危機発生時のサプライチェーンに求められる弾力的な需給計画とは

危機発生時のサプライチェーンに求められる弾力的な需給計画とは


関連トピック

危機下における需給の急激な変化への対応やサプライチェーンの体制・基盤構築には「アジャイル型需給計画」が有効に働きます。その実現には、サプライチェーンの可視化と実践的なシナリオ策定がポイントになるでしょう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響により、人々は今もなお各国・地域の規制の下で生活することを余儀なくされています。日本で緊急事態宣言が発令された4月には、世界人口のおよそ半数が何らかの外出制限を受けていると報じられました。これは、世界規模で人々の労働環境や購買行動に影響が及んでいることを意味します。生活スタイルの急激な変化や未知の事態に対する不安は、生活必需品の局地的な需要急増や購買対象のシフトといった現象を引き起こします。事実、緊急事態発生下においては、この現象への対応が企業の課題の1つとして浮き彫りになりました。また、感染症拡大に伴う生産拠点の閉鎖や生産の停止によって、供給が停滞することも懸念されています。

一刻も早い対処が必要であるだけでなく、局面によって適切な対応を取る必要もあります。まず、Nowフェーズでは、事業の継続性を最優先に確保するために足下のオペレーションと並行してリスク診断を実施し、サプライチェーンにおけるリスクを見極めます。続いてNextフェーズでは、継続する危機および第2波/2番底に対応するため、リスクの可視化やモニタリングによって迅速に対応する体制・基盤を構築します。その先のBeyondフェーズでは、危機を織り込んだ新たな標準に向け、従来および将来の課題に対して弾力性を持つ企業体制へと変革していきます。

リスク診断の結果、需給の急激な変化への対応やサプライチェーンの体制・基盤構築に課題があると特定された場合、サプライチェーンの弾力性構築には迅速かつ適応的な需給計画手法である「アジャイル型需給計画」が対策の1つとして有効です。

なぜアジャイル型需給計画が必要か

従来の四半期、月次といったサイクルでの需給計画では、急速に変化する需要や不安定な供給への対応が遅れ、欠品による機会損失や過剰在庫によるコスト増といった影響を及ぼしかねません。グローバルサプライチェーン全体の需給バランスの適正化に向け、より迅速に判断し、実際の稼働に連携するための要諦は、計画と需給調整を一般的な月次サイクルから週次や日次といった短いサイクルで見直していくことです。

アジャイル型需給計画とは

一般的な需給計画では、事業全体の最適化を目的とした広い範囲のデータに基づき、またステークホルダーの広い関与を基に進めることで、より精度の高い計画を目指します。これは広い範囲を含めて検討できる半面、危機発生時などの変動の速い状況においては、仮定や数値は策定から時間が経過するにつれ、実態とはかけ離れてしまう懸念があります。

アジャイル型需給計画では、月次サイクルの計画を実施しつつ、並行して「スプリント」単位で活動のベースとなるシナリオを見直すことで、より実態に即した計画と稼働を機動的に実現します。まず、サプライチェーン活動に影響を与え得る要因として変数を抽出します。そして、想定される将来的な展開に応じて、変数を調整し複数のシナリオを策定します。週次サイクルのスプリントにおいて、選出されたステークホルダーがそれぞれの危機への対応状況に応じてシナリオを見直し、最適なサプライチェーン活動へと柔軟に対応できるようにします。


需給計画タイムライン イメージ

需給計画タイムライン イメージ


アジャイル型需給計画の実現に向けた4つの柱

以下の4つの柱を軸に推進していくことが重要です。

  1. サプライチェーンの透明性・可視性
    需給計画実現の前提として、サプライチェーン全体を可視化し、リスクモニタリングと意思決定のための土台となる仕組みを構築します。

    ・サプライチェーンプロセスに対して外部のリスク情報のマッピング
    ・現在および将来におけるリスクの可視化
    ・リードタイム・在庫水準などを監視するダッシュボードの構築

  2. What-If シナリオシミュレーション
    仕組みを構築した上で、シナリオのパターンを策定します。シナリオごとの需給変化の予測シミュレーションを実施し、各予測の発生可能性や発生時の影響度などを鑑みて対応方針・優先順位を決定します。

    ・実行可能性の高いケース、最悪の事態を想定したケースなど複数の回復シナリオ策定
    ・各シナリオに基づく需要予測、供給能力変化予測
    ・各予測に対する対応方針、優先順位の決定

  3. 需要の把握と充足管理
    シミュレーションによる需要予測によって、販売地域や製品といった単位でのオペレーションへの影響を把握します。

    ・市場動向に基づく需要推移の想定をベースに、販売地域・製品ごとの想定ボリュームを確認

  4. 供給および在庫管理
    シミュレーションから得た供給能力の変化予測と需要予測に基づき、各地域への製品のアロケーションや在庫水準、優先度を検討します。

    ・需要、在庫、供給能力を踏まえた最適アロケーションから、回復期の基本アロケーションを検討
    ・アロケーション条件、優先条件から需要予測への対応度や供給ボリュームを確認

アジャイル型需給計画実現に向けた4つの柱

アジャイル型需給計画実現に向けた4つの柱


プロジェクト事例

グローバルに展開するクライアント(製造業)は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によるサプライチェーンの分断と、突発的かつ急激な需要の増減、および生産拠点の稼働停止による供給の不安定化といった課題に直面していました。

クイックアセスメントの結果、サプライチェーン全体の実態を把握できていないために適切な対策が検討できておらず、第一歩としてサプライチェーンの可視化が必要であることが分かりました。そこで、サプライチェーンの可視化に向け、クラウド上にSAP IBP(Integrated Business Planning)を構築し、アジャイル型需給計画基盤の迅速な導入を支援しました。また、EYのプロフェッショナルがクライアントのプランニング部門と協働し、実現可能性の高いパターン、最悪の事態を想定したパターンといった複数のシナリオの策定から、それらへの対応の検討を支援し、実際の稼働に向けてスムーズな立ち上げを実現。結果として、サプライチェーン全体が即時に可視化され、シナリオごとのシミュレーションによる意思決定を可能にしました。シナリオを短いサイクルで見直し、常に複数のパターンを想定しながら対応を切り替えることにより、需給の変化に迅速に応じる体制構築を実現しました。


サプライチェーンの弾力性構築に向けたそれぞれの施策の具体的な検討対象・構築手法については以下の記事を参照ください。


サマリー

需給計画はサプライチェーン全体の活動をコントロールする重要なファンクションであり、危機からの回復における柱の1つです。危機下において有効なアジャイル型需給計画の実現には、サプライチェーンの可視化と実践的なシナリオ策定がポイントとして挙げられます。EYはアジャイル型需給計画を含め、需給計画全体の構想策定、それを支える運用設計と基盤構築、および稼働の立ち上げと定着化までワンストップで支援します。


この記事について