目指すべき方向性は、社員とともに決めていく
―今回の「EY Ideation for Innovation」に対する積極的な姿勢には、ソニーグループが掲げるPurpose「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」が表れていると感じました。
テクノロジーだけではない、クリエイティビティとの融合は、私も常に意識しています。EYのようなさまざまな専門人材が結集し、課題の明確化、考え方のシフトやイノベーションの創出をサポートしてくれるファームと研修を行うのは新鮮でした。イノベーションハブであるEY Wavespaceのような非日常的な空間でそのような体験を楽しむことで、クリエイティビティをベースにしたビジネスが育まれるのかもしれません。
―他方、ソニー銀行は社内で策定された「2030年のありたき姿」の実現に向けて「Be a Creator」という価値観を設定し、その要素は「Believing(可能性を信じよう)」「Backing(熱意を支えよう)」「Beyond(常識を越えよう)」「Bonding(人を繋ごう)」「Bright(自分らしく輝こう)」と、5つの“B”で表現しています。「成る」を示す“Become”ではなく、「あり続ける」という“Be”を、決意として受け止めたのですが、渡邉常務は「Be a Creator」というワードをどのように捉えていますか。
ソニー銀行は企業理念に「Be Fair」を掲げ、フェアであることを重視しています。「Be Fair」はカスケードダウンを念頭に置いた社是に近い理念ですが、「Be a Creator」は社員自らがワークショップの中で導き出したワードです。こうありたいという思いが強く反映されています。
―カリスマ性のあるトップが企業理念を掲げた結果、DNAとして組織に浸透させる実例は多い一方、現在はダイバーシティの時代でもあります。多様な価値観そのものに力点を置くことも、強い経営戦略になるはずです。現場から生み出された言葉には、カスケードダウンにはない特色が表れていますね。
ソニー銀行のコーポレートステートメントにある「Hello, inspiration.」も、その一例です。一人一人の意見を大切にし、それを形にしていくカルチャーを、成長の原動力にしたいと考えています。そのためにはまず、社員が自律的に成長する意志を尊重しなければなりません。そして、その集合体である会社は、多彩なバックグラウンド、タスク、働き方を無理やりまとめずに、包括的に受け入れていく。目指す方向性も多様であっていいと考えています。代表取締役社長の南といつも話しているのですが、銀行経営における成長の指標は、純利益やROE、顧客満足度などさまざまですが、社員のエンゲージメントや満足度も同じくらい重要です。
リスクとリターンが内在するのが、革新的テクノロジー
―可能性の広がる生成AIですが、倫理やリスクの観点から見た際、一方では踏み出せない組織も多いと感じます。倫理的側面を十分に議論してから、ビジネスに実装させていく方法もある中で、AI活用をテーマとしたアイディエーション研修を導入されたのは、どのような狙いがあったのでしょうか。
新しいテクノロジーには時としてリスクが伴うケースもありますが、リスクが限りなくゼロになるのを待っているようでは遅すぎます。顧客の多様なニーズに対応していくスピードこそが大事です。もちろん倫理面の検討・議論は重要なので、リスク管理部門には国内外の先進的な取り組みの把握や現地視察による理解などを積極的に進めるよう依頼しています。リスクとリターンを吟味しながら並行して推進していくべきで、特にアイディエーションやPoCのようなトライアルは、取り組まないリスクの方が大きいでしょう。
―生成AIへのチャレンジは、グループのみならず、社会全体においても意義のあることだと思います。
渡邉:先進的な取り組みを行うためには、パートナーシップも欠かせません。今回EYにご協力いただいたことで、専門的かつグローバルスタンダードな知見にアクセスすることができました。今後ともグローバルな成長を実現するパートナーとして連携していきたいと考えています。