TNFDベータv0.4版発行:LEAPにおける自然関連リスクの評価方法に関するガイダンス(Annex 4.6)について

TNFDベータv0.4版発行:LEAPにおける自然関連リスクの評価方法に関するガイダンス(Annex 4.6)について


自然関連の財務情報開示フレームワーク Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表され、多くの付属文書が公表されました。

本稿ではそのうち、LEAPにおける自然関連リスクの評価方法に関するガイダンス(Guidance on LEAP: Methods for assessing nature-related risks Annex 4.6)について概説します。


要点

  • 自然関連リスクの評価方法に関するガイダンスでは、自然関連リスクの評価アプローチを実践するための3つの実施方法が提示された。
  • これらの実施方法は、TNFD情報開示ピラーにおいて投資家の意思決定やLEAPアプローチの実施にも役立つ。


2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました(2023年9月に最終化されたv1.0版が発行予定)。今回のベータv0.4版でも追加的なガイダンス等の付属書類が多数発行されていますが、本稿ではそのうち、以下の開示の実施に関する追加的ガイダンスと開示指標に関する付属書類について、概要を説明します。

  • Annex 4.6 LEAPにおける自然関連リスクの評価方法に関する追加的ガイダンス(LEAP: Methods for assessing nature-related risks)

本ガイダンスは、自然関連リスクの評価アプローチを実践するための3つの実施方法を示しています。(図1)これらのアプローチは相互に関連して構築されながら、LEAPアプローチを実施する際に順番に適用することもできます。また、本ガイダンスの評価アプローチは一般的に金融機関を対象としていますが、影響が適切な場合は企業にもその応用もお勧めします。


図1 自然関連リスクの評価アプローチを実践するための3つの実施方法

図1 自然関連リスクの評価アプローチを実践するための3つの実施方法

3つの方法

1. ヒートマップ:リスクはどこにあるか?

事業活動がどのように実質的に自然に依存しているのか、自然に影響を与えているのかを明らかにし、自然関連リスクへの潜在的あるいは実際のエクスポージャーを定性的にまとめます。組織はヒートマップを用いて、高度または中程度と評価された依存性と影響を持つセクターを複数特定することができます。
 

2. 資産のタグ付け:どの程度のリスクがあるか?

金融資産または企業資産固有のデータを使用して自然関連リスクの大きさを判断し、ヒートマップ・アプローチを深めます。組織の自然関連の依存性や影響度を、質的、量的、あるいは場所に基づく指標を通じて評価します。
 

3. シナリオに基づくリスク評価方法:財務上の意味は?

自然関連リスクへのエクスポージャーを、組織にとっての財務上の意味に落として整理します。これは、TNFDで議論されている他のリスク評価アプローチに基づいており、以下を含むいくつかの追加情報を必要とします。

ⅰ. 自然関連リスクに係る経済的および財政的費用

ⅱ. 費用と収入の変化への変換とその推定を可能にするための依存性と影響の変化のモデル化

ⅲ. コストおよび収益に影響を与える可能性のある伝送チャネルに物理、移行リスクがどのように影響するかを含む、より包括的なシナリオ分析


上記3つのリスク評価の実施方法についての概要一覧を表1のとおりに整理しました。

表1 リスク評価の実施方法についての概要一覧

表1 リスク評価の実施方法についての概要一覧

意思決定におけるリスク評価アプローチの使用

本ガイダンスは推奨されるTNFD情報開示の4つのピラーすべてにわたって、下記8つの分野に関するに役立つことができます。

  1. ハイレベルの目標と戦略
  2. 経営陣と組織のイネーブラー
  3. アセットマネージャーの関与
  4. 全体的なリスク管理
  5. 戦略的ポートフォリオ配分
  6. 取引のデューディリジェンス
  7. ポートフォリオ会社との関与
  8. 出口戦略

これらのリスク評価は、戦略および資源配分に関する決定を特定し、情報を提供するとともに、これらの決定分野に関連するリスク評価の知見を用いて目標を設定するのに役立つと考えられます。

図2 3つのリスク評価実施方法とTNFD情報開示4つのピラーにおける意思決定領域との関連性

図2 3つのリスク評価実施方法とTNFD情報開示4つのピラーにおける意思決定領域との関連性

リスク評価を実施するための段階的手順

本ガイダンスでは、リスク評価手法を適用する際の段階的なアプローチについても説明しています。表2は、スコーピング・フェーズとLEAPアプローチに沿った6つのステップの下で、企業と金融機関がリスクと機会を分析するために、それぞれの方法論をどのように適用できるかをまとめたものです。

表2 LEAPアプローチにおける3つのリスク評価の実施方法の適用

表2 LEAPアプローチにおける3つのリスク評価の実施方法の適用

まとめ

今回のベータv0.4版発行では、リスク評価のアプローチが、より具体的、明確になってきました。上述した3つのリスク評価の実施方法はそれぞれ目的、長所、短所、必要なリソースが異なり、各社の実情、ニーズ、ケイパビリティにあったものから選び、またはそれぞれを組み合わせした形での実施がよいと思われます。また、この3つの方法はリスクの特定(A)だけには限らず、LEAPアプローチにおいては自然との接点(L)、依存関係と影響(E)、指標と目標(P)の分析や整理にも使えます。さらに、投資家の意思決定にも役立つものと思われます。

われわれEYの気候変動・サステナビリティサービスユニット(CCaSS)では、これまでのTNFDの試行実施に基づく知見と、自然資本・生物多様性に係るバックグラウンドを持つ人材により、TNFDについても有用な支援サービスを提供させていただきます。


関連資料

The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework
Final Draft – Beta v0.4,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf

Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework
Beta v0.4 Annex 4.6 Guidance on LEAP:Methods for assessing nature-related risks,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/04/TNFD_v0.4_Annex_4.6_v2.pdf


【共同執筆者】

イヴォーン・ユー(Evonne Yiu)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)
シニアコンサルタント

シンガポール出身。東京大学農学博士。15年以上の政府機関と国連機関の勤務を経て、2022年にEY新日本有限責任監査法人に入社し、生物多様性の保全、評価や情報開示などの業務を担当。
10年以上にわたり、SATOYAMAイニシアティブや世界農業遺産(GIAHS)などの国連の取り組みを通じ生物多様性、持続可能な農林水産業に関する業務に従事。生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)のフェローとしても選出され、IPBES Values Assessment(価値評価)の国際研究書の共著にも参加。

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー

自然関連リスクの評価方法に関するガイダンスでは、自然関連リスクの評価アプローチを実践するために、ヒートマップ、資産のタグ付け、シナリオに基づくリスク評価方法といった3つの実施方法が提示されました。

これらの実施方法は、TNFD情報開示のすべて4つのピラーにおいて投資家の意思決定にも役立ち、LEAPアプローチの実施においても活用方法が提示されました。


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    この記事について

    EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)

    EYはクライアントと共にビジネスにおける生物多様性の主流化を目指し、ネイチャーポジティブのための変革をサポートします。

    EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)