2023/24年度オーストラリア連邦政府予算案概要:納税者は黒字を達成、次は政府が結果を

2023/24年度オーストラリア連邦政府予算案概要:納税者は黒字を達成、次は政府が結果を


前回予算から7カ月で状況が大きく変化

税収の急増により、政府は最も脆弱な人々を救済し、2022/23年度の黒字化に向けて動き出すことが可能になりました。今後4年間の現金収支ははるかに健全になると予想されます。

この税収増のうち300億豪ドル近くは法人税の追加徴収によるものですが、企業にはあまり見返りがありませんでした。

政府は依然として過度に景気のけん引役を果たしていることから、インフレ圧力を助長する危険性があります。

特に経済成長が減速する局面では、必要以上にインフレを招かないような財政規律と、資源を最も効率的な用途に自由に使えるようにすることが、企業に求められています。

政府は、短期的には、節減額を上回る支出を計画しています。これは、電気代、薬代、医療費を直接的に支援することで、一部の世帯の自己負担を減らすことになりますが、総需要を増やすことに変わりはありません。高齢者介護従事者の賃上げ、エネルギー効率の良い住宅への補助金、福祉手当の増額は、個人消費を押し上げます。

平常時であれば、経済はこの景気刺激策を容易に吸収することができるでしょう。

しかし、インフレ率はすでに年率7%で推移しており、オーストラリアで使われる4豪ドルに1豪ドル以上は州・特別地域、地方、連邦政府によるものです。予算措置自体は利上げの引き金にはなりませんが、オーストラリア準備銀行は追加支出をインフレの観点から考慮する必要があります。

生活費が上昇する中、家計を支援することに重点が置かれ、長期的に良好な基盤を確保する生産性向上のための改革は見送られました。

一方今回の予算では、保育士を増やすための重要な施策など、経済の技能基盤を強化するための新しい政策がいくつか導入されたのが心強い点です。また、コスト競争力のある再生可能エネルギーをビジネスに活用できるよう、起業段階での水素製造を奨励する施策もありました。

同様に明るい材料となったのは、構造的な財政赤字を、前回予算案時の年間GDP比約2%から、24/25年度までにGDP比1%未満に縮小させる政策調整です。

これにより、財政はより持続可能なものとなりました。しかし、支出をさらに削減し、大胆な歳入対策を講じれば、政府は債務をより早く返済し、持続可能で包括的な成長促進政策に多くの投資を行い、将来の緊急事態から経済を守るために必要な財政の余力を再構築することができたと考えられます。

2023/24年度オーストラリア連邦予算(チャート10枚)を見る(英語版のみ)



納税者が歳入をけん引

経済状況とコモディティ価格が予想よりもはるかに好調であることから、7カ月前の前回予算と比較して、23/24年度の政府収入はさらに420億豪ドル増加する見込みです。そのうち300億豪ドル近くが法人税の追加徴収によるもので、150億豪ドルが個人所得税によるものです。スーパーアニュエーション税の見積もりは下方修正され、他の税収入においても小さな範囲での修正がありました。

つまり、政府の純債務の最終見積もりは、前回予算の6,340億豪ドルから、23/24年度に5,750億豪ドルに引き下げられたということです。また、金利が上昇しているにもかかわらず、23/24年度の純利払い見積もりは32億豪ドル引き下げられて134億豪ドルになりました。25/26年度には、純債務の見積もりは1,020豪億ドル下がり、純利払いも52億豪ドル下がります。

この変化は、景気の上昇、そしてインフレが財政収支の改善にいかに効果的であるかを示しています。過去7カ月間の良好な経済状況は、何年もかけて政策設定を微調整することに匹敵します。

また、民間セクターを後押しする政策設定の重要性をも示しています。

インフレの影響を最小限に抑える政策策定

予算では、政策的な支出決定により、本年度の残りの期間と来年度で150億豪ドルの支出が追加されることが明らかになりました。しかし、これを相殺するために、19億豪ドルの歳入増が計画されているに過ぎません。つまり、政府は今後14カ月の間に、正味138億豪ドルの政策的裁量を経済に組み入れることになります。

政府は、3つの政策、特に電気代、薬代、一般開業医(General Practitioner:GP)受診料の軽減により、23/24年度のインフレ率が0.75%ポイント引き下がると主張しています。しかし、前回の10月予算から23/24年度のインフレ率は0.25%ポイントしか下方修正されていません。EYは、その他の政策についても、おおむねインフレになると判断しています。政府は、オーストラリア準備銀行の6月四半期までの予想年間インフレ率6.3%、25年6月四半期までの年間インフレ率3%よりも早くインフレ率が2~3%の目標バンドに戻ると予想しています。

現金収支の見通しが改善

基礎的現金収支予測は、前回の10月予算案から大幅に改善されました。22/23年度の369億豪ドルの赤字予測は、法人税と個人所得税の税収増と保守的なコモディティ価格予測が相まって、42億豪ドルの黒字(15年ぶり)に修正されました。しかし、この黒字予想は、好循環的な力が弱まり、経済が減速するにつれて終わることになるでしょう。

24/25年度以降、税収が減少し、各予算の歳出圧力が高まるにつれ、財政状況は悪化すると予想されます。しかし、赤字は前回の10月予算と比較して予測期間を通じて減少し、22/23年度から26/27年度までで合計1,259億豪ドル改善するでしょう。

債務残高の減少

キャッシュフローの改善は、純有利子負債の大幅な下方修正と支払利息の段階的減少につながりました。純有利子負債は、借り入れの必要性が減少したことにより、予測期間中に下方修正されました。しかし、2020年から21年にかけて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の支援を行ったこともあり、純負債は依然として高い水準にあります。

一方で、23/24年度から純利払い額は増加し、25/26年度にはGDPの0.8%に達し、前回10月予算のGDPの1%から減少する見込みです。また、政府は昨年10月以降、若干低い金利で新規国債を発行できるようになり、10年国債の想定利回りは前回の10月予算の3.8%から、将来見積もりでは3.4%に修正されました。これは、インフレ率とキャッシュレートの予想が緩やかになったことによります。

経済予測

財務省は、本年度の成長率を3.25%と予想しており、これに変更はありません。国民経済計算(National Accounts)のデータが示唆する12月四半期までの1年間の成長率は2.7%であり、金利と生活費圧力が高止まりしていることや家計消費がさらに弱まると予想されることから、これは楽観的と思われます。

23/24年度については1.5%への減速が予想され、財務省の予測はオーストラリア準備銀行の予測と一致しており、前回の10月予算から変更はありません。24/25年度には、GDPは2.25%に再び上昇すると予想されます。オーストラリア準備銀行は2.1パーセントとほぼ同様の予測をしています。

失業率は、労働市場の好調が続いていることから、本年度は下方修正されました。6月四半期の失業率は3.5%と予想され、3月の最新データから変更されていません。失業率のピークは、前回の10月予算で予想された23/24年度ではなく、24/25年度に4.5%になると予想されます。これは、財務省が予想するインフレを加速させずに持続可能な失業率の最低水準(インフレ非加速的失業率:NAIRU)の4.25%をわずかに上回ります。

インフレ率の予測は財務省の10月の予測から変更され、本年度はやや高くなるものの、その後は急速に低下すると予想されています。インフレ率は現在の年間成長率7%から、6月までに6%に減速し、その後、23/24年度には3.25%、再来年度には2.75%まで緩やかになると予想されています。これは、政府のエネルギー価格緩和策やその他の生活費上昇への対策により、来年度のインフレ率が低下するという財務省の想定に基づくものです。

賃金予測は本年度も変更はありません。賃金価格指数(WPI)の年間成長率は、22年12月四半期までの3.3%から今年6月には3.75%に上昇すると予測されています。財務省は、賃金の伸び率が23/24年度に4%(前回の10月予算では3.75%)とさらに持ち直した後、再来年には3.25%に戻ると予測しています。予想より低いインフレ率と予想より高い賃金の組み合わせは、実質賃金のプラスへの早期復帰を意味しています。

今回の予算では、人口増加率が大幅に上方修正され、本年度は2%、23/24年度は1.7%、24/25年度は1.5%に達すると予想されています。これに対し、昨年10月時点では、財務省は本年度と来年度の人口増加率を1.4%と予想していました。今回の上方修正は、国境が再開されて以来、海外からの純移民が予想以上に多かったことによります。

前回の10月の予算で生産性の伸びを下方修正した後、財務省は生産性の想定を1.2%に据え置きましたが、これは長期平均成長率である1.5%を下回るものです。


サマリー

納税者は、本予算の真の立役者であり、法人税と個人税を合わせて420億豪ドルの税収をもたらしました。
政府は、最も脆弱な人々を保護するために適切に対応しましたが、今後は改革課題を推進させ、成長促進のための環境を整備する必要があります。


この記事について

執筆者

執筆協力者