「2021事務年度 金融行政方針」から見る、資産運用の高度化とサステナブルファイナンスの推進に向けて取り組むべきポイントとは

「2021事務年度 金融行政方針」から見る、資産運用の高度化とサステナブルファイナンスの推進に向けて取り組むべきポイントとは


金融庁は「2021事務年度 金融行政方針」を公表しました。本稿では3つの重点課題を示すとともに、資産運用業者に主に影響すると考えられる「資産運用の高度化」、近年注目度の高い「サステナブルファイナンスの推進」についてポイントをまとめています。



要点

  • 金融庁は「2021事務年度 金融行政方針 ~コロナを乗り越え、活力ある経済社会を実現する金融システムの構築へ~」を公表した。

金融庁は「2021事務年度 金融行政方針 ~コロナを乗り越え、活力ある経済社会を実現する金融システムの構築へ~」を公表し、2021事務年度(2021年7月から2022年6月)の金融行政における重点課題および金融行政に取り組む上での方針を策定しました。


3つの重点課題

2021事務年度の金融行政では、以下3つを重点課題として取り組むとしています。

重点課題

内容

主な施策

Ⅰ. コロナを乗り越え、力強い経済回復を後押しする

第一に、新型コロナウイルス感染症による深刻な影響を受けた経済社会を、金融機関が引き続き金融仲介機能を発揮して力強く支え抜くこと ができるよう、行政としても万全を期す。さらに、ポストコロナの活力ある経済の実現を目指して、金融機関などによる事業者の経営改善・事業再生・事業転換支援などを促していく。

  • 事業者の資金繰り支援に万全を期すよう求めていく。
  • 豪雨などの自然災害の発生時にきめ細かな被災者支援を行うよう促していく。個人・個人事業主の生活・事業の再建支援を促す。
  • 金融機関などによる事業者の経営改善・事業再生・事業転換支援などの取り組みを促す。
  • 地域経済全体の活性化
  • 地域金融機関が持続可能なビジネスモデルを構築する。

Ⅱ. 活力ある経済社会を実現する金融システムを構築する

第二に、国内外の経済社会・産業を巡る変化を成長の好機と捉え、国内外の資金の好循環を実現するとともに、金融サービスの活発な創出を可能とする金融システムを構築することにより、活力ある経済・社会構造への転換 を促していく。

  • 金融分野におけるデジタルイノベーションを推進する。
  • 国際金融センターとしての地位の確立
  • サステナブルファイナンスを推進する。
  • インベストメントチェーン全体の機能向上
  • 利用者目線に立った金融サービスの普及
  • マネロンなど対策の強化、サイバーセキュリティの確保、システムリスク管理態勢の強化

Ⅲ. 金融行政をさらに進化させる

第三に、「金融育成庁」として国内外の経済社会に貢献していくため、データ分析の高度化などを通じたモニタリング能力の向上や、専門人材の育成など、 金融行政を担う組織としての力を高めていく。

  • データ分析の高度化
  • 専門人材の育成、職員の主体的な取り組みの奨励、財務局とのさらなる連携・協働、職員が能力を発揮できる環境の実現、質の高いマネジメントによる組織運営の推進

出所:金融庁「2021事務年度金融行政方針」【概要】より抜粋


資産運用の高度化

2021事務年度金融行政方針において、金融庁は、資本市場の活性化と成長資金の円滑な供給の観点から、投資家保護にも留意しつつ、インベストメントチェーン全体の機能向上に向けた取り組みを進めていくとしており、資産運用の高度化に関する項目ごとに、昨事務年度の実績と本事務年度の作業計画を示しています。


項目

前事務年度の実績

本事務年度の作業計画

資産運用会社の運用力の強化に向けた業務運営体制の確立 

  • 「資産運用業高度化プログレスレポート2020」では、わが国の資産運用会社における高度化に向けた課題を指摘し、国内大手資産運用会社およびグループ親会社(主要8社・グループ)などとの間で取り組み状況などについての対話と検証を実施した。
  • 独立系などの資産運用会社の中には、徹底した企業調査に基づく投資判断などにより全体平均を上回る良好なパフォーマンスを実現している会社がある一方で、残高拡大や経営の承継に課題を有している会社もあることを確認した。目指す姿を明確化し、その実現に向けた取り組みを進めることで投資家に安定的なリターンを提供する、特色ある国内外の資産運用会社が参入してくることが期待される。
  • 各社のガバナンス機能の強化に向けた取り組みが、運用力の強化につながり、顧客利益を最優先した商品組成や良好なリターンと残高拡大の実現などの実効性を伴うものとなっているかについて、社外取締役などへのヒアリングや、個別ファンドの商品内容・運用状況に関する検証を行いつつ、大手資産運用会社以外にも対象を拡大して対話を継続的に実施する。 
  • 各社のESG/SDGs投資に関する取り組みについて、特に投資家への分かりやすい説明の観点からモニタリングしていく。

運用パフォーマンスの見える化

  • 資産運用会社相互の競争に資するよう、国内外の公募ファンドを対象に資産運用会社別の運用パフォーマンスや信託報酬に関する委託調査を実施し、結果を公表した(2021年6月)。(*1)
  • 資産運用業全体の運用パフォーマンスの「見える化」を促進する観点から、公募投信に加えて、金融機関などの機関投資家向けの私募投信のコストパフォーマンスについても、調査と分析を行った。
  • 運用パフォーマンスの「見える化」については、昨事務年度の私募投信に関する調査に続き、ラップを含む投資一任や仕組債などの状況について、資産運用会社・販売会社・信託銀行・保険会社から情報収集を行い、調査・分析・公表を行う。

その他の資産運用業の高度化に向けた取り組み 

  • 資産運用会社の業務運営に関する課題やグローバルな資産運用の潮流も踏まえて、各種調査と分析を行った。 
  • 資産運用会社との対話の成果、運用パフォーマンスの「見える化」の分析結果を取りまとめ、「資産運用業高度化プログレスレポート 2021」を公表した(2021年6月)(*2)。
  • 運用会社各社が体制強化を図るオルタナティブ運用について、中長期的な取り組みとして日本国内に定着することを目指し、情報収集や対話を継続する。 
  • DX の活用による運用手法の多様化やオペレーションの効率化への取り組みが、資産運用業全体の収益性底上げと投信のパフォーマンス改善を通じた顧客への還元につながるよう、引き続き注視していく。 
  • 顧客本位の観点から、運用会社を取り巻くシステムプロバイダーやインデックスプロバイダーなどのサービスプロバイダーとも継続的な対話を続ける。 
  • 「資産運用業高度化プログレスレポート2021」に寄せられた意見も踏まえ、資産運用高度化の進捗についてのレポートを 2022年夏に公表する。 

出所:金融庁「2021事務年度金融行政方針」【補足資料】より抜粋


金融庁は、資産運用会社との対話を継続し、運用パフォーマンスの「見える化」の範囲の拡大を推進するとともに、資産運用業を支えるサービスプロバイダーについても幅広く研究する方針としています。従って、資産運用の高度化の観点では、従来に引き続き、資産運用会社各社との対話が継続され、運用パフォーマンスの「見える化」の範囲が拡大されるものと見込まれます。それとともに、資産運用業を支えるサービスプロバイダーとの対話も進むものと考えられます。


サステナブルファイナンスの推進

2021事務年度金融行政方針において、金融庁は、各産業がカーボンニュートラルを実現するためのトランジション(移行)も含め、企業の取り組みが適切に評価されるものとなるよう施策を進めるとしており、本事務年度において、主として以下の作業計画を示しています。

1. 企業情報開示の質と量の向上

  • 2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂を踏まえ、2022年4月に発足する東京証券取引所プライム市場の上場企業に対して、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の国際的枠組みに基づく開示の質と量の充実を促す。
  • 加えて、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいて、国際的にも投資先として魅力ある市場となるよう、上場企業などによるサステナビリティに関する取り組みの適切な開示の在り方を検討する。国際会計基準(IFRS)財団における気候変動を含むサステナビリティについての比較可能で整合性の取れた開示の枠組みの策定の動きに、官民挙げて積極的に参画する。

2. 市場機能の発揮

  • 「グリーン国際金融センター」の実現に向け、国内外のさまざまな投資家が脱炭素などに資する投資判断を容易かつ的確に行える環境を整備することが重要であり、発行体を含む広範なステークホルダーと連携しつつ、機関投資家の実務などに基づき資金使途などの基準の策定を進め、グリーンボンドなどの適格性を客観的に認証する枠組みの構築を目指す。
  • また、日本取引所グループ(JPX)などと協働し、こうした認証を得たグリーンボンドなどの情報や発行体のESGに係る経営・取り組み方針などを広く集約・一覧化し、発行体や投資家向けの手引書なども含む情報プラットフォームの整備を行う。
  • 企業と投資家の橋渡し役を担うESG評価機関とデータ提供機関の役割も重要であり、評価やデータが信頼ある形で利用されるエコシステムの構築に向け、評価手法の透明性や比較可能性、評価の独立性と客観性に係るガバナンスの確保など、ESG評価機関とデータ提供機関に期待される行動規範などを策定する。そのため、企業と投資家が果たすべき役割を明らかにすることも念頭に、有識者などを交えた検討の場で議論を進める。
  • また、投資家保護の観点から、急拡大している個人向けESG関連投資信託について、資産運用会社と販売会社に対するモニタリングを進めていく。
  • ソーシャルボンドについては、新たなガイドラインを踏まえて、関係省庁などと連携しつつ、ソーシャルプロジェクトの社会的な効果に係る指標を具体的に例示する文書の策定を検討する。

3. 金融機関の投融資先支援と気候変動リスク管理 

  • 金融機関においては、投融資先が気候変動に対応できるよう積極的に関与し、ノウハウを提供するなどの支援を行うことが期待されている。こうした金融機関の取り組みを着実に進める観点から、地域企業の脱炭素化などを有効に支援するための地域金融機関向けの情報や知見を共有するなどの取り組みをさらに進める。
  • また、金融機関が気候変動への対応を経営上の課題として認識し、適切な態勢を構築することも重要である。具体的には、気候変動リスクに関するガバナンス態勢の確立、気候変動のリスクと機会を考慮したビジネスモデルおよび戦略の策定、気候変動リスクの認識・評価・管理プロセスの構築、シナリオ分析の活用などが求められる。
  • こうした観点から、本事務年度においては、日本銀行と連携し、3メガバンクと大手損保3グループを対象に、NGFSシナリオを共通シナリオとするシナリオ分析のパイロットエクササイズを実施する。あわせて、投融資先支援と気候変動リスク管理に関し、まずは預金取扱金融機関と保険会社に必要な態勢に関するモニタリング上の着眼点を明確化する。

4. 国際的な議論への貢献 

  • 2021年11月にCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)が開催されることも踏まえ、開示、民間資金の円滑な供給、資本市場機能の強化、気候関連リスク管理などに関する国際的な議論で主導的な役割を担う。加えて、国内対応に資するよう、データ整備や指標、気候変動以外のサステナビリティ関連事項の国際的動向について、知見の蓄積を進める。 
  • また、民間部門の国際的な取り組みでの議論も適時に把握し、こうした取り組みとの協調や議論の成果の活用を図りつつ、参画する金融機関を支援する枠組みなどを検討する。 


金融庁は、ESG関連の投資信託についての実態調査を行い、資産運用会社と販売会社へのモニタリングを実施していくと述べています。世界で加速する脱炭素化などに向けた動きを捉え、国内外の成長資金が日本企業の取り組みに活用されるよう、サステナブルファイナンス推進のための環境整備が進められており、資産運用業界においてもさまざまな面での対応が求められてくるものと思われることから、今後の当局の動向に注視が必要であると考えられます。


サマリー

⾦融庁は、資産運⽤会社との対話を継続し、運⽤パフォーマンスの「⾒える化」の範囲の拡⼤を推進するとともに、資産運⽤業を⽀えるサービスプロバイダーについても幅広く研究する⽅針としています。また、ESG関連の投資信託についての実態調査を⾏い、資産運⽤会社と販売会社へのモニタリングを実施していくと述べており、今後、資産運用会社や販売会社は、ESGの取り組みに関する説明がさらに求められてくるものと考えられます。