この点から、EYはジョシュ・フライデンバーグ連邦財務相に10点満点中6点を付けます。
今回の予算案では、労働のインセンティブを高め、より多くの人が職業訓練を受ける機会が与えられ、ビジネス環境を整えるような歓迎すべき政策がいくつか見られました。
有給育児休暇制度の改善は、働く親の仕事への関わり方により柔軟性を与え、また若い家族がさらに柔軟に仕事に対応できるようになることで、労働市場への参加を支援するものとなっています。
今年後半に見習いまたは研修生の賃金補助制度が終了する際には、優先的に必要とされる職種の職人見習い労働者を支援するため、オーストラリア見習い奨励制度(Australian Apprenticeships Incentive System)が導入される予定です。最も不利な立場にある若者の就職支援はリブート(Reboot)プログラムによって行われ、先住民の労働者は6億3600万豪ドルのレンジャーズプログラム(Rangers Program)の恩恵を受けることになります。
テクノロジー投資を促進する点においては、デジタル製品への投資を拡大する中小企業に対し、4年間で10億豪ドルの減税を行い、従業員のスキルアップを支援するために5億5,000万豪ドルが投入されます。また、従業員持ち株制度に関する煩雑な手続きを軽減することで、オーストラリアの新進テクノロジー企業は、熟練した従業員の獲得と雇用維持において、国際的な競争力を獲得しやすくなるでしょう。
追加されたインフラストラクチャー施策はすべて、州・特別地域政府への助成金を通じて、ボトルネックや移動時間を減らし、経済のキャパシティを少しずつ増やしていくというものです。
結局、今回の予算では、オーストラリアの企業は、供給制約、熟練労働者の不足、そして脱炭素化が進むグローバル経済といった、企業が直面する極めて現実的な課題に取り組むためのルール変更を求めましたが、今回の予算案では先送りとなりました。
生活費が予算案の主要なテーマ
420豪ドルの生活費税控除と所得補助受給者に対する250豪ドルの現金支給は、経済全体で41億豪ドルとなります。一見大きな金額に見えますが、これはオーストラリア人が1カ月の間にカフェ、レストラン、テイクアウトに費やす金額に相当します。
燃料税の一時的な引き下げは、ガソリン価格を下げ、その結果ヘッドラインレベルでのインフレ率を下げますが、節約された分は他の支出に回されるため、インフレ抑制にそれほど大きな影響を与えるとは考えられません。
中低所得者層への支援が悪い政策だとは言いません。実質賃金が低下している中で、食料品や燃料の価格上昇に対処する良い方法であり、ほとんどの世帯が取り残されないことを保証するものです。
企業はこの現金支給を歓迎すると思われますが、RBAの仕事を複雑にしないよう、他の歳出政策を引き締めることで相殺できたかもしれません。
実質的な税制改革はまたも見当たらず
新型コロナウイルス感染症の緊急状況から切り替える際、企業が安心して投資できるような実質的な税制改革が欠けていたためEYによるスコアを1点減点とします。また、歴代の予算から引き継いだ、政府が削減することができたはずの不要な政策がまだたくさん残ったままです。
2009年にケン・ヘンリー(2001~2011年に財務長官を務めたエコノミスト)が語ったように、税制や社会保障給付制度の仕組みは、生産性や労働参加に大きな影響を与える可能性があります。国際競争力の強化やイノベーションへの投資奨励にインセンティブを与え、また、健康や持続可能なプロジェクトなど重要で不可欠なサービスに的を絞ったインセンティブを提供する政策は、企業の投資を促進するでしょう。
住宅のアフォーダビリティへの対策も同様に期待外れです。手頃な価格の住宅供給への追加助成は歓迎されますが、住宅政策の多くは、断片的な需要サイドの政策に限定されたものでした。問題は、これらの施策のどれもが、住宅のアフォーダビリティの問題の核心である供給問題に対処していないことであり、明らかにこの問題への解決のチャンスを逃しています。
脱炭素化への取り組みは限定的
パテントボックス制度の適用範囲を低排出技術分野まで広げましたが、それでもオーストラリアは将来の経済を守るために今すぐ行動すべき機会を逃してしまいました。政府の方針は、低炭素な経済を達成できるだけでなく、GDPを大幅に押し上げる可能性がある新技術の開発と導入、研究開発の商業化、クリーンで新しいエネルギー源におけるオーストラリアの優位性を最大化するための投資を促進するために必要な政策には程遠いものとなっています。