EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
欧州委員会は2022年2月23日にコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令案(以下、DD指令案)を公開し、また、2022年3月28日より改めてフィードバックの募集を実施しています。このDD指令案は従業員数や売り上げなどについて一定規模以上の事業者に、環境や人権に関するデューデリジェンスの実施を義務付けるものとなります。事業者のデューデリジェンス義務の対象となる人権および環境への悪影響は、事業者およびその子会社の操業が発生させているものにとどまらず、事業者の供給網などを含むバリューチェーン上で発生する悪影響を含みます。このDD指令案では欧州域内の事業者だけではなく、欧州域外の事業者に対しても適用されることとなっており、この指令案が正式に公布された際には日本の事業者にも影響が出る可能性があります。
対象となる事業者は2つのグループに分けられており、欧州域内、域外によりそれぞれ下記の条件に該当する場合にDD指令案が適用されることとなります。
グループ1に該当する事業者はグループ2よりも2年間適用が早くなることの他、気候変動に関して1.5℃目標と整合するための計画を有することなどが追加的に求められます。
欧州域内事業者 |
欧州域外事業者 |
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グループ1 |
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グループ2 |
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出所:European Commission” Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on Corporate Sustainability Due Diligence and amending Directive (EU) 2019/1937 ”(2022年2月、https://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:bc4dcea4-9584-11ec-b4e4-01aa75ed71a1.0001.02/DOC_1&format=PDF)を基に当法人作成
(※)テキスタイルや農林水産業、鉱物資源など、DD指令案において指定された業種
DD指令案ではデューデリジェンスの実施を方針に組み込むとともに、環境や人権に関する悪影響を特定し、その除去・防止や緩和を実施し、また、デューデリジェンスの有効性に関する振り返りを定期的に実施することなどが求められており、いわゆるPDCAサイクルに基づくマネジメントシステムを構築する必要があります。
そのため、一度きりのプロジェクトとして環境や人権に関する影響評価を実施するのではなく、事業者として継続的に事業者や子会社の操業、ならびに事業者の供給網などを含むバリューチェーン上の環境や人権に関するリスク対応を行うこととなるため、特に対象となる事業者では責任を有する部署や役員を定め、手順などを策定してこれを運用することが推奨されると考えられます。
DD指令案が公布された場合、その2年後から加盟各国が国内法化することにより要求が適用されるものと見込まれます。現在は指令案であるため、実際に法的要求事項が適用されるまでにはある程度の時間はありますが、本指令案で要求されているデューデリジェンスの内容に適切に対応するためには、社内にサステナビリティの専門家がいる場合でも通常1年以上の期間が必要になると考えられます。
本DD指令案は欧州域外の事業者にも適用されるため、欧州にバリューチェーンを有する事業者は以下の対応を実施することが推奨されます。
また、自社が直接の対象事業者ではない場合でも、顧客が対象事業者となる場合には自社がデューデリジェンスの対象となる場合があります。その場合、ビジネスを継続するためには契約にコード・オブ・コンダクト(行動規範)を順守する項目を含めることや、また、環境や人権リスクへの適切な対応の実施などが求められる可能性があります。自社が直接の対象事業者ではなくとも、自社のバリューチェーンが欧州に広がっている場合には、顧客との対話の中で本DD指令案への対応などが必要になるか、あらかじめ相談を行うことなども時間的な余裕をもって対応を進めるためには有効な方法であると考えられます。
EYでは環境や人権に関する豊富なデューデリジェンスの経験をもとに、事業者の皆さまのデューデリジェンス体制の構築支援を実施することが可能です。
上記欧州の規制案は欧州域外の事業者にも適用されるため、欧州に製品・サービスを提供している事業者はその該当性を確認し、必要な場合には早めに準備を進めることが強く推奨されます。
サプライチェーン上のサステナビリティ管理は社会的な関心も高まっており、事業者への要求は今後も強まることが想定されています。