EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group)の存在意義は、企業が、地政学的情勢が事業に与える影響や、世界的に不安定なこの情勢をうまく乗り切る方法を把握するために支援をすることにあります。
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インド太平洋地域は、21世紀におけるグローバル競争の中心舞台となりつつあります。新型コロナウイルス感染症による経済的な混乱がありながらも、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)の最終決定の交渉が再開され、2020年11月には署名にいたりました。しかし、各国が軍事力を拡大する中で、安全保障をめぐる情勢は不透明感を増しています。南シナ海や東シナ海、中印国境などにおける地政学的緊張は、紛争化のリスクもはらんでいます。
地域大国・ミドルパワーの関与が積極的になるなかで、2021年のインド太平洋地域の地政学的な競争は激化していくことになります(図10を参照)。オーストラリア・インド・日本・米国間で生まれた日米豪印戦略対話(Quad)は、地域大国・ミドルパワーがインド太平洋地域政策に多国間で取り組む姿勢を見せた一例です。また、オーストラリア、インド、日本が先日発表したサプライチェーン強化構想(SCRI)は、2021年以降、段階的な導入が見込まれます。これは製薬分野におけるサプライチェーンの中国依存を軽減する広範な取り組みの一環として、新型コロナウイルスワクチンの開発を推進するためにも利用されます。
同地域では、各国政府が自国優先の立場から地政学的戦略を形成しようとする傾向もあります。日本の外交政策は、引き続き多国間関係を強化しながらも、地域リーダーとしての役割を駆使したものになるでしょう。日本政府にとって、経済外交は今後も優先事項であり、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の加盟国拡大に努めています。
オーストラリアでは、中国との緊張関係を示す40%という大幅な防衛費拡大と外国からの投資に対する規制の厳格化が2021年も継続すると見られます。しかし、輸出業者、大学、不動産開発業者には中国政府との良好な関係を支持する見方もあるため、政府の方針が軟化することも考えられます。
インドは、オーストラリアや日本などとの協調関係と米国との新しい軍事協力を通じて、同地域での戦略的・外交的足場の大幅拡大を狙っていますが、インド政府の保護貿易政策により地域への影響力が狭まる可能性があります。さらに、インド洋における領土問題とラダックの実効支配線が今後も火種となり、中国との緊張関係が続くでしょう。
東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国は引き続き、おもにRCEPを通じた地域的経済統合の強化に取り組み、米中どちらかへの偏重を避けて中立の立場を維持すると見られます。ただし、地域における中国の影響力の拡大にどう対応するかについて、加盟国間の不調和が見られ始めています。同様に、韓国も米中との関係でバランスを保とうとしていますが、日本政府との緊張関係によって韓国の外交政策が複雑化する可能性があります。
実際、米中間の戦略的競争の継続は、インド太平洋地域のすべての国にとって事態を複雑化する要因となります。ドイツは先頃インド太平洋政策を採択し、ヨーロッパではフランスに続き2番目にインド太平洋地域に関する正式な戦略を定めましたが、これはヨーロッパ各国やEUの同地域での活動活発化を示しています。