メタバースで顧客とつながり永続的な価値を⽣み出すには

メタバースで顧客とつながり、持続する価値を生み出すには


メタバースがデジタルコマースのルールを書き換えています。これを受け、ブランドはその影響を把握し、デジタル戦略を再考する必要があります。


メタバースは、オンライン上でのユーザー体験が⽇々増加するのに伴い、驚くべき速度で進化しています。ゲーム、メディア、ライブイベント、ソーシャルメディアを、デジタルと現実世界を融合させた双⽅向性の新たな形に組み込み、消費者の経済活動のルールを書き換えています。

インターネットが進化を続け、私たちの⽇常⽣活がその影響を受け続ける限り、現実世界と仮想世界をつなぐには、この段階に進むことは避けられないでしょう。このような新しい環境の出現により、消費財メーカーや⼩売企業が顧客を単⼀かつ統⼀された視点から理解する機会が増え、⾼度に個別化された体験の提供が可能になります。

メタバースのルーツはゲームにありますが、それが転換点に達し、より広い顧客層ひいては他の業界にとってもより魅⼒的になったのは、ゲームに関する技術と体験への多額の投資によるものです。今やメタバースは、新しいエンド・ツー・エンドのカスタマージャーニー、没⼊型の体験、コミュニティの創造性を促進するオープンな空間の形成を通じて、消費者を取り巻く環境の変⾰をもたらす可能性を秘めています。

また、メタバースの機能の拡⼤に伴い、ビジネスプロセスとオペレーションの改善も進むと考えられます。これら全てが相まって、新たな成⻑と価値創造機会の拡⼤を促すでしょう。つまり、消費者を顧客とする企業にとって、メタバースを理解し、それに基づきどのように価値提案と戦略を進化させていくかを検討することは、非常に重要です。さもなければ、取り残されるリスクを負うことになります。

 

消費者との新しい関わり⽅

メタバースは急速に進化していますが、その可能性の多くが現実となるのは数年、場合によっては数⼗年先でしょう。簡単に⾔えば、メタバースは以下に挙げる8つの重要な原則に基づいて、現実世界とデジタル世界を、拡⼤・統合された没⼊型3D体験のネットワークに融合させます。

  1. 分散化:相互接続された領域での所有権の分散
  2. ユーザーによる定義:参加者による所有・形成
  3. 共創:ユーザーとの協働により構築され、ユーザーによる資産、コンテンツ、価値の創造が可能
  4. 同期性︓⽇常⽣活に織り込まれ、すべての⼈の体験が⼀貫
  5. ライブ:環境とユーザーがリアルタイムで相互に作用
  6. 持続性︓常に利⽤でき、常に進化
  7. 社会性︓同じ考えをもつ⼈々のコミュニティの形成や協調的な交流が可能
  8. 経済的価値の移転が可能︓創出された価値が、さまざまなデジタル空間と現実世界の間で移転可能

メタバースの実⽤化が進めば、ユーザーによる管理が可能になり、ユーザーは⾃分の時間の使い⽅やデータの共有⽅法を⾃ら選択できるようになります。そして、仕事、遊び、⽣活のために時間を過ごす世界をスムーズに切り替えることができます。これは、消費者を顧客とする企業にとって馴染みのあるインターネット使⽤から⼀歩進んだところにあり、従来とは異なる消費者との関わり方のモデルです。

 

テクノロジーが新しいデジタル体験をもたらす

メタバースは多様なテクノロジーに基づいて構築され、相互に重なったものと捉えると理解しやすいでしょう。これらのテクノロジーの層全体が、メタバースが機能するために必要なエコシステムを形成しています。基盤となるのは、中核インフラに関する要件とテクノロジー(帯域幅、ネットワーク、クラウドなど)、ブロックチェーン(暗号化、識別、所有権のために必要)、アクセス技術(AR/VR、アプリ、Webサイト)です。これにより⼀連のコア機能(商取引、マーケットプレイス、共創、通貨)が利⽤できるようなり、さらにこれらのコア機能は、⼀連の製品(物理的・デジタルツイン、デジタル資産、NFT)と⼀連の体験(ハイブリッドショッピング、ライブイベント、没⼊型コンテンツ)の提供を可能にしています。テクノロジーに関するさまざまな決定によって、創造される体験全体が左右されるため、マーケティングとテクノロジーは協働する必要があります。

メタバースの6つの層を視覚化した図。各層が同心円で表示されており、内側から、「インフラ」、「ブロックチェーン」、「アクセス」、「機能」、「製品」、「エクスペリエンス」。

関与しているテクノロジーも急速に変化しています。5Gと光ファイバーにより、膨⼤な量のアップロードとダウンロードの要件を満たすネットワークが実現するとみられます。AR/VRヘッドセットの新製品が手の届きやすい価格となれば、一層のメタバース利⽤の増加につながると考えられます。近い将来には製品視覚化ツールやビジュアル検索ツール、⻑期的には完全没⼊型の体験などを提供するツールを⼗分に活⽤するためのアプリケーションも開発されることでしょう。

消費者が相互に交流し、新たな要望が⽣まれるのに伴い、テクノロジーは消費者の好奇⼼を満たすために適応していくでしょう。同様に、テクノロジーの進歩に伴い、消費者はその新たな利⽤⽅法を⾒いだしていくことでしょう。

EY Future Consumer Index
既にメタバースに関与している消費者の割合。

消費者がメタバースを形作る

メタバース自体は、もはや、世界全体で32億人に上るゲームプレイヤーだけの場所ではありません1。最新のEY Future Consumer Indexでは、消費者の10%が、暗号ウォレットの利用、バーチャル製品の購入、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を試しているなど、他の⼿段を通じてメタバースに関与していることが明らかになりました。

消費者はバーチャルな世界とエコシステムで、現実世界の創造的な延⻑を体験し、その世界でくつろぎ、⼈に出会い、コミュニティを形成し、問題を解決し、新しいブランド価値を体験し、⾃⾝の本来の現実とは異なる現実を探求することができます。ゲームに関連する機会(NFT、デジタル収集品、アバター⽤のバーチャルスキンとそれに付随するアクセサリーなど)や、没⼊型エコシステム(⾃⾝の仮想⼟地区画上の構築物など)は数多く存在しています。

メタバース⾃体の拡⼤にともない、それが⽣み出している利益も増⼤しています。

  • メタバースで1日に少なくとも1時間を過ごす消費者は、2026年までに25%に増加すると予想される2
  • 2026年だけでも、8,800万台のVR/AR機器の出荷が⾒込まれている3
  • α世代の(2009年以降に⽣まれた)消費者は既に、RobloxやFortniteなどのオンラインマルチプレイヤーゲームを通じて友⼈と会い、交流している。事実、Robloxの⽇次アクティブユーザーは5,000万⼈を超える4
  • eスポーツと⼤規模マルチプレイヤーオンラインゲーム(MMOG)の人気が高まっており、斬新で相互運⽤可能な共創的環境でコミュニティを形成して活動する新しい利用者を引きつけている。
  • 数百万⼈ものユーザーが同時に参加できる、メタバースプラットフォーム上のファッションショーやライブミュージックコンサートなどのイベントが増加している。

既に複数の有名ブランドが、アート、スポーツ、⾳楽などの分野でデジタル収集品を制作しています。例えば、グッチのバーチャル版ディオニュソスバッグは、Roblox内で、同じバッグの現実世界での価格よりも⾼い4,000⽶ドルを超える価格で販売されました5

 

ブランドとの関係の再定義

デジタル製品は、販売したり収集したりするだけではなく、共同で制作することもできます。既にメタバースのプラットフォーム上で消費者が独⾃の収集品やゲームを開発し、プログラムすることが可能になっています。デジタル製品の出現は、「流⾏をつくり出すこと」が⺠主化(誰もがアクセス可能で利⽤可能)すると同時にニッチ化(⽐較的少数の⼈々のニーズと価値観に応える)する可能性を⽰唆しています。益々複雑化するエコシステムにおいて、消費者ブランドと⼩売企業が差別化を図るためには、コミュニティの⼒を活⽤する必要があります。

それに伴い、ブランドの「オーナーシップ」の定義が「管理」から「調整」へとシフトする可能性があります。成功する企業は、所定の体験を厳密に監督するのではなく、ロイヤリティの高い顧客のコミュニティと連携して、製品、サービス、体験を共同で作成および再定義するようになります。

結果として、組織のバリューチェーンも進化し、デジタルと複合現実の体験を融合・提供するために必要な新機能を取り⼊れていくでしょう。また、エンド・ツー・エンドの体験の開発、コミュニティの関与の促進、共同での設計・開発を調整するために必要な新しいスキルが形成されていくでしょう。このような進化を⽀えるのは、デジタルIP(知的財産)保護、収益分配モデル、サイバーセキュリティです。

サイバーセキュリティ、IPとブランドエクイティ、カスタマージャーニー、コミュニティ、顧客データ、報酬に関する協働、一貫したデジタルアイデンティティ、そして会社の顔という各要因を組み合わせて得られる力を活用するための戦略の開発により、バリューチェーンを再考する方法を視覚化した図。

メタバースと交わることで、小売企業とブランドの新しい道が開く

消費者のデジタルアイデンティティへの投資が増加するのに伴い、デジタル製品の購⼊や、デジタル体験に費やす時間も増加しています。これらのデジタルアイデンティティは、物理的な(肉体としての)⾃⾝と同じくらい重要になりつつあり、デジタル世界と現実世界を融合させています。

消費者がデジタルな空間で過ごす時間が増加しているため、ブランドや⼩売企業も、基本的にそのデジタルな空間に存在していることが求められます。しかし、ただ存在しているだけでは⼗分ではありません。メタバースは他では得られない独⾃の体験の形成を通して消費者と交流し、ブランドに対するワクワク感や信⽤、信頼を育むことができるかつてない機会をブランドにもたらしています。この機会を捉えることができなければ、消費者に求められる存在ではなくなるリスクを負いかねません。

メタバースはまだ形成段階にあり、依然としてブランドには製品・サービスを構築する⼒があります。将来の進路を定めるに当たり、メタ・ファーストの戦略的ロードマップを構築する際に考慮すべき4つの事項を⽰します。

 

1. 将来の消費者に求められるブランドの開発に焦点を定める

Z世代とα世代は、現時点で既に、ますます多くの時間をメタバース関連に費やしています。彼らが年を重ね、メタバースが成⻑するにつれて、彼らの関与の程度も増⼤していくとみられます。より⼤きな経済⼒をもつ数年後には、彼らがメタバースで過ごす時間の⻑さは、相当量のウォレットシェアを意味することになります。ブランドが将来も消費者に求められる存在であり続けるには、消費者の新たな好みを理解し、メタバースに適したビジネス基盤を、今、築く必要があります。そのためには、創造するメタバースの体験・製品すべての中⼼に消費者を据えなければなりません。ブランド認知度を⾼めるために、この姿勢をより広範な事業計画に浸透させる必要があります。それにより、ブランドエクイティの保全、将来を⾒据えた「フィジタル」(現実世界とデジタルの融合)戦略に沿った⾃社の価値提案の進化、そしてこれらの新しいプラットフォームにおける⼀貫したデジタルアイデンティティの創造が可能になるでしょう。

また、消費者データとブランドIPの利⽤を保護・管理するための対策を整備する必要があります。これらの新しいチャネルと製品はまだ発生期にあり、サイバーセキュリティリスクにさらされることを経営幹部は理解し、軽減する必要があります。

 

2. デジタルな消費者コミュニティに積極的に関わる

メタバースを新しい⼩売チャネルやソーシャルチャネルという文脈の中に置くことで、全体像を理解しやすくなります。メタバースに新しいコミュニティが出現し、交流が⾏われている中で、ブランドは、モバイル、ソーシャル、⾳声コマースなどの既存チャネルを統合した、あるいはそれを超える、次世代のインターネットとなる媒体を通じて、そのようなコミュニティを特定し、それらに関与する⽅法を⾒いだす必要があります。

顧客と親密な関係を築き、新たなレベルの体験を⽣み出すには、ただ製品やオプションが並んでいる実店舗の複製を仮想世界に作るだけでは不⼗分です。企業がブランドや体験に取り組み、それらを中⼼としてコミュニティを発展させ、共創を可能にするには、イノベーションを推進し、新しいアプリケーションや製品の創造を可能にする開発者のコミュニティにシステムを開放する必要があります。このような取り組みへの参加に対する見返りは、新しい支払い形態とデジタル権利によって提供され、ブランドの権利を維持しつつ、コミュニティが⽣み出す価値をコミュニティ内で共有できるようになるでしょう。共同創造者となったコミュニティは、強⼒なブランドアンバサダーになり得ます。

 

3. 実現可能な新しい収益源獲得の機会を積極的に探す

デジタル製品は既に数⼗億ドル規模のビジネスになっています。持続可能で⻑期的成⻑の可能性を秘めた、革新的かつ高収益な収益源を創出することが不可⽋です。例えば、既に収益を⽣んでいるNFTは、消費者ブランドがメタバースを活⽤し、消費者のロイヤルティーの重要性を捉え直すための端緒になっています。このような道筋は、ビデオゲームの無料化がゲーム内課金アイテムの購⼊の増⼤につながっているのと同様に、流通市場での再販を通じたロイヤルティー獲得につながる可能性があります。

メタバースは、消費者⾏動を捉え、理解する能⼒を指数関数的に向上させることから、データを通じて価値創造の新たな道を開きます。個々の消費者のセグメント化、ターゲティング、個別化を高度化するために、データの取引や使⽤の価値が⾼まるでしょう。しかし、このような関係は消費者が⾃⾝のデジタルIDの管理を受け⼊れることと歩みをそろえて成⻑するため、ブランドと消費者双⽅がデータから利益を得るためには信頼が必要になります。

 

4. 創造性を発揮し、仮想化を通じてオペレーション上のメリットを実現する

メタバースへの参⼊には、仮想世界に特化した効率的なプロセス、およびバリューチェーンの⾒直しが求められます。同時に、従業員の体験とオペレーションを改善する機会にもなります。

メタバースが提供するのは消費者体験に限られたものではありません。消費者のためのメタバースの進化とともに、産業⽤メタバースも進化します。その結果、仮想現実でのプロセスの視覚化、システムの⾮効率な箇所の把握、リモート設計チームの協働、在庫管理や製造プロセスのシミュレーションの向上、知的財産権とその管理に関する問題への対処などを可能にする環境が実現するでしょう。

事業の効果を高める機会としてメタバースを活用することで、同時にリスクを軽減できる可能性があります。

メタバース市場をリードするために組織にディスラプション(創造的破壊)を起こす

 

ディスラプションが当たり前となっている環境では、メタバースでの成功は最優先事項ではないかもしれません。メタバースへの参⼊が組織構造と事業モデルの再考を意味しかねない場合には、特にそう思えるかもしれません。しかし、厳密に監督され、明確に定義されたカスタマー体験から、顧客と共同で作り上げた製品、サービス、体験へのシフトを通じて、最終的には、全社的な変化が促がされ、将来の消費者と⻑期的関係を構築できるでしょう。

 

また、新しいことを試そうとする姿勢と、新しいスキルセットと能⼒(セキュリティ・バイ・デザインからクリエイティブ・ディレクションに⾄るまで)が組織全体に浸透することに加え、新しい戦略が必要になることもあるでしょう。どのような場面にも通⽤するアプローチはありませんが、⽬標に向かう過程において検討すべき4つの段階があります。

 

  1. 安全性:⾃社のビジネスと顧客を守る。メタバースの新しいチャネルと資産は初期段階にあるため、ブランドエクイティを保全するためには、まずデジタル戦略の範囲を超えて、サイバーセキュリティリスクとブロックチェーン技術を詳細に理解する必要がある。
  2. 実験︓⾃社の事業やブランドと、メタバースとの関連性を検証し学ぶ。現在の収益源について新しいアイデアを探り、将来のために組織が学習できる体制を構築する。
  3. 統合︓ブランドや製品をめぐるコミュニティを育成し、体験を共創する。
  4. 進化︓デジタル・ファースト戦略の⼀環として、将来に向けてメタ・ファースト・シナリオを検討し、アクティビティが将来どのように実施されるかを再考し、物理的現実または仮想的現実、もしくはその両⽅の交流手段を使う消費者向けに最適化する。
     

何よりも、経営陣にはこの機会を捉え、トップの姿勢を明確にし、メタバースの学習過程を通じて組織を導く⼼構えが必要です。

 

相互運⽤可能なメタバースはまだ形成段階にあります。私たちが今いる場所は、私たちが2年後、5年後、または10年後にいる場所ではないことは確かです。しかし、歴史を振り返れば、デジタル化が急激に加速したことや、ウェブベースのテクノロジーが急速に進化したということが分かります。現在のメタバースの制約も、遅かれ早かれ解消されることでしょう。⼩売企業や消費者メーカーは、今⾏動することで、変化に対応するのではなく、変化の先頭に⽴つことができるのです。



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    サマリー

    ブランドが顧客の存在する場所に存在しなければならないとしたら、現在、その場所にはメタバースが含まれています。消費者メーカーにとってメタバースは新しい市場とつながることができるチャネルであり、これを通じて時代性を失わず、顧客エンゲージメントを最適化し、新たな収益源を創出し、オペレーション上のメリットを実現することができます。もっとも、メタバースに参⼊することで、さらに広範囲に影響が及ぶ可能性があります。厳密に監督され、明確に定義されたアプローチから、顧客と共同で製品、サービス、体験を作り上げるアプローチへのシフトには、全社的な企業⽂化の有意義な変⾰と、組織構造と業務モデルの再考が求められます。将来を⾒据えて⾏動し、メタバースに対応することで、この進化する現実を形作る一助となることができます。


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