デジタルな脱炭素化能力の構築
炭素排出量に関するデータを収集、処理、報告する能⼒は、脱炭素化の進む世界における最も重要な成功要因になるとみられています。⽯油・ガス企業は、現在とは異なる形の事業運営を迫られるでしょう。まず実⾏すべきなのは、事業に伴う排出量の削減です。これに関して複数の⽯油メジャーには進展が⾒られ、生産井坑⼝と製油所を中⼼に、排出原単位(carbon intensity)を削減するための初期段階の取り組みが⾏われています。EYによる2020年の数値の分析によると、最⼤⼿総合⽯油企業の⼀部は2017年以降、上流のスコープ1およびスコープ2の温室効果ガスを約20%削減しています。しかし、規制要件の進化に歩調を合わせ投資家や顧客などのステークホルダーの⾼まる期待に応えるには、時間の経過とともにリアルタイムで極めて精緻なデータを⽣成・活⽤する能⼒がさらに重要になります。カーボンクレジットは脱炭素化投資から⽣まれる取引可能な産出物となり、適切なスキルとテクノロジー、企業⽂化、データ、市場認識を備えた企業にとって⼤きな機会となるでしょう。
事業のデジタル化
新たなエネルギー企業への転換を図りつつ収益を計上し続けるには、コスト削減の取り組みをさらに強化する必要があります。デジタルテクノロジーには、プロセスの迅速化、ダウンタイムの低減、材料使⽤量の削減、ミスの排除を通じて、⽣産性を⼤きく向上させる可能性があります。最近の例では、ある事業運営者がテクノロジーを活用して複数のアプリケーションとデータソースを統合し、開発計画期間を平均12カ⽉から2カ⽉に短縮しています。今後、最⾼の競争⼒を持ち、最⼤の成功を収める⽯油・ガス企業になるためにはデジタル化のトレンドを加速させる必要があるでしょう。このような企業は、産業用モノのインターネット(IIoT)、分析、ビッグデータ、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)などの新しいツールや技術を導⼊し、坑井からバックオフィスに⾄るまで、事業を変⾰していくでしょう。
事業のインテリジェント化
⽯油・ガス企業には、数多くの部⾨の業務遂⾏・達成状況について、非常に多くのデータが存在します。しかし⼤半の組織では、このようなデータは各部⾨に帰属しているため、個々の部⾨の最適化のために活⽤することはできるものの企業の全体像を単⼀の理解しやすい形で得ることは極めて難しくなっています。接続性と俊敏性の⾼い、よりインテリジェントな事業運営を可能にするシステムとスキルを導⼊することにより、データの真の価値を解き放ち、資本配分、採⽤、インセンティブについて、データに基づいてより良い意思決定を⾏うことが可能になります。
バックオフィスの変革
企業がこれまでとは異なる未来に備えて抜本的な変⾰を進める中、変⾰を順調に進めるには、コアコンピテンシーの向上に⼈材とリソースを集中させる必要があります。⽯油・ガス企業の⼤半にとって、コアコンピテンシーは炭化⽔素から最⼤の価値を引き出すことが基軸となります。税務・財務、サイバーセキュリティ、給与計算、コンプライアンスなどの⾮中核機能も極めて重要ですが、資源の抽出・⽣産を直接改善するものではありません。このセクターを主導する企業のより多くが、バックオフィスの業務プロセスを次世代のものへと転換させつつあり、リーダーが中核事業に全⼒で取り組むことができるよう、ベストプラクティス、卓越した⼈材、最先端テクノロジーを融合したサービスを提供するマネージド・サービス・パートナーの協⼒を得て、バックオフィスを根底から変⾰しています。
成長と移行に備える
炭化⽔素の時代はいずれ終末を迎えるでしょう。ただしそれがいつのことかは誰にも分かりません。⽯油・ガス企業は、今こそ移⾏に向けて持続的に成⻑するための独⾃の戦略を検討する時です。これは、エネルギー供給の安全保障に対する⽬下の課題に対処する上で、⾃らが果たす役割を決定することを意味します。⽯油・ガスを巡る経済状況は、当⾯の間はこれまでと同様に有利に推移するとみられます。また、⽯油・ガス企業が利⽤できる資本は潤沢です。企業は⾼価格が続く間は中核事業を継続する戦略と、現在の収益は低いものの⻑期的にはより多くの価値を⽣み出す可能性のある新たなエネルギーの機会を追求する戦略とのトレードオフに直⾯しています。レガシービジネスからのキャッシュフローを代替事業の資⾦にする企業もあれば、レガシービジネスを売却する企業もあるでしょう。各企業による最適なバランスの追求に伴い、公開市場での資⾦調達に付随する圧⼒の影響が及びにくい非上場企業の⼿に資産が渡る可能性があります。
セクターが進化している今こそ、チャンスをつかむ時です。
⽯油・ガスセクターは岐路に⽴っていると言えるでしょう。国際情勢と不確実性のために既存企業の短期的な業績⾒通しは劇的に改善し、レガシービジネスの価格と収益性は⾼い⽔準を維持しています。しかし新しい未来に備える必要性は、かつてないほど急迫しています。現在の危機にもかかわらず、エネルギー移行のペースは加速しています。⽯油・ガス企業は、エネルギーセクターのその他多くの企業と⽐較すると、脱炭素化を⽬指す競争を主導できる好位置に⽴っています。それを⽣かすためには、今とは全く異なる未来での成功に向けて今すぐ⾏動し、備えなければなりません。