2024年「SX銘柄」選定元年、来たる

2024年「SX銘柄」選定元年、来たる


2024年は「SX銘柄」選定元年になる予定です。

多様なサステナビリティ課題が顕在化し、経済の不確実性が高まる中、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化し、そのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を行う「SX」はこれからの企業の稼ぐ力の本流になる見通しです。


要点

  • グローバルに多様なサステナビリティ課題が顕在化する中、企業は社会のサステナビリティリスクをビジネスチャンスとして経営に織り込み、稼ぐ力を強化することが求められる。
  • 「サステナビリティ経営」と「SX」は同義語ではなく、SXは社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化し、必要な経営・事業変革を行う点が相違点である。

経済産業省が立ち上げた「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」は、2022年8月にその成果として「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」および「価値協創ガイダンス2.0」を公表しました。その中で、サステナビリティ・トランスフォーメーション(以下、SX)の実践が、これからの日本企業の「稼ぐ力」の本流になると指摘されています。

SXが稼ぐ力の本流になる理由としては、グローバルに急激な事業環境の変化が起きていることが挙げられます。具体的には、気候変動、生物多様性、人権問題など多様なサステナビリティの課題が顕在化してきており、これらの課題は世界経済の不確実性にもつながっています。そのため、企業が経営戦略を検討する際に、グローバルなサステナビリティ課題を考慮することが不可欠になっています。これらのグローバルなサステナビリティ課題は、世界経済のリスクとして顕在化してきていますが、その一方でビジネスチャンスとしても捉えられます。

図1:サステナビリティ・トランスフォーメーションの実践

次に、SXの定義になります。前述の通り、多様なサステナビリティ課題の顕在化による事業環境の変化が起きているため、社会としてのサステナビリティを維持することが重要です。社会のサステナビリティのためには、気候変動や生物多様性、人権などの課題に対応することが不可欠になります。一方で、企業側のサステナビリティのためには、社会の持続可能性に資する長期的な価値を提供していくことが重要です。このように社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化させることがSXであり、企業がそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)をしていくことが求められます。

また、社会と企業のサステナビリティの同期化のためには、企業と機関投資家の建設的な対話が重要であり、機関投資家との対話により、企業がSX実現に向けた価値創造ストーリーをブラッシュアップしていくことが求められます。

図2:サステナビリティ・トランスフォーメーションの定義

出典:伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220831004/20220831004-a.pdf

ここで、「サステナビリティ経営」と「SX」の違いについて、ご説明します。「サステナビリティ経営」とは、経営戦略にサステナビリティを統合させることを意味します。例えば、気候変動リスクに対応すること、女性活躍を推進するなど人的資本経営もまたサステナビリティ経営の一つと考えられます。そのため、サステナビリティ経営とSXはほぼ同義語のように思われますが、異なるものです。既にサステナビリティ経営において先進的な日本企業は多くあると思いますが、SXは目指すべき姿というビジョンを明確に持ち、その目指すべき姿からバックキャストして長期戦略を立案し、この長期戦略を実行するためのアクションプランである実行戦略の立案・実行等が必要となります。SX推進とは今後目指すべき姿に向けて経営変革・事業変革を行っていく企業になります。そのため、より長期的なビジョンの中で、現状を維持するのではなく、経営や事業構造を果敢に変革していくことがSXの特徴となります。そのため、既に先進的なサステナビリティ経営を行っている企業が、必ずしもSX先進企業ではないということが特筆すべきことです。

SX先進企業の一例として、米国のテスラ社が挙げられると考えています。同社は、電気自動車の会社ですが、目指すべき姿である“パーパス”として、“Tesla’s purpose is to accelerate the world’s transition to sustainable energy.”(世界の持続可能エネルギーへの移行の加速)を掲げています。同社は、CEOが自ら長期戦略(2006年8月のMaster Plan 1、および2016年7月にMaster Plan 2)を公表し、数値目標を含め計画を達成してきた実績があります。同社の祖業は、電気自動車の製造・販売ですが、2016年8月に、ソーラーパネルメーカーのSolar Cityを買収し、垂直統合型エネルギー企業へと移行しました。電気自動車は、蓄電池としての機能も果たすことを考慮すると、同社は持続可能なエネルギー企業へと転換しています。また、人工知能の開発を通じてテスラボット(ロボット)を開発するなど、強みを生かした事業展開を進めています。テスラ社は、気候変動など新たなサステナビリティ課題をビジネスチャンスにして成功してきた一例だと考えられます。このように、目指すべき姿を明確に示し、長期戦略を公表・達成し、事業構造改革を行っている事例は、SX先進事例の一つと考えられます。

日本においては、2024年が経済産業省および東京証券取引所等により日本企業のSX銘柄が選定されるSX銘柄元年になる予定です。日本企業に、今後、稼ぐ力の本流となるSX推進が浸透し、日本株が外国機関投資家からさらに見直される契機となることが期待されます。

SXの実践に向け、EYが考える企業がとるべきアプローチとしては、価値協創ガイダンス2.0に沿った目指すべき姿、長期戦略、実行戦略(中期経営戦略)、および成果を測るためのKPI設定、ガバナンスおよび株主との対話等の一連の流れを示す価値創造ストーリーの構築です。また、SX推進の取り組みを行っても、開示されていなければ外部から評価を得るのは難しいため、統合報告書における開示の改善も必要だと考えられます。


【共同執筆者】

廣島 梨香
(EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 気候変動・サステナビリティサービス(FSO CCaSS)マネージャー)

SX銘柄(仮)選定・普及に関わる調査、サステナビリティ情報開示制度の海外動向の調査をサポートした経験を有する。
その他、SX推進支援業務、ESG投資の効果測定にかかる定量的分析のコンサルティング業務等に従事する。

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー

経済産業省および東京証券取引所から、日本企業の「SX銘柄2024」を選定する旨が公表されました。SX銘柄の選定・公表は、これから変革していく日本企業の象徴として国内外投資家に示し、日本株全体を再評価の契機とすることが目的の一つであるため、日本企業は稼ぐ力の本流としてSXを推進することが望ましいと考えられます。


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