EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿ではそのうち、開示の実施に関するガイダンス(Disclosure Implementation Guidance:Annex 4.2)と開示指標に関する付属書類(指標リスト)(Disclosure Metrics Annexes:Annex 4.3)について概説します。
要点
2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました(2023年9月に最終化されたv1.0版が発行予定)。今回のベータv0.4版でも追加的なガイダンス等の付属書類が多々発行されていますが、本稿ではそのうち、以下の開示の実施に関する追加的ガイダンスと開示指標に関する付属書類について、概要を説明します。
ガバナンス、戦略、リスクおよび影響の管理、指標と目標の4つの柱(Pillar)にまたがる開示の一般的要求事項(General requirements)として、以下の6項目が提示されました。これは、もともとベータv0.1版(2022年3月発行)において提示されていたものが、追加、改訂されたものです。その概要は以下の通りです。
4つの柱(Pillar)それぞれにおける開示提言については、ベータv0.4版においても引き続き改訂がなされているところですが(概要については別稿にて提示しています)、本ガイダンスでは14の開示提言それぞれについて、全セクターを対象としたより詳細なガイダンスがなされています。一部ではありますが、ガバナンスについてのガイダンスの概要(開示において検討すべき事項)は以下の通りです。
上記の開示の実施に関するガイダンス(Annex 4.2)では、幾つかの開示提言において、本追加文書:開示指標(Annex 4.3)で掲載された指標(Indicators, Metrics)を参照することが推奨されています。
本追加文書:開示指標(Annex 4.3)は、指標のタイプ別に大きく以下の5つの追加文書(Metrics Annex)で構成されています。Annex 1~3については、TNFDの開示提言との関連性は図1の通り整理されています。Annex 4~5についても戦略のAと指標と目標のBに関するものとして整理されています。
Metrics Annex 1:依存と影響に関する開示指標(Dependency and impact disclosure metrics)
Metrics Annex 2:リスクと機会に関する開示指標(Risk and opportunity disclosure metrics)
Metrics Annex 3:反応(対応)に関する開示指標(Response disclosure metrics)
Metrics Annex 4:農業、食品セクターにおける開示指標(Disclosur metrics for the agriculture and food sector)
Metrics Annex 5:熱帯雨林生物群に関する開示指標(Disclosur metrics for the tropical forest biome)
出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成
各開示指標の概要は以下の通りです。なお、これらの指標は現段階ではドラフトであり、今後フィードバック等を経て改訂される可能性があります。
自然の変化要因 |
指標番号 |
指標 |
指標 (Metric) |
生物多様性枠組 |
---|---|---|---|---|
陸地、淡水、海洋の使用の変化 |
C2.0 |
陸地、淡水、海洋利用の変化の全範囲 |
生態系の種類(変化前と変化後)、事業活動の種類(絶対値と前年からの変化)ごとの土地/淡水/海洋利用の変化の程度 |
目標1, 2, 11 |
汚染/汚染除去 |
C3.0 |
土壌に放出された汚染物質の総量 |
汚染物質の種類に関するセクター別ガイダンスに基づく、土壌に放出された汚染物質の総量 |
目標7, 11 |
出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.3_v3-1.pdf(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成
カテゴリ |
|
指標(Metric) |
|
---|---|---|---|
自然関連リスク |
C5.0 |
以下のリスクに影響を受ける割合と年間総売上高 |
|
自然関連機会 |
C6.0 |
政府または規制当局のグリーン投資タクソノミーに関連する自然関連の機会に割り当てられた資本価値(機会の種類別) |
出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.3_v3-1.pdf(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成
出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.3_v3-1.pdf(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成
指標カテゴリ |
|
セクター横断指標 |
指標番号 |
コア/追加 |
農業/食品セクター指標(Metric) |
出典 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
影響要因 |
陸地、淡水、海洋の使用の変化 |
陸地、淡水、海洋利用の変化の範囲 |
SC2.0 |
コア |
2020年以降の農業による陸域自然生態系の転換規(km2) |
GBF目標1, 2 |
|
自然の状態の変化 |
生態系の状態、範囲 |
組織が依存または影響を受ける優先的な場所における、生態系の状態および範囲の変化の定量的測定 |
SA6.0 |
追加 |
土壌侵食、土壌肥沃度の低下、灌漑地の塩害、湛水など、農業生産総面積に占める土壌劣化のある土地の割合 |
FAO |
出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.3_v3-1.pdf(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成
指標カテゴリ |
|
セクター横断指標 |
指標番号 |
熱帯雨林生物群指標(Metric) |
出典 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
影響要因 |
陸地、淡水、海洋の使用の変化 |
陸地、淡水、海洋利用の変化の範囲 |
BA2.0 |
直接的な事業規制エリア内における自然林被覆の損失(天然林被覆の損失を評価するために使用した方法とツールの説明を含める) |
TNFD |
|
生態系の状態、範囲 |
N/A |
組織が依存または影響を受ける優先的な場所における、生態系の状態および範囲の変化の定量的測定 |
BA6.0 |
平均種数(MSA)で測定される生態系の状態(伐採など森林を利用した活動の場合は管理用に調整されたもの) |
Schipper他(2020年) |
出典:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.3 Disclosure Metrics Annexes, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.3_v3-1.pdf(2023年4月28 日アクセス)を基にEY作成
2022年3月のベータv0.1版発行から今回のベータv0.4版発行を経て、開示すべき情報がより具体的、明確になってきました。気候変動に関する開示フレームワークであるTCFDについては、多くの企業がこれに沿った開示を進めているところですが、TNFDについても、TCFDとの差異、気候変動対応との違い等も踏まえ、取り組み、開示すべき方向性が見えつつあると思われます。早いところでは、既にTNFDベータ版を踏まえた取り組み、開示を試行的に始めている企業も見られ、今後、その動きはより活発になっていくものと思われます。
EYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)では、これまでのTCFDに係る取り組み、開示支援の豊富な実績に基づく知見と、生物多様性/自然資本に係るバックグラウンドを持つ人材により、TNFDについても有用な支援サービスを提供させていただきます。
関連資料
【共同執筆者】
多田 久仁雄
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 マネージャー
20年以上にわたり、環境に関する業務に従事。
温室効果ガスをはじめとしたESG/サステナビリティ情報に関する第三者保証や関連アドバイザリー、また生態系・自然環境分野、廃棄物リサイクル分野など、環境全般について広く経験を有する。
現在は気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)のコンサルタントとして、主に環境/EHS分野での業務に従事し、顧客のサステナビリティパフォーマンスの向上に貢献している。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
開示の実施に関するガイダンス(Annex 4.2)では、4つの柱にまたがる6項目の一般的要求事項と、また14項目の開示提言それぞれについて詳細なガイダンスが提示されました。
開示指標に関する指標リスト(Annex 4.3)では、依存と影響、リスクと機会、反応(Response)に関する開示指標、またセクター、生物群固有のものとして、農業・食品セクター、熱帯雨林生物群に関する開示指標が提示されました。
TNFDベータv0.4版発行:企業にとって、開示イメージがより具体的になったドラフト最終案の5つのポイント
自然関連の財務情報開示フレームワークであるTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表されました。今回は、基本コンセプト部分を補完する具体的な開示指標を記載した付属文書がそろい、より鮮明にTNFD開示のイメージを持つことができるようになりました。