メタバースと交わることで、小売企業とブランドの新しい道が開く
消費者のデジタルアイデンティティへの投資が増加するのに伴い、デジタル製品の購⼊や、デジタル体験に費やす時間も増加しています。これらのデジタルアイデンティティは、物理的な(肉体としての)⾃⾝と同じくらい重要になりつつあり、デジタル世界と現実世界を融合させています。
消費者がデジタルな空間で過ごす時間が増加しているため、ブランドや⼩売企業も、基本的にそのデジタルな空間に存在していることが求められます。しかし、ただ存在しているだけでは⼗分ではありません。メタバースは他では得られない独⾃の体験の形成を通して消費者と交流し、ブランドに対するワクワク感や信⽤、信頼を育むことができるかつてない機会をブランドにもたらしています。この機会を捉えることができなければ、消費者に求められる存在ではなくなるリスクを負いかねません。
メタバースはまだ形成段階にあり、依然としてブランドには製品・サービスを構築する⼒があります。将来の進路を定めるに当たり、メタ・ファーストの戦略的ロードマップを構築する際に考慮すべき4つの事項を⽰します。
1. 将来の消費者に求められるブランドの開発に焦点を定める
Z世代とα世代は、現時点で既に、ますます多くの時間をメタバース関連に費やしています。彼らが年を重ね、メタバースが成⻑するにつれて、彼らの関与の程度も増⼤していくとみられます。より⼤きな経済⼒をもつ数年後には、彼らがメタバースで過ごす時間の⻑さは、相当量のウォレットシェアを意味することになります。ブランドが将来も消費者に求められる存在であり続けるには、消費者の新たな好みを理解し、メタバースに適したビジネス基盤を、今、築く必要があります。そのためには、創造するメタバースの体験・製品すべての中⼼に消費者を据えなければなりません。ブランド認知度を⾼めるために、この姿勢をより広範な事業計画に浸透させる必要があります。それにより、ブランドエクイティの保全、将来を⾒据えた「フィジタル」(現実世界とデジタルの融合)戦略に沿った⾃社の価値提案の進化、そしてこれらの新しいプラットフォームにおける⼀貫したデジタルアイデンティティの創造が可能になるでしょう。
また、消費者データとブランドIPの利⽤を保護・管理するための対策を整備する必要があります。これらの新しいチャネルと製品はまだ発生期にあり、サイバーセキュリティリスクにさらされることを経営幹部は理解し、軽減する必要があります。
2. デジタルな消費者コミュニティに積極的に関わる
メタバースを新しい⼩売チャネルやソーシャルチャネルという文脈の中に置くことで、全体像を理解しやすくなります。メタバースに新しいコミュニティが出現し、交流が⾏われている中で、ブランドは、モバイル、ソーシャル、⾳声コマースなどの既存チャネルを統合した、あるいはそれを超える、次世代のインターネットとなる媒体を通じて、そのようなコミュニティを特定し、それらに関与する⽅法を⾒いだす必要があります。
顧客と親密な関係を築き、新たなレベルの体験を⽣み出すには、ただ製品やオプションが並んでいる実店舗の複製を仮想世界に作るだけでは不⼗分です。企業がブランドや体験に取り組み、それらを中⼼としてコミュニティを発展させ、共創を可能にするには、イノベーションを推進し、新しいアプリケーションや製品の創造を可能にする開発者のコミュニティにシステムを開放する必要があります。このような取り組みへの参加に対する見返りは、新しい支払い形態とデジタル権利によって提供され、ブランドの権利を維持しつつ、コミュニティが⽣み出す価値をコミュニティ内で共有できるようになるでしょう。共同創造者となったコミュニティは、強⼒なブランドアンバサダーになり得ます。
3. 実現可能な新しい収益源獲得の機会を積極的に探す
デジタル製品は既に数⼗億ドル規模のビジネスになっています。持続可能で⻑期的成⻑の可能性を秘めた、革新的かつ高収益な収益源を創出することが不可⽋です。例えば、既に収益を⽣んでいるNFTは、消費者ブランドがメタバースを活⽤し、消費者のロイヤルティーの重要性を捉え直すための端緒になっています。このような道筋は、ビデオゲームの無料化がゲーム内課金アイテムの購⼊の増⼤につながっているのと同様に、流通市場での再販を通じたロイヤルティー獲得につながる可能性があります。
メタバースは、消費者⾏動を捉え、理解する能⼒を指数関数的に向上させることから、データを通じて価値創造の新たな道を開きます。個々の消費者のセグメント化、ターゲティング、個別化を高度化するために、データの取引や使⽤の価値が⾼まるでしょう。しかし、このような関係は消費者が⾃⾝のデジタルIDの管理を受け⼊れることと歩みをそろえて成⻑するため、ブランドと消費者双⽅がデータから利益を得るためには信頼が必要になります。
4. 創造性を発揮し、仮想化を通じてオペレーション上のメリットを実現する
メタバースへの参⼊には、仮想世界に特化した効率的なプロセス、およびバリューチェーンの⾒直しが求められます。同時に、従業員の体験とオペレーションを改善する機会にもなります。
メタバースが提供するのは消費者体験に限られたものではありません。消費者のためのメタバースの進化とともに、産業⽤メタバースも進化します。その結果、仮想現実でのプロセスの視覚化、システムの⾮効率な箇所の把握、リモート設計チームの協働、在庫管理や製造プロセスのシミュレーションの向上、知的財産権とその管理に関する問題への対処などを可能にする環境が実現するでしょう。
事業の効果を高める機会としてメタバースを活用することで、同時にリスクを軽減できる可能性があります。