EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2023年9月、TNFD(Task Force on Nature-related Financial Disclosures)は、自然関連課題に関する財務情報開示のための最終提言と実施ガイダンスを公表しました。また、TNFDの開示にあたり、リスク・機会分析のためのLEAPアプローチの適用が推奨されていますが、企業が属するセクターによって大きな違いが存在するため、複数のセクターのための追加的ガイダンスを公表し、各セクターの企業におけるLEAPアプローチの円滑な適用を図っています。その中で、今回紹介する化学セクターをはじめとする9つのセクターに特化した追加的ガイダンスが2024年6月に最終化されました。
本記事では、化学セクター(Chemical sector)に特化した追加的ガイダンス(Additional sector guidance – Chemicals)(以下、「本ガイダンス」)の概要、該当企業に求められる対応事項のポイントを解説します。
本ガイダンスは、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)が開発された持続可能な産業分類システム®(SICS®)内の化学事業に分類される組織に適用され、その組織のバリューチェーンをカバーしています。詳細な事業分類は以下が含まれています:
本ガイダンスはLEAPアプローチの以下の範囲を補足しています。
化学事業のセクターレベルの定量的な分析を促進するために、本ガイダンスには以下の内容が含まれています:
化学セクターの組織は、大本となっているTNFDの最終提言の付録1(Annex 1, TNFD Recommendations)を参照し、全セクター共通のコアグローバル開示メトリックに関する詳細情報を得ることが推奨されています。
例として、汚染/汚染除去の範囲(C2.1-汚染/汚染除去)では、以下のメトリックの測定・開示が推奨されています。
下記で分類した排水排出(m3)
化学セクターにおいてどのようにTNFDのコアグローバル開示メトリックを適用したらよいかを解説するガイダンス(Table 14)が提供されています。
例として、汚染/汚染除去の範囲(C2.1-汚染/汚染除去)では、全セクター共通のコアグローバル開示メトリックに加えて、以下の追加的ガイダンスが示されています。
C2.1-汚染/汚染除去 生産工程での有害廃棄物のリサイクル
グローバル中核開示指標は、化学セクターのガイダンスに従って報告させることが推奨されています。化学セクターで特に着目すべき指標として、汚染/汚染除去(生産過程における有害廃棄物のリサイクル率、環境中に流出した化学物質の種類と体積等)や資源利用/補充が挙げられています。
化学セクターのTNFDコアセクター開示メトリックが提供されています。セクター内のすべての報告書作成者が、コアグローバル開示指標に加え、これらのセクター特有のメトリックをComply or Explainの原則で開示することが推奨されています。
例として、化学セクターの汚染/汚染除去の場合、以下のインディケーターとメトリクスの開示が推奨されています:
化学セクターの追加的セクター開示指標として、汚染/汚染除去の指標が例示されています。具体的には、EU REACH規則で定められた高懸念物質(SVHC)やPOPsなど、バリューチェーン全体における化学物質の量(トン)などが指標の例として挙げられています。化学セクターガイダンスの付属書1では、企業が参照すべき汚染物質の環境規制が抜粋されています。加えて、付属書2では企業が参照すべき有害農薬のリスクが挙げられています。
付属書1に記載された化学セクターが参照すべき環境規制
付属書2に記載された化学セクターが参照すべき有害農薬リスト
化学セクターのTNFD適用企業に対して、各社の固有状況に基づいた分析・開示が求められています。
われわれEYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)ユニットは、タスクフォースの初期メンバーとしてTNFDへ直接関与しており、IPBESの主執筆者を含む数の多く生態学・自然環境の専門家が知見と洞察を提供できます。また、TNFD関連の豊富な支援実績を有しますので、ご不明点やお困りのことがございましたら、お気軽にご相談くださいませ。
【共同執筆者】
大宮 萌(Haruki Omiya)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)
スタッフ
岩手大学卒業。農学修士。EY入社前は化学/薬系企業において治験業務に従事。その後、2023年にEY新日本有限責任監査法人に入社し、TNFD/CSRD/生物多様性関連業務、サステナビリティ関連法令対応など幅広くサステナビリティ分野業務に従事。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
2024年6月に化学セクターの追加的ガイダンスが最終化されました。化学セクターのTNFD適用企業に対して、各社の固有状況に基づいた分析・開示が求められています。