オーストラリア国民経済計算(2022年9月期):消費者が旅行に沸き立ち、ビジネスが活発化するも、決算の日は目前にある

オーストラリア国民経済計算(2022年9月期):消費者が旅行に沸き立ち、ビジネスが活発化するも、決算の日は目前にある


高い成長率は、消費者が見通しの悪化を受け入れる前の最後の喜びとなるでしょう。


要点

  • 7~9月四半期の高い成長率には、2022年の締めくくりでさらに明確となった国内外の経済的課題が表れていない。
  • 消費者は課題が近々訪れるにもかかわらず出費の調整に消極的なため、家計消費が引き続き成長を後押しした。
  • 国内外の物価が過去数十年で最も急速な上昇を見せ、賃金指標も堅調に推移する中、物価上昇の圧力は引き続き加速している。サプライチェーンのボトルネックが解消される兆しはビジネスにとって心強いものであり、この兆候は今後も継続すると考えられる。
  • インフレ圧力が落ち着かず、12カ月先には不安定で不透明な状況が予想される中、2022年後半は、現サイクルで好調なGDPの数字が見られる最後になると考えられる。


チーフエコノミストより

民間セクターにおける高報酬の新規雇用とボーナスが7~9月四半期の経済成長率に0.6%ポイントと大きく貢献したため、オーストラリアの消費は7月、8月、9月と好調に推移し、経済にはサービス業を中心にさらに32億豪ドルの成長がもたらされました。

企業は拡張計画を実現させ、供給不足の解消で住宅建設を回復させることができ、これによる堅調な建設活動と相まって、経済成長率は年間5.9%と堅調に推移しました。

貿易セクターは、輸入の停滞が解消されたことと、海外旅行者が急速に増加したことで、成長率が低下しました。輸出価格は今までにない長期的な成長を経験後、2.8%減となりました。

2022年後半は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック後の最後の好景気になると予想されます。

オーストラリア準備銀行(RBA)がインフレ引き下げのために引き締め政策を続けているため、消費者は支出を減速させる以外に選択肢がなく、企業もそれに応じて悪影響を受けるでしょう。

8カ月で3%ポイントの金利引き上げを受けた借り手は、90年代初頭に始まったインフレターゲット以来、最も速いペースで金融引き締めを経験したことになります。物価の上昇(特にエネルギーや食料などの基礎的なもの)、実質賃金の低下、住宅価格の低下と合わせると、将来の消費は穏やかにならざるを得ません。

厳しい状況に向き合わなければならない時が近づいています。10月の小売売上高が減少していることから、すでに始まっている可能性もあります。2022年7~9月四半期の政府の社会扶助給付は368億豪ドルで、ほぼパンデミック前の水準に達しています。これは、2021年同期の431億豪ドル、同2020年の473億豪ドルに匹敵します。家計貯蓄率もパンデミック前の水準に後退しており、堅調な消費と相まって所得支援の水準が低下していることを示しています。

ビジネス分野では、サプライチェーン問題が解消され、遅延が減少し、モノの動きに支障を来すことが少なくなりました。新車の輸入は、海外のサプライヤーが受注残の一部を満たすことができたため、持ち直しました。運輸・倉庫・郵便部門は、特に航空・鉄道輸送の活発化により、7~9月四半期に3.5%の成長を遂げました。在庫は輸入と同様に増加しました。モノがようやく再び動き出したのです。

2022年後半しばらくの間は、高いGDP成長率が見られる最後になるとEYは予想しています。

企業部門にとっては、賃金の上昇と依然として続くコスト増が逆風となっているため、緩やかな消費の伸びは重要です。19%近い国際価格の上昇は、そのことを明確に示しています。製造業を詳しく見てみると、エネルギー代の上昇と売り上げの低下により、利益が21%減少しています。国際経済に依存している企業は、中国を含む先進国経済の主要地域で景気後退に備えなければなりません。

今後1年間は、間違いなく不安定で不透明な状況が続くと思われます。

2022年9月期の国民経済計算を10枚のチャートで見る(PDF)


コスト増が利益率を押し下げ、労働市場の逼迫が賃金を押し上げる

コストの上昇が利幅を圧迫し、コモディティ価格が過去最高値から下落したため、企業収益が減少しています。鉱業の利益は、石炭と鉄鉱石の大幅な価格下落により、今期は19.1%減少しました。製造業の利益は、エネルギーコストの上昇と売り上げの減少により、21%以上減少しました。宿泊・飲食サービス業は、この2年間は非常に厳しい状況でしたが、今期は64%以上の増益となり、最大の成功を収めました。

賃金は堅調に上昇し続けており、過去50年間で最も厳しい労働市場にあることから上昇圧力がかかっています。従業員報酬(Compensation of employee、COE)は当四半期に3.2%上昇し、2006年12月以来の強い伸びを示しました。年間成長率は10%で、10年平均の4.1%を大幅に上回り、賃金価格指数(Wage Price Index、WPI)の3.1%の伸びが示唆するよりもはるかに強い賃金上昇圧力があることを示しています。これは、ボーナス支給と従業員の移動(COEには計上されるがWPIには計上されない)が賃金の上昇に重要な役割を果たしたことを示しています。一般に、賃金上昇の圧力は、公共部門よりもむしろ民間部門からかかり続けています。これは、政府が賃金の伸びを抑制し、財政を持続可能な状態に持っていこうとしているためです。

オーストラリアの交易条件(輸出入価格比)は、特に鉄鉱石と石炭のコモディティ価格の下落により、6.6%低下しました。これはRBAコモディティ価格指数がすでに下落を始めていたことと、世界的な成長減速の要因が積み重なったことによるもので、驚きではありません。

労働時間については前四半期に3.8%増加した後、比較的安定しており、経済における深刻なスキル不足により、パンデミック前の水準と比較して3.9%増加しています。

予想通り、インフレ圧力は続いており、国内物価は年間を通じて6.2%上昇し、四半期ベースで90年以来最も速い伸びとなりました。国際物価は18.6%上昇し、前四半期の年間成長率21.5%からやや緩やかになっています。


消費回復の恩恵を受けるサービス業

物価の高騰と実質賃金のマイナスにもかかわらず、家計は海外旅行や外食など、自由裁量財やサービスへの支出を減らすことに消極的でした。

本四半期に最も伸びた産業は、運輸・郵便・倉庫業と宿泊・飲食業で、それぞれ3.5%と3.4%の伸びを示しました。運輸・郵便・倉庫業は海外旅行の増加が主な要因で、宿泊・飲食サービス業は好調な国内旅行と継続的な外食需要が成長を後押ししました。建設業も、供給制約が緩和され、2.3%の高い伸びを示しました。

製造業と賃貸・人材派遣・不動産サービス業は、それぞれ1.3%と0.6%という最大の落ち込みを経験しました。製造業における減少は、主に継続的な資材不足に起因するものです。賃貸・人材派遣・不動産サービス業では、住宅ローン費用の増加による住宅市場の低迷と価格の下落が要因となりました。


サービス支出により好調な個人消費

家計消費は、旅行やホテル、カフェやレストラン、自動車の購入などのサービスに対する裁量的な支出にけん引され、本四半期に1.1%上昇し、成長に非常に大きく貢献しました。当四半期に50ベーシスポイント(bp:1bp=0.01%)の利上げが3回行われ、消費者マインドが過去最低の水準に達したにもかかわらず、この結果となりました。

消費者は明らかに、物価高と住宅ローン金利の上昇の二重苦を感じており、また、先行きの不透明感を痛感しています。しかし、こうした困難に直面しながらも、労働市場の好調を背景に、支出を調整することには消極的であるようです。

家計消費支出や住宅ローン金利の上昇が可処分所得の伸びを上回ったため、家計貯蓄は減少しました。貯蓄率は、所得の8.3%から7~9月四半期には6.9%に低下し、パンデミック前の水準に戻りました。消費者は最近では、貯蓄の取り崩しで支出増と裁量的支出をカバーするようになっています。金利がさらに上昇し、新型コロナウイルス感染症関連の社会保障費が減少すれば、消費は低迷し、貯蓄はさらに減少するでしょう。

 

金利と生活費の上昇、実質賃金の低下、住宅価格の下落が重なり、消費者支出の後退が予想されます。労働市場が堅調であることと、住宅ローン保有者のかなりの割合が超低金利の固定金利であることが消費を支えていますが、こうした住宅ローンの多くが来年には超低金利から高金利に切り替えられるため、消費の伸びは鈍化し、後退する可能性さえあります。
 

 

スキル人材不足や生産能力に制約のある経済下での政府支出の増加

政府支出は、州・地方自治体レベルの支出や国防費の増加に支えられ、前期比0.1%増にとどまりました。

 

国全体で大規模なインフラプロジェクトのパイプラインがあるにもかかわらず、公共投資は連邦政府と州・地方政府の両方で減少し、当四半期に3.4%減となりました。これは、政府所有の公営企業によっていくぶん相殺されました。

 

政府の消費と投資のGDPに対する比率は、歴史的にも、依然として高い水準にあります。このような政府支出は、経済におけるスキル人材不足と生産能力の制約を悪化させるとともに、インフレの圧力を高め、RBAの仕事を難しくしています。

 

経済的な課題に直面しているにもかかわらず、企業は将来への投資を続けており、7~9月四半期の企業投資は主にインフラ投資により2.5%増加しました。民間投資は、住宅建設と非住宅建設がともに増加し、供給制約が緩和されたため、今期は0.8%増加しました。この上昇は、機械設備投資の減少(2.7%減)と、不動産および不動産譲渡費用を反映した所有権移転費用の11.2%減によっていくぶん相殺されました。
 

 

生産能力の制約がわずかに緩和したことを受けた、住宅投資の回復

住宅投資は3期連続で減少した後、本四半期を通じて1%増加しました。これは、労働力や資材の不足が緩和されたこと、またパンデミック時の刺激策により、住宅プロジェクトのパイプラインが充実していたことによります。さらに、7月にニュー・サウス・ウェールズ州で洪水が発生しましたが、当四半期は雨天の影響が前四半期に比べて少ない結果となりました。

 

7~9月四半期の住宅投資は、新築物件が 3.4%増加した一方で、改築・増築物件は 2.2%減少しました。

 

7~9月四半期に3回連続で50ベーシスポイント(5月の25ベーシスポイント、6月の50ベーシスポイントに続く)の金利が引き上げられたため、住宅市場の活動は低下し、所有権移転費用が大幅に減少しました。この減少は11.2%となりましたが、それでも譲渡費用はパンデミック前の水準と比べると19%増加しています。10~12月四半期には3回連続で25ベーシスポイントの金利が引き上げられるため、所有権移転費用はさらに低下すると思われます。
 

 

輸入増加による観光客や地方輸出の増加の相殺

純輸出は、輸入の増加(3.9%)が輸出の増加(2.7%)を相殺し、成長率を0.2%ポイント引き下げました。

 

輸出は、商品およびサービス輸出の増加により、成長率に0.6%ポイント貢献しました。サービス輸出は、オーストラリアの国境開放に伴う留学生や観光客の入国が支えとなりました。商品の輸出は、天候不順などの影響で石炭やガスの輸出が減少したものの、ウールや綿を中止とした地方部からの輸出と鉄鉱石の輸出の急増に支えられました。

 

輸入では、オーストラリア人の海外旅行者数の増加により、この増加分を相殺し、成長率を0.8%ポイント引き下げました。

 

在庫の変動は、4~6月四半期に減少した後、クリスマス前の鉱業と小売業を中心に0.2%ポイント成長率に貢献しました。
 

 

各州・特別地域で堅調な家計消費

州の最終需要は、成長が停滞したビクトリア州を除く全ての州・特別地域で増加しました。これは2021~-22年の好調なパフォーマンスに続くものです(最近の州・特別地域の分析はこちら)。国内活動の増加に主に貢献したのは接客業と旅行関連の支出で、ほとんどの州・特別地域で増加が見られました。西オーストラリア州では、2022年1~3月四半期に州境が再開されたことで旅行が回復し、輸送サービスが前期比で30%以上増加しました。

 

ビクトリア州では、民間消費と投資の増加がありましたが、政府の医療関連支出の削減と資産取得の減少による公共消費と投資の減少で相殺されました。

 

北部準州(ノーザンテリトリー)は、住宅建設、道路インフラ、公共事業への投資の増加を背景に、2.7%という最も強い四半期成長率を記録しました。

 

ニュー・サウス・ウェールズ州では最近の洪水により、被災地への支援や修繕のために政府支出が増加しました。このような状況にもかかわらず、ニュー・サウス・ウェールズ州はプラス成長を示し、州の最終需要は四半期を通じて0.7%増加しました。

 

最終消費の増加は、RBAが実施した利上げに反応し始めた住宅用不動産市場の減速によって一部相殺されました。このため、ほとんどの州と特別地域で住宅譲渡費用が減少し、特にビクトリア州とニュー・サウス・ウェールズ州では7~9月四半期に10.4%と15.5%の減少を記録しました。


サマリー

金利の上昇、実質賃金と住宅価格の下落は、消費者と企業への圧力を強めると思われます。7~9月四半期の高い成長率は、国内外の課題を十分に反映したものではありませんが、2022年後半しばらくの間、高いGDP成長率が続くと予想されます。


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