EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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このような問題について議論するにあたり、大都市と地方自治体との間に厳然としてある「違い」を認識する必要があると指摘するのは、岩手県矢巾町の吉岡律司氏(政策推進監兼未来戦略課長)です。「矢巾町の人口は約2万8千。東京都を大企業とすれば、町の個人商店に過ぎません。意思決定の仕方やお金の使い方、必要な技術、住民との距離感も全く異なり、それを前提にしなければ地域における社会インフラ運営のあり方を再定義することはできません」と語ります。
矢巾町では2016年3月、国の政策ではなく自らの意思による水道事業経営戦略を策定。町が事業主体となることを必ずしも前提とせず、投資計画や財政計画を実行に移すために必要な運営体制について、官民連携も選択肢に加えて検討したと言います。官官広域連携、民間と協働する第三者委託や包括委託、官への委託・広域化など種々の体制について強みと弱みを分析。「自分たちの技術を継承しつつ、ガバナンスのもとに責任を負いながら水道事業を経営するにはどうするかに重きを置きました」(吉岡氏)。
水道事業に関する包括的連携協定を結ぶ横浜市および横浜ウォーター株式会社の事例も参考に検討した結果、今後の方向性として浮かび上がってきたのが「官出資会社の設立」です。町だけで人員や技術力を維持するのが困難である場合、官出資会社に人員を派遣すると同時に民間からも技術要員などを起用することで体制を強化。水道に限らず、役場内の複数の業務を横断的に対象とすることで持続性が高まるとしています。
「地域インフラ運営を担うドイツのシュタットベルケ(後述)のような事業会社を日本でも実現できたらと考えています。ただ、それには町側に企業経営に関するノウハウが足りません。そのため矢巾町の未来戦略課では今、将来の利益を代弁できるような『仮想将来世代』の人たちを議論の場に加え、自治体と民間企業の出資により社会課題をビジネスとして解決する法人のあり方について検討しています」(吉岡氏)。
まさにその地域インフラを運営する官民出資会社の経営に乗り出したのが秋田県です。秋田県では、インフラ持続問題を解決するには高度な事業マネジメントスキルを備えた人材の拡充が最優先であるとの認識に立ち、政策立案や管理・運営に関する官のノウハウと、経営戦略などの高度業務における民のノウハウを結集させる広域補完組織として、官民出資の株式会社(第三セクター)を昨年11月に設立しました。出納局財産活用課長の高橋知道氏がその経緯を説明します。
高橋氏によると、秋田県の人口減少率は10年連続の全国1位、婚姻率・出生率も全国最低で、2050年には県民の半数が65歳を超えるなど「生活基盤が崩れていく危機感」(高橋氏)を余儀なくされています。そうした中で2018年に県が打ち出した方針が、県と市町村による「機能合体」です。
「限られた行政資源の下で行政サービスを維持していくには、県と市町村の二重行政や連携不足を改善する必要があり、特に公共インフラの管理・運用を一体化させるべきとの判断です。例えば、県の庁舎に市町村の職員が入って一緒に災害対策を協議したり、橋梁などの点検・診断業務を共同で行ったりといったことが挙げられます」(高橋氏)。
しかし、自治体職員の減少傾向が止まらない中で「広域連携のもっと先」を見据えた時に浮上したのが、マネジメント人材の必要性でした。そこで、すべての市町村へのヒアリングを通じて人材ニーズを把握するとともに、有識者委員会を立ち上げ、補完組織に望ましい法人形態について全国の先進事例も参考に調査・検討を実施。他の地域には類例がないものの、秋田県の事情にふさわしい形として選んだのが官民出資会社です。
こうして秋田県知事と全市町村長による合意の下、水道事業を中心に地域の未来を支える官民出資の広域補完組織「株式会社ONE・AQITA(ワン・アキタ)」が発足。その役割について高橋氏は、①県内自治体の事業運営の弱みを補完、②水のプロが事業マネジメントをサポート、③事業運営コストの抑制を最大化、④地域の水環境を持続的に地域で守るようサポート、の4点を挙げています。今後は、災害対応支援やDX・新技術導入支援、エネルギー分野を含む新規事業創出など、さまざまな展開に挑戦しながら「地域資源と地域経済の好循環を生み出したい」(高橋氏)とのことです。