国全体によい結果をもたらす包括的なアプローチの必要性
このような大きな経済的ショックの後では、労働市場の逼迫は、少なくとも短期的には、悪いことではないと思えるかもしれません。しかし、現在の難局を契機として、より的確な移民政策を導入し、未来に適した教育制度へと改革し、地理的移動性と職業の流動性を向上させたときのオーストラリアを想像してみてください。
政策的見地からはあらゆる選択肢を検討すべきです。教育制度における不均衡の解消や移動性・流動性の向上には時間を要することを考慮すれば、移民を多くのセクターで活用することは、比較的単純な方法です。
このような要因のバランスを取り、労働力の種々のパイプライン全体のスキル不足に対処する新たな道を開くには、シナリオモデリングや予測が有益です。このモデリングでは、アップスキルを通じた職業の流動性に関するソリューションも示されています。また、他分野でも通用するスキルを持った人材や事業者が求める職種への転職を成功させた実績のある人材を事業主が探すことのできる機会も示しています。さらに、より関連性のある、的を絞った、タイムリーな研修プログラムを提供できるよう、教育セクターと連携することも事業者の役割です。自社独自のプログラムを開発している企業など、短期で修得でき分野を絞った教育プログラム(micro-credentialism)を好む企業が増えています。
特定のスキルに対する需要を明確化する上で、企業は重要な役割を担っています。そして、特定の課程や教育機関(VETと高等教育機関の双方を含め)の修了者を雇用する意欲を明確に示すことで、必ず、その分野を学ぶ学生を増やすことができるでしょう。
同様に、政府にも果たすべき重大な役割があります。最も重要なのは、移民政策を適切に策定することにより、オーストラリアのスキル不足解消に要する時間を劇的に短縮できる可能性があることです。そのためには、コロナ禍で生じた移民の減少を埋め合わせるための移民増加に向けた意欲的な取り組みが必要です。同様に、求められている適切なスキルを備えた労働者を特定するために、産業界と連携することも必要となります。この点については、コロナ禍にあって、政府はある程度意欲を示してきました。
政府は、職業の流動性に対する問題を緩和し、取り除く機会に目を向けるべきです。規制緩和タスクフォースが現在取り組んでいる就業資格・免許の州間での自動相互認識(AMR)などは良い例です。そして、要望の多いアップスキルを支援する機会にも目を向けるべきです。
さらに、政府に求められる最初の一歩は、多様な高等教育機関が、認定された職場訓練からマイクロクレデンシャル、ディプロマ、学位まで、すべて1つのスキルプラットフォームで承認されている幅広い教育課程をより柔軟に提供できるように支援することです。これは、長期、短期双方の教育コースの設計と提供に関して、産業界との連携拡大を促すことにもなります。また、公共セクターは就業者7人につき1人を雇用している点にも留意すべきです。
地理的な移動を向上させるのは難しいことですが、規制緩和や手続きの簡素化が進み、デジタルを使ったサービス提供により事務的な負担が軽減しているのも確かです。
政府と産業界がこれらを適切に進めていくことができれば、経済への強力な追い風となるでしょう。職業、産業、セクターの垣根を超えた知識の共有や、生産性の向上するため、職業の流動性が経済を活性化します。
EYの労働市場モデルは、このような課題に対して、職種ごとに対処することが可能です。このモデルは、どの分野から採用して育成するか、何人の従業員が必要か、どの領域で必要か、といった今、最も差し迫った問題に対する答えを求めている企業にとって極めて有用なツールとなるでしょう。
この問題への特効薬はありません。このような情勢の変動に対して早く行動を起こす企業が、来るべき人材争奪戦で勝利を収めることができるのです。