況は変わったのではないか。その意味でも、政府がマイナンバーカードの政策について住民サービスを徹底して便利にする視点に立って見直せば、大きく改善する可能性があります。
境田 私も同様に政府は今こそ変わるべきだと考えています。行政サービスの立案には法的規制などさまざまな制約がありますが、例えば、ビッグデータの世界は、リアルタイムでデータを大量に集め、そのデータをAIやスーパー・コンピュターで高速処理し、リアルタイムで答えを出し、サービスを提供していく世界です。世界は今、こうした競争を行っているわけです。ところが、そのとき日本のようにデータ集積に制約があると、包括的にデータを活用することができなくなってしまう可能性があるのです。
だからこそ、今政府はデータの重要性を理解しなければならないのです。これからデータを活用して、どんどん課題の最適解を出して、国民に行政サービスとして返していく。国民がその利便性を認識すれば、さらに良いサービスは生まれていきます。そのためにも官庁間で連携して新たな枠組みをつくることが今必要なのです。